表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き込まれオカマの異世界放浪譚  作者: 雪柳
ガリエガンド編
8/21

魔の森

新たな大陸での話が始まります。

本日は18時にも更新を予定しております。

ノルニガンドとガリエガンドを結ぶ大きな橋。その名を【フォルセティ=ブルッヒ】という。

正義と調停の神の名を冠したそれを守るのは、橋守りの一族である大女、デュポンであった。

デュポンは1人だった。この橋を守り始めて100年。その間にこの橋を渡ったのは人族と、捕らえられた獣人族ばかり。

橋に危害を加えられなければ、橋守りの一族は何も言わない。ただ、通り過ぎるのを見ているだけ。

彼女は今日も、橋を見守っている。それが自分の役目だから。






「大きな橋ねぇ…」


夏になるにつれて鎧が暑い、とごねてタンクトップとオオミズアオという蛾のモンスターの繭から紡いだ糸で織られた薄青色の涼し気なローブに同じ魔物の糸から作ったガウチョパンツみたいなダボッとしたズボン姿で、更には孔雀の姿をした鳥の魔物の羽根を飾ったターバンと、その羽毛と革で作られたサンダル履きのアタシの隣、同じ糸で紡がれたジーンズを穿いて、胸当ても鉄ではなく強靭な魔物の革を鞣して作られたものに変えたジークが歩いている。

素材はもちろん自分たちで手に入れたもので、加工だけ街の武具屋で頼んだものだった。

売買は禁止されているけれど、素材の持ち込みからの作成依頼なら反してないんじゃないかしら?と言葉巧みに街の職人を丸め込んだアタシを見たティーズが詐欺師に向いてる、とか言った時はほっぺをつねってお仕置きしたけど。

日差しは変わらずきついけれど、オオミズアオの布の特性の【暑さ軽減】のお蔭であまり暑さを感じずに住んでいる。

首元に同じ素材から作ったストールを巻き付けて更に涼しさアップを図る。ローブの前は開け放ち、風が吹く度に裾がはためいて見た目にも涼やかだった。

イフリートとティーズの首元にも同じ素材のスカーフを巻いてあげれば嬉しそうにしていた。


「あれが例の橋ね」


指を差した先に見えるのは、大河の岸を結ぶ白い石で作られた大きな橋だった。

あの石はリーニュ=ストレインの海の底の石を使っているらしい。海の魔力に守られて簡単には傷付けられない造りをしている。


「あぁ。あの橋を越えればガリエガンドだ……ユーリ」

「ヘルメアには行くわよ。そこで、アンタがどうするかは、アタシが決める事じゃない」


ジークの声はまだ迷いがあった。正直、ジークが抜けてしまうときついところはあったものの、アタシは彼の人生を縛りたいわけではない。婚約者がいるならなおのこと、国に帰るべきなのだということは分かっている。

イフリートなんかは人の営みは難しい、と言っているけれど、気落ちしがちなアタシの側から離れないし、ティーズもアタシを元気づけようとしてくれているのがわかるほどに明るく振舞ってくれている。

ティーズはジークにも懐いているから、なおさら離れるのが寂しいのだろう。それでも言わないのはティーズが優しいいい子だから。


「ユーリ様!橋のところ、誰かいるよ!」


ティーズは猫の姿のまま肩から飛び降りてアタシの先を走っていってしまう。

それを追い掛けるように走るのはジークで、アタシは暑いから走る気にならない、とゆっくりと歩いて橋に向かう。

夏の風は、日本とは違いからりと乾いているお陰でまとわりつく暑さはない。湿度の少ない風は心地よさばかりが残った。

ティーズは早く!とアタシを急かすけれど、その隣にいるジークを真っ直ぐに見る勇気は、今のアタシにはなかった。

恋する乙女は繊細なのよ!


橋の麓に立っていたのは、ジークですら見上げるほどの大女だった。


「この橋を渡るならば、ギルドカードを提示しろ」


3mはゆうに超えている大女がアタシに向かって声を掛ける。レッドオーガよりもずっと大きい。

首から下げていた水晶とギルドカードを一緒に提示すれば、大女は頷いて橋のゲートを上げてくれた。

橋守りの一族の彼女はその一生をこの橋を守るために費やすらしい。

そんな人生、退屈じゃないかしらと思ったけれど、その人の生き方ならばアタシが口に出す事ではない。けれど、彼女の目が、まるで羨むようにアタシを見ていたから。

どうぐぶくろから、旅の途中で見つけた湖のほとりで拾った綺麗な貝殻を取り出して、彼女へと渡した。


「これ、は?」

「お土産。アンタきっと、ここから離れられないでしょう?だから……気休めにしかなんないけど、アタシの旅のおすそ分けしてあげる」


大きな手のひらに乗せた貝殻は虹色に輝いていて、角度によっては無色透明な結晶にも見える美しいものだった。

虹晶貝という珍しい貝の一種らしいけれど、装飾品を作るくらいしか用途がなくて持て余していたものだった。


「綺麗でしょう?」

「……あぁ」


頷いて、ほんの少し表情を輝かせた彼女に笑いかける。


「ねぇ、アンタ名前は?」

「……デュポン」


深い森の色をした髪に、同じ色の瞳。肌は白く、伸ばしっぱなしの髪のせいで暗い印象を覚えるけれど、深緑の瞳の煌めきは朝露を湛えた新芽の様に美しい。

高い鼻筋に、厚めの唇。控えめに言っても美人の彼女がこんな所で一生を終えるのはあまりに不憫だった。


「そう、アタシはユーリ。ねぇデュポン。アタシきっと、またここに来るわ」

「え……?」

「その時には、旅の話をしたいの。今は急いでるけれど、次に来る時はゆっくり出来るようにするから、アタシのお喋りに付き合ってちょうだいね」


約束よ、と差し出した手を不思議そうに見つめられて、握手知らないの?と聞けば頷くデュポン。


「手を出して」


差し出されたのはマメだらけの、大きな手。大きな戦斧を背中に背負っているのを見て、彼女はこの橋を守るために日々鍛錬を欠かさないのだということがすぐに分かるような、実直な手だった。

差し出された手に自分の手を重ねてぎゅっと握れば、驚いたようなデュポンを見上げてニッと笑う。


「これは約束の握手よ。忘れないでちょうだいね」

「約束…」

「それと、せっかく美人なんだからお化粧してお洒落してみなさいよ!」


握った手を離して軽く振ってから、アタシ達は橋を渡った。


「巨人族は、罪深い一族なのだと聞いた事がある」


橋を渡り終え、ガリエガンドに足を付けた瞬間ジークがそう呟いた。


「罪深い?」

「もうずっとずっと、それこそお伽噺になるほどに昔の話だ。神の怒りを買い、地上に落とされた一族、らしいが」

「へぇー…親の因果が子に報うってやつね」


神と呼ばれる存在は実在するのだろうか。といぶかしく思ったけれど、アタシ女神の祝福受けてたわ。忘れるところだったけれど。





ガリエガンドは、南国のような気候だった。

ノルニガンドが雨の少ないカラッとした気候で、地球でいうところの亜寒帯に属するらしい。夏は短く冬は厳しいが、夏の穀物の実りもよく、冬の寒さのあとは恵みの雨が降り、動物達も生きやすい環境だという。

対してガリエガンドは南国、言うなれば熱帯の気候だった。雨も多いが気温が高く、山は少なく至るところに熱帯雨林のような森が多い。


「暑いわ」

「暑いな」


袖なしローブに暑さ軽減の効果があるとはいえ、ムシムシとまとわりつく様なこの暑さはまるで日本の夏。汗が後からあとから滴り落ちるのを止められない。ターバンから零れる襟足が首筋に張り付くのが不快だった。

イフリートは暑いのは何ともないらしく涼しい顔でアタシの肩で寛いでいる。ひんやりとした鱗が有難い。

ティーズは水の精霊だからか暑さにもそこまで参ることはない。こっちもひんやりしているからジークに押し付けておいた。

魔法で飲み水を確保できるので水には困ることはないが、そろそろ食料が乏しくなってきたから、見つけた街で食材を買い込まなければ、と歩くものの、橋からしばらく街道を歩いているというのに街はおろか村一つ見当たらない。


「この辺りにも、昔は村があったんだ」


アタシの頭の中を見たかのように、ジークが疑問に答えてくれた。けれど、その顔はどこか悲痛な色を湛えていて、言わなくてもその続きが分かった。


「…奴隷狩りね」

「あぁ……国境近くの村や町は、もう殆ど残っていないんだ」

「…やっぱ胸糞悪いわねあのクソ王。キンタマ潰しておけばよかったかしら」

「はしたないぞ」


苦笑気味に言われたけれど、腹立ちは収まらない。ムカつく。少しくらい顔がいいからって許されるような事じゃないわ。

そんな人間の王に腹を立てながら進んでいけば、こんもりとした森の入口で街道は途切れていた。

どうやらこの森を抜けるのが、王都ヘルメアへの正しい順路らしく、ジークを振り返る。


「森を迂回するとあと1ヶ月はかかるな」

「迂回しないと?」

「1週間だな」

「じゃあ森で」


食料はどう少なく見積もっても1ヶ月は持たない。水と塩だけで次の町まで持たせるのはどう考えても不可能だし、魔物の肉も食べられなくはないがきちんと処理をしないと生臭くてとてもじゃないが口に合わない。


「即決だな」

「そりゃアタシのパーティにいる以上誰も死なせないし飢えさせたくないもの」

「……そうか」


奴隷の生活は、アタシには想像出来ない。けれど日本で読んだことのある歴史書なんかには奴隷の生活の一部、みたいな資料もあって、それは本当に、目を背けたくなるような事ばかり書いてあった。

飢えて、不潔で不衛生な生活の中、病や怪我が元で死んでも適当に、家畜以下の扱いしかされない奴隷。

この世界のレイアルフには奴隷制度が当たり前にあって、それを誰もおかしいとは思っていないということが余りにも恐ろしかった。

人間は、それが当たり前だと考えるのをやめた瞬間に怠惰な化物になる。そう思えてならなかった。



森へ一歩足を踏み入れると、日光が遮られたお陰か体感温度は一気に下がる。しかし、じめじめとした特有の暑さはそのままに、森の木の香りがむっと鼻をつく。

ウッディノートもここまで濃いと臭いわね、と思いながらジークから離れないように森を進んでいく。

この森は、土の魔力に満ちている。


「毒を持った虫に気をつけろ」


ジークはそう言いながら虫除けの香炉に火を入れて、アタシに渡してくる。

ジャングルなどで注意しなければならないのは、大型の肉食獣や蛇などもそうだが、それよりも猛毒を持った虫や寄生虫が一番の敵になるのだとサバイバル番組でやっていたのを思い出す。

街道はかろうじてその姿を残してはいるものの、木の根っこやら新しく芽吹いた花や植物などでガタガタになっており、正しい道筋を示すだけで歩きづらいことになっていた。

それでも街道がなくなっていないのには、理由があるらしい。


「この森にはエルフが住んでいる」

「へーぇ、あの、お耳がとんがって色白の、美形揃いの種族?」

「あぁ。人間共に高値で売買されている筆頭の種族だな」


皮肉を込めたジークの言葉に頷きつつ、顔の高さに生える葉を繁らせた枝をダガーで切りつつ先に進む。


「この森は迷いの森、と言ってな。エルフ共が幻術をかけているせいで迷うやつが多かった。それに苦言を呈した王に反発するけれど、軍隊を送り込むと言われたら負けを認めざるを得ないからな、譲歩として、この森に街道を通す事にしたらしい」

「どこの国もおっかないわね」

「その時はまだ、ヘルメアも出来たばかりでな、統一国家を目指してはいたが反発も大きかったらしい」


ジークが手を伸ばして頭上に生えていた果実をアタシに投げて寄越した。鑑定結果は毒なし、異状なし。食べられるわよ、と告げれば手の届く範囲の熟した実を次々にもぎ取りアタシに渡してくる。それをどうぐぶくろにしまいながら話の続きを待つ。


「エルフ達も最初こそ反発していたが、人間の奴隷狩りが頻繁に起こるようになってからは協力しだしたらしい」

「ふぅん……都合いい種族だわ」

「あぁ。それからもう一つ。エルフ達は純血主義らしいが、近新婚を繰り返したせいでエルフの観点からだが、短命が増えたらしくてな。外からの血を取り入れるために見目の良い若い獣人種の雄と雌を寄越せ、とも言ってきたらしい」

「自分勝手すぎない?……囲まれたわね」

「あぁ」


果実をもぎ取れるだけもぎ取ったアタシ達の周りを囲むように、数人の気配がする。

気配を隠しきれていないだなんて未熟もいいところだけど、ここは見通しの悪い森の中。

森の中で戦うことを得意とする相手に対して、状況は圧倒的に不利だった。

どうぐぶくろをしまってジークと背中合わせになりながら、ホルターに手をかける。

シリンダーには魔力弾が10発込められている。レベルが上がると込められる弾の数も威力も変わるのだと気付いたのは最近で、アタシの【シャグラン・ラ・ローズ】はどうも、成長する武器らしいということが分かった。

アタシの魔力に応じて成長するその能力は未だに未知数で、ATKの値が?だったのにも納得が行く。

旅の途中で襲ってきた魔物を倒したり、ジークと組手をしたりしたせいか、アタシのレベルはどんどんと上がっていって、今ではもう30を超えている。

ジークもアタシに経験値が入ると成長するらしく、今では50目前、といったところだった。

ティーズも新たな魔法を覚え、イフリートとの協力で【フリアティックエクスプロージョン】(水炎爆発)という魔法も編み出していた。

一度、何も無い草原で使ったらぼっこり地面が抉れてジークに怒られたので、二度と使うまいと決めた恐ろしい魔法だった。

ジークと目配せをして、気付かれないようにトリガーに指をかけつつ、アタシ達を囲む相手が現れるのを待つ。


「侵入者を発見した!捕らえよと長からの命だ、大人しくお縄につけ!」


現れたのは、萌黄色の髪と明るいブルーの目の綺麗な女エルフだった。

森の色に染められた服と鉱石で作られている胸当てと肩当てを装備して、その手には弓が握られている。

ある意味想像通りのエルフの姿と女、ということにげんなりとしつつアタシは銃口を天高くへと向けた。


「時代劇じゃないんだから」


ガウン!という音ともに放たれたのは【ミスティブラインド】というアタシの固有技。

銃弾に込められた水の魔力を拡散し、霧状に広めて敵の視界を奪うという技。

この技は姿だけではなく魔力も隠してくれるから、敵から逃げるのに最適な技だった。

背中合わせだったジークが動くのと同時にアタシも地面を蹴ってジークの後を追い掛ける。

仲間ならばその魔力がかき消されることが無く、探知してその動きを知ることもできるというチート技でもあった。

逃げられた、追え!という声が後方から聞こえてくる。

こうして、迷いの森でアタシ達とエルフ達の鬼ごっこが始まった。



----------------

ステータス

【ユーリ=シザキ Lv.30(Exp.369/15826)

HP 992/992 MP 2050/2050 属性:水/炎

ATK:553(+40)

DEF:448(+60)

INT:686

MAG:1007

AGL:570(+30)

LUC:77

固有技能(ユニークスキル):シングルショット(Lv.1 消費MP0)/ダブルショット(Lv.2 消費MP2)/ミラージュバレット(Lv.1必殺技/消費MP50)/ミスティブラインド(Lv.2必殺技/消費MP35)アイテムボックス/鑑定(Lv.5)

魔法:アクエボール/アクエシールド/ヒール/スプラッシュショット/アイスニードル/アイスウォール

ファイアアロー/ファイアシールド/ヒートウォール

水炎魔法 フリアティックエクスプロージョン(消費MP300)

装備

武器:アイオライトダガー/シャグラン・ラ・ローズ

頭:大水蒼のターバン

胴:大水蒼のローブ

腕:孔雀緑のガントレット

脚:孔雀緑のサンダル

装飾品:アクアマリンの指輪

称号:召喚されし者/巻き込まれた異邦人/勇者を拒む者/隷属の証/虎を統べる者/蒼炎の覇者/水炎の支配者



ジーク Lv.49(369/58387)

HP 2590/2590 MP 168/168 属性:風

ATK:1093

DEF:829(+80)

INT:154(+30)

MAG:78

AGL:758(+50)

LUC:103

固有技能(ユニークスキル):風の牙、雷の牙、咆哮、雷光虎斬、雷火鬼神撃

装備

武器:なし

頭:菫青石のピアス

胴:エアウォルフの胸当て

腕:大水蒼のガントレット

脚:大水蒼のブーツ

装飾品:なし

称号:気高き獣/厳かなる雷光/奪われし者/囚われし者/召喚されし者の下僕】


※ユーリは黒魔導師、ジークは武闘家のイメージでのステータスです。


人物紹介

デュポン

橋守りの一族(巨人族)の女性。

深緑色の髪と瞳をしている。きつめの美人。ユーリがまた来る、という約束をした事を楽しみに、今日も退屈な橋守りの生活を送っている。

もらった虹晶貝は髪飾りにして毎日つけている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ