121.おちついた
今日も元気なお日様の下。
僕は木陰に寝そべっていた。
ラズ兄ちゃんじゃないけれど、地面の上にお腹から顎までを付けて寝転ぶと――何だか気持ちが落ち着く。
考えも上手くまとまりそうだった。
目を瞑り。
進化樹をイメージしながら『ツリー』のキーワードを念じる。
目前に展開されるのは、幾重にも分岐する進化樹の拡がり。
これまで幾度と無く眺めていた、見慣れた光景だ。
だけど今日見る場所はそこではない。
進化樹の。
その根本から分岐する1本の枝。
言わずと知れた『リトルゼノラプトル』への分岐だ。
――この分岐から。
僕は進化の道筋を見失ってしまったんだ。
それまでは――僕は視線を移す。
『リトルラプトル』から『エルダーラプトル』。そして『ハイラプトル』を経由して『オリジン』へと至る道。
まずは王道とも言うべき『ハイラプトル』を目指しつつも、その先を睨んで物語に残るような職業の契約者――つまりは、勇者とか聖女とか呼ばれる人達と契約しようとしていた。
今となっては、その話は子竜の描いた絵空事に過ぎないと分かるけれど。
それでも――今と比べたら。
進化樹の『リトルゼノラプトル』の先を見る。
『エルダーラプトル'』。そして――『ゼノラプトル』。
この2つの進化は、ある種偶然の産物だ。
残念ながら僕の意思が働いたものではない。
そして恐らくこの先は――ある程度自分の意思で動かないと、進化することはできないだろう。
――だからこそ。
もう一度、この2回の進化を振り返ってみようと思う。
まず『エルダーラプトル'』には、『覚成の儀』を終えた瞬間に進化した。
これは明らかに『覚成の儀』の影響だと思う。
『リトルラプトル』が『エルダーラプトル』になるように。
『リトルゼノラプトル』が『エルダーラプトル'』になったんだ。
思えば『リトルゼノラプトル』に進化した時も『友誼の儀』の時だし、僕達の行う儀式が直接的――あるいは間接的に進化に影響しているのは間違いないと思う。
次は『ゼノラプトル』だけど――こっちは死にかけて目覚めたら進化してた。
いや、僕から見るとそうとしか言いようがなかったんだけど――僕以外の話を含めるなら、この時影響した可能性があるものは四つだ。
つまり――
一つ、先程も考えた死にかけた後の復活。臨死からの帰還とか――ありそうだ。
二つ、僕が飲んだ流行り病の薬に何らかの成分が含まれていた。出所不明の薬だし可能性としてなくはないと思う。
三つ、サギリとユニィが『友誼の儀』を執り行った事。普通なら僕には関係ないんだけど、僕とユニィは契約で繋がっていたからその影響が出た――のかもしれない。
四つ、ユニィが使った『リンケージ』の術の影響。未だに何の術かはわからないけど、だからこそ可能性は十二分にあると思う。
これらの中で可能性が高いのは三つ目と四つ目。
だって――この時は同時にサギリも進化しているからね。
――うん。
進化に影響した要素についてはこんなものかな。
それで問題は、次の進化のために何をすれば良いかなんだけど。
結局、ここで詰まってしまう。
脚竜族の儀式を行うにしろ、僕がまだ行ってないのは『婚姻の儀』と『葬送の儀』だけ。
『葬送の儀』はあり得ないから除外するとして、残るは『婚姻の儀』だけど――悲しきかな僕にそんな相手が居る訳がない。
ユニィが新しい脚竜族と『友誼の儀』を行うというのも、真面目なユニィの性格からすると、余程の理由がない限り無さそうだ。
ユニィの使った『リンケージ』の術については、正直良くわからない。
せめてこの術が何のスキルなのか――そして、何の意味がある術か分かれば判断できるんだけど。
――どれも良い方策が思い浮かばない。
後は――これまでも考えていた様に、地道に僕自身のスキルを強化していくぐらいかな。
だけど、これも何のスキルか分かっていないから、延々と同じ術を繰り返し使うぐらいしかできていない。
何のスキルかが分かれば、もう少し効率的にできると思うんだけど――
ここまで考えてふと。
僕は以前から先延ばしにしていた事を思い出した。
『鑑定』――そのスキルを使うことのできる人物が「西都」と呼ばれる場所に居る。
――これだ。
僕のスキルもそうだし、ユニィのスキルもそうだけど。
正体不明の謎スキルが何のスキルかが分かれば、その先の進化に繋げることができるかもしれない。
僕は目を開く。
視界が開ける。
白い家々がお日様に照らされ輝いている。
早速――西都行きについてユニィと相談しなくちゃ!
『ユニィー!!』
「ごめんね」
僕の名案は打ち砕かれた。
どうやら『鑑定』スキルは希少だから、料金が高いらしい。何と、1回の鑑定で金貨5枚必要だそうだ。
つまり、僕とユニィで合わせて金貨10枚。
道中の宿泊費等も含めるとそれ以上のお金が必要になる。
――少なくとも、1年以上はお金を貯める必要がありそうだ。
「私も気になってるんだけど――調べてみたら思ったより料金が高くて」
『――うん』
次の進化のためにすべきこと――それは真面目に働くことだったみたい。
本エピソードは次回までです。




