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KABUKI大江戸すぱゐらる ~女侍、美しき居合で悪を断つ!~  作者: 歌学羅休
第三幕 『景清』 無敵!大悪人!平きさらの段
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十の段 『ぜにま』と『きさら』、対面。

 ぜにまは湯船で自分の身の上を話終える。

 それは出来ることならば二度と思い出したくない記憶。ぜにまはその出来事を封じ込めるかのように、今まで誰にも話したことが無かった。


「そ、そんなことが……」


「『友切丸ともきりまる』は姉の刀で間違いない。拙者も姉も同じ源氏の直系でござる」


「ならその頼朝の居場所は今どこなんだ……?」


 そがなが聞く。


「姉とは別れて以来一度もあっていないのだ。だから拙者も居場所を知らぬ」


「そうでしたか……辛い過去の話をさせてしまって申し訳ありません」


「いや、いつかは拙者も姉とは決着をつけねばならぬと思っている。どのような形でかは分からぬが」


 ぜにまは湯をすくい上げ、こぼれゆく水を眺める。

 今まで逃げていた過去。師の行方だけでなく、ぜにまがやらねばならない姉との因縁。


「もし二人の父の仇が頼朝よりともであった場合、どうするでござるか? 復讐として殺すか?」


 ぜにまの問いかけ。それは自分自身への問いかけかもしれない。

 一瞬の沈黙が流れる。


「……それは会ってからこの目と耳で確かめて決めるさ」


 ぜにまの問いにそがなが応える。

 続けて姉のそがの。


「ぜにま様。私たちがしたいことは復讐ではありません。ただ父がどうなったか知りたいだけ。興味があるのは真実だけです。個人的な復讐と、真実を求める心は別物。比べて言わば雪と墨」


「オレたちはただ真実が知りたいのさ。何事も真実が全て。親父の魂はどうすれば浮かばれるのか、死んだ者はどこに行くのか、生きている者は何をすればいいのか。それを探すのがオレたち姉妹の仇討ち」


 二人の決意は固かった。自分たち姉妹の問題を誰よりも直視し、前向きに進み続ける二人の歩み。

 それは決して暗いものではない。光を追い求める真実の歩み。


「そうか……拙者は己が何をすればいいのか、未だ決め切れておらぬ……」


 ――ザパァ


 ぜにまの嘆きに、姉妹は二人同時に立ち上がる。


「ぜにま様、それは自分の目で見極めねばなりません」


「そうさ。何かあったら手を貸すぜ。お互い死なない程度にな」


「そがな殿……。あい、分かった。二人もご武運を」


 ぜにまたちは己の道を行く。お互い道は違えど、鼓舞することは出来る。

 ぜにまは自分の胸の中に閉まっていた重い気持ちが少し軽くなったのを感じた。


 すると湯船の外の方からガヤガヤと、男衆の声がする。


「言い忘れてたがOHーEDOの湯屋は混浴、そろそろ他の客が入りにくるんだった」


「そ、それを早く言うでごさるーー!」


 慌ててぜにまも湯船を飛び出したのであった。


ーーーーーーーー


 湯屋で三笑姉妹と別れたぜにま。


 身体の芯までホクホクし、今にも寝てしまいそうな夢心地。

 春の風がぜにまのうなじを程よく撫でる。


 EDO通りを抜けて日本橋に帰る途中。


「うこ〜ん、どこ〜?」


「おや、あの声は」


 ぜにまが探索していると少女の声が聞こえてくる。


 その主は福内お波だった。

 お波は通りを走りながらキョロキョロと辺りを見回している。こんなところに何故一人?


「あっ! ぜにまさん! そがなさんたちとはもう別れたんですか?」


「うむ、ちょうどさっきな。それよりもお波こそ何を探しているでござる?」


「『右近(うこん)』だよ! さっきのわんちゃん、お姉ちゃんが飼っていいって言ってくれたから名前をつけたんだ! でもここら辺で遊んでたら急にどこか行っちゃって……」


「ふむ……それなら拙者も探すのを手伝うぞ。お〜い、ワンコロや〜どこにおるか〜」


「う〜こ〜ん! 名前は右近だよ、ぜにまさん」


 ぜにまたちは協力して先程の白い犬を探す。

 木の影、腰掛けの下、石の下、探してみるがどこにもいない。


「ぜにまさん! こっちこっち! 右近の声が聞こえる」


 どうやらお波が右近の声を聞いたようだ。

 ぜにまが向かえば、そこは周辺が煉塀(ねりべい)で囲まれている大屋敷。

 塀の下には、土を掘った後を見つけた。


「きっとこれ、右近が掘ったんだよ! 行こうぜにまさん!」


 お波も穴を手で掘り返し、僅かな隙間から塀の下をくぐっていく。

 ぜにまも膝付き、土だらけになりながら穴をくぐる。


 敷地内には木造の格子、牢座敷が立ち並ぶ。

 実はここ、小伝馬町の牢屋敷。

 ぜにま達は知らずに入り込んでしまっていたのだ。


「あ! 右近!」


 お波が盛られた土に作られた土牢を見つける。

 その格子の奥、薄暗い中に白い雪のような右近の姿があった。


 しかし土牢には右近ともう一人、胡座をかく姿。

 赤色の長髪、青めっしゅ、白装束に縄された女の姿を。


「お主は……」


 お波の後からついてきたぜにまは格子に掛かっている牢名主の札を見る。

 嫌な予感が当たった。札には『大悪人 (たいらの)きさら』の文字。


「ふっ……。この犬はおまえの犬かい」


 平きさらの低音が効いた声。


「くぅ〜ん」


 右近はきさらの膝で丸まっている。その隣には右近にそっくりの犬、いやしかし一回り小さい子犬がいるではないか。

 白い体毛に、顔には珍しい赤い柄の毛が生えている。


 きさらは膝にいる二匹の大小の犬に呼びかける。


「ほらお前ら、主人が帰ってきたぞ」


「くぅ〜ん……わん!」

「わんわん!」


 きさらに言われてか、2匹の犬たちは格子を超えてお波の元へ駆け寄った。


「あら、あなたたち親子だったのね! だから右近は子犬を探してたんだ! あはは! あはは!」


 二匹はお波の顔を嬉しそうにペロペロと舐める。もう主人が分かっているようだ。


「あの、赤髪のお姉さん。ありがとう。右近たちを見ててくれて」


 お波は恐る恐る感謝する。


「別に構わないさ。大切な家族なんだろう、今度は目を離さないようにな」


「はいっ!」


 きさらと無邪気に会話するお波に、ぜにまは声をかける。


「お波、先に戻っているでござる。拙者も後で向かうで候」


「うん……? わかった。優しいお姉さん、さようなら! 行こう右近とちっちゃいワンちゃん!」「わん!」「わぉん!」


 1人と2匹、先に塀の下をくぐっていく。


 その姿を見てから、ぜにまはきさらに対面。

 ぜにまは腰の刀に手を添えて、格子越しにきさらに話かける。


「お主……明日のKABUKI十八番勝負に参加する平きさらだな」


「ふん。その気迫、今から刀でも抜く気か。血を流すなら明日でいいだろう」


 平きさら、表情微動だにせず重々しい声で応える。

 ぜにまも物怖じせず尋ねる。


「拙者、一つ聞きたいのでござる。お主は何の為にKABUKI勝負に参加した?」


 天下の徳政令。OH-EDOスパイラルの行方を決めるもの。

 罪人であるきさらがどんな使い方をするのか、ぜにまは確かめたかった。


「そんなこと。殺しあう者同士、どうせ今知っても無意味だ」


「言わぬ……か。分かった。今日のところは子犬たちとあの娘のこと、拙者からも感謝するでござる」


 ぜにまは一礼し去ろうとする。


「待て」


「むっ?」


 平きさらはぜにまを引き止める。


「お前からは源氏の匂いがする。明日のKABUKI十八番、お前の命をいただくぞ。覚悟しておれ、源氏」


「……そうはいかぬ」

 

 平きさらからの闘志。

 格子を挟み、無言で睨み合う二人であった。


ーーーーーーーー


 その夜のこと。月光の下。日本橋。

 橋の上。花魁姿のてててとぜにま。背中合わせに会話する。


「……ててて、一つ頼みたい事があるでござる」


「何でありんしょ」


 小声でてててに何かを伝えるぜにま。それは盗賊のスキルを持つてててにしか頼めないこと。


「分かったでありんす。で、いくらで?」


「ぜ、銭を取るのか?」


 にやりと意地悪そうに笑うててて。


「わっち、貧乏人以外からは金を取る主義。主さんみたいにホイホイ無償の善などしないでありんす」


 ぜにま懐から七宝模様の財布を取り出し、中を確認する。

 財布にあるのは二、三枚の小銭。


「むむむ……拙者、最近お小遣いが少なくてな……」


 ててては手を伸ばし、ぜにまの財布ごとヒョイと奪う。


「なっ……!」


「ならば仕方ありんせん。今日はこれで手打ちとしんしょう」


 ――ドロン!

 

 てててはぜにまの財布を料金替わりに奪うと、煙に巻かれて一瞬にして唐草ドテラの義賊姿。和傘を開いて橋から家の屋根の上へと身軽に跳躍


 月を背にしてぜにまに語る。


「てやんでぃ! 主さん、明日は負けるんじゃあねぇぜ!」


「頼んだぞ。ててて」


「勝手におっちんだら葬式の銭は出さないでありんす!」


 てててはそう言い残すと、OHーEDOスパイラルの闇に消えていった。

『連獅子』……歌舞伎舞踊の一つ。能の「石橋」という作品がもとなって作られている。親獅子が訓練のため子獅子を谷へ突き落とすという物語。『毛振り』と呼ばれる長い毛を振るのが有名。

この作品では犬の右近と左近の元ネタ。

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