5 クナディン・ミルティン
間奏的なものなので短いです。残酷な表現があります。ご注意ください。
「先生!! 英生は?」
「寝ているよ。麻酔で」
「それで手は?」
「…筋が切られて、指が数本折られているらしい。両手ともだ。手術をして、日常生活はどうにかこなせるようになっても…、もうピアノは弾けない」
「両手? 筋を切られて…? そんな。いったい誰が! だって英生はうらみをかうような人間じゃない!」
「犯人はわからない。警察では下町あたりでけんかに巻き込まれたと思ってる…」
「英生はそんなところに行きませんよ」
「わかっている。でも警察は…。彼は日本人だし…」
「旅行者じゃあるまいし! 英生は何年もここに住んでるんですよ!」
「そういったんだが…」
「先生! 大丈夫ですか! ここに座って…。酷い顔色だ」
「どういったらいい? 英生に…。クナ…どういったらいい?」
「…………」
「英生は…最初に私がどうしてピアニストをめざすのか聞いたとき……。言ったんだ」
「ミルティン先生」
「ピアニストになれば、ずっとピアノを弾いていられるから。ピアノだけを弾いていられれば、それで本当はいいんだって。彼は……」
「先生。休んでください。あなたがまいってしまう」
「クナディン…どういったらいい? 英生に…。どういったら……」




