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Happy birthday 涼花ーAge6 その3

一方、シスター紫子や母親の静香、妹の春華をはじめとした周りの人たちから祝福を受けているその涼花ちゃんが特大のバースディケーキの真上にまっすぐと立った六本六色の蝋燭の火にフーッと息を吹きかけた。


すると真島神父が「それでは今日朝早くからなべともさんと一緒に作り上げたこのバースディケーキをみんなで食べましょう」と園児たちに呼びかけて直径24センチ以上もある特大のストロベリーショートケーキをケーキ専用のナイフで切り分けてから静香や春華も含めて全員で食べることになった。


教室の園児たちは皆美味しそうにそのケーキを食べている。

不味そうな顔をしている人は一人もいないといってよい。


そのような園児たちの様子を一年中同じ安物のスーツを着て人相も良くない不格好な男-田中雅司がお腹をすかしながら羨ましそうに眺めていた。


そこにシスター紫子が「雅司さんもせっかく手伝ってくれたのですから遠慮なくケーキを召し上がってください」とそのストロベリーショートケーキを雅司に差し出した。


雅司は早速、園児たちに好評のそのストロベリーショートケーキをいただくことにした。


「いや思ったとおり本当にうまい。こりゃ園児たちも大喜びなわけだ。」


そのケーキは別海町名産の牛乳を素にした生クリームのまろやかさと栃木産のイチゴの甘さが絶妙にマッチして格別の美味しさを引き出していた。


そうやって雅司がストロベリーショートケーキを食べているところになべともさんがやってきた。


「このケーキ、生クリームとイチゴがより一層美味しさを引き出しているねぇ~。」


「いや、本当ですね。それを作った真島さんが今年の10月に教会主催のチャリティーバザーで手作りのクッキーやケーキを出すと言ってましたけれどこうやってケーキを振舞うのもいいかもしれませんね。」


「それでさ、今そこに涼花ちゃんのお母さんが来ているんだけど噂どおりの美人さんだねぇ~。」


「もしかして、あの小さい女の子を連れて紫子さんとお話をしている女の人ですか?」


「そうだよ、そこにいるいかにも和服姿が似合いそうな背が高くて長い黒髪をもった女の人だよ。」


「こうやって見てみるとなんかミステリアスな感じもしますよね。」


涼花ちゃんのお誕生日会がおこなわれている教室の片隅で雅司となべともさんはストロベリーショートケーキを食べながらしばらくの間、立ち話を続けていた。


雅司がそうやってストロベリーショートケーキを食べながらなべともさんと立ち話をはじめてから一時間近く経った。


ストロベリーショートケーキは雅司の胃袋に全て溶け込んでしまいその跡形すらない。


するとストロベリーショートケーキを食べ終えた雅司のもとに、背の高い長い黒髪をもったあの美しい女性が雅司のもとにかけ寄ってきたのだ。


その美しい女性は雅司の元へと駆け寄ると「はじめまして、横山涼花の母親の横山静香でございます。」と優しく落ち着いた口調で雅司に軽く挨拶した。


横山静香という名前のその女性は上品な洋服や和服姿がいかにも似合いそうな落ち着いた清楚な雰囲気とどこか影がありそうなミステリアスな雰囲気が表裏一体となって醸し出されており、まさに絶世の美人である。


2人の女の子の母親であるその美しい大人の女性-静香も実体のないダメ人間幽霊である田中雅司の存在を認識することができるようだ。


そのダメ人間幽霊である田中雅司も緊張した様子で「はじめまして」と静香に一言挨拶した。


すると静香はシスター紫子から話を聞かされていたのか、先日涼花が幼稚園のベランダで雅司に出会ったことやその雅司が近所に住む真沙枝さんの飼い猫を救出してくれたことを当の本人に話したのであった。

さらに静香はこう話を続けた。


「あの娘-涼花は私と同じく生まれつき体が丈夫な方ではないんです。」

「あの娘が2歳になったときに肺炎に罹り一週間も生死の境をさまよっていたんです。あのときは私も主人もただただ祈るしかありませんでした。」

「今こうして6歳の誕生日を無事迎えることができたのが奇跡だと思っています。これからもこんな風に誕生日を迎えることができたら私達夫婦や春華にとっても一番の幸せです。」


そこに雅司が二つぐらい気になっていたことを静香に尋ねる。

「ところで今日ご主人はどうしているのですか?」

「学会の関係で今東京にいるんです。」

「学会って、ご主人はどっかの大学とか研究機関に所属していて何かの研究をされているのですか?」

「ええ、北海道大学の農学部で家畜繁殖学の教鞭をとっているんです。以前は農林水産省が管轄する国営の畜産試験場に勤務していたんです。」

「へぇ~そうなんですか。大したものですね。それで用務員のなべともさんから聞いておりましたけどお母さんはお琴の先生をされているそうですね?」

「ええ、自宅で週3日から週4日ほど近所の方々や学生さんたちなんかを集めてお琴を教授しているんです。私自身小さい時から曾祖母や祖母から厳しく手ほどきされたものですから。よかったら今度私たちの家に来ませんか?今涼花も私のもとでお琴の練習をしているところなんですよ。」

「それは是非よろこんで。」


この不格好な姿や汚ならしそうな服装から見てもわかるようにとても邦楽や筝曲が似合うとは思えない雰囲気の雅司にお琴などできるのだろうか。

知性や教養、品格を身に付けたいのならともかく雅司がお琴の教室に行きたい一番の目的は和服姿がお似合いの長い黒髪がトレードマークである絶世の美人とただただ一緒にいたいだけなのである。


そうやって2人の娘の母親である静香とダメ人間幽霊の雅司が親しげそうに話をしていることに嫉妬したのか雅司のことを警戒していたのか2人のすぐぞばにいた上品なワンピースを着た黒髪ツインテールの女の子-春華が母親である静香の腕にしがみつきながら雅司の方を睨みつけた。


そして春華は雅司に向かって「アッカンベー」のボディーランゲージを発したのであった。


そんな春華を母親の静香は気に留めながらもやさしく抱擁する。

「あらあら、春華ったら私がこんな知らない人と話をしているから一人で寂しかったのね。雅司さん本当に申し訳ありませんでした。春華、ちゃんと謝りなさい。」


静香に言われるがままに春華は不機嫌そうな表情で幽霊の雅司に「ごめんなさい」といって深く頭を下げた。

雅司に深々と頭を下げた春華はそのまま静香のもとにかけよりそのまま彼女にしがみついたのであった。


そんな春華を見た雅司は彼女たちの方を振り向きながら一人でこう呟いた。

「どんなにいいお洋服を着ても可愛くもなんともないクソ生意気なガキだな。」


そんなことをしているうちに涼花ちゃんのお誕生日会もいよいよ終盤に近づいてきた。


すると6歳になったばかりの横山涼花ちゃんが「これまで私に深い愛情を注いでくれたご家族の人たちと紫子先生や神父様をはじめとした幼稚園の方々には心から感謝しております」と日頃からの感謝の言葉を述べるのと同時に「これからも健康第一で勉強や日頃の生活を頑張っていきたいです」と今後の抱負を述べたのである。


それを聞いたシスター紫子は彼女の言葉が心に響いたのか、賛辞を送るかの如くなりふりかまわず拍手を続けた。

この様子を教室の片隅で見ていた雅司は「俺が幼稚園の頃はこんなしっかりしたことを言うことなんかできなかったなぁ~」と漏らしたのである。

みんなが真島神父特製のストロベリーショートケーキを食べ終わり涼花ちゃんのスピーチも終ったところで涼花ちゃんのお誕生日会が終了し、園児たちはお家へと帰るために準備へとはいった。


「涼花、これからお家でお父さんやお祖父ちゃん・お祖母ちゃんたちとお誕生日会をやるから一緒に帰るわよ。」

静香が今日のお誕生日会の主役である涼花にそう呼びかけると当の涼花ちゃんもこう返事した。

「わかりました、お母さん。」


そんな静香と涼花の様子を見てどこから現れたのか雅司が「もしかして今日この2023年4月1日が涼花ちゃんのお誕生日だったんですか?」といきなり静香に尋ねだした。


その問いかけに対して静香は「そうなんです。6年前の2017年の4月1日にこの子が産まれてどんなに厳しい環境や幾多の困難を乗り越えて立派に成長してほしいと言う願いから“涼花”という名前にしたんです」と命名についての経緯を雅司に話した。


静香の言葉に雅司がこううなずく。

「そうだったんですか。どおりで紫子先生もいつになく張り切っていた様子でしたしお母さんや妹さんもここに来たわけですよね。」


それから数分間、雅司と静香は簡単な会話をしたのち、静香が「雅司さん、今度機会があったらうちに遊びにいらしてください」と雅司に告げてから二人の娘を連れて自宅に戻る準備を始めた。


「この涼花ちゃんが産まれたとき俺は彼女が周りの人間達から祝福される姿を病室の蚊帳の外でひそかに見守っていたんだ。」  


この時横山涼花はまだ知るよしもなかった。

"天からの落とし物"と言える田中雅司との運命的な出会いと二人を軸に様々なドラマが繰り広げられていくことを。

この6月から7月にかけて"Happy Birthday 涼花"を3回に渡って断続的に連載・執筆をしてこの7月20日に終わることが出来ました。

自分自身この「涼花 幼稚園篇」を2017年3月にスタートさせてから約4ヶ月ほど経ちましたが自分自身が心身ともに不安定かつ不健康でやることやスランプに陥ってなかなか筆が進まなかったことなどもあって4月から5月までの間に予定していた"Happy birthday 涼花"の連載・投稿がこの7月20日になってやっと実現するはこびとなりました。

2017年の7月から8月までの間に「涼花 小学生篇」からの本格的な連載を始めたいと考えておりますが、それまでに「涼花 幼稚園篇」の石狩・花川の郊外保育-秋の体育の集い-予備校生による幼稚園窓ガラス襲撃事件-クリスマスの演劇祭-卒園式を執筆していきます。

そのため「涼花 小学生篇」からの本格的な連載・執筆が来年以降になる可能性がありますが、年内に「涼花 幼稚園篇」を完成させることにします。

こうして執筆・連載が大幅に遅れたことは私自身の不徳に致すところであります。

これからも連載小説『涼花ー才色兼備の大和撫子と不器用系ダメ人間幽霊との交信録』を楽しみにしていてください。

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