29.街までの道のり
総合評価が5000ptを突破しました!ありがとうございます!読んで下さる皆様に感謝の気持ちを込めて、本日(8/10)二度目の投稿です。
王都までどうやって行くのかと言うと、馬を使うらしい。
家から≪地上≫を僅か数十分で駆け抜けたヴァイスハイトは当然機動力に長けているのだが、その分小回りが利かないらしく。それに、街にドラゴンが着陸出来るような場所もないので、王都に用がある時は専ら馬に乗って行くそうだ。
ちなみにあまり人込みが好きではないらしいヴァイスハイトは、私達をここに運んでからずっとマティアスさんのお部屋でお休み中だ。竜騎士団本部にはドラゴン専用の宿舎もあるらしいんだけど、ヴァイスハイトは小型化してマティアスさんの部屋で眠る方が好きらしい。強面なドラゴンは相棒が大好きで、少し寂しがり屋なのかもしれない。
そんな訳で、王都散策に赴くのは私とマティアスさん、それに精霊さんの三人だ。
「あぁ、そうだ。一応これを羽織っていてください」
マティアスさんに差し出されたのは、白い生地に所々金色の糸で刺繍が施されている立派なマントだった。フードが付いており、サイズ的にも私の体を全身すっぽり覆ってくれそうだ。マティアスさんも似たようなマントを羽織っている。
「その恰好は街中では少々目立つかもしれません。生地に光沢があり、見る者が見れば上等な素材で出来ていると分かってしまうので……。それと、髪や目は精霊の力で色を変えられますが……、お顔も一応隠しておいてください」
マティアスさんはそう言いながら私の肩にマントを掛ける。
なるほど。精霊として顔を出した本部内では、このワンピースはプラスに働いたけど、街中に出ると悪目立ちしてしまうってことか。
顔を隠すのはよく分からないけど、多分アジア系の顔が珍しいからってことなんだろう。
私はマティアスさんの言葉に素直に頷き、マントの前部分を留めてワンピースを隠してフードを被った。これはこれで怪しい人に見えそうだけど、魔法使いは大抵皆こういう恰好をしているらしい。これならうまく溶け込めるだろうとマティアスさんが頷くので、私はそういうものなのかと納得した。
「さて、それでは行きましょうか」
「はい! お願いします」
先ほどは馬と言ったが、正確に言うと『スレイプニル』という生き物で、動物ではなく神獣だそうだ。
マティアスさんが所有しているスレイプニルの所へ連れて行ってもらうと、見た目的には私が知っている馬と何ら変わりのないスレイプニルがいた。艶のある毛並みの白馬で大変美しいのだけど、羽や角が生えているだとか、足が六本あるとかそんなことはない。一見すると馬との相違点は見当たらない。
「この子が私のスレイプニル。名前はザシャです」
「こんにちは、ザシャ。今日はよろしくね」
近づいてみると分かるが、手入れがしっかりされた立派な牡馬だ。鼻先を撫でてやると、長い睫毛に覆われた可愛い双眸で私のことをじっと見つめる。ぶるる、と一つ鳴いたかと思うと、スルリと手にすり寄ってきた。
「……どうやらザシャにも気に入られたみたいですね」
感心したようにマティアスさんが呟く。確かに少なくとも嫌われてはいないみたいなので安心だ。これから背中に乗せてもらうんだから、少しでも友好な関係を築けたならよかった。
マティアスさんの手を借りながら騎乗すると、その後に続いてマティアスさんが颯爽とザシャに飛び乗る。ヴァイスハイトに乗った時と同様、背中にマティアスさんの熱を感じながら、ザシャから落ちないように鞍を軽く握り込む。
両サイドから伸びてきた腕が手綱を握り、ザシャは歩きだした。
マティアスさんはザシャを走らせず、ずっと一定のテンポで歩かせ続けている。
「走らせないんですか?」
「ザシャは本気で走ると一瞬にして街まで着いてしまいますので……。折角ですし、ゆっくりと行きましょう。このペースで進んでも、すぐに着いてしまいますが」
「街まで一瞬……。流石神獣って感じですね」
神獣とは、特別何かに特化した能力を持っている動物のことを指すらしい。
スレイプニルは、足の速さが特徴的で、本気で走ると一日で国を横断出来るくらいのスピードが出るらしい。足が強く、足場の悪い山道も駆け抜けることが出来るんだとか。神獣の名は伊達じゃない。
「あ……。じゃあさっき見た猫さんも神獣だったのかな?」
「ネコ?」
「あ、はい。さっき青竜棟でマティアスさんを待ってる時に会ったんです。小さくて白くてふわふわした生き物で、額に目の色とお揃いの青い石がありました。オシャレな皮のネックレスをしてて、名前は多分アメリアって……」
「あぁ……。それはケット・シーですね」
ケット・シーというと、ゲームにも登場する架空の生き物だ。まさかあんな風に何気ない場所で神獣ケット・シーに会えるとは……。異世界さん、サービス精神が旺盛すぎでは?
「アメリアは俺の部下である竜騎士が飼っている神獣なんです」
「あ! それってもしかして茶髪に茶色の目の方ですか?」
「……えぇ、そうですが……。まさか会ったんですか?」
「はい。私がアメリアと遊んでいた所に来て……。服が汚れていたのでアメリアを探してたのかなと思って渡したんですけど。良かった、本当に飼い主の人だったんですね」
「……何か言われたりしませんでしたか? その男に」
「え? いえ、特に……。むしろ全然しゃべってくれなかったというか……」
言語機能に不具合生じてたし、あの人……。
「……それなら良かったです。あの男、根は悪い奴ではないんですが、どうにも口が悪く……。それに私に敵対心を持っているので、私と一緒にいたのが貴女だと知られていた場合、よからぬことを言われていた可能性もあります」
「え、敵対心……? ぶ、部下の方なんですよね……?」
「あの男――カイという名なんですが、カイが入団したばかりの時に行われた訓練で叩きのめしてやったのが癪に障ったらしく、それ以来何かと目の敵にされています。同い年でありながら私の方が数年先に竜騎士団に入団していたので、それも気に入らないんだと思いますが」
そ、それはマティアスさん何も悪くないのでは……?
叩きのめしたってレベルがどんなものなのかは分からないけど、訓練は訓練なんだし本気でやらないと意味がないだろう。入団時期に関しては、検討せずともマティアスさんに非がないことは明白だ。
ちなみにマティアスさんは竜騎士歴十三年のベテランさんだ。そしてカイさんは竜騎士歴十年。……と言うことはつまり、十年間もの間、マティアスさんは自分に敵対心を持つカイさんと仕事をしてるってことか……。
「な、なんだかストレスが溜まりそうですね……」
「いえ、特には。重箱の隅をつつくようなことは言われますが、決して間違ったことは言いませんし、余りに面倒な時は適当に頷いておけば静かになるので」
あ、と私は察した。
多分カイさんが何を言ってもマティアスさんははいはいと頷くか、静かに同意するなどの反応を見せているんだろう。それがプライドの高いカイさんの癪に障り、悪態をつくという悪循環を生み出している気がする。……というと、なんだかカイさんが構って欲しさにマティアスさんに絡んでいっているように聞こえるけど。
「ただ私は慣れているので問題ありませんが、貴女にも悪態をついてくる可能性があります。……次に会うことがあるかはわかりませんが、気を付けておいてください」
石像のように固まり、単語しか話せなかったあの人はとても危険な人には見えなかったけど。マティアスさんに敵対心を持っている人なら、私がマティアスさんの知り合いだと知ると態度が急変することだってあるかもしれない。
次に会うことがあったら気をつけよう……。もう一度アメリアに会ってみたかったんだけど、それは難しいかもしれない。
……と少し落ち込んだものの、私の気分はすぐに上昇することなる。




