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魔族と人間

 赤ん坊二人はたった数年で見違えるほどに変わった。


「コル、早くしないと置いて行くぞ」

「待ってよ、グーちゃん!」


 グーちゃん、と呼ばれた男の子がコル、と呼ばれる女の子の手を握った。


 二人はいつも一緒にいた。


 二人の間に本来あるべき壁など、二人にとっては壁ですらなくて。


 いつも一緒にいることが当たり前であるかのように、二人は常に行動を共にしていた。


「遅いぞ、コル」


 男の子はもともと顔つきがよかったのだろうが、それに加えて目尻が尖ったつり目だった。


 どこか相手を睨んでいるようにも見えてしまう目は、子どもながらに相手に怖い印象を与えてしまう。


 しかしそれは必ずしも悪い意味ではなく、言ってしまえば男前な顔をしているということでもあり、短所でもあれば長所とも言えるような顔になっていた。


 だがそれでも、数年も経てば、誰もが一度は振り向かざるを得ない顔になるだろう、と考えれば長所と言えるのではないだろうか。


「グーちゃんが早すぎるんだよ」


 それに対してその隣に立つ女の子もまた、男の子とはまた違う魅力を持っていた。


 顔だけで言えば決して悪くない部類。こういう言い方はあまりよくないが、中の上、人によっては上の下と評価できる顔だ。


 しかし、女の子の本質はそこにあるわけではなく。


「コルが遅いんだ」

「も~」


 女の子には内面から滲み出るほんわかとした温かさがあった。


 彼女が笑うだけで、つられて周りも笑ってしまい。


 彼女に話しかけられるだけで嬉しい、楽しいと思わせてくれる、そんな不思議な魅力が彼女にはあった。


 少年は外見で人を引きつけ、少女は中身で人を惹きつける。


 そんな対極な二人は、そんな二人だからこそ、気が合うのかもしれなかった。


「親父に久し振りに会えるってのに」

「楽しみなのはわかるけど。転んだら危ないよ?」


 少年に握られた手を少女が握り返すと、少年の歩くペースが少しだけゆっくりとなる。


 ゆっくりと歩く少女のことを無意識に気遣った結果だ。


「……ここ、だよね?」

「あぁ、間違いない」


 手を繋ぎ合った二人が向かった先は、大きな扉のついた部屋の前だった。


 大きな扉は見るからに重そうで、子どもの二人には一緒になって押したところで開くことはないだろうというほどだった。


 だから二人は黙って扉を見つめた。


 その扉が開くのを待って。


 それから、少しして。




 ぎぃっ……。




 と、扉が内側から開かれると、二人は同時に駆けだした。


「親父!」

「お父さん!」

「え? うわっ!?」


 扉を開けたその人物は胸に飛びついてきた二人の重さに負け倒れかけ、手を放してしまった重い扉が小さな二人を挟もうとした。


 そのときだった。


「これ。坊ちゃん、お嬢様。危険でございます」


 スーツ姿の老人がその重い扉を片手でスッと支え、そのままグッと扉を開けた。


 二人を抱えた男はその老人に申し訳なさそうに笑った。


「すまん、セバス」

「魔王様が謝ることではありません」


 セバス、と呼ばれた老人は二人を見ると。


「それで。坊ちゃん、お嬢様。どうして、ここに?」

「そうだ。グウェン、コルシェ、どうしてここにいるんだ?」


 セバスの質問と同じものを尋ねると、二人は揃って答えた。


「親父と遊びてぇから!」

「少しでも長くいたいと思ったんだけど……ダメだった?」


 そんなわけがない。


 自分も早く二人に会いたかったぞ、そう言おうとしたところで、後ろから野太い声が響いた。


「っはん!」


 振り返ると魔王の後ろには、人の三倍の巨体を持つオーガがそこにいた。


 その怪物は四人を、特にコルシェを見るとあからさまに顔を顰めた。


 それに対し鋭く反応したのがセバスだった。


「オグニア、その態度は無礼ですぞ」

「脆弱な人間に対して無礼などあるものか」


 オグニアの矛先はセバスへと向けられた。


「人間の血を餌とするヴァンパイアが人間の心配など……。堕ちたものだな」


 馬鹿にするような笑みを浮かべるオグニアに、セバスは頭を抱えるように返す。


「……仮にもオーガの長たる者が。これだから頭でっかちのオーガは嫌いなのです」

「あぁん?」


 全身の筋肉を膨張させ、威嚇するようにセバスを見下ろすオグニアに対し、セバスは普段見せることのない漆黒の翼を背中から生やした。


 どちらの目も不気味なほどに赤く光り、互いへの殺気が空気を通して伝わってくる。


 その恐怖心からか、コルシェは目に涙を浮かべ、それに気付いた魔王が二人に声をかけようとしたところで、予想外の人物から声が上がった。


「やめろ。セバス、オグニア」


 今にも戦闘を始めそうになる二人を諫めたのは、魔王ではなく、その息子グウェンだった。


 グウェンは、二人よりもはるかに小さい身体で二人の間に割り込むと、二人に負けず劣らずの目を光らせた。


 それは本当に子どもなのか、疑いそうになるほどの強い目だった。


「おい、コルが怖がってる。やめろ」


 その語気の強さに、この場の誰もが驚いた。


 その迫力に気圧されていると、オグニアは強がるように大きな鼻を鳴らした。


「いい加減、人間と魔族が相容れないと気付くべきです。魔王様」


 そう言ったオグニアは、ズシンズシンという音ともに背を向けて去っていく。


 その背中を黙って見つめていた四人だったが……。


 ふと。


「……すまない」


 最初に口を開いたのは魔王だった。


「私がしっかりしていれば」

「魔王様が悪いわけでは……」

「……帰ろうか。グウェン、コルシェ」


 互いに申し訳なそうな空気を出し、強引に話を打ち切るように、魔王は二人の手を繋いで立ち上がった。


 コルシェは未だ話がよくわからず困った表情をしていたが、グウェンはどこか不機嫌そうにも見えた。


「んだよ……。一番強いってなら……」

「……グウェン?」

「お父さん! 私、ピクニック行きたい!」

「お、おう、そうか! そうだな、ピクニック。久し振りに家族でピクニックにでも行こうか!」

「うん! 楽しみだね、グーちゃん」

「……そうだな」


 しばらく不機嫌そうな顔をし続けていたグウェンだったが、コルシェのたわいもない話をしていると、気付けばいつもの調子を取り戻していた。


 だが、魔王とセバスだけは、どこか不安そうにグウェンを見ていたのだった。




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