六の段 『侍ぜにま』VS『源頼朝』 ①
◆◇◆◇◆
OHーEDO城。
ここは天守閣の中。簾に囲まれて座っているのは十二単の公家姿。
源氏の直系『並木源三郎頼朝もみじ』。
優雅に脇息に肘かけて休んでいる。
その目の前には白い一文字笠を被った男が膝をついている。どうやら何かの進展を報告しているようだ。
「頼朝様、無事OH-EDOスパイラルが巻き終わりました」
「そうか」
頼朝の裏声のように甲高い声。
「ご自身で確認されますか?」
「いい。頼朝はこれからイエヤス公との朝餉があるでおじゃる。あとはよしなに」
「はっ!」
男は返事し、即座にその場から下がる。
頼朝は簾の奥からユラリと出、OH-EDOスパイラルを天守閣から見下ろす。細めた目は愉悦、僥倖の笑み。
「ほほほほほ! 明日の千秋楽が楽しみよのう〜」
◆◇◆◇◆
KABUKI十八番勝負、千秋楽当日。
富士の山から日が昇る。
OHーEDOは今日も日本晴れ。
肌寒い空の下、井戸の水で身体を清めるは白装束のぜにま。
吐く息は白くなっている。
しかし冷たさに岩のように動じない。ぜにまの心は固まっている。
行水を終えた後、水茶屋『一ぷく』でいつもの袴姿に着替える。
外出の支度を済ませ、ぜにまは部屋の仏壇に手を合わす。
「……父上、母上。武蔵先生。どうか見ていてください。いってくるでござる」
ぜにまは笠を深く被り、颯爽とKABUKI座ドームに向かうのであった。
◆◇◆◇◆
「さぁ〜〜〜〜! お待たせしました皆々様! 泣いても笑っても今日が最後! KABUKI十八番勝負、決勝千秋楽! 対戦するはご存知我らの侍ぜにまと、高貴な御方、並木もみじ選手ッ! またの名を源頼朝様! 歌舞伎舞台に花飾り、見事『天下の徳政令』を手中に納めるのはどちらなのか!? それでは最後も声援の方よろしくお願い致します! KABUKI十八番勝負、決勝戦! 開幕ぅ〜〜〜〜〜!!」
――カン! カン! カン! カンカンカンカン!
――パチパチパチパチパチ!
KABUKI座ドーム満員御礼。
ついに始まった決勝千秋楽。
空中カラクリクレーン台座に乗った、ちょんまげ頭のMCギダユウ、スピーカーで声響かせる。
「いよっ! 待ってました!」「俺なんて昨日から寝てねぇぜ!」「最後も良いKABUKIみせてくれよ〜!」
客席のOHーEDO町人たちも大興奮、今までで一番力強い拍手で幕上げを迎えた。
定式幕は開かれて、現れるは鴨川にかかる五条大橋セット。
舞台に続く花道には真っ赤な千本鳥居、幾多に並ぶ。
――チャリン!
満を持し、揚幕が金輪を鳴らして上がる。
白煙と共に現れるは、牛車に乗った並木源三郎頼朝もみじ。
「いろはにほへと〜〜〜ちりるぬを〜〜〜」
背筋も凍るような不気味な声で歌いながら登場。
脇息屏風で体を休め、尖った頭の市女笠、虫除け垂れ絹、壷装束。
布越し見える高貴な御顔、鬢削ぎ大垂髪、姫カットのロングヘア、公家眉お歯黒、青の口紅不敵に笑う。
毛並み整った黒牛が金と緑に装飾された牛車をゆったりと引く。
「「「我か世誰そ〜〜〜常ならむ〜〜〜!」」」
すると頼朝の牛車の後ろから100人ほどの芸者が続いて現れる。その一人一人の足元には空中カラクリどろーん台座。プロペラを回して空を飛ぶ。
芸者たちはどろーんに乗せられホバリングしながら客席上空へと広がる。
上下左右に整列し、ひらりはんなり優雅に踊る。
「なんでぃありゃあ!?」「アンタ、あれは都の芸者さんだよ! みんなベッピンさんだねぇ」「へぇ〜、それじゃああれが宮川の京おどりってやつか」
観客たちは見た事もない光景に釘付けになる。
――チャンチャカチャンチャン♪
――チャンチャカチャンチャン♪
三味線太鼓、笛の鳴り物軽快に、牛車の上を囲む百人芸者。一糸乱れぬ動きで空中踊る。色鮮やか。
どろーんはバラバラに空を舞うかと思えば、即座に集まり円に、花に、鳥居の形に整列する。
百人芸者を乗せて四方八方、千変万化。
その手の扇子もヒラヒラと舞う。
「「「有為の奥山〜〜〜今日越えて〜〜〜」」」
芸者たちは歌う、踊る。
色とりどりの西陣織の帯、京友禅の着物の中に織り込まれている金糸銀糸、照明てらされ輝き放つ。
「「「浅き夢見じ〜〜〜酔ひもせず〜〜〜! ヨーイヨイヨイ! 京を〜〜ど〜〜り〜〜〜!」」」
――シュポポポッーン!
歌の終わりに破裂音。
天井に仕掛けられた竹筒から、千代紙で作られた紙吹雪が降ってくる。
赤い和柄が燦々と、客席ヒラヒラ舞い落ちて、その様、秋の紅葉の如く。
「はぁ〜〜こりゃ優雅だのう」「頼朝様はやんごとなきお方でさぁ」「んだんだ」
ドームに設置された灯籠プロジェククターは客席上空、光るえれき文字を映し出す。
『公家』『並木もみじ』『源頼朝』『雅』『はんなり』『千秋万歳』『あぶらとり紙』
牛車の簾を開けるは頼朝。
中からは、一匹のゲンジボタルが飛び立つ。
「山々は、時雨を待たずに染めてでおじゃる。ああ、まったりまったり」
頼朝は簾から体を出すとフワッと跳躍し、牛の背中に静かに舞い降りる。遅れて垂れる十二単は翼の如く。
「おーほっほっほっ! アメノウズメ、出雲の阿国から続く歌と踊りの神秘の力! KABUKIでぃーえぬえー! 妹ぜにま、今宵は姉と一緒に踊るでごじゃる」
頼朝は手をパンパンっと二回ほど叩く。
すると空中にいたどろーん芸者たちは舞台袖に足並み揃えて下がっていく。
頼朝は背中の長巻、『友切丸』を取り出す。長巻とは刀身と同じぐらいの長さの柄を持つ刀。
頼朝は『友切丸』を左右に引っ張り、鞘から勢いよく抜く。
その禍々しいほどに白く美しい刀身は鏡のように輝きを放っていた。
刃に写るは客席のOHーEDO町人たち。頼朝、見据えて口上あげる。
「この世はち〜か〜ら〜。力が全て〜。血も金も才能も、全ては力、力でおじゃる。OHーEDOの民よ。頼朝の考えたKABUKI十八番勝負はどうでごじゃったか? 夢を見れて楽しかったでごじゃろう? 弱者は力に執着し、夢を見る。身の丈にあった夢であれば、不幸にならないというのにのう〜」
「な、なんだって?」「頼朝様がKABUKI勝負を考えたっていうのか!?」「それじゃあ『天下の徳政令』は?」
会場が頼朝の口上を聞いてざわつき始める。まさかこのKABUKI十八番勝負の考案者が頼朝だったとは、寝耳に水である。
「頼朝には『天下の徳政令』などいらないでおじゃる。命令なぞいつでもできるでごじゃるからな〜」
青紅の口元が妖しく緩む頼朝。全ては頼朝の手の平の上。
「たまには下々のガス抜きも、必要でおじゃるからのう~! おーほほほほほ!」
会場愕然。今までのKABUKIものたちとは違う、江戸の支配者目の前にいたことを感じ取る。
「あれが……ぜにま様のお姉様なのですか?」
客席いるは、ぜにま一行。
福内姉妹に近松ゑいか、花魁姿の黙阿弥ててて、皆神妙な面持ちで席に座っていた。
お波の手には白と赤の二匹の犬。
「はい。一回戦目は不戦勝で勝ち抜き、そこからはシードで決勝。どんな相手なのか情報が無い中、ぜにま姐さんは戦わなきゃいけないでごぜゐます」
ゑいかがぜにまを心配しながら語る。頼朝の能力は未知数。決勝がどのような試合になるのか誰にも想像がつかない。
それはぜにま一行に不安として襲いかかる。
「相手が誰であろうが構わない。わっちらは主さんを信じるだけ」
「わたしも全力で応援する! ねっ、右近! 左近!」
「うぅ〜、わんわん!」「わん!」
しかし誰よりも真っすぐなのは幼子お波。きさら戦の哀しみを乗り越え、犬たちと前向きにぜにまを応援する。
「お波……! そうね。みんなで応援しましょう」
姉のお舟も妹のそのような姿から勇気を貰う。妹の手を握り、気合を入れた。




