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KABUKI大江戸すぱゐらる ~女侍、美しき居合で悪を断つ!~  作者: 歌学羅休
第二幕 『白浪五人男』 天下の大泥棒!義賊!黙阿弥ててての段
13/52

七の段 『侍ぜにま』VS『黙阿弥ててて』 ①

 ◆◇◆◇◆


 いつも通りKABUKI座ドームは超満員。

 観客たちは期待に満ち溢れ、ドームは熱気で包まれていた。


 客席には福内お舟お波姉妹、その隣に近松ゑいかの姿もあった。


 そして登場するは、ドーム天井から伸びた木造カラクリクレーン。

 クレーンの先、空中台座にいるはちょんまげ頭のMCギダユウ。


「さぁーっお待たせしました! 皆々様! KABUKI十八番勝負! 既に花道からの入場済ませたは、人形遣い『近松ゑいか』との死闘を見せた、居合の達人! 我らが侍ぜにま〜〜〜っ!」


 幕のかかった歌舞伎舞台にぜにまは立つ。

 草履に袴姿。


 しかし今日は黒の羽織り、頭には陣笠被り、手甲を腕につけたなら、火付盗賊改姿。

 背には数多の刀籠と、腰に愛刀『膝丸』、ぽにーてーるな侍ぜにま。


「「「ぜにま! ぜにま! ぜにま! ぜにま!」」」

「「「ぜにま! ぜにま! ぜにま! ぜにま!」」」


 会場中からはぜにまコール。


「さて対するは巷を騒がすただの盗人か、それとも強きをくじき、弱きを助ける粋な義賊か!? EDOっ子好みのド派手なヒーロー、登場するは黙阿弥ててて〜〜!」


 ――チャリン!


 花道の入り口、揚幕が金輪を鳴らして勢いよく開く。


 溢れる白煙の中から現れるは、黒衣スタッフの担ぐ宝船に乗り、千両箱を肩に担ぐ、義賊『黙阿弥ててて』。


 赤い唐草模様のドテラ着て、腰に太い荒縄しめれば、口元空いた狐の面被る。

 顔は白塗り、逆立つ髪の派手姿。


 ててて、宝船の上で口上あげる。


かね! かね! かねかねかねかね! 地獄の沙汰も金次第! この世は地獄! 地獄はこの世! 金! 金! かねかねかねかね!」


 ててては手に持った千両箱から、客席に小判をばら撒き、ド派手な登場。


「いよっ! 待ってましたー!」「こいつは気前のいい大盤振る舞い!」「きゃーててて様ー! こっち向いてー!」


 客席は大盛り上がり。

 てててがバラまいた花道の小判を、こぞって広いに登りに来る。


 ドームに仕掛けられた灯籠プロジェクターからは客席上空、カラクリAR、えれき文字が映し出される。

『天下の大泥棒』『黙阿弥ててて(もくあみ ててて)』『義』『ヒーローケンザン』『盗人根性』『千両役者』『幕の内弁当』


 花道からは招き猫のバルーンが飛び立ち、客席の頭上に浮遊して、それがパーッンと割れたなら、中から小判、金の雨。


人間万事金世中にんげんばんじかねのよのなか! 金の切れ目が縁の切れ目! 金! 金! かねかねかねかね!」


 宝船の上から身を乗り出し、ててて小判の雨あられ。

 その内、客席たちも大合唱。


「「「金! 金! かねかねかねかね!」」」


「黙阿弥ててて! あっ、にっぽんいちぃ〜〜〜!」


 ――いょおおおおおお〜〜〜 ポンッ!


「見て見てお姉ちゃん、あの人小判ばらまいてるよ!」


 客席にいるお波が、姉お舟の袖をひっぱり指を差す。


「あの方が黙阿弥ててて……。ぜにま様を誘拐した人」


「あたしはてててのああいうやり過ぎなところも好きじゃないでごぜゐます!」


 ててては歌舞伎舞台で客席に向け、見得をする。


「この世は金! 金が全て! 政治屋、大名、大尽様がオレたちに嫌ってほど教えてくれた!」


「そうだそうだ!」「EDOっ子の風上にも置けねぇ!」「オレたちの生活は良くならねぇのに自分たちだけ良い生活しやがって!」「富裕層は死ねー!」


「金は天下の回り物! されども金は、偏る偏る。金が金産む金の木ならば、富の再再再分配! これさえ出来れば、人は幸せ、世は情け! だけどもだけども、それが出来ない愚かなOHーEDO! 貧しいものから搾取して、人の心が分からぬ脳足らず! ならばあちきが降らせやしょう! 金金、金の金吹雪かねふぶきぃ〜!」


 ててては神輿の上で、手のひらを突き出し、その白い五本の指を伸ばす。


「オレが勝ったら月一度、OHーEDOの金持ち

 上から五人! タンスの中の肥やしになってる銭半分! 貧民街に雨あられとばらまく! それがオレの『天下の徳政令』使い方ぁ!」


 カカンッと拍子木の音。


「いよっ!」「いいぞ〜ててて!」「KABUくねぇ!」


 ててて神輿から降り、MCギダユウに銭投げ合図。


「アイタッ! わ、分かりました、始めろってことですね! さあ本日もズズイとよろしくお願い致します! KABUKI十八番勝負! 二回戦目! あっ、開幕ゥーーーーー!」


 ――カン! カン! カン! カンカンカンカンカン!

 ――パチパチパチパチパチ!


 舞台はツケ打ちの拍子木と共に、大きな拍手に迎えられて開幕。


 開けて出てくるは、浜松屋呉服店はままつやごふくてん、日本橋セット。

 立派な木造の店が現れる。


「……黙阿弥ててて。それがお主の『天下の徳政令』の使い方でござるか」


 ぜにまは黒の陣笠のつばに手をかけ尋ねる。


「そうさ! 不義に富んだ財ならば、盗み取るのもとがなき理!」


「分かり申した。ならばこのぜにま、お相手つかまつる」


 ぜにまは被っていた陣笠と黒の羽織を投げ捨てて、ぽにーてーるなびく袴姿。

 腰の刀に手をかける。


「てやんでぇ! 銭の字ついた侍ぜにま! 盗んだ銭が勝手に逃げ出す、面白くなってきやがった!」


 ててては言いながら笑う。

 その背中には、閉じた状態で横向きに差した五本の和傘が差してあった。

 てててはその中の1本に手をかける。


「四角四面な世の中じゃあ、息苦しくてつまらねぇ! ならば見せよう! 黙阿弥ててての義賊KABUKI『白浪(しらなみ)五人男』! あっ、開幕ぅ〜!」


 ――ポンポンポンポンポンポン!


 和鼓が景気良く鳴る。


 歌舞伎舞台、横の電光めくり台には『白浪五人男』のネオンが浮かび上がる。


「白浪……盗賊のことでござるか」


 ぜにまは腰を落とし、足一文字、身構える。


「てやんでぃ! 今から紹介するは五人の盗賊! それに見立てたオレの絡繰からくり仕込み傘!」


 ててて、背中の和傘を一本を掲げる。


「問われて名乗るもおこがましいが、磯風荒れえ小ゆるぎの、磯なれの松の曲がりなり、人となったる浜育ち、念仏嫌れえな南郷力丸なんごうりきまる!」


 てててが和傘の持ち手をカチリとひねれば、傘のてっぺん、釣り針とオモリが現れる。

 和傘をててて、頭上の後ろに振り上げて、竿がオモリでしなったならば、反動いかして前に振る。


「あっ! りりーす!」


 ――シャー!


 釣り針勢いよくぜにまを襲う。


 ぜにま居合滑走。


 ――リィィィィィン


 ぜにまの刀につけられた、鈴の音舞台に鳴り響く。

 この音が耳に残るまで、明鏡止水の扉が開く。1秒が10秒、10秒が100秒に、ぜにまの意識は覚醒する。鞍馬天狗くらまてんぐ直伝、断魔理(だんまり)の神通力。


 ぜにま、すろーもーしょんの世界の中で、釣り針見切り見事に避ける。


 グイとててて、和傘を胸に引きつける。

 すると釣り針、ぜにまの背負った刀籠に刺さり、ててての手元に釣り寄せる。


「あっ、ひっと! いただきィ! 刀をばら撒く芸は封じさせてもらうぜ!」


 てててはもう一度和傘を振り上げれば、二度目のきゃすてぃんぐ。


 ぜにま居合抜刀。

 今度は釣り針の糸を叩き斬る、だが糸は頑丈はじかれるだけ。


「くっ!」


「へっ! ゑびす(くじら)の特性ヒゲ! そう簡単には切れねぇさ!」


 ててて和傘をしならせながら、釣り糸でぜにまを一回転。ぐるぐるぐると巻きつける。


「あっ! 手応えあり!」


 そのまま引けば、見事ぜにまを一本釣り。

 ぜにまを宙に浮かすなら、ててては仕込み傘を開き、先からバッと網が発射され、ぜにまを捕らえてしまう。


 開いた傘には、紫布地、稲妻模様と雷獣の絵。


「南郷力丸、犯した罪を悔いながら、盗まなければ生き抜けない船盗人! 荒れた生き方、荒んだ心。荒々しきは哀しき雷獣」


 ててて、和傘の取っ手のゼンマイカラクリをカチリと回す。


「…………ぐあっ!」


 網に電気、ぜにま帯電。

 全身の筋肉が硬直し、体が動かなくなる。


「おおお!」「容赦ねぇなぁててて!」「侍なにしてんだー! さっさと何とかしろー!」


 客席からは野次が飛ぶ。


「ぜにまさんガンバれー!」


「てててのやつ、ぜにま姐さんになんて事するでごぜゐますか! 姐さん負けるなーっ!」


 お波もゑいかも負けじと応援する。


「どうした侍、もう終わりか?」


「……くっ!」


 ぜにまは対抗し刀を歌舞伎舞台に突き刺す。

 そしてその刃を手で握り込むと、手からは血が垂れ地面にこぼれる。


 ぜにまの体に流れる電気は、アースの如く血液を通して舞台に流れる。

 これにより体が動くようになったぜにまは、カラクリ義手で強引に網を引きちぎった。


「はあぁっ!」


「てやんでぇ、こりゃまた剛力だ」


 ぜにまは網からなんとか脱出。

 体勢立て直し、今度はてててに向かって一直線、走って距離詰める。


「接近戦か! やったろうじゃねぇか!」


 ――キィンキィン! ガキィン!


 一太刀二太刀、三太刀入れ。

 てててはそれを、和傘で受ける、なかなか小慣れた腕前披露。


「お前さんのチャンバラ、付き合うとしよう」


 ててて、傘を開いて後方跳躍、ぜにまの間合いから離れ飛ぶ。


 背中に差した二本目の、和傘をバサっと開くなら、紫縮緬(むらさきちりめん)、明けの明星、鶏柄。


「さてその次は、以前は武家の中小姓(ちゅうごしょう)、故主のために斬り()りも、今日ぞ命の明け方に、消ゆる間近き星月夜、その名も赤星十三郎あかぼしじゅうさぶろう!」


 ててて第二の和傘、その手持ちの取っ手を引き抜くと、仕込み刀が現れて、歌舞伎舞台にヌラリと光る。

 刀と傘を両手持ち。


 ぜにま気にせず、剣劇チャンバラ、立廻り。

 対面、胴面、切り捨て御免。


 ――キィン! ガキィン!


 されどもててて、花弁がひらひら舞うように、手にある傘を盾に使い、踊るように受け流す。


 客席のゑいか達はそのチャンバラを緊張した面持ちで見守る。


「チャンバラならぜにま姐さんに分があります!」


「ゑいかさん、ぜにまさん勝てそう?」


「てててはどんな汚い手を使うか分からない。だけど姐さんには神通力があるでごぜゐます。勝機はきっと生まれるはず」


 ――キィンキィンキィン!


 踊る踊るは無郎チャンバラ。

 てててはぜにまの一太刀傘で受け、回り刀の斬り返し、ててての一閃、回転演舞。


 ぜにまの頬肉少し切り、紅き鮮血、歌舞伎舞台にほとばしる。

 ぜにまたまらず距離置き納刀。


「この仕込み傘、武家が生まれの赤星十三郎! 叔父の為にと金を盗むが、捕まり盗賊仲間入り! 不運と気品の美少年!」


 ててて、構えるぜにまの喉元狙い、目にも留まらぬ傘の突き。


「明けの明星、凶の星!」


 ぜにま居合滑走。鈴の音、舞台に鳴り響く。


 ――リィィィィン


 すろーもーしょん世界の中で、ぜにまの目に映るは赤の光。

 傘の先から燃ゆる炎。


 ――チチチチチッ!


 これはただの突きじゃない。

 ぜにま、明鏡止水の意識の中で、体を捻り、傘の先端、狙いを逸らす。


 ――ボンッ!


 傘の先から鉛玉、飛び出てぜにまの肩えぐる。


「ぐっ……!」


「ぜにまさんっ!」「ぜにま様!」


 観客で見ていたお舟たちが悲鳴をあげる。


「いやあーーーッ!」


 ぜにまこれを食らいながらも居合抜刀。


 ――キィンッ!


 見事和傘を輪切りにし、『赤星十三郎』を切り落とすのであった。


「おっーとっ! これはててての仕込み火縄銃だーっ! ぜにま選手は大丈夫でしょうか!?」


 MCギダユウも大声を出して実況をする。


「いよっ! 派手だねぇ!」「いいぞーててて!」「オレたちの生活がかかってるんだ! やっちまぇ!」


 観客は大興奮。


「うっ……!」


 煙の上がる肩を痛がるぜにま。

 すでに衣服はボロボロになり満身創痍。ぜにま劣勢……!

『白浪五人男』……河竹黙阿弥作。「青砥稿花紅彩画(あおとぞうし はなの にしきえ)」という演目の通称。石川五右衛門、鼠小僧と並ぶ日本屈指の盗賊「白浪五人男」を描く。「白浪」は中国にいた白波賊から取った盗賊という意味。五人が勢ぞろいして一人一人口上を言うところは、「戦隊ヒーロー」のもとになっているともいわれる。

作中では黙阿弥てててのKABUKIとして登場。

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