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私のMP3プレーヤーは異世界仕様  作者: 三十三 魚ゑい
第一章:奈落までの前奏曲
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ステータスチェック

お昼に一話投稿してますのでご注意ください。


ステータス考えるのって大変ですね。

 ステータスチェックの一番手は当然と言おうか、奴だった。サフィール王女は眼前へ立つ奴をモノクル越しに見つめる。


「私の魂器は『究理のモノクル』と言います。物の本質を見抜くウェポンランクSの魂器です。

 今からこれを用いてあなた方の魂器のランクや能力を調べさせて貰います。

 ステータスの確認は訓練内容を決める為に私と騎士団を統べるアレクサード第一王子、アシエ副団長、ジャスプ神官長の四人で閲覧させて頂きます。よろしいでしょうか」

「ええ、構いません」


 奴が頷くと、王女と一緒についてきていた青年と召喚の間にもいたおじさんとおじいさんが小さく会釈をした。

 アレクサード王子は王と同じ金髪とエメロード王女と同じ翠緑の瞳をしたイケメンで、サフィール王女よりも年が上に見えた。


「では魂器と魂板の顕現をお願いします。魂板は第三者への閲覧を望むと見せたい人物を設定出来ますので、私達四人を設定するようにしてください」

「分かりました」


 奴の体から金色のオーラが溢れる。聞きたくもないのに取り巻き共が「……綺麗……」とうっとり呟くのが聞こえた。


「ふぅ……これが僕の魂器とステータスです」




『聖川 光明 十七歳 男


 Lv.1

 SP:100/100


 攻撃力:150

 物理耐性:120

 俊敏性:145

 精度:112

 魔法素養:82

 スキル攻撃力:140

 スキル耐性:138


 スキル一覧

アミューズ言語(極) 絶対(アブソリュート)正義(ジャスティス)Lv.1 剣王Lv.1 自由切断Lv.2 光属性Lv.3 闇耐性Lv.3 身体強化Lv.3』




 奴の手に現れたのは派手な装飾のなされた黄金の両手剣と私と比べるべくもないチートなステータスだった。見せびらかしたかったのか、全員が閲覧出来るように設定したらしい。

 後続も追随しなければいけなくなりそうなことをしないで欲しい。


 奴の正に勇者と言わんばかりの魂器やステータス構成を誉めそやす声が聞こえる。淡く輝く剣をモノクルで鑑定していた王女も息を飲んでいた。


「これは……素晴らしい。SSランクの魂器は久しぶりに見ました。まだ『魂の格』が上がっていないのに、五つも派生スキルを持つ魂器ですか。しかもレア属性の光に、剣術スキルの最高位の剣王まであるとは。

 それに所持者の望むものを斬る自由切断? これはユニークスキルですね……『絶対正義』……恐ろしい魂器です」

「ステータスも見事だな。レベル1にして常人の十倍近くとは……アシエ、我々もうかうかしていると簡単に追い抜かれてしまうぞ」

「はっ、肝に銘じておきます」


 奴のステータスが常人の約十倍と言うことは、私のステータスは常人の十分の一と言うことか。確かに運動は苦手だが、これはあんまりな気がする。


「ありがとうございました。では次の方、お願い致します」

「分かりましたわ」


 やっぱりと言おうかハーレム一号の茶十島さんが意気揚々と王女の元へ向かう。

 彼女もまたステータスを全員に開示していた。常人の約十倍であるらしい百を超えたステータスと四つもあるスキルに王女達は目を見張っている。

 残りの取り巻き達も軒並み素晴らしいステータスにスキルだった。シンパ共は平均百前後でスキルは三つと、奴らよりも低くはあったがそれでも充分な強さを持っているようだ。

 まあ、私に比べればみんな充分チートだと思う。


 もちろん尖った能力やステータスの人もいた。中立派はそれが顕著だったように思う。

 スマートフォンが魂器だった大磯れなさんが正にそれで、攻撃力や俊敏性が二十前後と一般人程度だった代わりに、魔法素養やスキル攻撃力なんかが奴を超えていたのだ。まあ、黒ギャルの彼女は「ふーん、あっそ」と一言で済ませて、魂器(スマフォ)にパクモンアプリが入っていないことに苛立っていたのだが。

 次元通路でパクモンをやっていたのは彼女だったようだ。


「ねぇ、葵ちゃん、遼、鉄也くん」

「ん? どうしたの?」

「なになに?」

「どうした、伽羅橋ぃ」


 私は気になることがあって両隣と前に座る三人に声をかけた。周りに聞こえないように声を潜める。


「みんなのステータスにはレベルがあるの?」

「え、そうね……ええ、あるわ」

「歌ちゃん、まさか」

「うん」


 葵ちゃんがステータスを確認してくれる。他の人はレベルがあるようだ。

 私の言葉に不穏なものを感じたのか遼が眉を寄せる。頷くと鉄也くんが「あっちゃぁ」と額を押さえた。


「というか、みんなとステータスとか諸々違いすぎる。逆チートで人生ハードモードだよ」


 三人にだけステータス閲覧を許可して魂板を見せる。




『伽羅橋 歌乃 十六歳 女


 SP:0/0


 攻撃力:1

 物理耐性:1

 俊敏性:1

 精度:1

 魔法素養:0

 スキル攻撃力:1

 スキル耐性:1


 スキル一覧

アミューズ言語(極) 異世界式MP3プレーヤーVer.1.00 聴覚強化Lv.1 精神耐性Lv.3』




 何度見ても酷いステータスに、初めて目にした三人は同時に頭を抱えた。

 本当に迷惑ばかりかけて申し訳ないと思う。


「いつもいつもごめんね」

「い、いやいやいやっ。別に歌ちゃんのせいじゃないでしょ! そもそもこんな場所に召喚した管理者とか言うのが一番悪いんだから!」

「そうよ、歌乃ちゃんは何も悪くないわ。歌乃ちゃんは私達が守るから、無理しないでね」

「おうよぉ、フォローは出来る限りやってやんぜぇ」

「……ありがとう」


 三人の必死のフォローが心に染みる。

 とりあえず私達四人は話し合って、王女達だけにステータス開示をすることにした。ついでに三人のステータスを見せて貰う。若干の抵抗を見せながらも、三人はステータスを閲覧させてくれた。




『二雁 葵 十七歳 女


 Lv.1

 SP:95/95


 攻撃力:147

 物理耐性:81

 俊敏性:172

 精度:130

 魔法素養:66

 スキル攻撃力:110

 スキル耐性:88


 スキル一覧

アミューズ言語(極) 双牙(そうが)Lv.1 刀鬼(とうき)Lv.1 見切りLv.1 瞬歩(しゅんほ)Lv.2 気配察知Lv.3 身体強化Lv.2』




『治石 遼 十六歳 女


 Lv.1

 SP:120/120


 攻撃力:76

 物理耐性:88

 俊敏性:130

 精度:125

 魔法素養:91

 スキル攻撃力:135

 スキル耐性:120


 スキル一覧

アミューズ言語(極) ダグザの大槌(ダグザハンマー)Lv.1 大槌術Lv.2 治癒術Lv.2 地属性Lv.1 火耐性Lv.2 身体強化Lv.1』




『真壁 鉄也 十六歳 男


 Lv.1

 SP:85/85


 攻撃力:70

 物理耐性:167

 俊敏性:60

 精度:98

 魔法素養:55

 スキル攻撃力:64

 スキル耐性:151


 スキル一覧

アミューズ言語(極) 折れない心(ライオンハート)Lv.1 盾術Lv.3 臥薪嘗胆Lv.2 身体強化Lv.3 自己再生Lv.1』




 三人の気遣ってくれる視線が、痛い。

 いやもう羨むだけ無駄だから気にしないでくれるとありがたいんだが。

 いっそここまで差があると清々しく思えてきた。


「次の方、こちらへお願いします」

「あ、はい!」


 サフィール王女から声をかけられる。あとは私達四人だけになっていた。

 葵ちゃん、遼、鉄也くんの順にチェックしていく。ウェポンランクは順にS、S、A。

 葵ちゃんは俊敏性がクラス随一の数値で、スキルでは刀鬼がユニーク、瞬歩がレアだった。

 遼は数値は魔法素養が高く他もクラス上位であり、スキルでは治癒術がレアだ。

 鉄也くんは物理耐性とスキル耐性がトップで、臥薪嘗胆がユニークスキルになるらしい。


「ではあなたで最後になりますね」

「はい、伽羅橋です。よろしくお願いします」


 小さく頭を下げてから、四人へステータス閲覧を許可する。


「これは……」


 モノクル越しの瞳が大きく見開かれた。サフィール王女は薄く唇を開き固まってしまう。今まで淡々と進めていた彼女にしては大きなリアクションだ。三人の男性陣は「何だ、このステータスは」「レベルが、ない?」と口々に呟いている。

 それを耳聡く聞きつけたのは奴だ。演技じみた表情と動きで私へ迫ってくる。


「うた、君のステータスはどうなっているんだい? 何だか王女達が驚いているようだけど……

 今後の為にも僕に見せてくれないか?」

「お断りします」


 見せる義理はない。私は遼の拳が振りかぶられる前に奴へ答えた。

 奴は目を細めて微笑む。私の抵抗がそんなに面白いのか、口角を上げた奴は私から背を向けると一人の女子生徒へ近付いた。


矢笈(やおい)さん。君、鑑定持ってたよね?

 うたは自分で言うのが恥ずかしいみたいだから教えてくれないかな。

 うたは大切な幼なじみだから僕が守らなきゃいけないんだ。だから彼女のステータスも僕が知らなきゃいけないんだよ」


 極上のスマイルで、奴は自分のシンパである矢笈薔子(しょうこ)さんに声をかける。遼や尾根先生が止めているが奴の耳には入っていないらしい。

「ダメかな?」と更なる追撃を加える奴へ、矢笈さんはずり落ちてもいない黒縁眼鏡をしきりに上げながら口を開いた。


「うぇええ? で、ででで、でも、聖川くん。ステータスは重要な個人情報だって言ってたよ?」

「うん、だからこそ知っておきたいんだよ。そうだろう?」

「だ、だけど、伽羅橋さんは嫌だって」

「ちょっとあなた! あなた如きがコウの言うことに逆らうって言うの!」

「そうですよ。力を得て調子に乗りましたか? 大したステータスでもない癖に」

「ひっ……ご、ごごご、ごめんなさいぃ……」


 遠回しに拒否する矢笈さんへ茶十島さんと鷹田さんが詰め寄る。非難の声に首をすくめながらも矢笈さんはなかなか私を鑑定しようとしない。

 私は少し驚いていた。矢笈さんは「聖川くん、聖川くん」と友人とキャーキャー言っていたはずだ。それが私の肩を持つなんて。非日常は人の心に大きな影響を与えるようだ。


「聖川ァ! アンタいい加減にしなさ」

「これで、満足ですか」


 泣く寸前まで矢笈さんが追いつめられ、尾根先生の雷が落ちる直前、私はステータスの閲覧を全員に許可した。クラスメートの視線が、私の寂しい魂板に集中する。


「……ぷっ、あはははは! なぁに、それぇ! ダッサー!」

「ぜ、ゼロってなんだよ! は、腹痛ぇ!」

「一ってことは一般人以下ぁ? みんなのステータスのいくつ下だよぉ? お前本当に地球人かぁ?」


 割れんばかりの嘲笑が部屋を包む。奴の取り巻きやシンパは目に涙を浮かべ腹を抱えて笑っていた。

 私は涙目の矢笈さんに、早くそこから離れろと顎をしゃくってみせた。こそこそと友人のところへ逃げる矢笈さんから私は目を離す。

 自分で開示するのも矢笈さんから報告されるのも結果は同じだ。だったら自分でさっさと見せてしまった方が時間のロスにならなくて済む。

 決して責められる矢笈さんが昔の私と重なって見えて気分が悪かったからではない、決して。


「うた、やっぱりうたのステータスはそれくらいだよな。うん、分かってたよ。

 魂器も、MP3プレーヤー? そんなので戦えるわけがないよな?

 やっぱり僕が守らなきゃダメなんだ。うたには僕が必要なんだよ。

 ねぇ、うた。そうだろ?」


 感極まった奴はぶるりと震え、興奮で頬を紅に染めて歌うように語った。余りの気持ち悪さに自然、足が一歩後ろへ下がる。

 それは黄色と葵色のオーラを立ち昇らせる遼と葵ちゃんも同じだったようで、二人は奴の言葉を遮るように自分の魂器を一度思い切り横へ振った。


「あああああ! 気色悪い気色悪い気色悪い! もう限界なんだけどこのナルシストぉおおお!

 何でこんなのが歌ちゃんの名前を親しげに呼ぶの! 意味わかんない意味わかんない! 可愛い歌ちゃんが汚れちゃうじゃないのよぉ!」

「虫酸が走るから、口を閉じてくれないかしら。それと早く学習して頂戴。あなたが歌乃ちゃんの名前を呼んでいいと思っているの?

 ……汚らわしい。あなたのせいで歌乃ちゃんの不快指数がどれだけ上がっていると思っているのよ。五秒あげるから、すぐにここから消え失せて」

「どうどうどうどう、落ち着けお前らほんと頼むから。伽羅橋早く止めてくれ。俺にはまだ荷が重い!」

「鉄也くん頑張って、折れない心なんでしょ」

「……ちっくしょお! やってやんよぉ!」


 動揺で語尾の伸びなくなった鉄也くんを激励する。

 ごめん、私にはあの二人を止められそうにない。ステータス底辺だし。


 いざとなれば尾根先生が止めるだろうと思い、私は放置プレイになっていたサフィール王女へ向き直る。王女も前方の喧噪は無視して、私へ問いかけた。


「あの、魂器のえむぴぃすりぃぷれぇやぁとはどう言ったものなのでしょうか」

「ああ、これです」


 私は血黒色のオーラを発し、左手にワインレッドのプレーヤーを呼び出す。背後では局地的に雷が降っているみたいだ。尾根先生の喉が少し心配になる。


「Fランク……でも究理のモノクルで説明が見れないだなんて……派生スキルは聴覚強化だけ、レベル表記もなし……あの、これは一体どのように使うのでしょうか」

「ちょっと待ってください……ん?」


 ぶつぶつ考察をしてから尋ねてきた王女に答え、私はプレーヤーの電源をオンにする。黒い画面に蒼に輝く白文字が浮かび上がる。ソウルアプリケーションと英語で表記された白文字が消えると、プレーヤーはワインレッドの光を放ち、粒子と変わり私の胸の中へ消えていく。

 そして目の前に現れる魂板に似た透明な板。私にしか見えていないらしいそれには黒い文字が浮かび上がっていた。




[初めまして、ソウルアプリケーションへようこそ。

 アプリの使用に当たり、OS本体とMP3プレーヤーの同期が必要です。

 今すぐ同期を行いますか。


   Yes/No


 なお安全性を考慮し、同期後は再起動を行います。]




 何も考えずイエスを押す。板が消え、目の前に緑色へと急速に変わっていくグレーのバーと凄まじい勢いで百へ近付くパーセンテージが現れる。ダウンロード画面でよく見るものにそっくりだ。

 グレーのバーはすぐに緑に染まり、パーセントも百となる。入れ替わるように、透明な板が再度現れる。




[同期が完了しました。

 シャットダウン後、再起動致します。


 ソウルアプリで有意義なミュージックライフをお送りください。]




 板が消える。私の視界もぶつりと途切れる。

 意識が落ちる最中に、葵ちゃんと遼が私を呼ぶ声が聞こえた。


 ……ああ、本体って私のこと……。


 説明が足りない。次があったらヘルプを熟読してから決定ボタンを押そう。

 軽率な行動を反省し、私は再起動まで暗闇をたゆたった。

お読み頂きありがとうございました。

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