第2話「じゃあ上から脱いでいこうか」
前回までのあらすじ♪
共に脱獄したルカさん、そして郊外で出会ったマロさんを仲間にした僕は、喜び勇んで街の中へ入った。しかし、目の前に現れたのは複数人の衛兵達。剣を両手に持ち、既に臨戦態勢を整えている彼等は、まるでこれから怪物と戦いにでも行くかのように殺気立っていた。
そんなむさ苦しい男達の群れから脱兎の如く去り出した僕達は、追いかけてくる衛兵達を何とか撒いたのだった。
「はぁ、はぁ、……どうやら無事逃げ延びれたようですね!」
「くっ、何でこんな事に……。私は、普通に街中を歩くことも出来ないっていうの!?」
「アー。取り敢えず、誰かマロに事情を説明して欲しいネ。何で君ら、衛兵から逃げてるヨ?」
「それはこれから話します」
そう言って僕は、マロさんにこれまでの経緯を説明した。
「……と、いう訳なんですよ」
「地下牢に閉じ込められて、そこから脱出したのはわかったヨ。でも、龍を召喚して空を飛んだってのは意味不明ネ」
「僕、実は召喚師なんですよ。だから色んな魔物を召喚出来るんです」
「ヤヤッ! それは便利そうな魔法ネ! かくいうマロも、実は魔法使いだったりするヨ」
「あ、そうなんですか」
「ウム! マロは、世にも珍しい『魔法料理人』ネ!」
マロさんは、自慢げに胸を張ってそう答えた。
正直、魔法料理人というのがどんな魔法使いの事なのかサッパリだけど、とにかく凄いのはわかった。
「まあ、成り行きとはいえ仲間同士になったのですから、色々話し合いたいことはあるでしょうが。……今は、他にやるべき事があると思うんですよ」
僕とマロさんの会話に割って入るように、ルカさんは口を挟んだ。
ルカさんは、結構真面目な性格なようで、一番に現状の深刻さについて議論をしようという姿勢を見せていた。彼女の言いたいことはわかる。
現在の僕達の称号といえば、『犯罪人』もしくは『逃亡者』。……要するに、街を破壊した罪をどのように清算するべきかを考えなければならないのだ。
「逃げちゃいましょうか。あれは、止むを得ない事情があったからですし」
「それに賛成」
ルカさんが挙手をして賛同してくれた。
よしっ! ではこれで、問題は解決だ!
何だか、勇者を目指す者として『それで良いのか』という考えが過るけれどスルーしよう! あんな男だらけの衛兵達の元に自ら出頭するなんて死んでもゴメンさ! 美女だらけの衛兵達なら未だしも!
「しかし、逃亡するにしてもどうしましょう? 一度、この街を離れて別の街に行きます?」
「それが良いヨ。ユガンダールは、国で一番発展していて栄えている街。逆に言えば、治安がしっかりしているから悪人が居辛い場所ネ」
「ああ。私、捕まって奴隷にされた上に今度は悪人にされてしまってるし……」
ルカさんが凹んでいる。街を壊したのは僕だから非常に申し訳ない気持ちになった。とはいえ、過ぎてしまったことをいつまでもクヨクヨしていても仕方がない。切り替えていこう。
汚名返上するため、僕は考えうる最善の方法を導き出そうと頭を働かせる。
「……状況を整理しましょう。僕達は、勇者になるためにこの世界を救う活動をしなくてはなりません。しかし、色々あって衛兵達に狙われる事になり、この街では満足に外を出歩く事も出来なくなっています」
「勇者を目指しているのは貴方だけだし、衛兵に狙われているのも貴方のせいですけどね」
「現状では、この街で勇者活動をするのは正直言って厳しい。では、別の街に向かうべきなのかもしれませんが、僕達はお金も装備も食料も無いので、遠出は困難を極めます」
「マロの持ち物だけじゃ、他二人を養っていくのは無理ネ。基本的に、一人でしか旅をした事がないから」
このままでは、勇者活動どころか飢死してしまう。
そして僕は、この絶望的な状況を解決するある方法を思いついた。
「しゃーない。盗みましょう」
「早速、勇者らしくない第一行動キター!」
マロさんは、何故か大はしゃぎしている。
そして僕のナイスアイデアに、反論の声を上げる一人の女性が現れた。
ルカさんだ。
「待ってください。流石に泥棒は不味いですよ!」
「ルカさんの言いたいことはわかります。しかし、僕は10歳です。働いて稼ごうにもこの歳では誰も雇ってくれませんよ。盗むしかありません」
「でも……」
ルカさんは、何か言いたげだが、何を言ったら良いのかわからず口を閉ざしてしまった。……何だか、美少女にそんな困った顔をされるとすごい悪い気持ちになってしまうなぁ。
いや、僕だって出来ることなら盗みたくないよ? でも、僕のような召喚魔法しか能のない田舎者には普通に働いて稼ぐことすら難しい。
世知辛いこの世の中。どこかに、こんな僕でも稼げる方法があれば良いんだけど……。
と、その時だった。
僕達が思案をしている途中で、大勢の人がどこか興奮した様子で通りの方をバタバタと走り去って行くのが見えたのである。
「ん、なんか向こうが騒がしいネ」
「何でしょう? ……ちょっと覗いてみますか」
「あ、待ってください!」
ルカさんに呼び止められるが、好奇心には敵わない。僕は、さっきの人達が向かった方向へと歩いて行った。
しばらく進んだところで、街の広場と思しき場所に人集りが出来ていた。見ると、その人集りの中央は開けており、そこに一人の少女が立っていたのだ。
勝気な顔つきで筋肉質な体。年齢は十代後半といったところだろう。装備は革の鎧を身に付けているのだが、それより目を引いたのが彼女が持つ巨大な剣だ。刃渡りにして1メートル以上はあるであろう武器を構える少女は、集まってくる人達に向かってこう言った。
「さぁさぁ、このアタシに挑戦したい命知らずは居ないかい!? 一対一の真剣勝負、勝てば賞金三十万円! 参加料は一万円だ! 先着早いもん勝ちだよぉ〜!!」
どうやら腕自慢を狙いとしたイベントのようだ。賞金を餌に客を呼び寄せるとは何て賢いやり方だ。
それにしても、なんて都合が良い催し物なんだろう。これは僕らにとって、願ってもないイベントだぞ!
「二人共、ちょっと待っててください。僕があの人から賞金ゲットしてきますから! そのお金で次の街へ行くまでの道具を揃えましょう!」
「え、これ以上この街で注目を集めるのは避けたいんですが……」
「ていうか、ナオくんって戦えるん? 彼女、すっごく強そうネ」
「任せてください!」
僕は、元気よく返事して大剣少女の元へ向かった。
ここで、僕が賞金を手に入れて戻ってくれば二人共きっと見直してくれるだろう。将来の勇者志望としては、やっぱり女の子に格好いいところ見せないとね!
僕が広場の真ん中に着くと、大剣少女は怪訝な表情でこちらを見た。まあ、見た目からすればただの子供にしか見えないだろうから、この反応も納得出来る。
しかし、彼女は次の瞬間、僕に対する態度を改めることになるだろう!
「……君は、アタシに挑戦するチャレンジャーって事でいいのかい?」
「そうです」
「よろしい。では、まずは参加料として一万円を払ってもらおうか」
あ、しまった。参加料が必要なんだった。
うーんどうしよう。最悪、マロさんがお金持ってそうだから借りることも出来るけど、女性からお金を借りるという行為は、イけてる男としては良しとせぬ手段だしなぁ〜。
「ガッハッハッハ!! 嬢ちゃん、はしゃぎたい年頃なのはわかるがここは子供の来るところじゃないぜ。退いてな、今俺が嬢ちゃんに本当の戦いってものをグベラバァァッッ!!?!」
その時、僕が最初に参加表明したにも関わらず横から割り込んできた野暮ったい野郎がいたので軽くぶっ飛ばしてやった。順番待ちも守れないとはなんて悪い奴なんだ、許せん。
「ていうか毛深いくせに近づいてくんな! 臭いっ!!」
僕は、割り込み野郎に罵倒を飛ばした。しかし、男は一撃受けただけですっかり伸びてしまったようで倒れたまま動かなくなっている。
見ると、勢いよく倒れた事で、男の持ち物であろう物がそこらに散乱していた。
鞄、斧、帽子、財布……。
「むっ、こんな所に財布が落ちてるじゃないか! ラッキー♪」
僕は、財布を見つけるや否やバッとそれを拾い上げ、中身を確認する。
よしよし。ちゃんと一万円以上入ってるな。
「お姉さん! お金の準備が出来ました! これで挑戦します!」
「え、いや、ソレその男の財布じゃあ……」
「これで挑戦します!」
「いや、だから……」
「挑戦します!」
「……あ、うん。わかった、挑戦を認めよう」
やったぜ!
偶然近くに落ちていた財布に救われた。これも日頃の行いが良いからだ、女神様に感謝しなきゃ!
「ルカさん、見ててくださいね! 僕の雄姿をその目に焼き付けてください!」
「貴方……盗みを行わないために賞金獲得するんじゃなかったの?」
「盗んでいません。落ちてただけ」
さあ、挑戦だ!
こんな催し物を開くくらいだ。対戦者のお姉さんはきっと相当な実力者なんだろう。しかし、負ける訳にはいかない! 僕には、勇者として人々を守る使命がある。こんなところで躓いている場合じゃないんだ!!
「そ、それじゃあ試合開始だ。まずは先攻を譲ってやろう、どこからでもかかって来い!」
そう言って大剣少女は、クイクイッと指で挑発してきた。中々、喧嘩慣れしているアクションをしてくれるぜ。そうとなれば遠慮はいらないだろう。
僕は、呪文を詠唱して、強力な魔物を召喚する魔法を発動した。
「《SAMONN‼︎》 パワードゴブリン‼︎ 序でにホブゴブリン‼︎」
そして現れたのは屈強な魔物達。
パワードゴブリンを先頭に、新たにホブゴブリンを二体召喚した。ホブゴブリンは、パワードゴブリンほど力は強くないけど、召喚コストが少なく済む。それに、成人男性以上の力を発揮出来るから結構便利な魔物なのだ。
さて、まずはお手並み拝見だ。お姉さんがどれくらいの剣士なのか見極めようじゃないか!
「よっと」
大剣持ちの少女は、メイン武器を片手に魔物達に向かって大剣を横に薙いだ。
そして、『ズバンズバンズバン!!』と言った感じで三体の胴体が真っ二つになった。
ゴブリン達は死んだ。
「うそぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおんんんっっっっ!!?!」
まさに瞬殺だった。あれほど屈強だった魔物はまるで豆腐か何かのように崩れて落ちたのだ。
いやおかしいだろうっ!? 田舎で一番の力持ち相手にだってホブゴブリンと互角程度だったのに、なんでその上位種のパワードゴブリンまでレナさんに続いてあっさり倒されてるの!? 意味がわからないよ!!
「ほー、魔法が使えるとは驚いた。でも、この程度の魔物を呼び出せるくらいじゃあ、お話にならないぞ?」
そう言って、大剣少女は素振りをするかのように武器をブンブンと振り回した。
彼女が、一体何を行なったのかさっぱりだが、事実として僕の魔物は蹴散らされた。想定外の状況に陥り、自然と僕の額から冷や汗が零れ落ちる。
そんな焦りを感じているのも束の間。今度は、こちらの番と言わんばかりに大剣少女が詰め寄ってきた。動きはレナさん程俊敏ではないが、このまま近付かれるのは非常にまずい。基本的に、遠距離戦闘型の魔法使いは接近戦に弱いんだ。
僕は、すかさずマジックシールドを展開する。『ガキンッ!』と金属音が鳴り響き、大剣が弾き返った。
シールドには…………傷一つない!
「よしっ! またヒビでも入るんじゃないかと心配だったよ!」
一瞬で召喚獣を倒されたのは驚いたけど、この様子だと彼女はレナさん程の実力者ではない。ならば、後は相手をどう降参させるかだ。
女性を屈服される一番の方法。……それはもう、『恥辱責め』でしょう!!
「という訳で、《SAMONN‼︎》ローパー‼︎ お前の必殺、触手プレイを見せてやれ!!」
名案を思い付いた僕の行動は早い。無詠唱で魔物を召喚して、そのいやらしい触手を持って大剣少女の肢体に這い寄r……あ、ローパーが斬り伏せられた。
「おい! このローパー、今アタシの肌を撫でようとしてきたぞ!!」
「き、気のせいです。普通に通常攻撃を行ったに過ぎません。じゃあ、次は二体召喚しますね(ポンポン)」
「……っ! また、身体中を這い回って……ちょっ!? 待て、何処を触ってるんだコイツラ!!」
ローパー達は、良い働きをしてくれていた。自慢の触手を巧みに操り、大剣少女の肌という肌を撫で感触を味わっている。
久しぶりに少女の体を堪能できて、ローパー達も喜んでいるみたいだ!
「ヒッヒッヒ! これだから勇者はやめられないぜぇ!! ローパー、次は服の中だ! 思う存分撫で回せぇぇ!!」
ローパー達は吼えた。主人の命令を受けて、タガが外れたように触手を暴れさせる。
大剣少女も、何とか触手に抗おうと腕を振るが思うように振り解けないようだ。そうしている間にも、ローパーは衣服の中にどんどん入っていった。
そして、
『ビリビリッ!!』と、破れるような音が響いた。
……何が起こったのか、言うまでもないだろう。
ローパーが、大剣少女をお約束とばかりにドレスブレイク、衣服を破ったのである。服の下から大剣少女のブラが飛び出て、その可愛らしい布切れが公衆の面前に曝け出された。
僕は吼える。
「やったぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!! ……これがっ!! 全男子が待ち望んだToLOVEる、『お色気イベント』!! 流石は勇者たる僕!! これぞ主人公!! 自分で自分を褒めてやりたいよ、遂にやったっっ!!!!」
よもや、『僕的! 勇者になったらやってみたい事ベスト3』に不動のランクインを果たしているお色気イベントを達成出来るとは!!
夢にまで見たこの瞬間、僕はこの時を待っていた!!
ビバ、勇者!! ビバ、エロティシズム!!
そう、これこそが……! 僕が生きる意味!! 人生を賭けるに値する、偉業なんだ!!!!
「……………………」
「あ、すいません。一人で盛り上がっちゃって。えーっと、どうやら決着のようなので降参していただけませんか? お姉さんには悪いですけど、僕にはお金が必要なんです」
「……………………」
大剣少女は何も言わない。
しかし、よくよく考えてみれば僕はただ服を破っただけで倒した訳ではないんだよな。僕的には、ドレスブレイクを達成した時点で大満足だけど、彼女はそうはいかないのかも?
ま、まさか!? 下着が露出したくらいじゃあ動じないとでも言うのか!?
流石は大人!! では、僕後何枚の下着を剥けば良いんだ!? それはそれで期待に胸膨らませるけどさぁ!!
「……………………」
大剣少女は何も言わない。
……ていうかこれ、怒ってない? 普通に考えて、服を破かれたら誰だって怒るよね。
ふむ、ではここは紳士として丁重に謝罪しなければならないな。
「ご」
僕は謝罪の一文字目を発した次の瞬間。
僕のマジックシールドは砕かれ、鉄血の拳が僕の頬に渾身の力で叩き込まれた。
「ブルッフォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!?!」
変な悲鳴をあげながら、僕の肉体は水平方向に跳ねた。僕の体は銃弾と言わんばかりに直進し、全てを貫通する。
まず、壁にぶつかった。僕は止まる事なく吹き飛んだ。
次に、物に突っ込んだ。僕は止まる事なく吹き飛んだ。
今度は、人に衝突した。僕は止まる事なく吹き飛んだ。
そして、窓を突き破った。僕は止まる事なく吹き飛んだ。
再び、壁にぶつかった。僕は止まる事なく吹き飛んだ。
……それからはエンドレスループだ。
壁、物、人、窓。
壁、物、人、窓。
順番が前後する時もあったけど、大抵はそれらに直進して、それでも僕の勢いは止まらない。真っ直ぐ真っ直ぐ進んで、ようやく動きが収まったのは、10軒目の民家に突っ込んだ後だった。
痛い。
……で、済めば良い方なのだろう。
普通なら、こんな暴力的な一撃を喰らって生きている者はいない。
「う、ううう……。一体、何が起こったんだ?」
僕は上体をあげて周りの様子を確認する。
すると、こんな声が聞こえてきたのだ。
『ド・ラ・ゴ・ン★ブレスッッ!!!!』
殆ど反射で身を翻す。
瞬間、先程まで僕が居た場所は高温の衝撃波によって蒸発した。まるで、いや本物の(レーザービーム』でも放出されたような光が、僕の体を粉砕しにきたのだ。
「な……ん……!?」
僕は、この攻撃に憶えがあった。
最強種の龍が編み出す技。全てを破壊する絶対の一撃。
……『龍の息』を。
「よくもやってくれたな、君」
「!?」
振り返ると奴がいた。
破かれた服を抑えて、胸を隠しながら鬼の形相で近づいてくる大剣少女だ。
「……小さい女の子だと思って手加減していれば調子に乗って。どうやら本気で痛い目に合わせた方が良さそうだ!!」
バッと、大剣少女の背中から何かが『生えた』。
それは、人間と比較してみればあまりに巨大。全長十数メートルは在ろうかという、翼だった。
僕は、思わず呟く。
「龍の翼、だと?」
「自己紹介がまだだったな。アタシは、『竜殺し』のアシュラ。人の身にして強大な種族、龍をこの手で屠り、その力を手に入れた。言っておくが、たかが一端の召喚師風情に、このアタシを倒せると思うなよっ!!」
そして大剣少女、アシュラが翼をはためかせた。
そう言えば、僕は小さい頃、師匠にとある事を教えてもらっていた。
「龍を殺した人間は、龍の力を手に入れる」と。