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KABUKI大江戸すぱゐらる ~女侍、美しき居合で悪を断つ!~  作者: 歌学羅休
第三幕 『景清』 無敵!大悪人!平きさらの段
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二の段 『侍ぜにま』 VS『鶴屋お通』  東海道四谷怪談②

 ぜにまは長袴を引きずり花道を行く。

 脇にはぼんやり光る石灯篭が等間隔に置いてあり、暗い花道をわずかに照らす。


 ヒトダマ達は花道を歩くぜにまの周囲にも浮遊していた。


 ヒトダマ、火の玉、人の魂。

 なんとそれらが全て一斉にぜにまに向かって飛んでくるではないか。


「これも何かの妖しき妖術か……」


 だがぜにまは落ち着いていた。

 ヒトダマはぜにまに近づけない、否、近づく前に消えてしまう。


「ありゃあ一体どうなってるんだ?」


「てやんでぃ! 目ぇこらしてよく見ろ! ぜにまの手が高速で動いてやらぁ!」「こーりゃホントだ!」


 会場からの一声。


 なんとこれはぜにまの歩きながらの居合抜刀。

 一太刀、ニ太刀、連族抜き打ち。


 ――スパパパパッ!


 ヒトダマ、一束、一斬りにする。

 あまりに速い居合斬り、常人では神業その目に見ること出来ず、ヒトダマどもをかき消すかき消す。


 数の減り始めたヒトダマ。

 すると今度はそれらが一つに集まり始め、巨大な怨霊の生首と化す。


『ウォォォォォォーーーッ!』


 腹底冷える唸り声、会場揺らがす。


「ひゃああ!」「で、でやがったーー!」


 怨霊生首は客席の頭上をかすめながら空を飛ぶ。

 観客たちは座布団頭に被って怯えることしかできない。


「出たか(あやかし)! こちらへ来いっ!」


 ぜにまは呼びかけ、納刀した刀の鍔を左手で少し押し鯉口を切る。

 怨霊は大口を開け、花道にいるぜにまに向かって一直線。

 その頭から丸ごと飲み込もうとする。


 ――リィィィィンッ


 ぜにま抜刀。

 ぜにまの刀『膝丸ひざまる』は、刀を抜く時鈴が鳴る。


 鈴の音鳴り響く間、ぜにまの意識は覚醒し、明鏡止水の扉が開く。ぜにま断魔理だんまり神通力じんつうりき

 すろーもーしょん世界の中で、襲いかかる怨霊の喉奥、一番光る喉仏狙って斜め斬り。


 ――チャキッ


 生首はぜにまを通過する。

 しかしぜにまが抜き身の刃をしまえば、その瞬間、切られた生首真っ二つ。


『ウォ! ウォ! ウォォォォ!』


 怨霊生首は断末魔を上げ、燃え尽きながら消えていく。


「あっぱれ!」「あ〜りゃさすがの侍だ!」「いよっ! ぜにま屋!」「こりゃあ頼もしい!」


 ――パチパチパチパチパチ!


 怯えていた会場も、ぜにまの居合に安堵の拍手。

 ぜにまはこれに応えて手を上げる。


「いやぁ、それにしても良く出来た映像カラクリだなぁ」「まさか本物じゃないだろうな……」「てやんでぃ! 怖がらせるんじゃねぇいやぃ!」


 しかしまだ安心するのは早い。

 未だ鶴屋(つるやの)つうの姿は見えず。


 ぜにまは警戒しながらも花道を歩き、薄暗い歌舞伎舞台に辿り着く。

 セットの玄関口、お化け灯篭通り過ぎ、庵室の襖を開ける。


 ぜにまが部屋の中を見ると、畳部屋。中にはタライが一つ、屏風に仏壇。

 庵室に足を踏み入れた時、何処からかKABUKI座ドーム全体に肝が冷える声響く。


 ――ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜

 ――ドロドロドロドロドロ


「この世は恨み……恨みが全て……恨み怨んで、うらめしや〜〜〜〜〜」

 

 不気味な声と共にまたもや横笛、太鼓の鳴物が鳴る。


「鶴屋お通! 姿を見せるで候!」


 ぜにま刀に手をかけて、当たり見回し首回し。

 しかしお通の姿はない。お通の声だけが庵室セットに響き渡る


「ああ、恨めしい……伊右衛門(いえもん)殿……あなたが恨めしい……」


「拙者、伊右衛門とやらではないでござる」


「……お岩の夫……伊右衛門殿……。義父に過去の悪事を見透かされ、お岩と別れさせられる。その恨みから、闇夜に紛れて義父殺し、岩には仇討ち嘘ついて、よりを戻すサイコパス……」


 ――ひゅ〜〜〜〜〜〜

 ――ドロドロドロドロドロドロ


 ――おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!


 何処かから赤子の泣く声が聞こえる。

 ぜにまは警戒する。


「しかし伊右衛門殿、産後のお岩に冷めていき……金持ち娘と不倫する……。ああ恨めしい……恨めしい……」


 ――ちゅーちゅーちゅー


 カサカサカサっとネズミが一匹、ぜにまの股ぐらくぐって、畳の上をちょろ走り。

 その鼠、部屋にあるタライの中に入り込む。


 (ゴクリ)


 ぜにまは嫌な予感しかしな。恐怖で唾を飲む。

 しかし覚悟を決めねばならない。


 ちゅうちゅうちゅうと、注意をひかれた侍ぜにま、すり足差し足、そのタライを覗き込むと……。







 にゅっ







 白い女の手がタライから飛び出して、ぜにまの足首を掴む。

 ぬらりと濡れた冷たい手。


「のわっ!」


 ぜにまは驚き咄嗟に抜刀、掴む手斬るが、手応えなし。

 代わりに刀を見てみれば女の黒い髪、血に濡れてぐるぐると刀に巻きついている。


「これは身の毛もよだつ、面妖な術……」


 ぜにま、刀を払って髪を捨て。

 流石のぜにまも怖気づいてきた。しかし気合を入れて勇気を奮う。


「ええい、お通よ! どごぞに隠れおる。拙者と正々堂々、戦う気はござらんか!」


「ええ恨めしい…….伊右衛門殿……」




「いや……ぜにま殿」


 ぜにまの首筋に冷たい感触。

 襟元に女の冷たい手か伸びているではないか。


 そのまま襟元捕まれる連理れんり引き。


「……くっ!」


 背後に向かってぜにま抜刀。

 しかし切れたは仏壇の『南無阿弥陀仏』と書かれた掛軸。


「いつまで隠れているつもりか!」


 ぜにまはそう吐き捨てると、切れた仏壇を見に行こうとする。


「主さん、仏壇には近付いてはなりんせん!」


 客席から届く声。

 声を出したは花魁ててて。

 ぜにま一行も客席についていた。


「どうして近寄っちゃダメなの?」


 隣の席の妹お波が尋ねる。


「鶴屋お通は妖しいカラクリ使い。あれは仏壇ぶつだん返しの技でありんす。壁の中に引き込ずり込まれればこの世に二度と返ってはこれない。前の対戦相手はあの技で未だに行方不明の有様でありんすぇ」


 てててが説明する中、その横、お互い抱き合い震えているのはお舟とゑいかの二人。


「私……こういうホラー系、ダメなんです……」

「お波……姐さんが危なくなったら教えて欲しいでごぜゐます……」


「えーヒトダマさんもネズミさんもカワイイのに、見ないなんてもったいないよ〜」


 お波は不思議そうに返す。


「それは……お波が変わっていると思うでありんす……」


 ててて苦笑。

『東海道四谷怪談』……四代目鶴屋南北作。お岩さんで有名な怪談ものの代表作。江戸の四谷における事件が元になっているが諸説ある。お岩と伊右衛門は結婚していたが、金に目をくらんだ伊右衛門が上役の娘と重婚する。お岩はその上役の手配した毒で顔が醜く崩れてしまう。そんなお岩と離婚するため間男をけしかけるがもみ合ううちにお岩は死んでしまう。その後、伊右衛門はお岩の祟りに苦しめられていく内容よなっている。実は『仮名手元忠臣蔵』の世界と同じとしており、その舞台装置の斬新さも大ヒットに繋がった。

ちなみに「いちまぁい……にぃまぁい……」と皿を数えるのはお菊さんが出てくる皿屋敷。

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