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KABUKI大江戸すぱゐらる ~女侍、美しき居合で悪を断つ!~  作者: 歌学羅休
第四幕 『仮名手本忠臣蔵』 決勝千秋楽!源頼朝の段
37/52

四の段 ぜにまの覚悟、お舟の気持ち

◆◇◆◇◆


「腕利きの刀鍛冶ですか?」


 明くる日。

 ぜにまは善草寺に一晩泊まらせてもらっていた。

 寺の正門でお鐘に頼みごとをするぜにま。


「うむ。この師の形見である薙刀の刃を用いて、拙者の膝丸の刃を打ち直して欲しい」


 ぜにまは師の薙刀と自分の欠けた膝丸をお鐘に手渡す。

 平きさら戦で折られてしまった愛刀。変わり果てた姿。

 しかし別の刀を使うことなどぜにまには考えられなかった。


「分かりました。KABUKI勝負までには治しておきます」


「かたじけない。それでは拙者も、自分自身を鍛えようと思うでござる。お二人方、お世話になったで候」


 ぜにまがお鐘と松洛住職に礼をし去ろうとすると。


「ぜにま様、あの一つだけ気付いたことがありまして……」


「む、なんでござるか?」


 お鐘が少し申し訳なさそうにぜにまを呼び止める。


「実はぜにま様のお師様の箱を運んだ時です。音で気づきました。その箱、おそらく二重底になってるいるはずです」


「ぬ?」


 ぜにまは師の遺言書が入った箱の底を引っ張ってみる。すると底がパカっと開き、中から虎模様の巻物が出てくるではないか。

 ぜにまには見覚えが無い。


「これは一体……?」


ーーーーーーーー


「ぜにま様お帰りなさい。昨日は善草寺に泊まり込みだったみたいですね」


 ぜにま、水茶屋に帰還。


「お腹空いたでしょう? ぜにま様が大好きなおかずのご飯を作っておきました」


 お舟が飯を用意してぜにまを優しく出迎える。

 しかしぜにまは気にも止めず、いそいそと部屋に向かうと、自分の持ち物を風呂敷に包み込んで三度笠を頭に被る。


「かたじけないお舟、拙者今から修行に出かけるでござる」


「ま、待ってください。そんな急に出かけるのですか?」


「うむ、勝負の日までは帰ってはこないだろう。お波ととん兵衛殿にはよろしく言って欲しいでござる」


 帰ってきてそうそう、ぜにまはおもむろに出発しようとする。

 足早に戸口から出ようとするぜにま。


 ――グッ


 その出かけるぜにまの腕を引き留めるはお舟。


「どうした、お舟」


 ぜにまは足を止め、お舟の方を向く。

 お舟はぜにまの腕から手を離し、下を向いていた。その顔は陰る。


「ぜにま様。今さらこんなことを言うのはおかしいかもしれないですけど……私、次のKABUKI勝負には反対です」


「……なにゆえ?」


「前回の戦いが終わった後、ぜにま様は数日昏睡状態になりました。お医者様に聞けば、激しい脳への負担が原因かもしれないと。きっと……ぜにま様の神通力とやらのせいだと私は思います……。だからたとえ、ぜにまさんが次の試合で勝ったとしても今度はぜにまさんが死んでしまう!」


 平きさら戦。それはあまりに激しい戦いであった。しかしそれだけではない。

 今までに無いほどの神通力を使用したことでぜにまは昏倒していた。それはぜにまにとっても初めてのことだった。だからもし次の試合も激しい戦いになれば、自分がどうっていまうの分からない。

 だからぜにまもお舟の言葉に答えないでいた。


 お舟もぜにまに対して背を向けて話す。


「それに……お波はあれからずっと落ち込んでいています。きさら様と面識があったみたいで。私、それで分かりました。このKABUKI勝負は、始めからおかしかったのよ……。力で相手をねじ伏せて、『天下の徳政令』の権利なんか手に入れたとしても、そんなものでは誰も幸せになんかならない! だって、そんなのおかしいじゃない……勝った者が全てを決めるだなんて。そんな当たり前のこと分かってたのに、みんな雰囲気に流されて、殺し合いをはやし立てて……」


 お舟は静かに涙を流す。


「私が……ぜにま様をKABUKI勝負なんかに誘っていなかったら……こんなことにもならなかった……。私、ぜにま様には死んでもらいたくない……! 誰かを殺して欲しいとも、思わない!」


「お舟……!」


 ぜにまはお舟の震える肩に手をかけようとする。

 しかしそれを振りほどくお舟。


「それに今のぜにま様の目……その目は復讐の目よ!」


 お舟はついに膝をつき嗚咽する。口を抑え、目からは大粒の涙がこぼれる。

 ぜにまの源氏の事情を聞かされていたお舟。尊敬する侍を復讐の道へと自分が引き込んでしまったのかもしれないという思い。今まで抱えてきた胸の想い。それが涙となって溢れていく。


「お舟すまない。姉は……頼朝よりともは多くの人の命を自分勝手に殺めてきた。これ以上、生かしてはおけぬ」


 ぜにまは笠を深く被る。師を殺されたことでその決意が固まる。


「だが決してお舟の責任では無い。だから思い詰めないで欲しい。これは拙者自身の定め。頼朝との決着をつけるでござる」


 人斬りの外道に落ちようとも、お舟を心配する気持ちは変わらない。

 一言だけ言い残せば、哀しく泣き崩れるお舟を一人にし茶屋から出るぜにま。


「ぜにま様……!」


 遅れてお舟が外に出た時にはすでに、ぜにまの姿は日本橋の通りから消えていたのだった。

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