106.順番
「ついてきて!」
そう言うと、茶髪女の子は大股でギルドへと――あの二人の元へと歩いていった。
僕達もあわててその後を追う。
――いったいどうするんだろう?
疑問に思っている間に、あの二人もこちらに気付いたようだ。
こちらを見て――ちょっとだけ変な顔をしている。
――そのまま。女の子は二人の前に立つ。
そしてその両手を腰に当てて、二人を睨みつけた。
「二人とも喧嘩は止めなさい!」
そうそう。喧嘩は良くないよね。喧嘩は。
「話は聞いたんだけど――このユニィちゃんは、私の所のユニオン『黎明』に所属することになったから。もう喧嘩したって無駄だからね!」
そうそう。
とりあえず、僕は思いっきり首を縦に振る――って、あれ? 何か今、変だった気がする。
――少し気になるけど、とりあえず首は振り続けておこう。
「ちょっとレインちゃん。その子達はうちに見学に来るはずだったんだけど?」
「おいおいお嬢。いくらお嬢でもそりゃないぜ」
二人が女の子に食って掛かっている。
どうやら本当に知り合いみたいだ。
――というか、お嬢って聞きなれない言葉だけど――お嬢様の仲間?
「私達にもほら――不文律ってものがあるじゃない? 先に声を掛けた私の方が、先に交渉するべきでしょう?」
「確かに親父さんには世話になったけど――それとこれとは話が違うだろ?」
「ふーん。そんなこと言うんだ」
女の子の声が少し変わった――気がした。
「お父さんが居なくなった途端に――勝手に独立したのはどこの誰だったかな?」
――二人が急に静かになった。
僕は首を振るのを止めて、二人の方を見る。
――何だか、二人とも向こうの――誰も居ない方を向いているみたい。
僕も目が回って視点が定まらないけど。多分そう。
「ねぇユニィ。行きましょ」
そんなことを考えている間に、茶髪女の子――お嬢が、ユニィの手を引いてギルドの中へと入っていった。
素早くギルドに入ったサギリに続いて、僕も慌ててユニィの後を追った。
「すみません。ユニオンへの所属登録の手続きをお願いします」
――ギルドの中に入ると、茶髪お嬢とユニィは受付のところに居た。
そう言えば、さっき茶髪お嬢のユニオンに所属する――って言ってた気がする。
いつの間に決めたの? ユニィ――と言いたいところだけど、さすがの僕にもおかしいって分かる。
――そう思ってたら、ユニィからも困惑の感情が伝わってきた。
うん。やっぱりそうだ。
「あの――ありがとうございました。でも――」
「大丈夫だよ。心配しなくても手続きは簡単だから」
「そうではなくて――さっきの話は出まかせだったんですよね?」
ユニィの言葉に――茶髪お嬢が笑い始める。
後頭部を掻きながら「やっぱり駄目かー」とか言っている。
――うーん。頭を掻いているから謝罪してるのかな?
確かに――ユニィは真面目だからね。
ちゃんと順番を踏まないと駄目だもんね。
――僕もしっかり言っておこう。
『そうだよ。まずは事務所で話を聞いて、見学してからじゃないと決められないよ』
――なぜかサギリに睨まれた。
ユニィとお嬢は――何だか楽しそうに笑っていた。
――――――
――この芋は甘いの?
思わず声に出しそうになる。
茶髪お嬢のユニオンはギルドのすぐ近くに事務所を構えていた。
その事務所に到着して――出てきたのはまさかの干し芋。
「ごめんね。これしかないんだ」って言われたけど――
ゴクリ。
僕は思わず唾を飲み込む。
なかなか口にする勇気が持てない。
「……そう。ここは……者向けの乗合……」
「それじゃ……荷車を……」
「え? それなら……」
ユニィ達は何やら向こうの方で話をしている。
サギリは――暇そうに事務所の隅で丸くなっている。もう干し芋は食べたみたいだ。
――迷っていても仕方ない。
僕は覚悟を決めると干し芋を前脚の指先で摘まんで口の中に――
『おーいレイン。買ってきたものはここに置いとくぞー』
突然開いた事務所のドア。
その向こうには――一竜の男竜が居た。
そして男竜は――僕に目を止めると、突然大声を上げた。
『おいっ! それ俺の干し芋!』
え? あれっ?
――突然の声に驚いて、味わう前に飲み込んじゃったよ!




