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KABUKI大江戸すぱゐらる ~女侍、美しき居合で悪を断つ!~  作者: 歌学羅休
第三幕 『景清』 無敵!大悪人!平きさらの段
23/52

四の段 『侍ぜにま』 VS『鶴屋お通』  東海道四谷怪談④

 舞台では首の切られたお岩の幽霊たち。


「うらめしい……ぜにま殿……! 首が飛んでも、動いてみせるわ!」


 お通の声にドスが利き、なんと今度は切られたお岩の首が宙に舞う。

 お岩の崩れた顔の首たちは、一斉にその口を開けてぜにまに襲いくる。


「お通よ、何か拙者に逆恨みしている様子。ならばその逆恨み晴らして候……」


 ぜにまは今度は『膝丸』を肩に担ぎ、空飛ぶ首に向かって真横に大きく横一閃。


「いやあーーーっ!」


 お岩の首を一刀両断、一網打尽。

 切られた首は、霞となって消えていく。


「お岩さまぁぁぁぁ!」


 お通の悲痛が上がる。


「声はそこからか! せいっ!」


 ぜにま、お通の声が聞こえたか、庵室の壁の戸板を叩き斬る。


 ――バタン!


 戸板はくるりと翻し、姿鏡が現れる。

 鏡に映るはぜにまの顔。

 その顔の半分が異様なほど腫れ上がり、血は滴ってボトっと落ちる。


「これは拙者の顔ではない! いやあーーーっ!」


 ぜにま勇猛果敢に怯まず、、鏡を刀で叩き割る。


 ――バタン!


 またまた戸板が回転し、出でくるはお岩の幽霊。

 ぜにま刀を即、抜、斬。


「ぎゃぁあああ!」


 お岩消滅。


 ――バタン!


 やっと最後に出てきたは、顔がすっぽりと隠れる深編の浪人笠を頭に被り、青海波せいがいは模様の肩掛け、着物姿の鶴屋お通。

 ぜにま、警戒し納刀。


「やっと姿を見せたな」


「ふふ……ふふふふふ……。しっぽり濡れし濡れ燕……無法無体の行き違い」


 お通は怪しくぶつぶつつぶやくと、ぜにまの刀と自分の刀の鞘を近づき当てる。


「決着をつけるで候。いざ尋常に……」


「ふふふ……尋常に……」


「いざぁ!」「いざ……!」


 両者掛け声。

 ぜにま後ろに引いて、居合い斬り。


 これお通、幽霊のお岩が持ち上げて、ぬらりぬらりと浮遊し避ける。


 上空幽体、暗中模索、浮遊チャンバラ。

 お通を持ち上げるお岩が空中で速度を上げ、ぜにまに向かって一直線。


 ――キィン! キィン! ガキィン!


 浮遊剣戟を何往復、ぜにまこれを刀でいなし居合を構えて即抜斬。

 お通の刀に滑らせて、火花飛び散るその一閃。


 ――リィィィィンッ


 ぜにまの神速居合。居合『散り桜』。

 敵の攻撃を刹那でかわし、お通の得物を弾き飛ばす。


「いやあーーーっ!」


 お通の刀が宙を飛び、抱えるお岩の幽霊を一切り。。


『ギャアアアアア!』


 ぜにまの一太刀でお岩は蒸発していく。そしてお通の顔の笠も斜め斬り。

 二つに割れたその笠は、車輪のごとく舞台に転がる。


 あらわになったその素顔。

 前髪長く、片目隠したうら若き娘の姿。

 

 お通は思わず両手で顔隠す。


「うぅ!」


「お主の素顔、その様でござったか」


「…………恥ずかしや、恥ずかしや恥ずかしや……!」


 すると鶴屋お通、赤面慌てて走り出し、KABUKI舞台の下手へ向かう。


「おい! お通! どこへ行くでござるか?」


「恥ずかしや恥ずかしや恥ずかしや……口惜しやーーー!」


 お通は叫びながら、そのまま舞台の下手に消え去ってしまった。


「なんでぇあいつ。逃げよったぜ」「不気味なやろーだ」「となると決着はどうなるんだ?」


「どっこいこれは! 一体どうしたものか!? お通選手逃走してしまいましたぁー!」


「拙者、状況が飲み込めぬ……」


 MCギダユウ、幽霊が消えた事でここぞとばかりに解説する。

 ぜにまも困惑。


「……えー鶴屋のお通選手逃走により、試合続行不可能といたしまして、本日のKABUKI十八番勝負、見事怪談KABUKIを打ち負かしたぜにま選手の勝利ぃーー! これにて閉幕ゥーーーーっ!」


 ――カン! カン! カンカンカンカン!


 MCギダユウの声でKABUKI勝負は終了の合図。拍子木も鳴る。

 しかしぜにまも客席も突然の出来事に唖然としていた。


「てやんでぃ! なんだか締まらねぇ終わり方だなぁ」「ぜにま屋、なんとかしろー!」


「確かにこれで終わりはちと物足りない。ならば先ほどのつらね口上でも披露しのうかのう」


 ぜにまも腕組み考え込む。


「おおそれは良い! そうしましょう!」


 ぜにまの提案にのるはMCギダユウ。

 場の盛り上がらなさに焦っていた。


「それでは最後を締めるため、私めが用意した回り舞台を使わせていただきます! 黒衣スタッフ、あっよろしくお願いします!」


「「「あいあいさー!」」」


 MCギタユウの掛け声で、KABUKI舞台のセットが廻る。

 蛇山庵室から変わるは、鶴岡八幡宮、桜の花。


「見て! 桜の花よ!」「なかなか粋なことするじゃねえかギダユウ!」


 鶴岡八幡宮階段の前、桜が舞い散るその中で、巨大な素襖を腰広げ、ぜにま最後につらね口上。


 ――カカンッ!


「桜並木の雲珠(うず)巻いて、山越え谷超え馬に乗り、辿り着いたがスパイラル! 善を(まい)する獅子舞に、強敵づくしのKABUKI舞台、辛ねる相手が連ねども、お相手いたそう侍風情! 宵越しいらずのこのぜにま、ホホ敬ってもうす〜~~~~!」


「いよぉおおおお!」「ぜにま屋!」

「にっぽんいちぃ〜〜〜!」


 ぜにま荒々しい見得。


 ――カンカンカンカン!

 ――パチパチパチパチパチ!


「今日はこれきり! 皆応援感謝でござる~!」


 こうしてぜにまのKABUKI十八番勝負、波乱の準々決勝は終わったのであった。


ーーーーーーーーーー


 その後。舞台裏。


 定式幕の裏で、ぜにま一行も舞台に上がり、試合を終えたぜにまをねぎらう。


「きゃあ! 姐さんその姿、カッコよかったですよ!」

「あら、震えてたのはどこぞの誰かさんでしたかね?」


「う、うるさいでごぜゐます! それに自分だって本当は怖いくせに!」


「そんなわけないんしょう」


 ゑいかとててて、言い争う。


「ほらほら、お二人とも、ぜにま様の手当をしなきゃいけないんだから、手伝ってください」


「あ、わたし着物持つー!」


 福内姉妹はぜにまの素襖の袖を持つ。


「かたじけないでござる。それにしても、まこと面妖な妖術使いであった」


「主さん、あれはただのカラクリ。幽霊を操ることなど出来るわけ無いでありんす」


「姐さん本物だと思ってたでごぜゐますか?」


「なぬ? そうでござったのか。それではそのカラクリが気になるでござるな。ちょいと黒衣殿、すまぬがお通のカラクリ、仕掛けの正体お聞きしても良いでござるか?」


 ぜにまは片付け中の黒衣スタッフに声かける。

 黒子スタッフは顔は見えぬが、不思議そうに返事する。


「庵室のカラクリですか? わたくしどもは特に何も」


「じゃああれは……?」「本物の幽霊だったでありんすか?」


 ――ストン


 ぜにまとお波をのぞいて、腰がぬけるぜにま一行であった。


『つらね』……台詞の一種。 荒事などで主役が花道で述べる長台詞をいう。『暫』のつらねが代表的。耳聞こえのいい台詞の流れは聞いているだけで気持ちがいい。


『鞘当』……四代目鶴屋南北の「浮世柄比翼稲妻うきよのがら ひよくのいなずま」の中心的趣向。武士が道ですれ違ったとき、刀の鞘が当たったのをとがめ立てする場面。恋の鞘当てのもとになっているように、一人の遊女をめぐって二人の武士が争う。歌舞伎十八番の「不破」にも同じようなものがある。

鶴屋お通の深編笠はここから。

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