召喚のち、王との謁見
異世界には着きましたが、まだ城から出られません。
光の奔流が止み、魂板によると強化されたらしい聴覚が周囲の音を拾う。どよめきに混じって聞こえた息を呑む音。「成功だ」「やったぞ」と召喚成功を喜ぶ声も聞こえた。
目を開く。純白のローブを着たおじさんや鋼色の鎧を着けたお兄さん方に取り囲まれていた。みんな顔はヨーロッパ系で、髪や瞳の色は七色以上あってチカチカしてしまう。
場所は祭壇のようなものが一つ正面にあるだけの殺風景な広間だった。召喚の間とか、そう言った場所なのだろう。
「ようこそいらっしゃいました、勇者様方」
白いローブの中から一人の女性が前へ出る。鎧の人の中でもとりわけ強そうな人が彼女の両隣を固めているので相当な地位にいる人なのだろう。王女か神官長のどちらだろうか。
「わたくしはパルテネ王の第三子、エメロード・パルテネと申します。アミューズを救う勇者様方、この度はわたくしの呼びかけに応えてくださりありがとうございます」
エメロード王女は胸に手を当てたおやかに微笑む。私達と同い年くらいの王女は、エメロードの名前の通り美しい翠緑色の髪と瞳をしていた。彼女の微笑に男子が何人か「可愛い」と呟くのが聞こえた。
「ちょっと待って頂戴。私達はあなたの呼びかけとやらに応えたわけじゃないんだけど」
「え、それは……どういうことでしょうか」
尾根先生が戸惑うエメロード王女へ事情を説明する。みるみる内にエメロード王女の顔が青ざめていく。
「そ、そんな……わたくしは主神様に許可を貰って召喚を行ったと言うのに……あなた方はそのロックとやらが外れたら帰ってしまわれると言うのですか?」
「そうね、あの管理課長の言うことを信じるならね」
「しかも勝手に召喚を行った主神様は罰せられる可能性があると?」
「アミューズの管理者と主神様とやらが同一人物ならね」
想定していなかったであろう事態にエメロード王女はふらりとよろけた。それをさっと支えたのは歴戦の勇と言った雰囲気が溢れるチョイ悪そうな鎧騎士さんだ。
「エメロード王女、お気を確かに」
「ああ、アシエ副団長。ありがとうございます」
私達を守るように立つ尾根先生の前に白いローブのおじいさんが歩み寄る。長い髭をたくわえたおじいさんはロマンスグレーと言った言葉がぴったりで、知的な赤い瞳を申し訳なさそうに伏せた。
「儂は神官長のジャスプと申します。勇者様方、此度は我々の勝手な都合でお呼び立てしてしまい誠に申し訳ありません。更なる勝手を承知でお願い致します。王と謁見し、我が世界の事情をお話だけでも聞いて頂けないでしょうか」
「わたくしからもお願い致します! 出来得る限りのおもてなしは致します! ですからどうか、どうかアミューズを、世界をお救いください……!」
へりくだった老爺の申し出も、切羽詰まった少女の懇願も尾根先生の眉一つ動かすことは出来なかった。腕を組んだ尾根先生は一つ大きく息を吐く。
「……あのねぇ、私には担任として教え子を守る責務があるのよ。親御さんが目に入れても痛くないお子さん達を立派な社会人に導く手助けをすべく預かってんの、分かる?
それなのに、『はい、分かりました』って言って殺し合いの場に出させるわけがないでしょうが。世界を救うだなんておべんちゃらで誤魔化そうとしてるけど、要は戦争に勝ちたいから傭兵をやれってことでしょう。
……そんなこと、教師の俺が許可するとでも思うのか?」
「ひっ」と王女や神官長達だけでなく生徒達からも悲鳴が上がった。怒りの余り先生の体からダークパープルのオーラが漏れ出ている。威圧の効果でもあるのか、先生の周りからみんなが一歩後ずさる。
魂器を解放するとこんなことが出来るのか、と私は状況のまずさに半ば現実逃避し、のんきに感心していた。ここで強気に出ることが吉と出るのか凶と出るのかなんて考えたくもない。
こちらは拉致の被害者だが、あちらとしては招待客のつもりなのだ。お互いの認識からして齟齬がある中、正解なんてそこそこ勉強が出来る程度の私に分かるわけがない。おまけにそこそこ勉強が出来る程度の人間は、このクラスでは下の方に位置している。
「尾根先生、少し落ち着いてください。そんな風に威圧していたら、建設的な会話なんて出来なくなりますよ。今必要なのは、これからをどうするか。今後へ向けての意見のすり合わせでしょう?」
暴発しそうな尾根先生を止めたのは余裕の笑みを崩さない奴だった。溢れるダークパープルのオーラなど気にもせず、肩に手を置き先生を諭す。尾根先生も生徒に宥められては怒りを鎮めるしかなく「分かってるわ、聖川」とふてくされた顔で呟く。
先生の怒りのオーラが消えると誰ともなしにほっと息を吐いた。奴は目に見えて安堵するエメロード王女へ歩み寄り、そっと彼女の手を取る。取り巻き共の歯噛みする音が微かに聞こえた。
「エメロード王女様。王様との謁見、受けたいと思います。地球の管理者からはパルテネ王国の方々は勇者を優遇してくれると聞きました。先程、王女様もそのようにお話されましたよね。
僕らは確かにアミューズへ召喚されたのは本意ではありません。けれど、一宿一飯の恩を欠くほど恥知らずではないつもりです。
事情をお聞きした上で、帰還までの間どれくらいの協力が出来るか考えたいと思います。
今はそれしかあなたに応えられませんが、それでもよろしいでしょうか」
こちらからは背中しか見えないが、極上の笑みを浮かべているだろう奴の言葉に、王女は嬉しそうに顔を微笑ませた。「それで充分です! ありがとうございます!」と頭を下げる王女のみならず周りの騎士達や神官まで奴の言葉に歓喜を示している。奴のカリスマ性は異世界でも遺憾なく発揮されるようだ。
「それでは王の元へと案内致します……えぇと……」
「ああ、すみません。コウメイ・ヒジリカワと言います」
「ではヒジリカワ様。他の皆様方もついてきてください」
「みんな、行こう」
奴に促され、騎士に取り囲まれながら私達は歩き出した。ここで「こんな所にいられるか! 俺は城を出るぜ!」などと馬鹿なことを言う生徒はこのクラスにはいなかった。
自身の能力すら把握していない、この世界の通貨単位すら分からない状態で外に出るのは危険極まりない。少なくともある程度の自立の目途が立つまでは王国の庇護を受ける必要がある。
「尾根先生」
「ん、なぁに?」
私はみんなの最後尾を歩く尾根先生へ声をかける。先生はむっつりとしたしかめ面を笑みに変えた。
「ありがとうございました。先生が私達のことを大切に思ってくださっているのが良く分かって、嬉しかったです」
頭を下げる。奴がいなければ先生の行動は最悪の状況になっていたかもしれない。だが、あそこで強く出たことでイニシアチブを握られずに済んだのは事実だ。
先生の行動は責められない。先生だって訳の分からない状況の中、私達を守ろうと必死なのがさっきの台詞で分かったからだ。
「こんなことでお礼を言うんじゃないわよ。聖川がフォローしてくれなきゃどうなってたか分からないんだし……それより気をつけなさいよ」
笑みを浮かべたまま、先生は声を潜めた。聴覚強化を持つ私には、先生の忠告がはっきり聞こえた。
「大きな力を持った『子供』は増長するわ。大人二人程度では止められないくらいに。
頼れる者を増やしなさい。ここは耐えれば過ぎていく学校ではないわよ」
先生を見上げる。先生は目を合わせてはくれなかった。私も目線を前へ向ける。最前列を歩く奴の背中を睨みつける。
「先生は、頼れる者になってくれるんですか」
「先生はあくまでも先生よ……小森先生はどうか知らないけれどね。
だから今の伽羅橋の事情をどうにも出来なくて歯がゆいの。『子供』は諭せば余計に意固地になるものだしねぇ」
ふぅ、と先生は悩ましげに息を吐いた。子供と言うのは奴だけじゃなく私のことも指すのだろうなと、なんとなく理解した。
「先生、私は教師って人間は社会を知らない節穴だと思っています」
「事実ね、耳が痛いわ」
「でも私達より大人なのは確かです」
先を行く葵ちゃんと遼がちらちらこちらを振り向いている。過保護な子達だ。私はそれを嬉しく思う。
「ご忠告、肝に銘じておきます。大人な先生は頑張って学級崩壊を未然に防いでくださいね」
「あらまあ、怖い宣言だこと」
歩調を早めた私の耳に、先生の苦笑が届いた。
* * *
「皆様、こちらが謁見の間になります」
しばらく歩き、豪華な扉の前に到着する。エメロード王女の言葉に、生徒達の中に緊張が走る。身分の高い人間の前に立ったことのある生徒などほとんどいない。異世界とは言え一国の王との対面に、私達の背は自然と伸びる。
緊張する私達を見て、王女はくすりと笑った。
「お父様は気さくな方ですので、肩の力を抜いてくださって構いませんよ。こちらとそちらで作法の違いもありますので」
身内の評価ほど信用のならないものもないと思う。王女の言葉に誰一人安心など出来ず、心構えも整わないままにきらびやかな扉が開かれる。
まず目に付いた赤い絨毯に、こういう所はどの世界も共通なのだなとぼんやり思う。
「異世界よりの勇者様方、三十四名。参りました」
「入れ」
深い低音が入室を許可する。威厳に溢れた声に私達の緊張はますます高まった。赤い絨毯を歩くたびに貴族らしき人達から刺さる視線に、前を行く生徒達は縮こまっている。
品定めの視線に慣れている私も、期待が込められたものは初めてで非常に居心地が悪かった。
「エメロード、ご苦労であった。下がるがよい」
「はい」
豪奢な王座に座った王は若い頃は美丈夫でならしただろうなと確信させる年の取り方をしていた。照明にきらきら輝く金髪こそ白髪交じりだが、覇気溢れる紅い瞳やたるみのない体がそれを感じさせた。
王は鷹揚に頷き、エメロード王女を下がらせる。王女は楚々と歩き王座に近い場所に佇んだ。そこには一際派手な容姿をした三人がいた。顔の造形はエメロード王女と余り似ていなかったが、着ているものの豪華さから王族なのだろうな、と推測出来た。
「さて、勇者達よ。堅苦しい前口上は抜きだ。わしはアダマン・パルテネ。この国の王だ。
先程泡を食って駆けてきた騎士より大まかな報告は受けている。
此度の召喚はそなたらの望むものではなかったとのこと、こちらとしても誠に遺憾と思っている。この国の王として謝罪しよう」
王は頭こそ下げなかったものの、列席する貴族達が代わりのように頭を下げる。
一国の王の謝罪と貴族達の行動に私達は驚く。王は私達の反応にいたずらっぽく笑った。
「『召喚した勇者には誠心誠意を持って接せよ』……これが我が国が今まで滅亡を免れることが出来た理由であり教えだ。
数多の国が召喚した勇者を無碍に扱い、甘言で騙し、色仕掛けで操ってきたがそのどれもが最終的には勇者の奇跡によって呆気なく滅んでいった。
わしはわしの代でこの国を亡くしたくはない。その為ならば謝罪くらいいくらでもしよう。最終的に一人もわしらの手助けをしてくれなかったとしても、帰還までの生活の保護は行おう。
わしは魔族共に攻め入られることよりも、そなたらの報復の方が何倍も恐ろしいのだ」
一息に話しアダマン王は豪快に笑う。身内の評価と言うのも当てにしていいものなのかもしれない。かなりざっくばらんに話をする人だ。
アダマン王は髭をしごきながら片目をつむってみせた。
「とは言っても、好き勝手をしていいと言う意味ではないから気をつけろよ。人の道に悖る行動を取った場合はそれ相応の処罰は下すからな……羽目は外さないようにしてくれ」
表情は茶目っ気たっぷりだったが、言葉には威圧が含まれていた。ぞくりと背筋に怖気が走る。私達の表情が引き締まったのを見て、アダマン王は満足そうに頷いた。
「うむ、では今からこの世界の現状を知って貰おう。サフィールよ、説明を頼む」
「はい」
エメロード王女の側にいた女性が王の元へ歩み寄る。二十歳ちょっと過ぎくらいだろうか、蒼く長い髪を揺らし、こちらを見下ろす瞳も蒼い。サフィールの名の通り、硬質的な美しさを持っていた。
「アダマン王の第二子、サフィール・パルテネと申します。
現在、この世界アミューズはボースレス大陸にいる魔族達に支配されようとしています。今まで沈黙を保っていた魔族が四年前、突然ここパルテネ王国のあるカダレフ大陸に宣戦布告をしてきたのです。
曰く、彼らの目的は邪神の復活。そして世界の支配だと。
私達カダレフ大陸の国々は一体となって抵抗しました。しかし、魔族の攻撃は激しく徐々に追いつめられてしまっています。後がなくなった我々は我が国に古くから伝わる異世界召喚に頼ることにしました。
あなた方の迷惑も省みず、このようなことをしてしまったことは重々承知しています。
ですがこれしか……異世界の勇者に頼らざるを得なかったのです……」
サフィール王女の顔が苦渋に歪む。ぎゅっとドレスの裾を掴む手にはこちらを巻き込んだことに対する苦悩が見て取れた。
「異世界の常識ではそなた達のほとんどがまだ親の庇護を受けるべき存在なのは分かっている。だが、そなた達の力が我々を凌駕するものであることも過去の歴史から見て明らかなのだ。
褒美は惜しまない。どうか、この世界を……救って欲しい」
肘掛けを握り締め、アダマン王は声を絞り出した。列席する貴族達も誰彼ともなく頭を垂れる。
しばしの沈黙。王の言葉にまず答えたのは尾根先生だった。
「私が戦うわ。だから生徒達は戦いには参加させないで頂戴。この子達に殺し合いなんてさせたくはないわ」
「わ、私も戦います! ですから、どうか子供達は……!」
小森先生も尾根先生の言葉に続き、頭を下げた。
私達を思って自分を犠牲にする先生達の気持ちに胸が熱くなる。
だが、そこに空気の読めない奴がしゃしゃり出てきた。
そう、あいつだ。
「自分達を犠牲に生徒を守る、ですか。聖職者らしい考えですね。
でも先生達は守られる僕達の気持ちを考えてません。僕達だって戦える力があるんです。先生達ばかりにいい格好はさせませんよ。
僕達も、戦います」
「聖川……アンタねぇ……!」
尾根先生が奴を睨み付ける。奴の取り巻き達も何だかキャンキャン吠えていたが、内容的には奴の尻馬に乗っているだけなので割愛する。
要は尾根先生の言っていた「大きな力を持って増長した子供」が早速自己主張を始めただけだ。
「なあ、みんなもそう思うだろ?」
奴は私達に振り返り、賛同を促すように両手を広げた。そこで奴の扇動に乗り「おお!」と声を出すのは奴のシンパ共だけだ。
葵ちゃんや遼、鉄也くんは元より中立派の九人も呆れた顔をしている。当たり前だ。まだ魂器を使ったことさえないのに戦いに勝てると思っているのだ。奴らは何であんなに自信満々なのだろう。
「うた、うたもそう思うよな?」
「……は?」
何故、私に聞く。
私に聞くなよ。
取り巻き共の妬みの声が強化された聴覚でばっちり聞き取れる。
奴は聞こえていないのか、自分に酔った様子で大袈裟な仕草で一回頷いた。
「大丈夫、僕の魂器があればうたを守れるよ。
だから心配しなくていい。
僕が守ってあげるから、うたもこの世界の為に戦おう?」
ちょっと何を言っているか分からない。
そもそも疑問なんだが、お前に守られなければダメな奴が世界を救うなんて偉業が出来るわけがないだろう。
頭沸いてんのか、こいつ。
「……この世界の為に戦うかどうかはまだ明確には決められません。私はここに来たばかりでここのことは何も知りませんから。
ただ一つ言えることは、この世界では戦う力がないと生き残るのは難しそうだと言うこと。私は能力の使い方も、城を出て生きる為の常識も知りません。
ですからそれを学ぶ機会を頂きたい。
もしかしたらその間にパルテネ王国に協力したい気持ちが生まれるかもしれません。私としても善意には善意で応えたいと思いますから。
パルテネ王様。虫のいい話だとは思いますが、子供の戯れ言を聞いては頂けないでしょうか」
私は奴を無視してアダマン王へ自分の考えを述べた。本当はこんな所で言いたくはなかったが、奴のせいで注目が自分に集まってしまった手前、イエスノーだけで終わらせるのは損だと思ったので言いたいことを言わせて貰った。
奴は不満そうにし、取り巻き共も「生意気な!」とうるさかったが私は王だけを見つめた。魔族討伐に参加する人間だけが訓練も常識も学べる状態になると困る。ここで衣食住に合わせ教育の機会も得ないといけない。
「さーせん、俺も伽羅橋に賛成っす」
一人の生徒が手を挙げて発言した。中立派の寺生理々安くんだ。実家がお寺だと言う彼は坊主頭を撫でながら、どこを見ているか分からない細目をアダマン王へ向ける。
「ここがお約束通りの世界なら魔物や盗賊なんかもいるんすよね? 俺達のいた日本より安全じゃないのは分かりきってる。切った張ったなんてやりたくなくても自衛の手段は必要だ。
それに、王国側としても教育を通じて交友をはかれるのは大きいと思いますよ? 日本人ってのはお人好しな民族らしいっすから。
……ま、俺の主張はこんなとこっす。しゃしゃってさーせんっした」
胸を押さえ、最後はうつむきがちになりながら寺生くんは話を終えた。
落ち着いて話しているように見えたが、私の耳には「っべー、マジやっべー。王との会話とかマジ緊張っ。あんな見られながら刃向かえるラノベヒーローマジ神だわ」と呟く声がしっかり聞こえた。
「……ふむ、他に意見のある者は? む、いないのか。
あい分かった。ではこうしよう。
まずは一月、そなたらには戦う術とこちらの一般常識を教えよう。
そして一月後、改めてそなたらの決心を聞かせて欲しい。
我々と戦ってくれると言う者には報償の額を弾もう。他国へ赴いて貰うこともあるからな。
もちろん、戦いに参加しない者も衣食住の保障はする。しかし、報償はないだろう。これは区別だ。我々とて力を貸してくれた者に融通をはかりたいからな。
また戦闘に向かない魂器であった場合には別の方面で力を使えるよう便宜をはかろう。
先生殿、ひとまずはこう言った方向で進めて行くのはどうであろうか」
王は尾根先生と小森先生へ尋ねる。自衛の手段が必要なのは私や寺生くんの話で理解したのだろう。先生方は納得の行かない顔ではあったが、王の言葉に渋々了承の意を示した。
保護者二人からの了解が得られ、アダマン王は満足そうに頷き、サフィール王女に声をかける。
「では、サフィール。引き続き頼むぞ」
「はい」
返事をしたサフィール王女の体をサファイアブルーのオーラが包む。オーラは右手に収束すると青銀色のモノクルへと変わった。
サフィール王女はモノクルを右目にかけてから説明を始めた。
「お疲れのところ誠に申し訳ありませんが、訓練内容の決定や今後の為に皆様の魂器とステータスの確認を最後にさせて頂きたいと思います。
それが終われば夕食と部屋を用意させていますので、今日はお休みください。明日からは訓練をして頂きますのでなるべく早くお休みになられますように。
ステータスは個人の重要な情報になりますので別室で行います。
それでは皆様、私についてきてください」
ああ、やっぱりあったか。
ライトノベルの初関門、ステータスチェックが。
またぞろぞろと王女の先導についていきながら、ため息が出てしまう。
自分のスキルや魂器では底辺ステータスを誤魔化すことも取り繕うことも出来そうにない。
元々有象無象としか思われていないだろうが王城での株価もこれでストップ安だろうなぁ。
まあ、仕方ない。なるようになれ、と腹を括ることにした。
どうしようもないことで悩むのは止めよう。
ステータスが底辺だとか、魂器がどう考えても娯楽にしか使えなさそうなことだとか、十一年も奴につきまとわれている理由だとか。
考えても無意味だ。
半ば自棄になりながら私は謁見の間より小さな部屋でチェックの順番を待つ。
椅子に座って待つ私達にメイドさんがお茶をいれてくれるが飲む余裕はなかった。
お読み頂きありがとうございました。