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KABUKI大江戸すぱゐらる ~女侍、美しき居合で悪を断つ!~  作者: 歌学羅休
第四幕 『仮名手本忠臣蔵』 決勝千秋楽!源頼朝の段
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二の段 近松姉妹の想い

 隅田川にかかる大きな木造の橋『言問(こととい)橋』。

 橋の欄干にヒジついて優雅な川を眺めるぜにま、ゑいか、ゐどりの三人。一休憩。


「『名にし負はば いざこと問はむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと』。在原業平(ありわらのなりひら)の詠んだ、遠くにいる想い人への歌。この歌から言問橋と名付けたそうですよ」


 ゑいかが橋の名前の由来を語る。

 しかし物憂げなぜにまに返事なく、風でちゃぷちゃぷと波を立てる水面を無言で眺めている。


 ゑいかは上の空のぜにまに、心配そうに声をかける。


「姐さん……平きさらの事、考えているでごぜゐますか……?」


 ハッとするぜにま。


「てててに聞きました。きさらの罪は頼朝様によって仕組まれたものだと。姐さんは私の時と同じで、きさらも救いたかったんですよね? あの勝負以降、姐さんはずっと落ち込んでいるでごぜゐますから……」


 ゑいかはずっとぜにまの事を気にかけていた。何処か空元気のような無理をした姿、いつも傍にいたゑいかが気づかないはずがない。

 ぜにまは川の底に視線を移す。


「ゑいかにはお見通しでござったか。……ずっと考えていたのでござる。もしきさらと、お互い生まれた血も違えば、同じ桜の木の下で花見をすることもあったかもしれないと思うてな」


 川にはゆらゆらと名も知らない花の花弁が儚く揺れている。


「そうかもしれません。しかも今度は……同じ血を分けた姉と戦うなんて……」


 ゑいかの言葉。思い起こされるは、準決勝の最後、変わり果てた姉との再会。

 ぜにま決勝戦の相手『頼朝』。


「源氏の姐さんの生い立ちを聞いた時、言葉が見つかりませんでした。頼朝様は姐さんの姉上で、姐さんの育ての親を殺した仇でもある。今度のKABUKI勝負が、どれほどぜにま姐さんにとって心苦しいか……」


 ゑいかは隣でじゅーすを飲むゐどりを見る。二人の会話は気にせず、景色を楽しんでいるゐどり。ゑいかにとっては唯一の血の繋がった家族。

 家族を失う恐怖とはどんな気持ちか。そのことを誰よりもゑいかは知っていた。だからこそ、ぜにまの事を考えると胸に穴が開くようであった。


 しかし同情するだけではいけない。


「あたしは、姉の為に捨身の覚悟でKABUKI十八番勝負に挑みました。しかしぜにま姐さんに負けて、姐さんの勝負を近くで見る中で分かった事があるんです。姐さんは、花を咲かせようとしているんじゃないかって」


「花……でござるか」


 ぜにまはゑいかの言葉の意味が分からず振り向く。


「はい。見てる人が自然と笑顔になる、そんな自分だけの花を咲かせる。この日の本OHーEDOも、自然の摂理で死んでいったもの、生きているもの、皆が笑って桜を眺められる、そんな町にと人々が助け合い造られました。先の隅田川花火大会も、8代将軍『徳川吉宗』公が飢饉と病によって苦しい思いで亡くなった人たちを慰霊する為にはじめたものです。もしかすると、桜の季節が過ぎた夏でも花見をすることができる、そういう思いがあったのかもしれません」


 ゑいかもぜにまの方を振り向き、その美しい目でぜにまの目をじっと見据える。

 目に映るは誰なのか。大切なものは何なのか。ゑいかには分かっていた


「姐さんは皆を笑顔にする花を咲かせている。だから、だからきっと決勝戦も大丈夫でごぜゐます! 何があっても、きっと!」


 ニカっと笑うゑいか。それは姐と慕うぜにまを安心させようとするゑいかの明るい笑顔。

 それを見て、自然とぜにまも微笑む。


 笑う二人、隅田川吹く、春の風。


 すると隣にいたゐどりが少し疲れたのだろうか、コホンコホンと咳をする。


「そろそろ戻るでござるか」


「ええ、あたしはゐどり姉さんを送って行きます。千秋楽までには、最新式のカラクリゼンマイ義手を用意しておくでごぜゐますよ!」


「いつもかたじけないな、ゑいか」


「任せてください! それじゃあぜにま姐さん、お気をつけて!」


 別れを告げ、去る近松姉妹。

 二人の背を見送るぜにま。


 少しすると、何かを思いついたのか、ぜにまにとととっと走り寄るはゐどり。


「おや、ゐどり殿。どうしたでござるか?」


 ゐどりは声が出せない代わりに、ぜにまの手の平を取り、そこに文字を書き始める。




『と』



『も』



『だ』



『ち』





「ゐどり殿……」





『あ』



『り』



『が』



『と』



『う』



 ゐどりは最後の文字を書き終わると、妹と同じ屈託のない笑顔を見せる。

 託された姉妹の想い。

 書かれたその手を、ぜにまは強く握りしめるのであった。


ーーーーーーーー


 ぜにまと分かれたその帰り。

 近松姉妹は隅田川沿いを歩いていた。


「うん? あれは……お波でごぜゐますか?」


 二匹の犬連れて、河川敷にいたのは福内お波であった。


 お波も平きさらとの戦い以降、落ち込んでいた様子であったのをゑいかは知っていた。

 一人でいるので、これは心配と近寄ってみる。


「お波、何をやってますか? こんなところでウロウロしていると川に落っこちるでごぜゐますよ」


「あっ! ゑいかさん。それがね……右近と左近と散歩してたら、二人とも勝手に走り出しちゃって」


「わん!」「わんわん!」


「一体どうしたでごぜゐますかね?」

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