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私のMP3プレーヤーは異世界仕様  作者: 三十三 魚ゑい
第一章:奈落までの前奏曲
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エピローグ:青白い光と小さな芽

お久しぶりです。

これで本当に一章が終わりです。

番外編集の方に葵視点も投稿しています。

この後、二章プロローグも投稿します。

 おかしな夢を見た。


 その部屋には天井がなかった。見上げると先の見えない暗闇が続いているだけで、自分がどうやってここへ来たのか皆目見当がつかなかった。


 出入り口らしきものはあるにはあった。大きな門だ。

 部屋の中に門というのがおかしく思えるのに、夢の中ではそれは当然のもののように思えた。

 あそこを抜ければ戻れるのかと頭をよぎるが、すぐにそれは無理だと感じられた。


 あの門は出入り口じゃない。本当は入ってはいけない場所だ。本来は、鍵がかかっていないといけない場所だ。


 でも、この部屋の門は鎖がちぎられ、鍵が壊され、開いていた。

 門の側には棺が一つ。解放された門の代わりのように鎖が巻かれ、巨大な閂がかかっている。

 何故だろう、棺を見ると悲しくなった。何が入っているかも分からないのに、私はそれにすがりたくなった。


 触れようと手を伸ばし、しかし止める。

 開いた門の先に、光が見えたからだ。

 棺から離れ、門の先を覗き見る。入るのは躊躇われた。


 門の先にはまた部屋があった。丸い部屋。

 部屋の明かりは、剥き出しの炎だった。太陽と月を煮込んだような、どろりとした黄白色が部屋を照らしている。


 目がちかちかするほど濃い光の中、その部屋の主役はひどく矮小だった。

 ちょこんと言う擬音が似合う小さな小さな存在。

 それは、明るい黄緑色の植物の芽だった。土もないのに根を生やすそれは異質で、強烈な異物感を私に抱かせた。


 あれは持っていてはいけないものだ。咲かせてはいけないものだ。

 魂が囁くが、事実、それは小さいけれど確かな存在感を持ってそこに芽吹いている。


 ……抜かなきゃ。

 ……あれは、私にはいらない。


 原始的な恐怖を抱かせる部屋へ、一歩、足を動かす。






「まだ、その部屋に入ってはいけませんよ」






 その部屋に足を踏み入れる前に、私は後ろから抱き締められた。

 お腹に回された手は優しいが力強く、それ以上動くことは出来なかった。声の主を見ようと思っても、目は少しひんやりとした滑らかな手のひらに覆われて、それも叶わない。

 自分しかいないと思った部屋の中、視覚と動きを止められたが、右耳に囁かれる声が泣きそうなほどに優しいから、怖いとは思わなかった。


「ほら、まだこの部屋は出来上がっていないのです。一歩、踏み入れれば堕ちてしまいますよ。

 この場所でまで、奈落に行く必要はないでしょう」


 低く平坦で固い、ともすれば冷たく聞こえてしまいそうな声。

 だが、その中に視覚化出来そうなほどの優しさと甘さが詰まっていた。

 脳が溶けそうなほどの甘さの中、声の主はお腹に回していた手で私の唇をなぞる。


「あなたは、だれ?」


 まるで冷たい指に無理矢理促されたように、なぞられた唇から出た声はもつれて舌足らずだった。


「……誰、ですか……」


 声は私の問いに、言い澱む。出す言葉を良く吟味するように、私の唇を指でいじる。


「私達の大切な大切なかわいいこ。その問いに今答えるのは、適切ではないでしょう。

 あなたには足りないものが多すぎる。

 もっとたくさんのことを学びなさい。答えを知るには、あなたはまだ未熟です」


 冷えた手が唇から離れる。手とは反対に暖かい体も私から離れた。

 ゆっくりと下ろされた冷たい手のひら。私は覆いが取れた目を彼女へと向ける。


「え?」


 そこにあったのは青白い光だった。月の光のように、穏やかでけれど強い光が、私の視界を塗り潰していく。


『私達の大切な大切なかわいいこ。

 亡くした過去を、壊された現在を、消えた未来を知りなさい。

 幾多もの分岐の中で絶望に流されるのではなく、今からはあなた自身で希望へと向かいなさい。

 あなたは、奇跡を運ぶことをその手で選んだのですから』


 頭に直接描かれるような声はこれで終わりと言うようにフェードアウトしていく。

 待って、と声を上げることは出来なかった。青白い光の明滅が強くなっていき、私の体はそれに浸食されていった。


『戻りなさい、かわいいこ。まだあなたに、この場所は助けとなれません』


 体は光に飲まれ、右も左も分からなくなる。

 ただ、果ての見えない天へ吸い込まれていくのは分かった。


『あの部屋が完成した時、また会いましょう。

 ……本当は、会わない方がいいのでしょうが』


 哀れみと慈しみのこもった声の意味はまだ分からない。

 けれど、この先、私が私のあるままに進んでいけば分かる時が来るのだろうと、何故か確信に近い予感があった。

お読み頂きありがとうございました。

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