117.次へと向かう
「もう身体は大丈夫なんですか?」
『ああ。待たせたな』
ユニィに答えるディーノさんの声。
その元気そうな声を聞いて――僕は安堵する。
例の術の反動で動けなかった身体は、すっかり元に戻ったようだ。
明日からはディーノさん達も仕事に復帰するらしい。
――だけど。
そうなると、当然決めるべきことがある。
今日事務所に集まったのは、その事を決めるためだ。
巻毛お姉さんと角顔おじさんも長椅子に座っている。
「それじゃ、ちゃちゃっと決めちゃおっか」
お嬢の掛け声でその話し合いは始まった。
「ふむ。今のままで良いのではないか? レイン嬢は忙しい所に加勢することとすれば良いだろう」
「どっちでも良いから、私のところを手伝って欲しいんだけど」
おじさんとお姉さんは、早速自分の考えを発言する。
「土の遺跡はともかく、黄の遺跡は相性があるから――私達には無理ね。そうだね、ユニィちゃん達は――どうかな。黄の遺跡、試しにしばらく行ってみる?」
お嬢がそんな二人の意見を受けて、ユニィに問いかけた。
ユニィはこちらの方をちらりと見てからその問いに答える。
「――はい。私も――他の場所が見てみたいです」
「そう。それじゃあ当面はそれで決まりね。それで――」
まだユニィ達の話は続いているけど、どうやら来週から何をするかについてはこれで決まったようだ。
――何とも話が早い。
いいの? と思うぐらい、本当にちゃちゃっと決まってしまった。
『黄の遺跡って、そんなに変な所なのかな?』
『そんなこと知る訳ないでしょ』
一応サギリに聞いてみたが、当然のように切り捨てられた。
今回は本当に当然なんだけど――それでも少しもやもやする。
『行けば分かるわよ』
そんな僕の後ろから声がした。
この場にいる女竜と言えば――サラさんだ。
『あなたには無理でしょうけど』
角度を計算しながら振り向いた僕の耳に、冷たい声が響いた。
何だかサギリがもう一人増えたような。そんな錯覚に陥る。
『――何で?』
思わず口をついて出た言葉は。
――きっと違う意味だったはずなんだけど。
『さあ? そんな気がするだけよ』
――多分。
その答えは同じだった。
――そう思う。
――――――
『ここも外れか』
思わず溜め息が出てしまう。
脚竜族発祥の地があると言われる南の大陸。
既に10を超える集落を訪れているが――何ら新しい情報はない。
俺が調べているのは、脚竜族が執り行っている『覚成の儀』を初めとした儀式。
その意味と成り立ちだ。
『名付の儀』
『覚成の儀』
『友誼の儀』
『婚姻の儀』
『葬送の儀』
これら儀式は集落によって微妙に当て字が異なる。
例えば『覚成の儀』であれば、他にも『核生の儀』、『格成の儀』――といった具合だ。
そしてそれは――この大陸に来ても変わらない。
発祥の地に近付けば、これら儀式の名前も当初のものに近付く。
そしてそれらは、分布という形で目に見える傾向となる――
――そう考えてここまで来たんだが、少し見通しが甘かったようだ。
現時点では、儀式の名前に特異な偏りは見られない。
まぁ、調べた集落はまだ10を超えた程度。
そして残りの集落はその10倍以上。
悲観するにはまだ早い。
――そんなことよりも。
『おい。何やってるんだ。早く行くぞ』
俺は相棒を呼び寄せた。
「ああ。今行く!」
――現れた相棒の姿を見て、溜め息が出そうになった。
――またか。
『なあ。その恰好――いつまで続けるつもりなんだ?』
「ん? ――ああ。これも調査の一環だからな。しばらくは続けるさ」
――目移りして集中できないんだがな。
俺は――溜めていた息を思いきり吐きだした。
本エピソードはここまで。
次話からは第4エピソードです。




