16.インドからの救世主?
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「そういえば、食糧難って他国でも起きてるんですか?」
マティアスさんの国のことは聞いていたが、他国の話は今まで出てきていない。
「魔物の急増は、程度の差はあるものの大陸全土で確認されています。他国でも魔物の退治が追い付かずに家畜が襲われ、食料が不足していっているようです」
「そうなんですか……。となると、他国からの援助も難しそうですね……。魔物が増加した理由とかはわかっていないんですか?」
食料不足の原因は魔物だ。まずは原因から取り除いた方が良い。
そんな簡単な事ユミールの人達だってわかっているだろうし、魔物急増が収まっていないということは、多分理由も解決方法も見つかっていないんだろうけど。
「魔術師が中心となって調査を進めていますが、今は何も……」
「んー……、精霊さんは何か知ってたりしない?」
ヴァイスハイトに爪先で突かれ、コロコロとソファの上を楽しそうに転がっていた精霊さんに声をかける。……二人で遊んでいた所、大変申し訳ない。
遊びつつも私たちの会話は聞いていたのか、精霊さんはソファに座り直し、首を横に振った。どうやら精霊さんにもわからないらしい。
ふぅむ。専門家の魔術師も、不思議な生き物である精霊さんも分からないとなると、異世界人かつ一般人な私に分かるはずもなく。
一先ず、魔物の急増問題を解決するのは、まだまだ先の話になりそうだ。
そう考えていると、リビングの時計が目に入った。
時刻は十二時半。
「マティアスさん、この後って仕事に戻る予定なんですか?」
「え? はい、そうですが……」
「それならお昼食べて行きませんか? ちょうどお昼時ですし」
「……いえ、私たちは我が国の問題に貴女を巻き込まないと決めたのです。施しを受ける訳にはいきません」
あー、うん。マティアスさんならそう言うかなと思った。私に申し訳ないって気持ちもあるだろうし、多分仲間たちのことを考えると、自分だけ満足に食事することに罪悪感があるんじゃないかな。食べられる時に食べとく!くらいの心持ちでいいと思うんだけど。
私としては、お昼時に精霊さんに連れられてしまったマティアスさんに、お詫びの意味も込めてお昼ご飯ぐらいご馳走したい。
「昨日の夕飯が結構残ってしまって。残り物で申し訳ないんですが、処分にご協力いただけませんか?」
食糧難に悩むマティアスさんに、残り物だとか言うと気分を悪くするかもしれない。残ってしまうくらい、食料が潤沢だって言っているようなものだし。
しかし、こうでも言わないとマティアスさんは折れてくれなさそうなので仕方ない。
「……ですが……」
それでも渋るマティアスさんに、私は最終手段を使った。
「ヴァイスハイトと精霊さんも、お腹空いたよね?」
「リリリ!」
「クキャー!」
子供みたいに無邪気な二人が頷けば、マティアスさんも拒否し辛くなるはず。
案の定、二人の元気な肯定を聞いたマティアスさんは、暫く迷った後、困り気味に少しだけ頷いた。
勝者、私。作戦勝ちだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昨日の夕飯はカレーだった。
夕飯の残り、とは言ったものの、本当は保存して数日に分けて食べようと思っていたため、わざと多めに作っておいたものだ。勿論、マティアスさんには言わないけど。
冷凍していたカレーとご飯を解凍し、テーブルに並べる。
「……これは……なんですか?」
カレーを見たマティアスさんが不思議そうに呟く。
あれ、もしかしてユミールにカレーってないんだろうか。
「これはカレーという食べ物です。ちょっと辛いんですけど大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫ですが……、なんだか不思議な匂いのする食べ物ですね」
「お、お口に合わなかったらすみません……」
カレーって結構香辛料使っているし、食べたことない人にとっては独特の風味や辛さが口に合わないかもしれない。無理やり昼食に誘ったというのに、マティアスさんが食べられなかったらどうしよう。いやだって、まさかカレーを食べたことがないなんて思わなかったんだよ……。
「折角ご用意いただいたものですから、ありがたく頂きます」
やっちまったと後悔している私に、マティアスさんは優しく微笑む。
本当にすみません、どうかマティアスさんの口に合いますように。
両手を合わせ、スプーンを手に取る。
ご飯にルーを絡め、一口。
うん、美味しい。昨日食べたカレーより美味しい。やっぱりカレーは一日置いた方が美味しいんだよなぁ。
ヴァイスハイトと精霊さんには、私がスプーンを持って食べさせてあげる。精霊さんはサイズ的に無理だし、ヴァイスハイトは手の構造的にスプーンを持つのが難しいからね。
「リリリ!」
「クキュー!」
パクリとスプーンに食らいついた二人は、特徴のある大きな目を瞬かせる。よく咀嚼した後に喉を鳴らして飲み込んだ二人は、同時に歓声を上げた。どうやら二人の口には合ったらしい。
はやくはやく!と次を催促してくる二人に交互にスプーンを差し出し続けていると、マティアスさんがとても静かなことに気付いた。
マティアスさんは何故かカレーを一口食べた後、ずっともぐもぐしている。
……もしかして、飲み込むのを躊躇するほど口に合わなかった…⁈
内心慌てていると、マティアスさんは漸くゴクリと飲み込んだ。
そして、ハァ、と艶めかしい吐息を零す。
「……あぁ、とても美味しいです」
マティアスさんの顔は、見たことないくらいに輝いていた。
「今まで食べたことの無い味で、不思議な風味ですが、それが辛さと絶妙に合っていますね。なんだか食欲を促進させるというか……、これならいくらでも食べられそうです」
そう言うと、マティアスさんは再びカレーを口に入れる。
ゆっくりだったのは最初の一口だけで、以前と同じようにハイスピードで食べ始めた。相変わらず食べ方は綺麗なんだけど、なんでそんなに早く食べられるんだろうか。
瞬く間に減っていくマティアスさんのお皿を見つつ、ひとまずマティアスさんの口に合ってよかったと安堵する。
カレーって野菜とも相性がいいし、割とどんな野菜を入れても美味しくなる。お肉は牛や豚は勿論、鶏肉でも挽肉でも何でもオッケー。具材にバリエーションのある料理の一つだと思う。
保存方法を間違えなければ日持ちするので、作り置きも出来る優れもの。ただし、常温保存はダメ絶対。あと、保存していたカレーを食べる時はしっかり加熱することが重要ね。
保存云々に関してはそもそも冷蔵庫や冷凍庫があるか分からないのでなんとも言えないが、具材の選択肢が多いカレーって、食糧不足なミズガルズでも作れそうじゃない?
魔物は野菜には全く興味を示さないから、今の所暴れるついでに畑が荒らされるくらいの被害で済んでいるらしく、野菜の在庫にはまだ余裕があるらしいし。
ただ一つ問題が。
マティアスさんが「不思議な匂い」や「今まで食べたことの無い味」が言っていたことから、スパイスに馴染みがなさそうだと分かる。
カレーという料理がないのは分かってたけど、これってもしかして……
「マティアスさん、そちらの世界ってスパイスはありますか?」
「スパイス……ですか?」
「ガラムマサラとか、コリアンダー、チリパウダーなど種類は色々あるんですけど……知ってますか?」
「いえ……、聞いたことありませんね」
Oh……。まさかと思ったけど、ユミールにはそもそもスパイスが存在していない疑惑。
「このカレーという食べ物に使われている食材ですか?」
「食材というか、香りづけや辛みづけのために使われているものですね」
ミズガルズでは家畜が魔物に襲われ、食用に飼育していた動物が食べられてしまい、肉不足に陥っている。それと同時に牛や鶏も魔物に襲われ、乳製品や卵も不足しつつある。
カレーは、牛乳も卵も使わないし、具は野菜だけでも問題ない。
スパイスさえあればミズガルズでもカレーを作れそうなんだけど、一番大事なスパイスがないのか……。
しかし、私はまだ諦めないぞ。
ここで重要なのは、「スパイスがない」という言葉の真意だ。
“土地柄的にスパイスが育つ環境ではなく、大陸のどこにも存在していない“
という可能性は勿論ある。
でも、
“生えているのに食用だと思われておらず、ただの植物だとスルーされている”
という可能性も十分に考えられるのではないだろうか。
前者であればカレー作りは無理だろうけど、後者であれば希望はある。
私はカレーを食べるマティアスさんをじっと見つめた。
「マティアスさん……。今まで食べていたものがなくなってしまったのなら、新しい食べ物を見つけてみませんか? 食料不足改善の一歩として」
マティアスさんが自国ミズガルズ王国でも幸せな食事が出来るようになるためには、行動するしかないのだ。
無駄に終わるかもしれないけど、私を守ろうとするマティアスさんの力に、少しでもなれたらいい。