お前とはレベルが違うとパーティーを追い出された俺が世界を救った勇者一行となってお礼参りに向かう話
「魔法使い、お前パーティー抜けろ」
ある日、唐突に俺はパーティーのリーダーである戦士から言われた。
いや、それは違うのかもしれない。
唐突だと思っているのは俺だけで他のメンバーとしてはずっと前から思っていた事なのだろう。
それを皆の表情から感じ取ってしまった。
「え……何言って……」
行きつけの酒場は貸切状態だ。
俺達以外の客は一人も居ない。
ここはそこまで大きな街ではないから閑古鳥が飛ぶ日だってある。
それは重たい話を切り出そうとする戦士に都合が良かったのだろう。
「お前だって本当はわかってんだろ、こんな街に居るレベルじゃないって事は」
戦士は続ける。
俺の目を真っ直ぐに見て。
そんな言葉は聞きたくなかった。
だって、俺が冒険者を始めた時にこの世界のノウハウを教えてくれたのがこの戦士だ。
口が悪いが面倒見は良い兄貴分。
あまり人付き合いが上手じゃなかった俺に声をかけてくれて、駆け出しの俺に飯を奢ってくれて、馬鹿なことをやっては僧侶に怒られる。
お互いに口に出した事はなかったが信頼しあってたと思っていた。
戦士だけじゃない。
パーティーの皆と俺は固い絆で結ばれていて、そんな生活が俺は楽しかった。
ずっと続くと勝手に思っていた。
「あぁもう!はっきり言わないとコイツはわからないわよ!わかってるのにわからないフリをするだけ!」
「なんだよ……みんなして……どういう事?」
声を荒げる僧侶の言葉に動悸が止まらない。
こんな事は凶悪な魔獣と対峙した時だって無かった。
いつだって俺にはパーティーの仲間達が居た。
だから、どんな時だって冷静に構えて的確に動くことができた。
しかし、今俺の目の前に居るのは心強い仲間達ではなかった。
いつもは面倒臭そうな表情をしながらも優しく俺たちを窘めてくれていた僧侶は居ない。
なんだってこんな事になってしまったのか。
「あんたとはレベルが違うからやってけないって事!だからパーティー抜けろって言ってんの!」
「僧侶さん……もうちょっと……言い方を……先輩がちょっと可哀想に……」
「優しく言っても伝わらないって言ってんの!あんただって同意したでしょ!」
僧侶の言葉を軽く咎めてくれた弓兵も言い方についての抗議をしただけであり、内容に関しては彼らと同じ思いのようだ。
弓兵は俺の初めての後輩。
戦士がそうしてくれたように、俺はまだ駆け出しだった弓兵を一端の冒険者になるように育てたつもりだった。
先輩、先輩と纏わりつくのだって愛らしく思っていた。
慕ってくれていると思っていた。
それは俺の独りよがりだったのかもしれない。
パーティーリーダーの戦士。
回復役の僧侶。
後衛だけでなく前衛でも戦える弓兵。
そして火力担当の魔法使いである俺。
それが俺がこの日まで最高だと信じていたパーティー。
そんな彼らが沈痛な面持ちで俺を見る。
戦士と僧侶は俺から目を逸らさない。
弓兵は下を向いてこちらを向いてくれない。
沈黙が場を支配していた。
いつだって緩い雰囲気なのが俺たちだった。
軽いジョークを飛ばしながら日々を過ごしていた。
真剣な顔は似合わないなんてお互いに笑いあった日もある。
こんな暗いのは俺たちには相応しくない。
「お……俺が抜けたら火力が居なくなるだろ……」
何とか絞り出した声は掠れていたように思う。
喉がカラカラで上手に喋れたとは思えないがここで何かを言わなければこのまま追い出されるという事だけは理解していた。
事実、このパーティーの火力役は俺だ。
役割が一つ減れば、それだけ掛かる負荷が増大する。
俺を追い出すメリットなんて物はそうは無いはず。
そんな苦し紛れの言葉に戦士が無表情のままに答える。
「お前の代わりはすぐに見つける」
「代わりってなんだよ!代わりってっ!なんなんだよ……」
声が自然と大きくなってしまう。
彼らにとって俺は代わりがすぐ用意できるような存在だったのかと思うと涙が溢れてくる。
俺にとってこのパーティーはかけがえのない物だった。
初めて組んだ仲間達。
どんな時だって一蓮托生。
このパーティーで成り上がって行くんだと心に誓っていた。
だというのに現実は非情だった。
「僧侶の言葉は俺たちパーティーメンバーの総意だ。お前と組むのは今日が最後。これは決定事項だ」
「そんなっ……!なんで……なんでそんな事言うんだよ……一緒にやってきたのに……これからも一緒にやってくと思ってたのに!」
◇
目を覚ました俺はあの日の事を夢に見ていた事に苦虫を噛み潰す。
それは五年前。
以前のパーティーから追い出された時の日の事だった。
「今も夢に見るなんてな」
自嘲気味に呟いて頭を掻く。
人に話せばもう何年も前の事なんだから忘れろと言われるような事かもしれない。
だが、俺は今まで一度だって忘れた事もないし忘れる気もなかった。
それは世界を救った勇者の一人と言われるようになった現在でもだ。
むしろ、あの過去があったからこそ俺は歯を食いしばって戦えたと思うほどだ。
「あと数日であの街に着くか……長かったな……」
あの日から五年。
紆余曲折あった俺は世界の中心と言われている王都から遥か離れた故郷へと向かう船に揺られていた。
魔王と呼ばれる高度な知性を持った魔物が出現し、いつからかこの世界に平和な場所など無くなってしまっていた。
俺が生まれる前からずっと続いていた魔物と人類の戦争。
色々な国が魔王軍と戦い、負けはしないまでも日々すり減っていく人類の力。
そんな中で無数の勇者が誕生しては魔王に挑み、散っていった。
俺もそんな有象無象の一人となるかと思っていた。
だが、そうはならなかった。
数多の英傑を下した魔王を俺を含む勇者の一行は倒すことに成功したのだ。
俺自身が信じられない。
自分が世界を救った勇者一行の一角と呼ばれるような人間になるとは自分でも思っていなかった。
「おはよー。おきてるー?おきてるよねー?あ~やっぱ起きてたね。おはよー」
「いや、起きてるけどさ。勝手に入ってくんなよ」
「まぁまぁ良いじゃない。ご飯食べようよ。こんな船の上じゃ食事くらいしか楽しみないんだしね」
そう言いながらドアを開けて入ってきたのは女勇者だ。
手には二人分の食事が乗ったトレイを持っている。
デリカシーという物以外はすべてを持っていると言っても良いこいつとは俺が最初のパーティーを追い出された後に組むこととなった。
故郷を追い出された俺は王都へと向かい、そこでこいつと出会った。
目を付けられたと言っても良いだろう。
気持ちが切り替えられずにソロで活動をしていた俺を臨時メンバーで良いからと強引にパーティーに組み込み、なし崩し的にパーティーの一員にしたのだ。
一緒に行動するようになり、魔王討伐の旅の途中ではあらゆる騒動の中心に投げ込まれた。
全く魔王と関係のない事というか、関わる必要のないような物にも首を突っ込みまくる。
だが、その力は本物で敵対する物を圧倒的な物理力で捻じ伏せてしまう。
根が善人なのと単純バカだから良かったが、こいつが悪人で悪知恵が働く奴だったとしたらどこかの国の暴君にでもなっていただろう。
そんな暴走娘が今となっては勇者様だ。
人生というのはわからない物だ。
まぁ、俺もその勇者の一行に数えられているわけだが。
「なになに~、いつにも増してアンニュイじゃぁ~ん。やっぱあれ?故郷の街に戻るから?勇者の一人になって戻るなんて大出世じゃぁん!」
「そうだよ、色々あったから色々考えてたんだよ」
「あはっ!前のパーティー追い出されたって話?そういえば詳しくは話してくれた事ないよね~。トラウマって奴?」
トレイに乗っていたパンを手に取り齧りながら外を見る。
大海原を進む船はあと二日程で俺の故郷へと到着する予定だ。
世界が平和になったのだから勇者パーティーの皆も一度は故郷に顔を出すべきと言う女勇者の提案によって他の面々もそれぞれ帰省をしている。
俺もその内、故郷に顔を出さなければと思っていたのだからこの提案は渡りに船だった。
故郷に錦を飾る……と言うべきかはわからないが、一応俺は勇者となってあの因縁のある街へと戻る。
「故郷に戻ってお礼参りをする」
そう言った俺に女勇者は「魔法使いがやり過ぎないように」という理由で付いてきた。
こいつは王都出身だから帰省する場所も無いから暇を潰したかったのだろう。
「夢をな……見たんだよ。パーティー追い出された時のな」
海は広く、地平線の果まで青い色が広がるばかりだ。
天候が荒れることもなく順調に航路を進む船。
退屈と言えば退屈な旅路だ。
何もやる事もないし、何もできる事もない。
できるのはこの喧しい女勇者と喋るか、自分の内に沈んで思索にふけるか。
そんな日々を過ごしていたが故郷が近づくにつれてあの頃の事を思い出す事が多くなっていた。
「珍しいね。今まで絶対に話してくれなかったじゃない。何度も話して欲しいって言ったのにさ!情熱的に!」
「それはお前が野次馬根性丸出しだからだよ!なんで勇者の癖にゴシップ好きなんだよ!」
「こんなに魔法使いの事を思ってるのになぁ酷いなぁ悲しいなぁ、でも昔の話をしてくれるなら許してあげる!」
女勇者の表情がコロコロと変わる。
そんな百面相を見ていた俺は今まで頑なに語らなかった過去を話しても良いかという気分になっていた。
相変わらず人付き合いが苦手で、新しいパーティーメンバーに馴染めるか不安だった俺を繋ぎ止めたのは、こいつの底抜けの明るさのおかげでだという事はわかっていた。
だからだろう。
世話になった一人として、聞きたいというのならば俺の面白くもない昔話をしてやっても良いと思ってしまったのは。
どうせ故郷につくまでは時間がありあまっているのだから。
◇
「そんなっ……!なんで……なんでそんな事言うんだよ……一緒にやってきたのに……これからも一緒にやってくと思ってたのに!」
俺は叫んだ。
仲良くやってこれていたはずだった。
順風満帆と言っても良いはずだ。
冒険者のランクだって今はBクラスだけどAクラスへの昇格だって俺達ならすぐに出来る。
それは間違いなかった。
だというのに仲間達は俺の事を追い出すと言うのだ。
「僧侶が言ったが、もう一度言うぞ。レベルが違うんだよ!お前とは!言わせんなよ!」
「何が違うっていうんだよ!」
戦士が俺の肩を強く掴み壁に押し付ける。
体の大きな戦士が覆いかぶさるように俺へと迫る。
顔面を鼻先まで近づけて、怖いくらいに真剣な顔をして俺へと言葉を叩きつける。
「お前はこんなランクで燻ってるような奴じゃないだろうが!」
戦士の言葉と迫力に思わず顔を背けてしまう。
それが答えだった。
自分自身でも薄々感じていた事ではあった。
「俺達はBランク……背伸びしたってAランクには届かねぇよ!どう頑張ったってそれくらいが限界だ!でも、お前は違うだろ!お前はこんな田舎の街で冒険者やってるような器じゃないだろ!」
「……そんな事……戦士が決める事じゃないだろ……」
「そうだよ!お前が決める事だよ!だから本当は俺だってこんな事言いたくねぇよ!でもな、わかるんだよ。俺達がお前の足引っ張ってるって!」
「引っ張ってなんて……っ」
戦士は泣きそうな顔だった。
冒険者である彼に自分がお荷物だと言わせるなんて言う事は屈辱的行為だろう。
俺は今、彼のプライドを踏み躙っている。
心の底ではそう理解していた。
でも、ここで認めてしまったら俺はこのパーティーから追い出されてしまう。
もう手遅れかもしれないと感じつつも何とか抵抗をしようとした俺へと僧侶が現実を突きつけてくる。
「この前の賞金首の魔物。Sランクの魔物だったわよね。Bランクの私達じゃ逃げるのが妥当な判断……むしろ逃げ切れたらラッキー。そういう魔物だった。でも、あんたは一撃で仕留めた。はっきり言ってあの魔物は片田舎の冒険者でどうこうできるようなもんじゃないのよ」
「先輩、格好良かったっす……でも、あの時に格が違うなって思っちゃったのも本当で……」
それは二週間ほど前。
近場で依頼をこなしていた俺達の前に唐突に現れたのは隣国で暴れまわったという凶暴な魔物だった。
気配を上手に隠していたその魔物を認識した時、それは交戦圏内だった。
周辺地域で見るような魔物とは圧倒的に違う圧力。
むき出しの殺意が俺達へとぶつけられた。
仲間の命の危機を感じた。
だから、動いた。
当然だ。
仲間を守るのは当然。
だから、俺はその魔物を消し飛ばした。
これだけじゃない。
パーティーの危機を救う事は幾度もあった。
その度に俺は少しだけ本当の力を出して危機を回避していた。
バレて無いと思っていた。
いつからか成長してしまった自分の力。
それが田舎の冒険者に不釣り合いである事は誰よりも俺が自覚していた。
「魔法使い……本気になれよ。本気を出せばお前は勇者にだってなれる。きっと世界を救うくらいやってのける」
「俺が……世界を救うなんて……そんな……」
戦士の顔を見る。
恐ろしいと思っていた顔は改めて見れば俺を信頼してくれているいつもの戦士の顔だった。
只々真剣に俺の将来を思っていてくれているのが伝わってくる、そういう顔だった。
「できるわよ。あんたは凄い奴なんだから。あんたの欠点なんて初対面の人が苦手なのと戦士と一緒になると悪ノリする事くらいよ」
「自慢させて下さい!俺の先輩はこんなに凄いんだぞって!」
僧侶も弓兵も優しい笑顔を俺に向けていた。
暗く、刺々しい雰囲気なんていうものはそこには無かった。
いつもの、いつも以上に優しい皆が居た。
俺はガキで。
居心地の良いこのパーティーが好きで。
離れたくなんてなくて。
みんなだって俺が居たほうが楽なはずなんだ。
でも、優しくも厳しいこの人達は俺を追い出そうとしている。
他でもない俺のためにだ。
「俺達は大丈夫だ。お前が守ってくれたおかげで蓄えもたっぷりだ。装備を整える資金だって十分。この前のSランクの魔物の報酬とか、一財産だよ」
「私達は身の丈だって思い知ってるわ。Bランクで活動するなら危険だって少ないから心配しなくて良いから」
「後輩に火力役が入ったら、先輩がしてくれたみたいに俺が育ててやるんすよ」
涙が堪えられない。
嗚咽が漏れる。
膝をつき泣き崩れる俺へと皆が優しく声をかける。
戦士も僧侶も弓兵も笑顔だけど泣き顔だ。
「俺の伝手を最大限に使って手に入れた王都のギルドへの紹介状だ。お前と張り合えるような実力者を紹介してもらえるように書いてある。まぁ……俺の伝手程度だから頼りにならんかもしれんが、お前の力を見せれば誰だって嫌でもわかるだろうよ」
「ぐすっ……王都になんて……」
「行くんだよ。王都に行って、もっと強い人達とパーティーを組んで、もっと多くの人を救うんだ」
ここにはもう俺の居場所は無い。
しがみついたとしても良い結果にはならない。
俺は旅立たなければならないのだろう。
世界は危機に瀕していて、今だってどこかで魔物が暴れている。
だとしても俺には関係がない。
俺は自分の手の届く範囲を守れればそれで良かった。
そんな事は知ったことじゃないと思っていた。
だというのに、この人達は俺が楽することを許してくれない。
「俺達はお前に甘えさせて貰った。守ってもらった。もう大丈夫だ。だから……もっとでかい物を守りに行ってくれ!」
戦士が俺の頭を乱暴に撫でる。
歳だって少しだけ上なだけだってのに、兄貴っていうよりも父親みたいだ。
俺は彼等を危険から守っていたかもしれないけど、俺の心を守ってくれていたのは皆の優しさだった。
「うぅ……ぐすっ……わか……わかったよ……行くよ……行くけどさ……」
「けど?」
俺は旅立つ。
この優しい揺り籠の街から。
青春を共に過ごした、ずっと一緒に生きていくと信じ込んでいた温かい人達から。
ここに居る事はもうできない。
背中を押されてしまったから。
本当に大切な人達に期待されてしまったから。
俺は世界を救いに行く。
だけど、そうだとしても……
「ぐすっ……世界を救ったらさ……帰ってきても良いだろ?」
◇
「……って事でな、やっとお礼参りができるってもんだよ」
俺の昔話を聞いて女勇者は口を半開きで妙は表情をしている。
その気持はわかる。
俺の元パーティー達は滅茶苦茶良い奴らだ。
そんな聖人みたいなのが田舎のギルドに居るだなんて信じれないのだろう。
こんな話を他人にしたのは初めてだった。
口に出したら想い出の彼等が薄れていきそうで、俺は詳しく以前のパーティーについて話した事はなかった。
でも、そんな必要はもう無い。
あと少しで彼等に会えるのだから。
「いやいや……あれ?ん~……え?なんか、凄い良い人達っぽいけど……え?あれ~……なんかおかしいような……」
「当たり前だろ。俺の恩人達だぞ。世界一良い奴らだよ」
近況は軽くだが知っている。
ギルドの職員に彼らが元気にやっているかは年一くらいで聞いていたからだ。
戦士と僧侶は結婚して今は二歳になる女の子が居るそうだ。
あの二人の子供に会うのは今回の帰省の目的の一つでもある。
もしも魔力の才能があったら俺が家庭教師とかになって魔法使いへと育てたいくらいだ。
戦士と僧侶は俺がパーティーに居る時でも男女の仲になるのかなという雰囲気はあったから、とても嬉しい。
そこら辺の馴れ初めを聞くのもとても楽しみだ。
俺の予想では僧侶が痺れを切らして戦士を押し倒したと予想している。
結婚式は挙げれてないそうだから、今回の帰省中に式を挙げれないか企画を考えなければいけない。
弓兵は新人達に慕われる中堅冒険者になっている。
新人たちに慕われる理由は親切に指導をしてくれるからだそうだ。
基本的にライバルになり得る新人たちへ冒険者の先達は冷たい。
駆け出しの冒険者にとって最初にどうすれば良いのかを教えてくれる存在は貴重でありがたいのだ。
俺にとっての戦士、弓兵にとっての俺。
あの日の宣言通りに後進の育成をしている姿に目頭が熱くなる。
しかし「勇者一行の魔法使いは俺の先輩なんだ!」が口癖だそうであまりに言いすぎてホラ話と思われてるそうだから、今回の帰省で真実だとギルドの新人どもに言ってやろう。
「あ~……そうなんだ……だよねぇ……今の話し聞いてたら悪いのはヘタレなあんたっていうか……」
「うるせぇな……なんか文句あんのかよ」
「いや、てっきり追い出されて恨んでるって話しかなって……」
女勇者は時々わけのわからない事を言う。
この非常識さこそが勇者一行を率いるバイタリティに繋がっていたのだろうから良いんだろうが、それにしても今回は意味不明すぎる。
何故、俺が彼らを恨まなければならないというのか。
ぬるま湯に浸かろうとした俺の尻を蹴飛ばしてくれた。
勇者になれるなど自分自身でさえ信じていなかったというのに、彼らは信じて送り出してくれた。
今回の帰省でやっと恩返しができる。
そう。
今回の帰省の目的はこいつにも伝えているはずだというのに。
「お礼参りに行くって言っただろうが」
誰だったか忘れたけどお笑い芸人さんがM-1で優勝した時に
そんな大物は扱えないから事務所から出ていってくれと言われた話が元