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18.異世界産のスパイスでカレー作り

 マティアスさんにスパイス探しを依頼した三日後。彼は再び我が家を訪れた。


 ヴァイスハイトと並んでソファに座ったマティアスさんは、早速と手に持っていた布袋から目的の品を取り出す。


「……おぉー! 見た目は全く一緒ですね!」


 出てきたのは、ターメリック・コリアンダー・クミンシードの三種。

 スマホに未加工の植物状態である香辛料の画像を出し、それと見比べてみるが、ぱっと見違いは分からない。というか同じものに見える。


「やはり薬師が使用している薬草の一種だったようです。薬師に頼めばすぐに用意してくれました」


 スパイスが簡単に入手出来るなら、それだけカレーが作りやすい状況ってことだ。よかった、絶壁の崖上にしか生えてない超貴重植物とかじゃなくて。

 心配なのは使いすぎて薬師の領分まで侵してしまうってことだけど、栽培されているもの以外にも至る所に自生しているらしいので、数が無くなってしまうってことはないだろう。


「そしてレッドデビルですが……。すみません、加工は全てご自分でなさるとの話でしたが、流石に生きたままの魔物を連れてくる訳にもいかなかったので……」


 そう言ってマティアスさんは瓶を一つ取り出す。中には既に粉末状になっている赤い粉が入っている。

 マティアスさんは謝ってくれてるけど、私としては感謝の気持ちしかない。私は魔物からスパイスを抽出するなんて高等技術を持ち合わせていない。


「……後学のために、どうやって粉末だけを集めたのか聞いても……?」

「大きな瓶にレッドデビルを入れ、瓶ごと揺らし続けました。レッドデビルは刺激を与えられると粉を噴出するので」


 ……生きたまま捕らえられ、延々揺さぶられるレッドデビル……。


 その光景を想像し、ちょっぴりレッドデビルに同情しそうになったけど、相手は唐辛子爆弾という聞いただけでも身悶えそうな攻撃を仕掛けてくる奴だ。人を見かければ無差別に攻撃を仕掛けてくるような攻撃性の高い魔物らしいし、仕方のない犠牲だと思おう、うん……。刺激物を人に投げちゃいけません。


「それから、こちらも」


 マティアスさんはそう言って袋から更に何かを取り出す。

 長方形の形をしたミキサーみたいなものと、四角い大きな箱だ。


「こちらが薬草を粉末状にするために使われている魔道具です。こちらの四角い物は、中に入れた薬草を乾燥させる際に使われているそうです。スパイス作りは乾燥させた後、粉末に加工すると仰っていたのでこの二つが必要かと思いまして持ってきました」


 流石マティアスさん! 気が利くぅー!


 私は、ユミールにある物だけでカレーを完成させるつもりだ。食材にしろ道具にしろ、ユミールにある物の中で完結しなければ、ユミールの食料不足改善には繋がらないと思っている。

 だから粉砕機については類似品があるか確認したし、出来れば持ってきてほしいと頼んでいたんだけど、乾燥は天日干しでも可能だからと特に道具は要求しなかった。それなのに私がさらっと説明した加工工程を聞き逃さず、必要な道具を揃えてくれるなんて流石としか言いようがない。


「あとは、必要な野菜類ですね。貴女がカレーに使っていた野菜と見た目や味が似ているものを持ってきました」


 テーブルに置かれた6つの食材と2つの小瓶。

 食材は、人参、じゃが芋、玉ねぎ、トマト、ニンニク、生姜で、小瓶に入っているのは塩と油らしい。


 見た目は殆ど見慣れた野菜と変わらない。……唯一玉ねぎだけちょっと様子が変だけど。


「左からカロット、フェル芋、トレーネガイスト、ヘルツ、ニンニク、ショーガという野菜です」


 ……名前は全体的におかしかった。この中に並べられると、寧ろ聞きなれたニンニクと生姜の名称に違和感を覚えるレベルだ。全部が全部全く違う名称で呼ばれているならまだしも、何故一部だけ日本とも同じ名称がついているんだろう。逆に混乱しそうなんだけど……。


 人参はカロット。……キャロットではないらしい。

 じゃが芋はフェル芋。……芋とついているのでかろうじて分かりやすい。

 トマトはヘルツ。……確かヘルツって心臓って意味があったような気がするんだけど。まさかトマトを心臓に見立ててる?


 そして問題なのは、見た目も名称もおかしな玉ねぎだ。マティアスさんの世界では「トレーネガイスト」と呼ばているらしい玉ねぎは、サイズがニンニク並みで物凄く小さい。見た目は玉ねぎそのものなんだけど、なんというか違和感が凄い。


「トレーネガイストはタマネギと大きさが異なりますが、恐らく味は似たようなものかと思います」

「……そうですよね、食べてみないと分からないですよね。小さくても同じ味なら問題ないんですし。トレーネガイストってなんだか変わった名前ですけど、何か由来とかあったりするんですか?」

「確か“精霊の涙”という意味だったかと。切ると涙が出てしまうことと、形状が涙に似ていることからそう呼ばれ始めたらしいです」


 確かに、小型の玉ねぎはちょっと縦長で、涙の形に見えなくもない。切ると涙が出るってことは、やはりトレーネガイスト=玉ねぎと思ってよさそうだ。


 あとは、実際に作って実食してみるしかないよね!




 という訳で、早速カレー作り開始です。


 本日は助手にマティアスさん(エプロン装着済み)、観客席にヴァイスハイトさんをお迎えしてお送りしたいと思います。


 さて、まずはスパイス作りからだ。


 乾燥、粉末化なんて普通にやれば時間が掛かりそうなものだけど、私は異世界産の魔道具というものを侮っていた。


 入れた瞬間、パっ!だった。

 もう一度言おう。入れた瞬間、パっ!だ。


 どういう構造で、どれだけの威力なのか分からないけど、乾燥機に入れて蓋を閉じ、ポチっとボタンを押したら終了。再度蓋を開ければそこにはカラカラに乾燥した香辛料の姿が!

 思わず「お、おぉ……!」と声を上げてしまった。


 そして乾燥した香辛料を粉砕機に投入。蓋を閉め、ポチっとボタンを押す。一瞬「ブォン!」という轟音が鳴り響き、音が静かになった所で蓋を開ける。そこには粉砕された香辛料の姿が!

 再度思わず「お、おぉー……!!」と声を上げてしまった。


 粉砕機に関しては一度で綺麗な粉にすることが出来ないので、二~三回繰り返す必要があるのだが、一回の時間が短すぎるので全然苦な作業ではない。


 というか、乾燥機も粉砕機も、普通に考えたらあり得ないスピードで仕事をしてくれるんだけど……。これはあれか、やはり動力が“魔石”だからなのか。魔道具についている緑色の石を突き、「あなたって凄いのね……」と呟いておいた。


 さて、そんな訳であっさりとスパイスは完成。


 次は野菜の準備だ。


 まず最初に、鍋でトマトを煮詰めておく。本当はトマトピューレを使うんだけど、ミズガルズにはトマトピューレはなさそうだったので、トマトをそのまま持ってきてもらったのだ。トマト……じゃなくてヘルツだから、ヘルツピューレ?を作るために、先にトマトは煮ておきましょう。


 トマトを煮ている間に、人参とじゃが芋……カロットとフェル芋は見慣れたものなので、サクサク皮を剥いて一口大に切る。

 玉ねぎことトレーネガイストは、サイズが小さい分たくさん皮剥かなきゃいけないから大変かもなと懸念していたんだけど、トレーネガイストの皮、めっちゃ剥きやすい。皮をグッと押し込めば、プリン!と中身が飛び出してくる。楽しい。楽しみつつ粗方皮を取り終えた所で、トレーネガイストは粗みじん切りにする。


 ニンニクと生姜は粉砕機を使ってすりおろす。いや、本当は手動ですりおろし器使ってやろうと思ったんだけど、こんな便利な道具あったらもう一度使ってみたいじゃない? つい使っちゃうよね、うんうん。


 と、こんな所で下準備は終わり。早速煮詰めていきましょう!



 まず、フライパンで油を熱する。

 ちなみに、今回使っているフライパンと木べらのみ我が家にあるものを使用している。ユミールにもフライパンとか木べらは普通にあるらしいからね。全部異世界産の物だけで完結するって言っておきながら申し訳ないけど、ここは許しておくれ。これだけ色々なものを持ってきてくれたマティアスさんにフライパン背負ってこいなんて言えないよ、私……。


 熱したフライパンに玉ねぎを投入。弱火から中火でじっくり炒めますよ、アメ色になるまでな!


 ここで暫く玉ねぎと戦わなくてはならないと知ったマティアスさんが、選手交代を名乗り出た。「腕が疲れるでしょう?」だって。


 確かに体力は人並み……以下くらいかもしれないけど、これくらいは平気なんだけどなぁ。マティアスさんから見たら私なんか吹けば飛ぶような貧弱者に見えるのかもしれない。あながち間違ってないけど。インドア派を舐めてはいけないのだ。


 とはいえマティアスさんの提案に頷き、炒める係をお願いした。玉ねぎに塩を振って、あとはひたすらじっくりと玉ねぎを炒めていく。


 マティアスさんが玉ねぎと戦っている内に、私はヘルツピューレ作成に取り掛かる。火の通ったトマトをザルで漉し、皮と種を取り除く。ざらざらした食感が残らないようにしっかりとね。あとはもう一度煮詰めて塩を加えればヘルツピューレの完成だ。


 玉ねぎの方も表面にしっかり焼き色がついてきたので、そろそろいい感じか。差し水をして焦げ付きの防止をし、あとは水分が飛ぶまで炒めれば玉ねぎはオッケー。


 続いて、ニンニクと生姜を投入して、中火で炒める。フライパンに焦げ付かないようマティアスさんには引き続き頑張っていただきましょう。


 完成したてのヘルツピューレとスパイスを投入すれば、途端に漂う芳醇な香り。


「香りは以前食べたものと似ていますが……これがカレーになるんですか?」


 マティアスさんがフライパンの中身を見て不思議そうに呟く。今はまだ玉ねぎとスパイスが混ぜ合わさったカレーの素が出来た段階だからね。確かに、カレーの完成形しか知らないと、このドロッとした状態を見ると不安になってしまうかもしれない。


「大丈夫ですよ、今は殆ど水分がありませんが、このあと水を足して煮込むので」


 マティアスさんの不安を解消するためにもさっさと作っちゃいましょう。


 人参とじゃが芋を投入し、カレーの素と絡めるようにして炒めてもらったら、水を加えて一度しっかり沸騰させる。何度かかき混ぜれば見た目は途端にカレーらしさを増す。


 後は火加減に注意しながら、じっくり煮込めば『異世界カレー』の完成だ!


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