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KABUKI大江戸すぱゐらる ~女侍、美しき居合で悪を断つ!~  作者: 歌学羅休
最終幕 『土蜘蛛』退治!KABUKI大江戸すぱゐらるの段
46/52

一の段 胡蝶の夢

 ――ゴゴゴゴゴ……


 OHーEDO八百八町。

 道行く人が行きかう中、突如その大地がぐらぐらと揺さぶられる。


「うわっ!」「きゃー!」


 OHーEDOまぐにちゅーど参点零。足元は揺れ、小物は棚からバランスを崩す。

 町人たちも各々、机の下や屋外に飛び出していくもの、慌てて避難する。


 町人たちが不安になる中、揺れは次第に収まっていく。


「ふぅ……最近やけに地震が多いねぇ」


「そうだなぁ。地下の大鯰が暴れ出したんじゃねぇか。まあ地震はつきものだし大丈夫だろう」


 外でちょんまげ男が軽いノリで言うと、たまたま隣にいた赤子を抱えたふくよかな母親、同じく太ましい手で男の肩をペシっと叩く。


「あんた、そんなんじゃダメだよ! 何が起こるか分かんないんだから! ……ってなんだいありゃ!?」


 女が何かを見つけた。

 指差す先。空を覆い尽くす謎の黒い飛行物体。

 目を凝らしてみれば、それはおびただしい数の髑髏どくろではないか。


「なんだいなんだい!?」「不気味だよぉ……!」


 町人たちが気持ちの悪さに怯える中、空飛ぶ髑髏はEDOの中心、OHーEDO城に向かうのであった。


◆◇◆◇◆













「ーー三千世界・常桜ーー」















 


「……ん……?」


 意識は覚醒し、瞼を開く。

 目に映るは一面の白い空。


「ここは一体……?」


 ぜにまは仰向けになっていた。


 肘をついて、上半身を起こしてみる。

 首を回して周囲を確認すると、驚くべき景色がぜにまの目に映った。


 そこは地面や空が白一色に染められた世界。

 水平線まで遥かに広がる白、白、白。その先には何も見えない。


 自分の身体に目をやれば、服も白装束に変わっている。

 しかし持ち物は何も無い。膝丸さえも消えていた。


 代わりにあるはずの無いものがあった。

 それはぜにまの失った左腕。


 ぜにまは奇妙に、そして懐かしく自分の左手を右手で触る。暖かい血の通った腕。


「ああ、そうか……。拙者、死んだんだなあ……」


 ぜにまは悟った。究極の居合によって、自分が一秒を永遠に感じてまっていることを。

 悠久の時の中に閉じ込められていることを。


「なんとか皆を守れたのだろうか」


 姉の肉体を操る土蜘蛛を無事止められたかどうか。水茶屋のみんなや、江戸の人々は一体どうなったのか。

 しかしそれを知るすべが無い事は、ぜにまも分かっていた。


 そこへ、ぜにまのぽにーてーるがなびく風。暖かく、心地よい。

 風に乗るはピンクの花びら。


 花びらの出所を探せば、先程まで無かったものがあった。

 白の世界に一本だけ咲く、桜の木、満開。


「おお! これはこれは美しい桜でござる」


 ぜにまはゆっくりと身体を起こすと桜の前まで歩み寄る。


「今年は花見に行けなかったでござるからな。これはありがたい。きっとOHーEDOの桜も、このように綺麗であろう」


 木に触れ、一人でふふふと笑うぜにま.

 手のひらからは優しい木のぬくもりを感じる。全身には花びらのシャワー。ぜにまにとってこれ以上ない幸せ。


 それは自分が一番やりたかったものなのだろう、とぜにまは思った。OH-EDOスパイラルについて一度も花見にはいけてなかったのだから。だから自分自身が勝手に花見の幻覚を見せているのだろう。


「出来れば、皆と一緒に見たかった」


 ぜにまは憂いがちに目を伏せる。


「さて、少し眠たくなってきた。横になるでござる」


 身体をゆっくりと横にして目を閉じる。色々と考えたいこともあるが、そんなのは後でいい。


「時間はたくさん……あるでござる……」


 ぜにまの表情は穏やかで、顔に桜の花びら舞い落ちる。





















「ぜにまさん」


 耳に誰かの声。

 少しまぶたを開いてみれば、ヒラヒラと、青い蝶々がぜにまの目の前を飛んでいる。


 指を差し出してやれば蝶が止まる。

 何処かで見覚えのあるツギハギ羽。


「ぜにまさん。わたしをすくってくれてありがとう。今度はわたしが、あなたを助ける番」


「お主は……」


 蝶はフッと舞い上がる。

 目に映るは空のように青い羽。桜の雲にはばたいて。


◆◇◆◇◆


「……にま様! ぜにま様! お願い起きて! ぜにま様!」


 ぜにまを必死に呼ぶ声。

 それは間違いない。お舟のものであった。


「……む?」


「そんな!? 良かった、ぜにま様死んでなかった……ううっ、うううぅぅ……!」


「拙者、生きているのか?」


 歌舞伎舞台に横たわるぜにま。

 隣にいたお舟はぜにまの胸の上に顔をうずめて、大粒の涙を流す。


「ぜにまさんっ!」「わん!」「わんわん!」


 妹お波もぜにまを抱きしめる。

 右近と左近、二匹の犬はぜにまの頬をペロペロと舐める。

 福内姉妹がぜにまを心配して看ていたのであった。


「ふふっ……くすぐったいでござる」


「良かった……。ぜにま様が持っていた、この気付け薬が効いたみたい……」


「それは?」


 ぜにまはお舟の手にした印籠を受け取る。

 それは遥か前、初めてゑいかとKABUKI勝負を戦った後、お世話になった女医の胡蝶から貰った印籠であった。

 印籠にあしらわれた蝶を指でなぞるぜにま。美しき羽模様。


「そうか……胡蝶先生は……」


 ぜにまは印籠を握りしめ、身体を起こす。会場を見渡せば、客席には人っ子一人もいない。

 上から差し込む光。ドーム天井には大きな穴が空いていた。


 ぜにまに記憶が鮮明に戻ってくる。お舟の肩を両手で掴むぜにま。


「あの後、一体何があったでござるか!?」


ーーーーーーーー


 ぜにまは泣きじゃくるお舟を落ち着かせ、事の顛末を聞く。


「すると拙者の居合は、確かに姉上の首を切ったのだな」


「はい。しかし首は切れず、代わりにおぞましい大きな蜘蛛が頼朝様の背中から抜け出し、天井を突き破って外に逃げました」


「ふむ。もしかした師の伝えた居合は、この世ならざるものを切る技なのかもしれぬ」


 ぜにまは自分の顎を訝しげに触る。


「それで、首を切られた姉上はどうなったでござろうか?」


「それが、色々なことがあって見ていませんでした……すみません! 私たちみんなで協力して蜘蛛の糸から抜け出して、ゑいか様やててて様たちは大蜘蛛のあとを追って会場外に。ぜにま様の手当は私が……。あの居合のことを知っていたのは、私だけでしたから……」


 鼻を赤くし語るお舟。


「ぜにまさん、わたしも心配した」「わん」「わん」


 頭をこすりつけるお波。


「みんな、心配かけてすまないで候」


「おおっ! ぜにま様、ご無事でしたか!」「良かったです〜! あわわ」


 三人と二匹の元に現れるは、松洛とお鐘。お鐘は何もないところでつっかえる。


「松洛殿、それにお鐘ではないか!」


「いやはや現れましたな。土蜘蛛が」


「私たちも見てました。すごい糸で死ぬかと思いました……」


 松洛たちは身体の糸を払い、お鐘はずれたメガネを掛け直す。


「松洛殿、あれが何なのか知っておられるのですか?」


「はい。あれは土蜘蛛と呼ばれる妖怪、遥か昔から言い伝えられ、各地に時折現れた記録があります。その正体はまつろわぬ民の魂だと云われています」


「民……ということは元は人間だったのですか?」


 恐る恐る自分も質問するお舟。


「おそらく。しかし魂が集合体となりり、土蜘蛛として現れた今、それはもう人とは別の存在。その目的はただ一つ。日の本の破滅を考えているでしょう」


 ――ゴゴゴゴゴ


「キャー!」


 歌舞伎舞台に鳴り響く轟音。

 地震の揺れがぜにまたちを襲う。咄嗟にお波を庇うぜにま。


「そうか……。ならば拙者、一刻も早く土蜘蛛を止めに行かねばならぬな」


「ぜにま様、良ければこれを」


「ん……。それは」


 お鐘は懐から長方形の一枚の白い紙を取り出し、ぜにまに渡す。

 紙には『善草寺』の文字と印。


「お鐘。それはうちで売っている土産用のお札じゃないか! それも安産祈願の!」


「いっ、いいじゃないですか! 何も無いよりはマシだと思って……」


「もっと他にあっただろう……」


 ペチンと自分の頭に手をやる松洛。なんとお鐘、寺のものを勝手に拝借してきていた。


「いや、これは心強い! お鐘、感謝するでござる」 


「ぜにま様。もし土蜘蛛の本体を切ることが出来たのなら、土蜘蛛を止められるかもしれません! どうかお気をつけて」


 ぜにまはお鐘からお札を受け取り、膝をついて立ち上がる。


 ――グッ


 その腕を掴み止めるは、顔を伏せたお舟。


「お舟?」


「すみません……。ぜにま様ならきっといってしまうだろうと思っていたのに、いざ行くとなるとつい……」


「ありがとうお舟。……はて、この服は?」


 ぜにまは、自分の体が包帯だらけであることに気付く。


「傷の手当てをさせていただきました。服は歌舞伎舞台の幕をお借りして、血が付いたままではあれですから」


 ぜにまの服は脱がされて、代わりに歌舞伎舞台の幕をマントのように掛けた姿。

 黒、緑、柿色が鮮やかにはためく。


「何から何まで、お舟には頭が上がらないでござるな」


「私も応援するー!」「わん!」「わぉん!」


「お波もいつも心配させてしまってかたじけないで候」


「へへーん!」


 するとぜにまの手を取るお舟。


「行く前にぜにま様、一つ私と約束してください。絶対に生きて帰ってきてください。命あれば、どんなことだってきっと何とかなります。だから元気で私の所へ戻ってきて。それにぜにま様に、食べてもらいたい新しいお菓子だって、まだいっぱいあるんですから……」


 その目に涙を浮かべて。


「分かった」


「最後にこれを……!」


 お舟はそう言うと自分の頭に手を上げ、頭のかんざしをほどく。簪抜かれた艷黒の髪は重力によってストンと落ちる。

 簪を口にくわえ、そのまま懐から小刀を取り出せば、自分の黒髪の少し先をまとめて勢いよく切るお舟。


「お舟! 一体!?」


 お舟は切ったその髪を、紫の巾着に入れぜにまの首に紐をかける。

 それは奥ゆかしい藤の色。


「これはお守りです。藤にかけた不死のお守り。どうか死なないでください。私はずっと、あなたを待ち続ける……藤娘なんですから!」


涙ながらに笑みを浮かべるお舟。それは最後までぜにまを応援し、勇気づけようとする必死の笑み。


「お舟……。拙者、必ず生きて帰ってくるでござる。そしてお舟のところに、絶対にまた戻ってくるでござる!」


「信じて待っています!」「がんばって!」


 ぜにまたちは笑顔で約束をする。


「行ってくるでござる!」


 ぜにまの義手は破壊され、髪は切られ、全身傷だらけ。

 しかしぜにまは走り出す。定式幕のマントをはためかせ。


「土蜘蛛を止められることは出来るでしょうか……」


 お鐘の不安そうなつぶやき。


「大丈夫。なんてったってぜにま様は立派なお侍様なんですから! 私たち一人一人に出来ることをしましょう!」


「そうですな」「はいっ!」「わたしもがんばる!」


 気合を入れる一同であった。

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