第1話「奴隷から女装へ」
前作の続きです。
前の話を読みたい方は、著者のマイページから「勇者になりたいショタ召喚師は、開幕五分で奴隷になりました。<短編>」をご覧ください。
前回までのあらすじ♪
幼い頃から勇者に憧れ、田舎の村から都会へとやって来た僕、ナオ・ヘビーローテーションは悪い大人に騙されて奴隷商に売られてしまったんだ。しかし、かけだしの召喚師である僕は様々な魔物を召喚し、使役して、次々と立ちはだかる困難を乗り越え、地下牢からの脱出を果たすことが出来たのさ!
そしてここは街の外。最強種の龍ヘブンズ・ワイバーンを召喚したせいで滅茶苦茶目立ってしまったので、僕達はほとぼりが冷めるまで郊外に居ることにしたのである。
そう、今の僕は一人ではなかった。僕の隣には、地下牢で偶然出会った美少女、ルカさんが座っている。麻の衣服を纏い、一見見窄らしい姿に思えるが僕にはわかる! 彼女は、間違いなく可愛いと!!
「……さて、脱獄してから1時間経過したし。そろそろ街に戻りますか」
「いやいやいやいや! 幾ら何でも早過ぎます、全然ほとぼり冷めてないですから!! あと、ナオさん……ですっけ? 貴方はいい加減服を着てください!」
ふむ、確かに今の僕は『全裸』だ。まあ正確に言えば、大事な部分だけはその辺で拾った木の葉で隠してるから今の僕は『99%全裸』と言ったところだろう。
当たり前のことだが、こんな街の外では服屋さんなんてどこにもない。服を手に入れるにはどうにかして街の中に入る必要があるんだ。
「あ、それとルカさん。失礼で申し訳ないんですけど、お金持ってます? 僕は、さっきの地下牢に持ち物全部置いて来ちゃったから手持ちが無いんですよ」
「……私も、突然連れて来られたので何も持っていません」
「そっか。そりゃあそうだよね」
そうして僕がどうしたものかと考え込んでいると、突然ルカさんが声をあげた。
「あ、あの! 一応助けていただいたのに、まだお礼も言えていませんでした! 改めて、助けていただきありがとうございます!!」
「んっ? いや、気にしないでください。僕はルカさんが可愛いから勝手に助けただけなんですから」
全ての女性を平等に愛し、困っている人がいるなら即馳せ参じるのが、僕の宿命みたいなもの。
ルカさん。僕はまだ、君がどういう人なのか全然知らないけれど、この機会により深い関係になれたら良いと思っております!
彼女と仲良くなるにはどうすれば?
では、『美少女と仲良くなるためのステップ1♪』=『男らしい部分を見せて相手のハートを撃ち抜こう!』。
「ねえねえルカさん。男が女を魅了にするのに一番大事なものって何だと思う?」
「な、何ですか?」
「答えわね、『肉体美』さ!」
そう言って僕は、マッスルポーズを決めてみせた!
「……………………」
「ふっふっふ、三歳の頃から鍛え上げた自慢の肉体。どうだいルカさん! 僕の虜になったかい!?」
「いや……。「その格好寒くないですか?」としか思いませんね」
どうやら失敗のようだ。
では、『美少女と仲良くなるためのステップ2♪』=『美味しいご飯をご馳走して胃袋をゲットしよう!』。
おそらくルカさんは、僕のことをただの少年だと思っているだろうから恋愛の対象になれていないんだ。ここで、『これでも料理出来るんだぜ!』ってところを見せつければ好感触を得られるはず!
「ちょっと待っててお嬢さん。今から美味しい食材を狩ってくるから。はい狩ってきた」
「早っ!?」
長年、田舎村で育ってきた僕にとっては、動物を狩ってくるなど一秒もかからないのさ。序でに、食べられそうな木の実も取ってきたぜ!
僕もいっぱい動いた事だしお腹が空いたな。そう言えばここに来てからまだ一度も食事をしていない。という訳で、ルカさんに食事を振る舞うと同時に僕のお腹も満たそうと思う。
「はい出来ました! 『鶏の蒸し焼き 〜フルーツソース和え〜』です!」
「はぁ……。えっと、いただきます」
「じゃあ僕も、いただきます!」
うーん美味い!!
この肉汁! そして柔らかな食感! どれをとってもパーフェクトだ!
「如何ですかルカさん!! 僕の自信作は!?」
「お、美味しいです……! でも、この料理どうやって作ったんですか? 食材はともかく、調理器具が……」
「ああ。なんか、近くのキャンプ地に置いてあったので借りて来ました。誰かの忘れ物ですかね、ははっ」
ズバンッッ!! と、僕の頭の上を何かが掠めた。
いきなり僕の背後から感じてきた殺気。反射的にしゃがんだから良かったものの、危うく首と胴体がサヨナラするところだったぜ!
一日に二度も命の危機に直面する今日この頃。僕は後ろを振り向き、僕に攻撃を仕掛けてきた相手のご尊顔を拝見する。
相手は……女性だった。
「ヤァヤヤヤヤァ〜ッ!! この不届きものメェイ!! マロの命より大事な蒸し焼き窯を盗もうとはぁ〜、命は要らないと見えるヨ!! 悪鬼めぇ、マロが成敗してくれヨォ〜!!」
しかも、滅茶苦茶キャラ立っている人だった。
その女性は、コック帽を被り、料理服を身に纏い、年齢は十代半ばだと窺える。そして片手には包丁を握り締めて、鬼の形相でこちらの方を見ていた。
そんなどこからどう見てもコックさんな女性と僕は、お互いにある事実に気付き「ハッ!!」と目を見開いた。
「こ、この人……ズボンの膝部分にりんごのアップリケ付けてる! 可愛い!」
「こ、このショタ……野外で華奢な体を惜しげもなく披露している! 可愛い!」
そして僕とコックさんは、互いにグッと握手を交わしたのだった。
完。
*****
僕達三人は、コックさんが拠点としているキャンプ地に来ていた。友好の証に着ていない服を譲ってくれるのだそうだ。僕は、コックさんから借りた蒸し焼き鍋を返して、あとお詫びとして作った料理をコックさんにも食べさせてあげた。コックさんは、凄く喜んでくれた。
「いや〜っ、やっぱり昨日の敵は今日の友! 仲良くなるって素晴らしいことだよねぇ、ルカさん!」
「えっ? さっきのやり取りに仲良くなる要素ありました? しかも昨日どころか出会って1分くらいで」
「だって、このコックさんりんごのアップリケ付けてるんですよ? そりゃあ好きになるでしょ!」
今時いないよ? アップリケ付けた女子なんて。だからこそのチャームポイント! これは、わかる人にはわかる萌え要素だ!
「……やっぱりこの子、ちょっと変だ。えーっと、じゃあ貴女は何で仲良くなったの? 包丁を振り回すくらい怒っていたのに」
「盗んだ相手が、美少年ショタで且つ全裸だったからネ」
「あー。こっちも変態だった……」
ルカさんが物凄くがっかりしたような目でこっちを見てくる。多分、僕が全裸なのが問題なのだろう。変態で本当に申し訳ないと思った。
でも大丈夫。僕は、コックさんからお洋服を貰うんだから。これで変態呼ばわりなんてされないぞ!
「それでコックさん。僕にくれる服っていうのは何処にあるのかな? あ、それとコックさんの名前教えて。僕は、ナオって言うんだ」
「マロは、マロだヨ。ナオくんの服はそこのテントにあるネ」
そう言ってマロさんは、自分のテントから洋服を取り出してくれた。
それは、どこからどう見ても女の子の服だった。白を基調とした可愛らしいデザインで、下はスカート。御丁寧に靴下まで用意してくれていた。
僕は、やや沈黙し、そっとこの服に指をさして尋ねた。
「あの、これは?」
「私が昔着ていた服ネ。もう着れないからナオくんにあげるヨ」
「……………………」
しばしの無言。
だが、しかし。女性から好意でくれた物を無碍には出来ない!
漢、ナオ・ヘビーローテーション! これから人生初の『女装』をします!
「それじゃ、僕は着替えますから二人共覗かないでくださいね」
「覗くも何も既に全裸じゃん」
「あ、そう言えばウィッグもあるから使っていいヨ」
「何故ウィッグを持ってるのこの人……」
*****
てな訳で着替えました女の子の服に。
アレだね。感想としては、長い靴下って履いたことなかったから凄く違和感があることかな。後、下がすっごく涼しくて不安になる。
極めつけはカツラ! 禿げてもないのに何故こんなものを被る必要があるのか理解に苦しむぜ!
「ヤヤァ〜! ナオくん、超〜似合ってるヨ〜!」
「ううっ……。こんな恥辱は人生で4回目くらいだよ」
最初に人生に刻まれる恥辱を受けたのは、師匠を「ママ!」って呼んでしまった事だ。あれは本当に恥ずかしかった。
因みに当時、僕のママは既に死んでいたので、僕も師匠も滅茶苦茶気まずい空気になってしまった事をよく憶えています。
「ルカちゃんも、ホラッ! ナオくん凄く可愛いと思いませんか!?」
「た、確かに可愛い……って、いやいやいや! 違う違う! それよりも今はやらなきゃいけない事があるはず!!」
そう言いながらも、ルカさんはチラチラと僕の方を覗き見ていた。心なしか顔が赤くなっているようにも見える。うーん。女子の視線を集めるのは嬉しいんだけど、出来ればもっと男らしい姿を見せたかったよ。
そしてルカさんだが、彼女も僕と同じように麻の服から普通の洋服に着替えていた。マロさんが他にも余っている服があるからと言って貸してくれたのだ。流石にあの格好じゃ寒いだろうからなぁ。
それにしても……。
「ルカさん! そのお洋服とても似合っています! やはりルカさんは紛う事なき美少女だった!!」
「あ、ありがとう、ございます……」
「ところでルカさん。この後、どこかに行く予定とかあるんですか?」
「……いえ。私は元々、あの街に向かう途中だったんだけど、人さらいに攫われてしまって……。街へは仕事探しを目的に向かっていたんです」
「仕事探し? ああ、ルカちゃんも都会の暮らしに憧れて上京した口かネ?」
「そ、そんな感じです……」
ふむ、じゃあ今のところは行くアテが無いってことか。
それは好都合だ!
「ルカさん」
「はい。何でしょう?」
「僕、実は勇者になりたいんですよ」
「はぁ、そう言ってましたもんね」
「勇者には仲間が必要です。だからルカさん。僕と一緒に、この世界を変えませんか?」
僕は、出来るだけ男前の爽やかな感じでルカさんを勧誘した。
女装姿なのが締まらないけれど。
「え? な、何故私を?」
「そりゃ何となくですよ」
「……えっと、ふざけてます?」
「とんでもない! 大真面目ですよ! 強いていうならば、ルカさんが「可愛い!」って事と、「可憐!」って事です! それと、行くアテがなくて困ってそうだから人助けも兼ねて!!」
「確かに、行くアテが無くて困ってはいますが……」
「じゃあ仲間になりましょう! 大丈夫! 僕は、全ての女性に対して忠義を尽くす漢! 必ずやルカさんの役に立ってみせます!!」
そう言って僕は膝をついて、ルカさんの手の甲に軽くキスをした。
「……え。ちょ、ナオくん!?」
ルカさんの驚いた声が聞こえてくる。
ふっふっふ、どうだ! まるで、お姫様に忠誠の証を示す騎士のように様になったポーズ! これは、ルカさんも少しはときめいてくれてるだろう!
「オ〜! ナオくん大胆! ベリーキュート&プリティー!! これはマニアには堪らない一枚になりそうネッ!!」
マロさんは、興奮した様子でカシャカシャとシャッター音を鳴らしまくる。どうやらカメラを所持していたらしい。
待てよ。キュートでプリティーだって?
……そう言えば、僕女装をしてるんだった。これでは、どんな事をしても男らしさ皆無だろう。とんだ盲点だったぜ。
「ていうか何撮ってるんですか! やめてくださいよ恥ずかしい!」
「まあまあルカちゃん。これも旅の記念にと思って撮られておくね。きっと良い思い出になるヨ」
「その口ぶりだと、マロさんも私達について来るっていう風に聞こえますが……」
「うん! マロも、ナオくんとルカちゃんと一緒に旅のお供になるネ!!」
「本当ですか!? 凄く嬉しいです!!」
やったぁ! これで仲間をゲットだ! しかも二人共すっごく可愛い!!
まさにこの状況は、僕の理想が叶ったというべきだろう。これだから勇者は辞められないぜ!
「よっしゃー! 新しい仲間が出来た事だし、今夜は宴だぁー!! 街へ戻ってパーティーをするぞぉ〜!!」
「オオーーーッ!!」
「ええ……。私達、お金がないって言ってるのに……。大丈夫なのかなぁ、この二人で」
ルカさんは、不安そうな表情で街の方を見つめた。
僕達がこれから向かうのは、国で最も豊かな街『ユガンダール』。僕とルカさん、そしてマロさんは肩を並べ合う仲間同士として、共に同じ道を突き進んで行く。
そう、これからだ。これからが僕の、僕達の冒険の開始地点。
僕達の戦いは今、これから始まるんだ!!
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「見つけたぞ! 指名手配中の容疑者だ!! 手配書の似顔絵と一致している!! 全員で囲え、絶対に逃すんじゃないぞ!!」
リーダーらしき男が、他の衛兵仲間に指示を出している。衛兵達は、僕達三人を完全に囲うように円を作り、ジリジリとその距離を縮めていった。
「女子供でも油断するな! 相手は街に大穴を開け、建造物をいくつも薙ぎ倒した凶悪犯だ!! ドラゴンを見たという目撃情報もある!! 気を引き締めてかかるんだ!!」
……あー。そう言えば僕、街で滅茶苦茶大騒ぎしちゃってたんだ。完全に忘れていたよ。
やれやれ。どうやら僕が勇者道を歩み始めるのは、もう少し先になりそうだぜ。