十一の段 『侍ぜにま』VS『平きさら』 ①
ついに迎えたKABUKI十八番勝負、準決勝。
KABUKI座ドームは超満員。
OHーEDOスパイラル、士農工商、老若男女、数万人の人間が今か今かと試合開示の合図を待つ。
歌舞伎舞台では黒衣スタッフによって幕が開かれる。
舞台に中央には特別に設置された人工滝、水を上から下へと轟音立てて降り注ぐ。
歌舞伎には本水と呼ばれる本物の水を使う仕掛けがある。
ドームでは隅田川から引いた水で滝を再現しており、落ちた水はそのまま川に繋がっている。
本水によって会場の空気はひんやりと冷やされていたが、客席はその真逆。今までと違って異様な熱気がこもっている。
「平きさらを早く出せーっ!」「犯罪者にKABUKIをやらせるなぁー!」「いつまで待たせやがる!」
殺伐とした観客席は対戦相手が出る前というのに非難轟々。
そこに現れるはお馴染み空中カラクリクレーン台座。天井から吊り下げられ、我らがMCギダユウ、三味線持っておそるおそる登場。
「……さあ長きに行われてきましたKABUKI十八番勝負。本日はついに準決勝となります。既に入場済ますは、これまで幾人の兵どもをばったばったとなぎ倒し、居合で一刀両断! 侍ぜにまー!」
響き渡るMCギダユウの掛け声。
ぜにまは歌舞伎舞台に先に立っていた。
その姿、朱色の兜大鎧、当世具足|(注:当時の最先端の機能を完備した鎧)を身に纏い、静かに待機。
完全防備で平きさらを迎え撃つ。
「いよっ!」「ぜにま屋!」
「「「ぜにま! ぜにま! ぜにま! ぜにま!」」」
「「「ぜにま! ぜにま! ぜにま! ぜにま!」」」
ドームに仕掛けられた灯籠プロジェクターからは客席上空、光るカラクリARえれき文字が映し出される。
『居合使いの侍』『善仁巻』『善』『タダイマサンジョウ』『勧善懲悪』『千両役者』『幕の内弁当』
――いよぉおおおおおお〜!
「ぜにま屋! にっぽんいちぃ〜〜〜!」
――ポンポンポンポンッ!
会場が盛り上がる中、水茶屋の福内姉妹と近松ゑいかの姿は客席にあった
妹お波の腕の中には昨日の二匹の親子犬。
「おや、とっても可愛いワンちゃんたちでごぜゐますな」
ゑいかがお波に話しかける。
「わん!」
「わぉん!」
「えへへ、右近と左近って言うんだよ。親が白い右近で赤が子犬の左近。今日はなんだか緊張してるみたい。ゑいかさん、ぜにまさん大丈夫かな?」
ぶるるると腕の中で震える二匹。お波も不安そうに尋ねる。
「きっと大丈夫。カラクリ仕込みも新調したし出来ることは全て尽くした。あとは姐さんを信じるだけ……。しかし何たってこんな時に、てててはいないでごぜゐますか」
客席にはゑいかとお波とお舟の三人だけ。黙阿弥ててての姿は無し。
「ててて様の事です。きっと駆けつけてくれますよ。それまで三人でしっかり応援しましょう!」
姉のお舟は気合いを入れる。心の中ではぜにまが心配であったが、自分に出来る限りのことをする。そう誓うお舟であった。
「うん!」「そうでごぜゐますな!」「「わん!」」
身を寄せ合い、意気込みを入れる三人と二匹。
「お待たせ致しました皆々様! 今から入場するは侍ぜにまの対戦相手! 平氏の唯一の生き残り! 源氏を恨み、OHーEDO町人に暴行した罪で投獄された悪七兵衛! しかしその強さはお墨付き! 完全無敵! 大悪人! 平きさらぁーーーーーー!」
――チャリンチャリンチャリンチャリン!
MCギタユウの勢いのある掛け声と同時に花道入り口、揚幕が開く。
現れるは迫力のある黒い着物、背中に『悪』の字。身体には大きな鎖を巻かれ、手枷、足枷、重りをつけた平きさら。
槍を持ったちょんまげ頭の二人の侍が、きさらの後ろから歩いて見張っている。
きさらは血のように赤い長髪なびかせて、威武堂々とした出で立ちで花道歩く。
髪には一部、青メッシュがかかる。
ギラリとしたその迫力のある視線に、子共は泣き、大人でも肝が縮み上がる。
「あれは昨日のお姉さん!?」
「わぉん?」
お波が平きさらに気付く。お波は知らなかったのだ。ぜにまの対戦相手が昨日犬たちを見てくれたきさらだという事を。
「きさらお姉さーん!」
お波は花道を歩かされるきさらに必死に手を振る。しかし声が届かないのか、きさらは目を伏せ黙々と歩く。
そんなお波と裏腹に客席からは大ぶーいんぐ。罵詈雑言、怒号が飛び交う。
「引っ込め犯罪者ー!」「平の負け犬ー!!」「やられちまえーっ!」
灯籠プロジェクターのえれき文字、きさらの登場により文字が変わる。
『大悪人』『平きさら』『悪』『アクヤクトウジョウ』『盛者必衰』『平氏』『(広告者無し)』
歌舞伎舞台の端にいる琵琶法師が出端に合わせて唄いはじめる。
ーー祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
ーー沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす
ーー奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし
ーー猛き者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵におなじ
平きさらは悲壮感溢れる唄と共に花道を歩く。
槍持ち武士たちに誘導されて、ついに歌舞伎舞台の中央に描かれた円の中に座るきさら。
――ドドドドドド!
「なんだなんだ?」「地震か?」
突如としてKABUKI座ドームに地響きが。
すると舞台のセリから、木で出来た角材が均等に縦に並んで上がってくるではないか。
「見ろ! ありゃあ牢屋の格子だ!」「舞台が檻に入っちまったみたいだ!」
舞台の地下で作られるカラクリ3Dぷりんたあ。木造のものは一瞬にして作れてしまう。
木の角格子の高さはドーム天井に届き、その太さは大人5人以上。
MCギダユウ即座に解説。
「今回の舞台は土牢セットとなっております! 客席の皆様は安全にKABUKIを観覧出来ますので、どうかご安心ください! また試合での過度なぶーいんぐはそこそこにお願い致します! それでは大変お待たせ致しました! 二人の対戦選手が今ここに出揃った! いつものように大きな声援の方、よろしくお願い致します! KABUKI十八番勝負、準決勝、開始ぃーーー!」
――カン! カン! カン! カンカンカンカン!
――パチパチパチパチ
MCギダユウの掛け声と共に、怒号と拍手が入り混じりながらの開幕。
土牢セットの中。
ぜにまは格子の中で平きさらと相対する。
二人とも動かず。
ぜにまは腰の刀に手を置き警戒。きさらは微動だもせず。
「何してるぜにまーっ!」「早く斬っちまえーっ!」
会場からは不動の二人に待ちきれず野次が飛ぶ。
「……今すぐ私を斬らないのか? 源氏の侍よ」
先に話すは平きさら。挑発をしかけるようにぜにまに問う。
「……お主こそ、何ゆえ動かぬ?」
ぜにまから動く道理は無い。
何故ならぜにまには元からきさらを殺す気は毛頭無し。狙いはきさらの無力化にある。
「これは徳川の化け狸の命令。先に攻撃されるまではこの円からは動けないことになっている。ふっ……何と愚かで卑しいことか。思い知らせてやる。どうだ、私を気にせず斬れ」
「むっ」
「怖気付いたか。心配無用、この体に刃物はたたん」
「拙者、お主を殺しに来たわけではない。ただ勝つために来たのだ」
きさらの誘い掛けにそれでも動かぬぜにま。
「ふん……甘いな」
――ピンッ!
そんなぜにまに対して、きさらは地面の小石を拾うと、ぜにまに目掛けて親指で石をはじく。
ぜにま居合滑走。
愛刀『膝丸』に取り付けられた鈴の音舞台に鳴り響く。
――リィィィィィン!
この鈴の音が鳴り止むまでは、明鏡止水の扉が開く、1秒が10秒、10秒が100秒にぜにまの意識は覚醒する。
天狗直伝、断魔理の神通力。
――スパッ
見事ぜにまは自分に向かって投げられた小石を真っ二つ、冷静に切り分ける。
同時にぜにまの目からは血涙あふれ、目から顔全体が血の紅で隈取られ。
するときさら、手枷の鎖を振り回して投合。
ぜにまの腕を鎖で絡み取ると、綱引き剛力、強引に引く。
そのままぜにま刀を素手で握る、となんと自分の首を斬るではないか。
――スッ
「なにっ!?」
刀は首を貫通、ぜにまは驚愕する。
「やりやがった!」「決まったぞー! 首斬りだ!」「これでEDOも平和になった!」
喜ぶ観客たち。
しかしその喜び、つかの間喜び、ぬか喜び。
きさらの首の切られた断面、血が溢れかえるかと思いきや、スーッと肉と皮がくっついて、自然と元通りになるではないか。
平きさら、ぜにまを睨みつけ一言。
「お前……神通力を持っておるな」
「なっ!?」
「……お前の血涙を見れば分かる。生得のものかどこかで修得したのか、人知を超えたその力。使えば代償として脳にも負担がかかる」
するときさらの目からもぜにまと同様に、血涙が垂れ、赤き血で顔が隈取られ。
「おいおい!」「こりゃあ一体どういうことだ!?」「うわぁ! やっぱりきさらは化物だったんだぁ!」
客席も首を切られたのにもかかわらず、喋り始めるきさらに騒ぎ始める。
「まさかお主のそれも……!?」
「教えてやろう源氏の侍! 私の神通力は不死身! 無敵! 怪力乱神! この世に平きさらを倒せる者など断じておらず!」
『鎌髭』……歌舞伎十八番の一つ。鍛冶屋四郎兵衛が修行者快哲の首を鎌で切ろうとする。しかし快哲は実は平景清。景清は不死身で切れないと言う不思議な内容。コミカルな演技が面白い。
この回の元ネタになっている。




