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KABUKI大江戸すぱゐらる ~女侍、美しき居合で悪を断つ!~  作者: 歌学羅休
第四幕 『仮名手本忠臣蔵』 決勝千秋楽!源頼朝の段
44/52

十一の段 『侍ぜにま』VS『源頼朝』 ⑥

 全ての鳴物奏でられ、会場響く和楽器の音。

 電光めくり台には『義経千本桜』の字。


 ――いよおおおおおおおおっ!


 ――ドン! ドン! ドドン!

 ――カン! カン! カン! カン!


 固まっていた観客たち。

 その体がようやく神通力から解き放たれ、身動きがやっと取れるようになる。


「か、身体が治ってきた!」「これで思いっきり声を出せるってぇもんよ!」「ああ!」「いけー! ぜにまー!」


 会場同じく、お舟たちも同じく解放される。


「お波、大丈夫? 苦しくなかった?」


「コホッコホッ……。うん大丈夫。それよりぜにまさんを応援しなきゃ!」


「そうね……! 一緒に応援しましょう!」


 ゑいかとてててはすでに客席から身を乗り出してぜにまを応援していた。視線の先にはKABUKI口上、ぜにまの『義経千本桜』。

 ぜにまはどんなピンチだっていつも跳ね除けてきた、今度だって魅了する。二人は会場の声に負けじとばかりに声援あげる。


「ぜにま姐さん、見せて下さい! 姐さんのありったけの花をっ!」

「主さんの桜花爛漫おうからんまん、わっちたちに見せておくんなし!」


 ――パチパチパチパチ!


 会場大興奮、割れんばかりの拍手。

 ぜにま声援背に受けて、愛刀『膝丸』抜き放つ。


してまいる!」


 ――キィン!


 ぜにまの居合一閃。

 頼朝、これを刀で受ける。


「ほほ、何をするかと思いきや、いつもの一つ覚えの魅せ技や」


 ぜにまは今試合で初めて居合をする。しかし頼朝はすでにぜにまのこれまでの戦いを見てきた。恐れる必要など微塵もない。


「姉上……これがぜにまの居合です」


 ぜにま、刀をゆっくりと鞘に収める。残心ざんしんと呼ばれるその動き、最後まで心を途切れさせない武術の所作。

 静寂の中に心を残す。


 ――チャキッ


 納刀終えた瞬間。


 ――スンッ!


 遅れて頼朝、肩から素早く赤茶色の血が吹き出る。


「あなや」


はかな刹那せつなに散る桜……居合・染井吉野そめいよしの


 侮るなかれ、ぜにまの居合。

 あまりの速さに頼朝、刃が触れたことすら気づけない。


 今のぜにまは研ぎ澄まされていた。人が生まれたままの、自然で純粋な心。

 思考と感情、迷いと悟り、表と裏、全てが一体となったぜにまの居合。


 それは己の才を限界にまで引き出す尋常ならざる技。


「ほう。見えなかったでごじゃる。だがそれがどうしたでおじゃる?」


 頼朝、切られたと言うのに不気味に笑い、すかさず友切丸を袈裟斬り。


 ――キィィィン


 ぜにま抜刀。

 頼朝とクロス、交差する。


「八のせん。居合・八重桜やえざくら


 ――チャキッ


 ぜにま刀を回して納刀す。


 ――ザシュザシュザシュザシュ!


 今度は頼朝全身に、八の斬り跡。

 瞬きの間に八太刀入れる。


「あ〜れ〜。妹よ、姉を生かして切り刻むつもりでごじゃるか」


「そうでござる」


「奥ゆかしいのう」


 血を吹き出しながらも怯まない。頼朝、臆せずぜにまを襲う。


「彼岸に咲く早桜はやざくら……」


 キィィィィィン!


「……居合・江戸彼岸えどひがん


 居合いあい疾走しっそう。ぜにま、しゃがんだ状態で数メートルを即座に移動。

 ゆっくり艶めかしく刀を収める。


 ――チャキッ


「げに」


 今度は頼朝の太ももから血が飛び出す。

 たまらず頼朝、ついに膝をつく。初めて見せた劣勢の姿。


 息を呑んでその様子に見とれていたMCギダユウ、自分の仕事を思い出しハッとする。

 語気を荒げて大声解説。


「おっ〜とついに炸裂! ぜにまのお家芸! 春風運ぶ神業居合! 歌舞伎舞台に見事に咲いた、さくら満開! 桜花斬!」


「あっぱれ!」「あんな居合見たことねぇ!」「ぜにまいけー!」


 会場も大興奮。

 勇姿を見ていたぜにま一行も大喜び。


「OHーEDOに 咲きし居合の 桜かな。主さんの桜は美しいでありんす!」「ガンバれー! ぜにまさーん!」「わぉーん!」「わん!」


 二匹の犬たちもお波の膝の上で嬉しそうに回り出す。

 しかし頼朝まだ怯まない。血に濡れながらも立ち上がり得物を光らせる。


「おーほほほほほ! もはや神通力も必要無いでおじゃる。今宵は最後、姉とのチャンバラで終えませう。きぬぎぬの文もつけまするぞよ」


「姉上……参るッ!」


 ――キィン! キィン! キィン! キィン!


 踊るは踊るは歌舞伎舞台。

 踊る二人に見るニワカ。


 今宵最後の無郎チャンバラ、歌舞伎舞台に繰り広げ、大盛り上がり、歌舞伎十八番千秋楽。


 二人の剣戟美しく、飛び散る血飛沫ちしぶき、花吹雪。

 互いの肉を切り刻む、一歩も譲らぬ攻防戦。


 押すはぜにまの居合かな。

 頼朝傷深く、すでに人の限界を迎えていた。


「ぜにまーーーっ!」


「いざーーーっ!」


 両者、最後の一撃、ぶつかり合う。

 ぜにまは即座に納刀、居合の構え。


 ――リィィィィン


 友切丸の刃に自分の刃先を滑らせ、火花飛び散る居合瞬電。

 抜即斬。


 ――ザシュ!


 両者は静止する。


 それ見守り、息を飲む会場。




 ――ドサッ




 ゆっくりと倒れるは、最後まで不気味に笑う頼朝であった。


「勝負ありっーーー! 勝者は、侍ぜにま! 侍ぜにまーーー! これにてKABUKI勝負十八番、優勝はぜにまに決定〜〜〜~~!」


 ――シュパパーンッ! ボン! ボン!


 打ちあがるは舞台の花火。

 天井からは今まで降っていた雪の代わりに、桜吹雪が舞い落ちる。


「「「ぜにま! ぜにま! ぜにま! ぜにま!」」」

「「「ぜにま! ぜにま! ぜにま! ぜにま!」」」

 

 会場からは豪雨のような拍手とぜにまこーるが起こる。ついにぜにまがやったのだ。

 長く苦しいこの道のりを乗り越え、ついにその手に勝利を収めたのだ。


 ぜにまは血だらけの身体を起こし、会場を見る。スポットライトが眩しく映る中、客席の声が聞こえる。


「よくやった!」「流石お侍様ぁよ!」「いよっ! ぜにま屋! にっぽんいちぃ〜〜!」


 賞賛の声がぜにまの耳に気持ちよく聞こえる。

 見ればお舟たちも発見する。皆声を上げながら手を振っていた。


「ぜにま姐さーん!」「主さん!」「ぜにまさん!」「ぜにま様……!」「「わぉーん!」」


 ぜにまは姿勢を正し、盛り上がる会場に頭を下げる。客席からはさらに大きな拍手が送られた。




 だがその時であった。


 倒れていたはずの頼朝がユラリと立ち上がる。

 その表情は虚ろ。一体何事か。


「我がせこが 来べき宵なりさゝがにの 蜘蛛の振舞かねてしるしも」


 頼朝は突如その場で足踏みを始める。


 ――ダン! ダン! ドタダン!


 すると頼朝の目から流れる、青い血涙が徐々に茶色に変わっていく。

 そして手にした数珠を両手で開き、その口にあてがうと――


 ――バリバリバリィ!


 大きな音がして、見れば頼朝の口がパックリと頬まで裂けるではないか。

 中から大きな牙が生え、頭には角、顔が蜘蛛の姿に恐ろしく成りかわる。


「シャーーーッ!」


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