98.白く白く――冷たく
――白。
僕が見た聖国の印象。それはその一言に尽きる。
まず、聖国全体を囲う外壁。
見渡す限り延々と続くその壁は。日の光に照らされ、白く――白く輝いて見える。
そして、先程潜った門の扉は。
今まで目にしてきた木と黒鉄によるそれではなく、銀騎士お姉さんの鎧と同じく銀色の金属によるものだった。
もちろん――それだけではない。
一歩門を潜れば。辿る道の石畳は白く。立ち並ぶ建物もみな白く。
街行く人々の服装も白を基調としている。
当然、草木などの自然物は青々としているし、動物の毛色や人々の髪の色は白とは限らない。
しかしおよそ人工物と呼べるものは、ほぼ全て白ないしは銀色で統一されている。
――ただ一つ。その中に時折混じる青色を除いては。
その青色に何の意味があるのかは分からない。
とはいえ。その青色も白色を際立たせるかのように配されており。
それがより一層。白の印象を強める結果となっていた。
『ねぇ。早く行くわよ』
サギリの言葉に、道の真ん中で立ち止まっていた事に気付く。
――というか、尻尾でバシバシ叩きながら言うのは止めてほしい。
何だかこの状況に既視感を感じるんだけど――
『そんなに叩くことないだろ?』
とりあえず、サギリには抗議しておいた。
――――――
「皆様。こちらでお待ちください」
前を先導していた銀騎士のお姉さんが、僕達を制止する。
目の前には閉ざされた銀色の門扉。先程よりも小さい門だが、同じように門番が居る。
扉が閉まってるから、言われなくても止まるしかないと思ったけど――とりあえず黙って頷いておいた。
お姉さんは一歩門の方に踏み出すと、姿勢を正して声を上げる。
「騎士シャルレノ! 任を終えて帰還した。開門願う!」
目に映える銀鎧に堂々と伸ばした背筋。
周囲に響く張りのある声も含めてとてもかっこいい。
ただ――門番さんはすぐ目の前にいるのに、何故こんなに大声を出すんだろう?
謎だ。
そんな事を思っていたら、急に扉が開き始めた。
てっきり門番さんが開けると思っていたけど、違うらしい。
じゃあ何で門番さんがいるんだろう?
やっぱり謎だ。
僕が疑問に思っている間も扉は開いていく。
やがて、扉が開ききったところで中から一人の銀鎧の――多分お姉さんと同じ銀騎士の――厳つい銀髪のおじさんが出てきた。
銀髪おじさんが声を上げる。
お姉さんと同じぐらいの大声だ。ちょっと耳が痛い。
「シャルレノよ。良くぞ帰還した! まずは此度の任務の成果を託宣の巫女様に報告するのだ!」
そして、僕達に声を掛ける。
「新たな巫女様のご家族の方はこちらに! 応接の間に案内致す! 従者の方はしばしお待ちを!」
――ん? 従者? 誰? どこに?
僕がきょろきょろしている間に、ユニィとアリアさんが荷車から降りてきた。銀色おじさんについていくみたいだね。
ソニアは銀騎士のお姉さんについて行ったし、僕達はユニィと一緒かな?
――そう思って僕もついていこうとしたんだけど――
「従者の方は、こちらでお願いします」
僕とサギリだけ門番の人に制止された。どうやら僕達が従者ということらしい。
このまま、別の場所に連れていかれるようだ。
――――――
『いやぁ。ここの人達は、僕達の事がちゃんとわかってるね』
十分――とは言えないまでも50m四方はあり、走り回ることのできる庭。
いつでも寝そべることのできる、青々とした芝生。
そして何よりも――焼き加減が絶妙で、蕩けるほどにおいしいお肉。
いや、まさか。でも――
この深い味わいのお肉はもしかして――幻の白ツノうさぎのお肉?
――うん。僕ここのお家の竜になっても良いかも。
『ねぇリーフェ? あなたまた何か変なこと考えてない?』
そんなことを考えていたら、サギリに白くて冷たい目で見られた。
僕はとっさに言い訳を考える。
『――何言ってるのサギリ。ユニィ達は何してるのかなぁって考えてただけだよ』
『ふーん。それなら良いけど』
僕から離れていくサギリの背を見送る。
お腹が落ち着いたので、また走る練習をするようだ。
とりあえずの危機は去った――
僕は、安堵すると同時に一つ。先程の疑問を思い返す。
――自分で適当に言った言葉だったけど。
そういえば、ユニィ達は何してるんだろう?
ずいぶん時間がかかっているみたいだけど、何かあった?




