第3話「女戦士×女装少年」
これでこの章は完結です。
続きが気になる方はコメントお願いします!
ユガンダールの街は、阿鼻叫喚に包まれていた。突然、現れた背中に巨大な翼を携えた少女によって辺り一帯が破壊尽くされているからだ。
ふと、昔の事を思い出す。
自立した生活を求めて故郷を出たばかりの私は、ひょっとしたら旅先でトラブルに巻き込まれるのではないかという、そんな懸念が頭の片隅にあった事は確かだ。しかし実際はどうだろう。『事実は小説よりも奇なり』と言わんばかりに、私の想像を遥かに超える事態に見舞われているじゃないか。
奴隷にされ、全裸の少年と出会い、挙句国でも最も栄えている街が地獄絵図と化している。
私は、特別不運な方ではないと思っていたのだけれど、もしかしたらその思い込みは改めなければならないのかもしれない。
「ヤヤァ〜なんか大変な事になってきたヨ。……テロでも起きたのかネ?」
「それじゃあ彼は、テロリストという訳ですか。全く、窮地を救ってくれた人とは言え、とんでもない人と仲間になってしまったものです」
ナオ・ヘビーローテーション。
齢10歳の少年召喚師である彼は、つい先程賞金を手に入れるために、とある少女と対峙した。そして少女は、口から光線を放ち、次々にナオを追い詰めてようとしている。周りへの被害など御構い無しだ。
部が悪いと感じたナオは、物凄いスピードで逃げ出し、竜殺しアシュラがそれを追いかけて行った。
二人は、かなり遠くまで移動して行ったが、アシュラが暴れる度に爆発音が鳴り響き、黒い煙が舞い上がるので、現在二人がどこにいるのかすぐわかる。追いかけようと思えば辿り着けるだろうが……。
「マア、何方にせよマロ達であの子を止めるのは不可能ヨ。『竜殺し』。子供の頃に読んだお伽話の中で登場した伝説の戦士ネ。まさか実在していたとは……」
どうやらこの料理人は、あの翼の生えた少女について知っているらしい。
しかし、私にとってはどうでも良いことだ。それよりもまずは、これからどうして行くべきか考えないと。
あの少年と別れて、再スタートをするのは簡単だ。でも、正直私には行くアテがないし、これといって成し遂げたい目標もない訳で。変人とは言え、せっかく巡り会えた彼とすぐにサヨナラするのも勿体無い気がした。
悲しい事に、問題児との接するのは慣れっこだ。だからもう少しだけ、一緒にいても良いかなと思っている自分がいる。
……先行きは、不安だけれど。
「何にしても街を出ないとですね。この騒動、流石に街中に広まるでしょうし面倒に巻き込まれる前にここを離れないと」
「いゃ〜面白くなってきたネェ〜! これだから旅はやめられないヨ!」
なんでこの人はこんなに楽しそうなんだ? ……まあいいか。
さて、そうとなればサッサとナオを呼び戻さないと。
私は、爆発音と土煙を頼りに、二人がいる場所へと向かう事にした。
*****
前回までのあらすじ♪
女の子の服を剥いだら滅茶滅茶にされた◎
「くっ、どうしてこうなった!? 僕はただ、筋肉質な少女の肌と下着を拝みたかっただけなのに!! こ、これが、勇者を志す漢に課せられし試練だとでも言うのか!?」
「ナニふざけた事をブツブツ言ってる!! 竜殺したるこのアタシを弄んだ事、地獄で後悔するが良い!!」
「ふぇぇ〜、、ん! もうDBはこりごりだよぉ〜!!」
僕とアシュラさんは、浜辺で追いかけっこ宜しく街中を駆け回っていた。もしそう言うシチュエーションなら、本当は追いかける側に回りたいんだけれど、どうもそういう訳には行かないようだ。後ろで怖い顔を浮かべながら爆走するアシュラさんは、まさしく鬼役に相応しい。僕の出る幕はなさそうだった。
主演を取られた僕は、仕方なく追いかけられる側に回っていた。捕まれば即死のデスゲーム。実にそそる内容だ。おかげで今もドキドキ、心臓が鳴りっぱなしだよぉ〜! ……まあ、ドキドキ鳴っているのは走り回っているからだろうけど。
「は、話し合いましょう! アシュラさん。僕と貴女は出会い方が悪かっただけで、もし別の出会いをしていたのならきっと仲良くなれていたと思うんです! 今からでも遅くない。これからオシャレな喫茶店にでも寄って、レモンスカッシュを嗜みませんか?」
「ド・ラ・ゴ・ン★ブレスッッ!!!!」
忽ち、高熱の光線が僕を襲う。一撃でも喰らえばあっという間に灰になるであろう攻撃を躱し、僕はアシュラさんの方へ向き直った。
改めて見ても巨大だ。彼女の翼は、まさに空に君臨する不動の王『龍』の物。
翼に比べて、元の本体の方が数段小さいという異様な姿を露わにするアシュラさんを前にして、僕は固唾を飲んだ。
アシュラさんが喋る。
「生憎、アタシはレモンが苦手なんだ。酸っぱいからな」
「……それは残念です、美味しいのに」
僕は軽くショックを受けた。
なんていう事だ。僕とアシュラさんは、この先分かり合えることは出来ないのだろうか? このまま、嫌われっぱなしになってしまうのか?
嫌いな者から一方的に押し付けられる愛は、果たして本当に愛と言えるのか?
全ての女性を平等に愛したいという僕の志は、ここで折れてしまうのか?
「ならせめて謝罪をさせてください! どうすれば機嫌を直してくれますか!?」
「私に服従するか死を選べ! 話はそれからだ!」
「では服従します! 死にたくありましぇえええええん!!」
「よろしい」
こうして僕は、謎の竜殺し大剣少女アシュラさんに服従する事となった。
ナオ・ヘビーローテーションの冒険は続く。
*****
ナオを探しに向かって数分。
建物が崩れる騒音と人の叫び声が渦巻く中を進みながら、私とマロさんは遂に彼を見つけることが出来た。
……出来た、のだが。
「いや〜ゴメン。僕、この人と共に生きる事にしたよ!」
出会い頭に、勇者見習いからこんな台詞を言われたのだから唖然としてしまう。
とりあえず、何があったのか事情を聞いた。納得は到底無理だったけれど、話を簡単にするためひとまず受け入れる事にした。
「で、これからどうするの?」
「もうこの街に居られないのは間違いないしとっとと出ちゃいましょう。アシュラさんは、何処か行きたい所はありますか?」
「アタシは、お金さえ稼げれば何でも良い。生活費が必要なんだ」
「アシュラさんもお金に困ってるんですか!? 僕達も何です!! 無一文で、明日のパンを買うお金すらありません!!」
「ソ〜ンナに元気な声で言う台詞じゃ〜ないと思うヨォ、ナオくん……」
マロさんの言う通りだ。現状はもう笑うしかない有様である。
長話をしている場合ではないので一度待ちを離れる事にした。門の衛兵に見つかると厄介なので、塀を抜けて脱出をしようとナオが言い出す。
「《SAMONN‼︎》 グランドドラゴン‼︎ ……斬り裂く攻撃だ!!」
何処から見ても大きな『モグラ』にしか見えない魔物を召喚したナオは、そう命じる。
瞬間、グランドドラゴンはその鉄の爪で引っ掻いたかと思うと、頑丈な塀がバラバラと崩れて大きな穴を作ったのだ。
そして私は、本日二度目のユガンダール脱出を果たしたのだ!
「自由だああああああああああっっ!!!!」
「何が自由ですか。これ以上ない不自由なんだけど」
「そう言わないでくださいよルカさん。大丈夫、少なくともここは地下牢ではない」
「……貴方と出会って、たった数時間で起こった数々の事件を思い返せば、いずれ奴隷だった頃がまだマシだったと思う日がくるかもね」
「そんな事ありません。状況は少しずつ良くなっているはずです」
「器物損害及び傷害の犯罪者ですよ私達! しかも全部貴方のせい!! なんで街から出るのに塀を壊さなきゃならないのよ!!」
「モーマンタイです」
何がモーマンタイだ。良い加減にしろ。
そしてこの竜殺しは、なんでついてきてるんだ?
「あのぅ、アシュラさんでしたっけ? 貴女は、何故私達のパーティーに?」
「ん? だってアタシ、この子の御主人様だし」
「そうそう、僕は奴隷だし」
「せっかく使いっ走りが出来たのに、手放すなんて勿体ないだろう」
「その通りです!」
……この少年は、なんでこんなに嬉しそうなんだ?
そしてこの子、また奴隷なったのかぁ。本当に勇者になる気があるのかなぁ?
「もういいです、わかりました。とにかく次の街に進みましょう。誰か、この付近の街について知っている人はいますか?」
「ソーいう事なら、候補は二つあるヨ。一つは、美容の街『カオゥ』。「自然と調和するこころ豊かな毎日をめざして」をスローガンとする評判の良い街ネ。そしてもう一つが、死と奴隷と暗黒の街『アンダー・ヘル』。人口の約六割が罪人、約八割が奴隷と言われ、一日目で身ぐるみを剥がされ、二日目で奴隷にされ、三日目で死ぬ程の苦痛を味わうと評判の街ネ。因みに、奴隷の出荷量は世界一」
「絶対に前者を選びましょう」
何だ二つ目の街は。いや、一つ目もどっかで聞いたことがあるスローガンを掲げた街だけど、少なくとも後者よりはマシに思える。文句無しでカオゥの街に行くのは決定だろう。
しかし、
「おっ、いいじゃんアンダー・ヘル! 凄くクレイジーだ気に入った!!」
「確かに、良い儲け話が転がってそうだな」
何故か|ナオとアシュラ(この二人)が後者を選択しようとしていた。本当にどういう神経をしているのだろうか。
「よーし! 憧れの勇者になるために、新天地を目指すぞぉ!! 次の街は、死と奴隷と暗黒の街『アンダー・ヘル』だあああああ!!!!」
「う、嘘でしょう!?」
そうしてナオは歩き始めた。彼の足取りに迷いはなく、本気でかの街に向かうつもりのようだ。
ナオ・ヘビーローテーションは迷わない。まるで、自分の進むべき道がいつだって正しいと言わんばかりに。
「行くぜ皆の衆!! これまではプロローグ。僕達の本当の冒険は、今ここから始まる!! そう、僕達の冒険はこれからさっ!!」
少年は、真っ直ぐな瞳を輝かせて、次なる目的地アンダー・ヘルを目指すのだった。
*****
そして同日、夜。
ここはアンダー・ヘル。
……地下牢。
「いや〜。まさか街についた途端全員捕まるとはなぁ〜」
「ホント何なんですか貴女はっっ!!!!」
ナオ・ヘビーローテーションの冒険は続く。