二の段 始動、カラクリ大蜘蛛
◆◇◆◇◆
「あれを見ろっ!」
OH-EDOスパイラル城下。
一人の男の叫び声に道行く女子供にちょんまげ頭たち、皆の視線がOHーEDO城に集まる。
城の天守閣には巨大なゼンマイネジマキが回っている。しかしそのゼンマイが今まさに逆方向に動き始めるではないか。
一体どうしたものか。
――ゴゴゴゴゴ…
すると轟音と共に大地が揺さぶられる。
「ヒェェッ!」「なんだいありゃあ!?」「OHーEDO城が崩れてくぞー!」
揺れと同時にOHーEDO城に亀裂が入り、一瞬にして崩れ落ちていく。
慌てふためく町人たち。空を見上げる顔が、突如大きな影で覆い尽くされる。
「こいつは……!?」
なんと崩壊した城から現れたは、山のような巨大な木造カラクリ蜘蛛。
身体に折り畳まれた八本の足。八ある目。その高さは数百メートルを優に超え、その巨体を露わにする。
カラクリ蜘蛛は頭のゼンマイを回しながら身体を動かし、脱皮するかのように崩れ去った城のガレキを地面に振るい落とした。
『ギャアオォォォーーーン!』
高鳴る咆哮。
足元の地面を巻き上げて、地響きとなってOHーEDOを襲う。
「キャーー!」「う、うわああぁあああ!」「母ちゃぁん怖いよぉ!」
OHーEDO町人大パニック。悲鳴が上がる。青天の空、雲にも届く巨大なカラクリ蜘蛛。
次に大蜘蛛は窮屈に畳まれた八本の足、それを徐々に開いていく。
足は全方位に開放され、巨大な蜘蛛脚はOHーEDOの建物や道を全て無視して何もかもを抉っていく。
――バキバキバキィッ!
長屋に武家屋敷、商人の店まで跡形もなく潰され。
「アタシらの家が!」「早く! 早く逃げるんだよ!」「逃げるってどっちへ!?」「お助け〜!」「おとっつぁん! おかっつぁん! どこぉ!」「びぇぇぇぇん!」
町人たちはすでに冷静でなくなっていた。
町中を皆、四方八方、あらぬ方向に逃げ出し始める。
大人は叫び、子供は泣き。
「みんな〜〜! 走れ〜〜! 今すぐ大蜘蛛から離れろ〜〜!」
そこに指示するはEDOの色女、三笑そがなではないか。
黒い着物に紫ハチマキ。背にはよぼよぼの老婆を乗せて。
「何も持たずに逃げてください! 急いで!」
隣には白い着物の姉三笑そがの。
迷子の子供達を引き連れている。こちらも避難誘導。
「姉さん。あれが今回の黒幕ってところか」
「それはまだ分からない。でも今は避難を優先しましょう。私達の仇討ちはまた今度」
「おうよっ姉さん。OHーEDOの一大事だ! オレは今度は神田の方に行ってくる!」
「分かりました。私は銀座の方へ。皆を素早く避難させましょう」
「ああ!」
「うっ! お、重てぇ!」
三笑姉妹が話していると、野太い男の声。
二人の目の前にタンスやら鍋やら家財道具を目一杯風呂敷に包んで引きずる男の姿。
福内とん兵衛現れる。
「おめぇさん! 今はそんなもの置いて逃げな!」
「てやんでぃ! んな事出来るかっ! あれもこれも全部思い出の大事な品なんでぃ!」
「バカヤロウ! 全部命あってのもんだ、早く逃げるんだよ!」
そがなは腕で強引にとん兵衛を荷物から引き離す。
「あぁ〜! そんな後生な!」
と、その瞬間。
――ガラガラガラガラ!
カラクリ蜘蛛の巨大な脚が、勢いよく二人の目の前を通り過ぎる。
たちまち家財道具がペシャンコに。
「ひぃ!」
「ほら! 早く逃げるぞ!」
そがなはとん兵衛を引き連れて、姉のそがのに手を振る。
「姉さん気を付けて!」
「そがなちゃんも! また後で!」
二手に別れ、急いで走る三笑姉妹であった。
ーーーーーーーー
「あーあー、テステス。……皆様……私の声が聞こえるでしょうか。こちらはOHーEDO天空塔。現在私のいる展望台から今まさに大蜘蛛が動き出しているのがハッキリ見えます」
町に響く聞き覚えのある声。
声の出所は天高くそびえる塔。
OHーEDO天空塔。
塔の展望台に取り付けられたらスピーカーで解説するは我らがMCギダユウ、KABUKI座ドームから天空塔に移動していた。
「こちらOHーEDO天空塔から中継しておりますMCギダユウでございます! 皆様の避難の為にも、突如現れた恐ろしい化物、巨大蜘蛛の一挙手一投足をリポートさせていただきます! どうぞ引き続きよろしくお願い致します!」
ギダユウは全身汗だらけになりながらもリポートをしはじめる。
しかしその時、カラクリ土蜘蛛が突如唸る。
『ギャアオォォォーーーン!』
見れば大蜘蛛の頭についているゼンマイが音を立ててより一層回り始めている。何かの前兆か。
今度はカラクリ大蜘蛛、その顎を開く。
――ギッコンガッコン
そして蜘蛛の腹の横、等間隔に並んだ小さな穴から外気を取り込むとーー
――キンッ
それは一瞬だった。目がかすむほどの眩い閃光。
喉の奥から放射状に伸びる幾筋の眩しい光が放たれる。
光はギダユウのいる天空塔をかすめ、遥か彼方、遠くの山にぶち当たる。
轟く爆発音。
山に恐ろしき赤の光。拡散する炎。遅れてその風圧がOHーEDOにも届く。
極力な熱線で発生した風に天空塔は揺さぶられ、中にいるギタユウもひっくり返り。
「なんだこれは~! 大蜘蛛の口からビームだぁ!」
しかしマイクを握る手は離さない。
椅子から転げ落ちながらも状況説明、MCギタユウプロ根性。
「皆さま、大蜘蛛は熱線を吐き、こちら浅草方面へと向かっております! その姿はこの世の光景とは思えません! しかしこれは、現実なのです。まだ避難をしてない方は今すぐ避難の方をお願い致します! 大蜘蛛の近くにいる方は急いで蜘蛛から離れてください! どうか冷静に行動してください!」
声はOHーEDO全体の空に響き渡っていた。
城下町ではすでに出火が起き、あたりは火の海。
町には泣き叫ぶ人たちの姿。家は燃え、人は傷つき、悲痛な声が上がる。
一人の男は地面を叩き、壊れた長屋の前で泣き叫ぶ。
「チクショウ! チクショウ! 昔っからずっと住んでる俺たちの町が……!」
別の道端では赤ん坊を抱いて座り込み、茫然自失となっている母親の姿も。
その目に映るは燃え盛る炎の街並み。
「これは夢……悪い夢……」
「お母ちゃん! 早く逃げよう!」
隣にいる娘が母親の服を引っ張る。
まさに地獄絵図。
OHーEDOに壮絶な被害が広がっていた。




