97.聖国へと続く道
4章開始です。
「キュロちゃんすごい!」
『――だよね? だよね!』
「えー。そんなにケンソンしなくても良いのにー」
聖国へと続く街道。
天頂に輝く日の光と見晴らしの良いなだらかな丘。
初夏の勢いに任せ、伸び上がる青草達。
ガダガダと進む荷車の。その御者台にはユニィとソニアがいた。
因みに、アリアさんは荷台の座席に座っている。ウォルツ村を出発する前に荷台に据え付けた座席だ。
ソニアもそっちに座っていて欲しいんだけど――前が良く見える御者台の方が良いらしい。
それで銀騎士のお姉さんは――
「ソニア様。危ないので身を乗り出さないでください」
もしかしてあの人、背中に目が付いてるの?
荷台の後ろから、後方を警戒してるはずなんだけど――
ガダンッ!
『ちょっと! 集中しなさいよ!』
僕は後方に割いていた意識を、慌てて前方に戻す。
残念ながら、僕の背中には目は付いてない。
道を辿ること。僕はそれに集中することにした。
――もうすぐ休憩時間。そこまでもうひと踏ん張りだ。
ところで、今日のおやつは何か――
ガダダンッ!
「こらっ! リーフェはまっすぐ走って!」
『さっきから何やってんのよ!』
『ごめんっ!』
集中集中。
僕は今度こそ集中することにした。
――――――
『――何だか疲れるね』
『何言ってるの。これが当たり前でしょ?』
僕の呟きをサギリが拾う。でもその声にはいつもの覇気はない。
当然、僕達が疲れているのは一日中走ったからではない。
僕は周囲を見回す。
ふかふかの絨毯。――うん。この上で寝そべったら気持ち良さそうではある。
壁に掛けられた細かい細工の施された燭台。――どうやって火を消せば良いのかさっぱりわからない。
見るからに年季の入っていそうなテーブルを始めとした家具。――もしかしたら長老より年上かもしれない。
そして、部屋の中で最も目を引く大きなベッド。――僕達には無用の代物だけどね。
いわゆる客室だ。
それもかなり上等の。
だけど――
『疲れるだけだよね』
『――そこは否定しないけど』
家具類はいくら上等でも僕達には使えそうにないし、ベッドも僕達が横になるには狭すぎる。
唯一良さそうなのはふかふかの絨毯だけど――残念ながら、僕達二竜が寝転ぶには家具が多すぎる。
正直言って、僕達にはこんな部屋は無用だし、今の季節であれば外で寝たほうが気持ち良いかもしれない。
それなのに何でこんなことになっているかと言うと――
――ウォルツ村を出発して、3日程は良かったのだ。
ウォルツ村と同じぐらいの規模の村を通り、午後は早めに宿に泊まる。
そんな中、僕とサギリも宿の庭で寝たり、宿の近くの竜舎で寝たりと気楽に過ごしていた。
――ところがだ。
道が大きな街道に合流して、走りやすくなった途端にその悲劇は訪れた。
――町だ。
大きな町が――道行く僕達を阻むかのように、その外壁を高く聳えさせ、その門を固く閉ざしていたのだ。
思わず立ち止まってしまった僕達に。
銀騎士のお姉さんが告げる。
「問題ありません。私が居ればそのまま通れます」
――問題だらけだった。
銀騎士のお姉さんが門番さんと話していると、すぐに中から他の門番さんが現れた。
そして、固く閉ざされていたはずの門があっさりと開かれる。
先程とはまた別の、馬に乗った門番さんに先導されて辿り着いたのは――
町の出口ではなく、大きなお屋敷だった。
どうやら、この町の領主と呼ばれる人の家らしい。
そしてそのまま。
ユニィ達三人は銀騎士のお姉さんに連れて行かれるし、ユニィとアリアさんは帰ってきたらぐったりだし。
まだ日が高いのにそのままお屋敷に泊まることになるし、部屋が豪華すぎて落ち着かないし。
――そう。
まさに悲劇と呼ぶべき、散々な目にあったのだ。
そして――いつの世も悲劇は繰り返される。
2時間も走らない内に、同じような町が同じように現れる。
そして、同じ展開を迎え翌日に開放される。
そんな繰り返しも、今日でもう5日目だ。
いい加減に僕達も疲れてきた。
『あの人。こんなに偉い人だなんて知らなかったよ』
『そんなこと言っても仕方ないでしょ? それに――『聖女』様かもしれない人を連れているんですもの』
サギリの言う通りだ。
そんな凄い人を連れているのに素通りは出来ないし、迎える側も歓待しなければならない。
それが僕たちにとっては良い迷惑でも。
――あれ?
冷静に考えたら、そんな重要人物を連れているのであれば、もっと護衛が居ないと変じゃない?
それが居ないということは――秘密の任務? それとも護衛は一人で十分なぐらい強い?
うーん。
よく分からないけど、とりあえず銀騎士のお姉さんは怒らせないようにしよーっと。
僕はそう心に誓った。
――でもその前に。
『あっ! そのスペース、僕が先に目を付けてたとこなのに!』
『何言ってるの? 先に寝そべった者勝ちでしょ?』
今日の寝床を確保しないとね。




