愚者の邂逅
久しぶりの更新ですね…!!!
おたせして申し訳ありませんでした…(待っている人がいるかは別とする)
「ーーーーハァッーーーハァッーー…。」
迂闊だった。
警護の身にありながら警護対象を見失い、挙げ句の果てに私自身が敵に追われている。
学園内の森だからといって油断しすぎた…!!
ゴーストはどこにでも潜んでいる。それこそ、手練ともなると簡単に足はつかない。
学園を誰よりもいい成績、つまり首席で卒業し、マトイ日本支部への優遇された就職。そしてゆくゆくはレートSのマトイとして自分の支部を作ってやろうと…
私の人生設計がこんなところで頓挫していいはずはない!
しかし事実、このままだと追い詰められるのは時間の問題。
「ッ…!
一体なんなのよ…!!マトイ育成日本校で1位なのよ…?!その私を追い詰める…?!
ふざけんじゃないわよ!!」
『マトワレ』であるパートナーさえ近くにいれば…!
「…!」
前方に突如人の気配がする。
…さっきまで感じてもいなかった。
自分の感知範囲内で活動している人間に気付かなかった…?
最悪の可能性を頭に入れ、私…サリア・オーレタムは戦闘態勢に入る。
…マトイとはいえ、武道の心得があるとはいえ。生身で2人を相手取ることが出来るのだろうか…?
「やるしかないじゃないッ!!」
そう叫んだ瞬間
《弾丸》が。
数え切れない量の《弾丸》が、私の周りを飛び交う。
後ろで私を追っていた敵対者が力尽きる気配。
…驚きで声が出ない。
………まさか、一撃で?
「あ、えっと、すみません…。」
鈴の音のような心地よい声が前から歩いてくる。
「お怪我は、ありませんか?」
そこに立っていたのは特徴的な白銀の頭髪を腰まで下ろした、華奢で私と同じくらいの背丈の少女。
それに何故か背後にはもっと幼いように見える少女が宙に浮いている。
それが、王との邂逅。
「助けてくれたことには、感謝するわ…。
ありがと(ボソッ)」
ひょんなことから人助けをすることになってしまった…。
「いえいえ。どういたしまして。
困っている時はお互い様です。」
口では常套句の様な返しをしつつ、心の中では必死に考えを回らせる。
…とりあえずマトイを解除しよう。
「いいよ。ありがとう…ロ…」
本名を名乗ってしまっていいものだろうか。
いや、知られない方がこの先いいのかもしれない。
「ロード。戻っていいよ」
直後、僕の背後に佇んでいた女の子に銃やローブが呑み込まれていく。
「やっぱり貴女…マトイだったのね。
そうじゃないとゴーストをあんな簡単に倒せないわよね。」
「ええ…。
まぁ、ご無事なようで何よりです。」
とりあえず自己紹介をしよう。
向こうからわざわざ父様に話をしてもらって、2人で大丈夫と言って案の定迷ったなんて。
父様に知られたらすごく怒られてしまう。
「貴女の名前は?
助けてもらったのにまだ貴女のこと何も知らないわ?」
好都合。向こうから聞いてきてくれるとは思ってもいなかった。
「えっと、ボクの名前は…」
偽名…咄嗟に思いつかないな。ロードと同じにするか。
「クラウン・アリスと言います。
こっちは妹のロード・アリスです。」
やっぱりちょっと不自然になっちゃったなぁ。
「ふぅん…。
私の名前はサリア・オーレタムよ。よろしくね。クラウンさん。」
とりあえずこれでしばらくは大丈夫。バレやしない。
「えっと、オーレタムさん…?実はちょっと聞きたいことが…」
「サリアでいいわよ。私もファーストネームで呼んだのよ?遠慮なんていらないわ。」
オーレタムという名に聞き覚えがない訳では無い。
オーレタム家は、僕の母国ロシアのかなり大きな資産家だ。
おそらくそこのご令嬢。
まあ知らないふりをするけど。
「えっと、それでは。
サリアさん。ボク達はマトイ育成日本校に行きたいんです。
見た所その制服、マトイ育成校のものの様ですよね?」
命を助けたんだ。恐らく断られることは、無いだろう。
「良ければ、ボク達を連れて行ってくれませんか…?」
もう予定時刻を30分近くオーバーしてしまっている。
流石にこれ以上遅れてしまうのは良くないだろう。
「それは別に構わないけど…実は私今の今まで要人警護の任務に就いていて…」
…さっき森の外まで送り届けたあの人だろうか。
確か名前は…
「…ニノマエ氏、ですか。」
「!どうしてその名前を…?!
まさか貴女…!!」
しまった!
相手を無駄に警戒させてしまった…?
「ち、違います!
さっきボクが森の外まで送り届けてきたんです…。」
「…私は、貴女に2度。助けられたわけね。」
落ち込ませてしまったようだ。
でも、仕方ない。
酷なことを言うようだが、要人警護にマトワレを連れていないサリアさんが今回は悪いだろう。
普段のこの子を知らないから何も言えないが。
「まぁ、いいわよ。
着いてきて。ここからそんなに遠くないわ。」
彼女のあとをついて歩く。
…あのゴースト。おそらく死んでいないな。
どうやら随分と力のあるゴーストだったようだ。
まあ深手を負わせたことには間違いない。
しばらくは暴れることはないだろう。
そんなことを考えていると、後ろから裾を引かれる。
「…どうしたの?」
「…私、名前。ロード?」
あ、そっか。
なんで偽名にしたのかをちゃんと言わなきゃ…
前にはサリアさんがいるから、なるべく小声で話す。
「本名を言うと、もしかしたら…と思って。」
ボクの妹は物分りがいい。
コクっ。
この短い説明だけで理解し、頷き返してくれる。
なんてことをしているうちに、大きな建造物が見えてきた。
「着いたわよ。
…ようこそ。マトイ育成日本校へ。
私は2年首席のサリア・オーレタムよ。
2度目の自己紹介になっちゃったわね。」
クスッとサリアさんが笑う。
(何だ。さっきからずっと怒ったような顔をしてたけど、こんな顔もできるんだ…。)
「…今失礼なこと考えなかった?」
「そんなことないですよ!!」
カンも鋭いみたいだった。
無事に着けた。とりあえずはそれをよしとしよう。
とりあえず話は通してもらっているから、学園長に挨拶しに行かないとなぁ…。
「…ふふっ。
元気してるかなぁ。ウルマ姉さん。」
このとき、ボクはまだ分かっていなかった。
マトイ育成日本校は、由緒正しき女子校。
さて。これからが楽しみである。
もちろん今までのシリーズも並行して進めていきます。
これからもよろしゅうお願い致します…ヨボヨボ