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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第四章 乗合騎竜
111/308

106.順番

「ついてきて!」


 そう言うと、茶髪女の子は大股でギルドへと――あの二人の元へと歩いていった。

 僕達もあわててその後を追う。


 ――いったいどうするんだろう?


 疑問に思っている間に、あの二人もこちらに気付いたようだ。

 こちらを見て――ちょっとだけ変な顔をしている。


 ――そのまま。女の子は二人の前に立つ。

 そしてその両手を腰に当てて、二人を睨みつけた。


「二人とも喧嘩は止めなさい!」


 そうそう。喧嘩は良くないよね。喧嘩は。


「話は聞いたんだけど――このユニィちゃんは、私の所のユニオン『黎明』に所属することになったから。もう喧嘩したって無駄だからね!」


 そうそう。

 とりあえず、僕は思いっきり首を縦に振る――って、あれ? 何か今、変だった気がする。

 ――少し気になるけど、とりあえず首は振り続けておこう。


「ちょっとレインちゃん。その子達はうちに見学に来るはずだったんだけど?」

「おいおいお嬢。いくらお嬢でもそりゃないぜ」


 二人が女の子に食って掛かっている。

 どうやら本当に知り合いみたいだ。

 ――というか、お嬢って聞きなれない言葉だけど――お嬢様の仲間?


「私達にもほら――不文律ってものがあるじゃない? 先に声を掛けた()の方が、先に交渉するべきでしょう?」

「確かに親父さんには世話になったけど――それとこれとは話が違うだろ?」


「ふーん。そんなこと言うんだ」


 女の子の声が少し変わった――気がした。


「お父さんが居なくなった途端に――勝手に独立したのは()()()()だったかな?」


 ――二人が急に静かになった。


 僕は首を振るのを止めて、二人の方を見る。

 ――何だか、二人とも向こうの――誰も居ない方を向いているみたい。

 僕も目が回って視点が定まらないけど。多分そう。


「ねぇユニィ。行きましょ」


 そんなことを考えている間に、茶髪女の子――お嬢が、ユニィの手を引いてギルドの中へと入っていった。

 素早くギルドに入ったサギリに続いて、僕も慌ててユニィの後を追った。



「すみません。ユニオンへの所属登録の手続きをお願いします」


 ――ギルドの中に入ると、茶髪お嬢とユニィは受付のところに居た。

 そう言えば、さっき茶髪お嬢のユニオンに所属する――って言ってた気がする。

 いつの間に決めたの? ユニィ――と言いたいところだけど、さすがの僕にもおかしいって分かる。


 ――そう思ってたら、ユニィからも困惑の感情が伝わってきた。

 うん。やっぱりそうだ。


「あの――ありがとうございました。でも――」


「大丈夫だよ。心配しなくても手続きは簡単だから」


「そうではなくて――さっきの話は出まかせだったんですよね?」


 ユニィの言葉に――茶髪お嬢が笑い始める。

 後頭部を掻きながら「やっぱり駄目かー」とか言っている。

 ――うーん。頭を掻いているから謝罪してるのかな?


 確かに――ユニィは真面目だからね。

 ちゃんと順番を踏まないと駄目だもんね。

 ――僕もしっかり言っておこう。


『そうだよ。まずは事務所で話を聞いて(お菓子を食べて)、見学してからじゃないと決められないよ』



 ――なぜかサギリに睨まれた。

 ユニィとお嬢は――何だか楽しそうに笑っていた。



 ――――――


 ――この芋は甘いの?


 思わず声に出しそうになる。



 茶髪お嬢のユニオンはギルドのすぐ近くに事務所を構えていた。

 その事務所に到着して――出てきたのはまさかの干し芋。

 「ごめんね。これしかないんだ」って言われたけど――


 ゴクリ。


 僕は思わず唾を飲み込む。

 なかなか口にする勇気が持てない。


「……そう。ここは……者向けの乗合……」

「それじゃ……荷車を……」

「え? それなら……」


 ユニィ達は何やら向こうの方で話をしている。

 サギリは――暇そうに事務所の隅で丸くなっている。もう干し芋は食べたみたいだ。


 ――迷っていても仕方ない。


 僕は覚悟を決めると干し芋を前脚の指先で摘まんで口の中に――


『おーいレイン。買ってきたものはここに置いとくぞー』


 突然開いた事務所のドア。

 その向こうには――一竜(ひとり)男竜(おとこのひと)が居た。

 そして男竜は――僕に目を止めると、突然大声を上げた。


『おいっ! それ俺の干し芋(おやつ)!』


 え? あれっ?

 ――突然の声に驚いて、味わう前に飲み込んじゃったよ!



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