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微睡む騎竜の進化日記  作者: 白王
第四章 乗合騎竜
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104.不毛

「いつになったら終わるのかなぁ」


 ユニィの呟きに答える。


『そんなことより、僕おなかが空いてきたよ』


 一方。僕と比べてサギリの答えはもっと単純だ。多分イライラしてるんだと思う。


『こんな人達放っとけば?』


 ――まぁ。そうだね。


 僕達は、改めて黒髪の二人を見る。


「あら。あの時荷物を置いて逃げ出したのは、どこの腰抜けだったかしら?」

「おいおい。俺が助けを呼んでくるまで木の上で震えてたのは誰だっけ?」

「荷物の監視が必要でしょ? そうそう。震えていたといえば――」

「おっと。その時――」


 このやり取りが、かれこれ30分は続いている。

 そしてこの30分の間に分かったことは――二人が昔からの知り合いということと、仲がものすごーく悪いこと。たったの二つだけ。


 ――このままこの調子が続くのなら、サギリじゃないけど出直した方が良いのかもしれない。

 僕はそんなことを考えていたんだけど――ユニィも似たようなことを考えていたみたいだ。


「あの――立て込まれているようなので、また日を改めましょうか?」


「――」

「――」


 ――――あれ?


 ユニィが割り込んだ瞬間。二人が静かになる。


 そして――


「ごめんなさい。貴方達、これから『ユートピア』の見学だったわよね。すぐに行きましょう」

「君達。そんなところに行くのは止めて僕達『フロンティア』に来てみないかい? 歓迎するよ」

「ちょっと。うちの方が先に声を掛けたんだから、横取りするような真似は止めてくれる?」

「いやいや。こっちの方が先に目を付けたんだぜ? 何せそこの騎竜とはもう知り合いだからな」

「また騎竜? そんなんだから業績が――」

「そっちこそ。また若い子を勧誘して人材を何だと――」


 ――僕とユニィは顔を見合わせた。


 言葉にしなくても、互いの気持ちは分かる。

 僕達は静かに頷き合うと、そのままギルドの外へと出た。


 ふたりで外の空気を胸いっぱいに吸い込み――吐き出す。


 うん。

 話ならまた明日聞こっと。



 ちなみに――サギリは僕達より前にとっくにギルドから出てた。



 ――――――


 ――どうすんのよ! 逃げられちゃったじゃない。


 ちょっと所用でギルドに来たら、純朴そうな女の子(カモ)が居た。

 しかも――少しだけ優しく声を掛けたら、すぐに見学に来てくれることになった。

 ――見学という口実で事務所まで連れてくれば、後は簡単。

 私の話術で簡単に契約できたのに。


 ――まったく。

 あの騎竜マニアの馬鹿トロア。

 いつも私の邪魔をするんだから。


 どうせ女の子と一緒にいた、()()()()()が目当てなんでしょ?

 ――そんなに好きなら騎竜と結婚でも何でもすれば良いのよ。


 ――とにかく。

 明日――明日こそ絶対に捕まえるわよ。



 ――――――


 ――くそっ。逃げられたじゃねぇか。


 運送ギルドに珍しい騎竜が居たってんで、急いで駆けつけてみたら――間一髪。

 この前会ったレア騎竜と普通の騎竜。それと――ついでに契約者の女の子が、よりにもよって腹黒メリレルアに連れて行かれそうになってやがった。

 当然引き留めたんだが――いつものように、そのままメリレルアと口論になっちまった。


 まぁ『ユートピア(あんなところ)』で働いたら、すぐに使い潰されて体を壊すに決まってるからな。

 その点、俺の所は街の色と同じで完全ホワイトな職場。

 珍しい騎竜なら、時々働いてくれればそれだけで十分だ。

 ――報酬は歩合制だがな。


 まぁ、明日になればまた話をする機会もあるだろ。

 明日は()()()より先にギルドに行かないとな。



 ――――――


『結局()()()は何なんだろうな』


 俺はそう呟くと、背後をちらりと振り返る。

 そこに見えるのは――砂。砂。一面の砂。いわゆる砂漠というやつだ。


 対して――

 俺は再び正面を向く。

 目の前に見えるのは水。――鏡のように天上の日を映す水面。

 対岸までは1km――いやそれ以上はあるだろうか。

 そんな円形の湖が目の前に広がっている。


 南の大陸へと渡った俺達は今。

 一夜湖(ひとようみ)と呼ばれる湖に立ち寄っていた。

 この辺りには脚竜族の集落はないが、次の集落への道がこの湖の近くを通る道だったので、少しだけ足を延ばしてみたのだ。


 ――とはいえ。

 対岸近くにあるという町――一夜湖の都までは若干の距離がある。

 湖の見た目だけを確認したら、このまま元の道に戻る予定――だった。


『なあ。あの島に見えるのって遺跡か?』


 俺は隣に立つ相棒に尋ねる。


 湖の中央辺り。その場所には大きな円形の島があった。

 そしてその島には――ここから見ても()()と分かるほどの背の高い石柱が立っている。


「ああ。確かにあの島には遺跡があるはずだ。――祭壇があるだけで他には何もないらしいがな」


『――そうか』


 相棒が答えた時。

 俺の興味は既に次へと移っていた。


 この湖の形は――()()か?

 だとすると――


「おい。そろそろ出発するぞ。今日中には次の集落まで辿り着いておきたいからな」


『――ああ』


 俺は相棒を背に乗せ、その場を離れる。



 ――円環(世界)の中心には何があるんだ?



 この疑問は心の隅に寄せておこう。

 ――とりあえず。今は。


長くなってきたので、4章第1エピソードは今回で一区切りとしました。

次回からは第2エピソードとなります。

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