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KABUKI大江戸すぱゐらる ~女侍、美しき居合で悪を断つ!~  作者: 歌学羅休
第一幕 『曾根崎心中』 天才美少女人形遣い!近松ゑいかの段
1/52

一の段 主人公! ぽにーてーるな女侍『ぜにま』登場!

※歌舞伎をあまり知らない方に少しでも知ってもらえたらと思って書きました。是非どうぞ。

 時は江戸が400年以上続く大江戸時代。

 舞台はゼンマイ仕掛けが発達した町『OHーEDOスパイラル』。


 ここはそんな城下町の大通り。


 訪れしはこの物語の主人公。

 草鞋(ぞうり)(はかま)合羽(かっぱ)姿の女侍。

 肩に長籠担ぎ、頭に『善』の字書かれた三度笠さんどがさ


 その名を『ぜにま』という。


「いや〜〜! ここが名に聞くOHーEDOスパイラルでござるか! 立派な城下町でごさる」


 またこのぜにま、左手どこでやったのかカラクリ義手になっていた。

 義手で編笠外し、青空見上げる侍ぜにま。

 艶な黒髪うしろにまとめ、覗いたうなじがキラリと光る、ぽにーてーるな女侍。


 空は快晴、春の風が吹き抜ける。

 ぜにま、ん〜〜っと伸びをする。


 空気は澄み渡り、遠くに見えるは富士の山。


「今日も天気は日本晴れ。だが少しおかしいでござるな。このような大きな町に、人っ子一人いないとは。皆花見にでも行ってしまったでござるか?」


 ぜにまはキョロキョロと当たりを見回す。どこかに人はいないものだろうか。


「ひっく……」


 するとどこから泣き声が。

 見れば通りに着物の少女。目鼻赤くして泣いている。

 ぜにまは少女を心配して、近寄って声をかけてみる。


「お主、町の娘か?」


「ひっく……あっ、刀……」


 娘はぜにまに気付き、容姿を見れば帯刀、侍姿。

 涙を流しながらも頭を下げる。それがEDOでは自然の反応。


「お侍さん……ひっく……すみません……」


「おやおやそう怖がらなくて大丈夫でござる。何も悪いことはせん。ただ一体何ゆえお主は泣いておるのか?」


 ぜにまは腰を落とし、涙を流す少女と同じ目線となる。ただただ少女を心配していた。

 娘はぜにまの優しそうな雰囲気に少し警戒をほどき、おずおずと話し始めた。


「……わたしが、一人でチョウチョさん見てたら、お姉ちゃんに置いてかれて……。きっとお姉ちゃん、わたしなんかほっといて先にKABUKI座ドームにむかっちゃったんだぁ……」


「むっ。迷子でござるか」


 そこまで聞くとぜにまは自分の胸をドンっと叩く。


「ならば心得た! この侍ぜにまがお主の姉を探すで候」


「えっ……ほんとぉ?」


 少女はキョトンと不思議そうにぜにまの顔を見る。まさか侍が子供の自分を手伝ってくれるなんて考えもしなかったのだ。


「拙者、実は師の言いつけで108の人助けを生業としている。任せるでござるよ」


 ーー各地を行脚し108の人助けをせよーー


 それが女侍ぜにまが、自分の師に命じられた言いつけであった。

 そんなぜにまに取っては迷子の姉探しなど造作もないこと。


「ほんとに……ほんとにいいんですか?」


「ほんとにほんとに良いでござる!」


 すると少女の顔がパァっと明るくなる。


「……ありがとう!」


「それじゃあ早速行くでござる!」


 ホイッと掛け声ひとつ、ぜにまは少女を軽々と背負い、姉探しを始めるのであった。


 ◆◇◆◇◆


 時同じくして。


 ここは大江戸一番の娯楽施設『KABUKI座ドーム』だ。数万人を収容できる歌舞伎専用劇場。

 だが今日はいつもとは違う異様な熱気がドーム内を包んでいた。


「さあ〜! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 大江戸幕府99代将軍『徳川イエヤス』様が何を血迷ったか、この世で一番の傾奇者(かぶきもの)にどんな命令でも下せる『天下てんか徳政令とくせいれい』の権利を与えるとのこと!」


 天井から伸びたカラクリクレーンに台座が1つ。

 そこに三味線手に持つMCギダユウ、ちょんまげ頭の解説担当。


「いよぉぉ〜〜!」「待ってました!」


 客席には数万のOHーEDO町人が声上げる。


「そのたった一人を決めるため、今宵は命を賭けたトーナメント! その名も『KABUKI十八番勝負』を開催! 司会はわたくし、MCギダユウが務めさせていただきます!」


 べべべんべん、っとギタユウ三味線かき鳴らす。


「その第一試合! 登場するは近松ちかまつ〜〜、いかぁ!」


 ――ポンポンポンポンポン♪


 観客席を貫く花道。

 その入り口にある揚幕が開く。


 大量の白煙湧き出して、拍子木(ひょうしぎ)篠笛(しのぶえ)琴太鼓ことたいこ。ありとあらゆる和楽器鳴らされる。


「いぇ〜い! 近松ちかまつゑいか! ここに遮二無二しゃにむに、登場でぇご〜ぜ〜〜ま〜す〜!」


 仕掛けられた花火が景気よくあがる中、花道入口に銀髪ショートの美少女出現。

 七色に光るLED提灯ちょうちんに照らされて『近松ゑいか』華麗に登場。


 黄金の松模様したミニスカ着物、白い太ももチラリと見せて意気揚々と現れた。


「いよぉっ!」「待ってましたー!」「近松屋ぁ!」


 脇には近松ゑいかよりも大きい二体男女のカラクリ人形。

 天井から降り注ぐ、金銀ぱーるの紙吹雪。


「ついに登場一番手! 近松門左衛門ちかまつもんざえもんの一人娘! 十代続く人形浄瑠璃にんぎょうじょうるりの名門がなぜ参戦してしまったのか〜!? 予想外の参戦に客席もすでに大盛り上がりです!」


 MCギダユウ即座に解説。


 歌舞伎舞台に仕掛けられた灯篭とうろう型プロジェクター。映し出すは客席上空、カラクリARえれき文字。


『天才美少女人形遣い』『近松ゑいか(ちかまつ えいか)』『才』『トウジョウ』『才気煥発』『千両役者』『幕の内弁当』


 ゑいかはカラクリ人形と共に、ファッションモデルの如く颯爽と客席の間の花道を歩いていく。


「女近松!」「いよっ! 天才傀儡子(くぐつし)!」「面白い試合見せてくれよー!」


 近松ゑいかは自信げに手を振りながら声援に応え、三色幕がかかった舞台の中央に立つ。

 美しく鋭い目で会場見渡し、口上(こうじょう)あげる。



「お待たせしやしたEDOッ子の、幾多の伝統時代を超えて、前人未到のKABUKI舞台! 辿り着いたが女の名前は!」



「「「ゑいか! ゑいか! ゑいか! ゑいか!」」」

「「「ゑいか! ゑいか! ゑいか! ゑいか!」」」



 ――いよぉおおおおおおっ〜!



「天才美少女人形遣い! 近松ゑいかとはっ! あたしがことよ~~~~〜っ!」




 ゑいかの見得(みえ)が終わったと同時に花火がド派手に上がる。


「あっぱれ!」「こりゃめでてぇ!」


 ゑいか、そのまま口上。


「この世は才能! 才すべて! 才無きものは生きる価値無し! あたしゃ能力無いものが、とことん憎い、憎たらしい!」


「おめぇさん、そりゃあオレたちに言ってんのかい?」


 会場からの一声。


「いいや、私が憎いのは、才能無いのが支配する、このOHーEDOスパイラルでごぜゐます! みんなEDOに不満はないかい?」


「てやんでぃ! 不満はいっぺーあらぁ!」「うちの蕎麦屋は商売上がったりでさぁ!」「お役人様が高い税をとるのよ」「不祥事も多いと来たもんだ」「こちとら誰も雇ってくれねぇ」「うちはカミさんに逃げられて……」


 観客達が一斉に各々の悩み言を吐き出す。中には泣きだす輩も。

 そんな客席を見て、狂った笑みを魅せるはゑいか。


「いいかい! ぜーんぶ私に任せ! EDOが悪いは政治屋のせい! 才無き無能な政治屋の! 私が勝ったら、大老、老中、三奉行! み〜んなまとめて切腹さっ! 良い政治屋が出るまでは、延々腹をかっさばく! それが私の、『天下の徳政令』の使い方でぇごぜ~ゐ〜ま〜す〜!」


 ――カカンッ、と鳴るは拍子木の音。


 ゑいかとカラクリ人形、揃って両手を広げてお辞儀する。


「ちげーねー!」「見れるもんなら見てみてぇ! お役人様の腹切るところ!」「KABUくねぇ、近松屋!」


 勢いある見得に、客席は呑まれていた。

 全ては会場を味方につけるゑいかの思惑通り。会場のボルテージは一気に上がる。



「「「あ、よいしょ! あ、よいしょ! あ、よいしょよいしょよいしょよいしょ!」」」

「いよっ! 近松屋、にっぽんいちぃ〜〜~〜〜!」



 ――ポンポンポンポンポン!

『歌舞伎』……江戸時代初期に出雲お国が創始した「かぶき踊」が元祖と言われている。台詞、音楽、舞踊が混ざった古典演劇ではあるが、当時から大衆のためのエンターテインメント性が高いものであった。実際の事件を基にした時事ネタを歌舞伎にしたり、人気な小説や人形劇を歌舞伎で演じたりと現代のメディアミックスのようなことも行われていた。その人気は三百年以上を経て現代にも続いている。


『歌舞伎十八番』……7代目市川團十郎が選定した、初代から4代目までの團十郎が初めて演じ、得意にしていた18の歌舞伎作品。

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