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巻き込まれオカマの異世界放浪譚  作者: 雪柳
勇者やりません
4/21

初めての戦闘

※ジークの次回レベルアップ時必要経験値の値を変更しました。






街と外を繋ぐ橋を漸く渡ると、モンスターが入ってくるのを防ぐためか砦の門が閉められた。

再び入るにはギルドカードを見せるか、入場料を払わなければならないらしい。

あの後ギルドに顔を出してジークをパーティーメンバーに登録したからこれでジークを連れても街に入れるようにはなるが、売買禁止令が出されているのならばどちらにしろレイアルフ城下街にはあまり出入りしない方が良いだろう。


「ライカンさんの所に行くのも暫くお預けね…」


溜息を漏らしながら買った地図を開いて、ハルト村を目指す。

レイアルフ城より北西の方向にある小さな村らしいが、どうやら近くにある鉱山の坑道にゴブリンが住み着いてしまったらしい。しかも、群れを成して。なんとも傍迷惑な話である。

依頼の内容は、ゴブリンの群れの数の計測と退治。全滅させれば報酬が上乗せされるらしいが、大部分の戦力を削れば依頼達成らしい。


「殲滅戦はしないのね」

「坑道は深く入り組んでいて迷いやすいからな、深追いして帰ってこない冒険者、なんて言うのは迷惑だろう」


アタシの後ろを歩くジークの言葉にそれもそうだと頷く。この世界は、死人がちゃんと供養されないとアンデッドやゾンビとして蘇るというのだから恐ろしい。

ちゃんと埋葬して、教会で祈りを捧げないとダメだとか本当にファンタジーの世界だわ。


「聖水とか効きそうね」

「あぁ、だが聖水もピンキリだ。聖職者の力量によって効果はだいぶ変わる」

「ふぅん…アタシにも作れるかしら」

「無理だと思うぞ」

「ちょっとジークってばアタシに冷たくないかしら!?」


間髪入れずに否定されて流石にちょっと傷ついた。乙女の心は傷つきやすいというのに。


「オイラはまだ下位精霊だから聖水はつくれないんだぁ」


しょんぼりとしてしまったティーズの毛並みの良い頭を撫でながら、土が踏み固められた街道を進む。

コンクリートの地面なんてものはこの世界にはない。街ですら石畳だった。


「ほら、ティーズもアタシもまだまだ新米だからこれからよ!これから!」

「……ユーリ」


ティーズを励ましながら歩いていたアタシの腕をジークが掴んで引き寄せる。

背中をジークの胸に預ける体勢になって何事か、とジークの顔を見上げれば、その目は前をじっと見据えていた。


「なによ」

「…モンスターの気配がする」

「最初の街から出たんだからスライムとかじゃないの?」

「だといいんだが」


油断は禁物、と両腿につけたホルターから魔銃を掴んで引き上げて、構える。腕をクロスさせ魔力を弾丸の形に形成して、リボルバーに込めるイメージで六つ、銃へと詰め込む。

草むらがガサガサと揺れて、飛び出してきたのは無色透明のゼリー状の体を持つスライムだった。

顔などはなく、ただ流動性の身体をぷるぷると震わせながらこちらへとにじり寄ってくる。


「ヤダ、可愛くないわ」

「当たり前だろ、魔物だぞ」


呆れたようなジークの声にわかってるわよ、と返して引き金を引いて、弾を撃ち込む。

ずぬぬっと柔らかなボディにめり込んだその弾は盛大に透明なゼリー状の肉体だったものを撒き散らしながら貫通した。

しかし、それがダメージを与えられているとは考えにくい。

散らばった透明な肉片はぶるぶると震えながら半壊しているスライムの元へとにじり寄り、そうして飛び付いた。

ぐむぐむと音を立てながら体を再構築したスライムに舌打ちしながら、再度撃ち抜く。

結果は同じ。どうやらスライムのボディをいくら攻撃してもダメージは通らないらしい。


「なぁによぉ!雑魚じゃないの!?」


苛立ち紛れに叫んだ声にジークがくっと喉の奥で笑ったのがわかってそちらを睨めば、ジークは笑ったのを隠さない顔でスライムを指差した。


「こいつらには核がある。それを壊さない限りは復活するんだ」

「核ぅ?アンタそれを先に言いなさいよ!」


ジークに言われた通りにスライムの核を探す。目を凝らせば、透明な体の中にひとつ、半透明の丸い物体が泳いでいるのが見えた。


「あれね……喰らえ!シングルショット!」


狙いを定めてシャグラン・ラ・ローズの引き金を引いた。

ドン!という音の後に放たれた弾は正確無比にスライムの核を撃ち抜いて、破壊した。

それと同時にゼリー状の体はどろりと溶けて、水のようになり地面に吸い込まれて消えていった。


「見事だな」

「まあね、元刑事舐めるなっての」


煙は出ていないが、銃口にフッと息を吹きかける。

スライムを1体倒した事により、経験値が入る。しかし、流石はスライム。入手経験値は2だった。


「ケイジ?」

「あー……そうね、騎士みたいなもん」


スライムが溶けて消えたところに、小さな宝箱が落ちていた。警戒しつつも足で開ければ中には薬草が入っていた。


「なにこれ」

「あぁ、それはドロップアイテムだな。スライムはこの薬草を何処かで吸収したんだろう。それを倒したから、スライムの所持品だったそれがユーリのものになったんだろうな」

「ふぅん……」


グーグル先生よりも役に立つジークにこっそりと感謝しつつ、どうぐぶくろの中に放り込む。

ティーズはどうやらアタシと経験値が連動しているらしく、自分にも経験値が入ったと喜んで精霊の姿に戻り飛び回っていた。

ジークにも経験値が入ったらしいけれど、それはレベルの高いジークからして見たら微々たるものだった。


それから先、ハルト村に向かう道すがら何体も出てくるスライムをちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返して漸く村についたのは、日も暮れかけた夕方の事だった。

城下町を出たのは昼前で、それからずっと歩き通しだった足はもう歩きたくないと訴えるかのごとくぱんぱんだった。


「もー無理。一歩も歩けない」

「宿はすぐそこだぞ」

「がんばれユーリ様!」


よろよろとふらつきながらも、ハルト村唯一の宿屋へと向かう。さすがに運動しない生活を一年も続けてしまったせいで、身体能力は確実に落ちている。

ぎぃ、と宿屋の扉を開けた瞬間、何かが思い切り飛びついてきてアタシは受身すら取れずに後ろに弾き飛ばされた。

倒れ込む寸前でジークが腕を掴んで引き止めてくれていなかったら、確実に頭と地面がごっつんこしていたに違いない。それでも、間に合わずに尻餅はついてしまったけれど。


「なっ、なっ、なに!?」

「おまえ!冒険者!?」

「ぐぇっ!ちょっとお腹の上に乗るのやめなさいよ!」


アタシのお腹の上に乗って生意気な目でこっちを見るのは、見たところまだ10歳にも満たない女の子だった。

夕日のようなオレンジ色の髪を頭の上の両サイドで結んだツインテール、大きく丸い瞳は髪と同じ色をしていた。小さな鼻に、生意気そうにつんと尖った唇。勝気な性格をその瞳に映した少女は、おそらく美少女の部類にはいるのだろう。けど、アタシの趣味じゃない。まず女の子だし。


「ねぇ、お前冒険者なんでしょ!?」

「まず人の上から退きなさい。あと、女の子がお前だなんて、そんな言葉遣いしちゃだめよ」


額を指で軽く弾いてから怯んだ隙を見て自分の上から退かせる。ころん、と転がった少女はそのままに立ち上がり、服についた土埃を払う。

少女の母親であろう女性がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。少女によく似た髪色をした、恰幅のいい女性だ。


「うちの娘がごめんよ!怪我はないかい?」

「怪我はないわよ。それより、あなたこの宿の女将さん?」

「あぁそうさ、この村の宿屋を営んでるナージャってんだ」


アタシの喋り方にも動じないこのナージャは肝っ玉が座っているのだろう。接客における動じぬ心を取得しているらしい。それだけでアタシはなんとなく嬉しくなった。

頭を下げたナージャに押さえられるようにして立っている少女は、まだアタシに飛びつこうという未練があるのかこちらをじっと見たまま動かなかった。


「お嬢ちゃんの名前は?」

「……アリシア」

「アリシアちゃんね、いい名前じゃない」

「……お兄ちゃんは、勇者様なんでしょ?」


アリシアの発言に、その場の空気が止まった。

アタシは勇者になることを放棄して城を飛び出したのに、何処をどう間違えてこの子に届いてしまったのだろう。


「いいえ。アタシはただの冒険者よ。駆け出しのね」

「でもっ、でも勇者様は、おとぎ話の勇者様は黒い髪に黒い目をしてて、おともに精霊と、強そうな男の人を連れてるって」

「…黒髪黒目はそんなに珍しいの?」


ジークに振り返って尋ねれば、肯定するように頷いた。


「たまたま、じゃないかしら?」

「違うもん!勇者様は、勇者様は……あれ?まほうつかいのお姉ちゃんはいない、の?」

「いないわよ」


途端にしゅん、と肩を落としてしまったアリシアに申し訳ないとは思ったものの、アタシは勇者じゃないの。勇者になんかなるもんですか!って城を飛び出したただのオカ…オネエなのよ。


「娘が本当に悪かったね……宿利用するのかい?」

「えぇ。この依頼を受けるためにここに来たの。二日くらい泊まらせてもらえないかしら?」


依頼書の写しを見せるとナージャの顔色が変わった。


「この依頼を、受けてくれるのかい?」

「え?えぇ」

「なんてこった、いま村長を呼んでくるからね!!」

「えっ、ちょっと、ねぇ!ナージャさん!?」


疾風の如く走り去ってしまったナージャの後ろ姿に呆気に取られるしか出来なかったアタシのお腹の虫がきゅるると鳴いた。





----------------



ナージャに連れてこられたのは、これぞ坑夫と言わんばかりにガタイの良い壮年の男と、腰が曲がり背も丸くなり始めたお爺さんだった。

若い方が村長、お爺さんが前村長で現在は長老として村を支えているらしい。


「いきなりの訪問をお許し下され、冒険者様」

「はぁ……」


宿屋に併設された食事処の一番大きなテーブルについて、向かい合って座る長老はそう切り出して頭を下げてきた。

お腹は空いていたけれど、それよりもこの話を聞くことが優先だろうと狂ったように鳴き喚く腹は水を飲んでごまかす。


「村の鉱山に住み着いたゴブリンの群れを退治して下さるとお聞きしましたが……正直に白状いたします。あの山には、オーガが住み着いております」


がたり、と椅子を鳴らして立ち上がったのはジークだった。


「オーガ、だって?それじゃあこの依頼は」

「いいえ違うのです、嘘ではなかったんじゃ」

「……嘘ではなかった?」


ジークに座るように促してから、長老の話を続けさせる。


「はい…最初はゴブリン共が住み着いて、厄介ながらもゴブリン程度ならうちの村の若い衆でなんとか出来てはいたんじゃ……しかし、その内に何か、とてつもなく大きな音が坑道から聞こえたと思ったら、ゴブリン共のリーダーだった一体が突然進化を始めて…」

「ホブゴブリンをすっ飛ばして、いきなりオーガになっちまいやがったんです」

「……依頼を出した時点では、ゴブリンしかいなかった、そういう事ね」


合点がいったと肯けば、村長と長老が二人して頭を下げてきた。このまま放っておけば土下座でもしそうな勢いだったので思わず立ち上がってそれをやめさせる。


「ちょっちょっとやめて!」

「どうかお願いします、冒険者様!オーガを、ゴブリン共を倒して、この村をお救いください!」

「倒す!倒すわよ!アタシおじいちゃんには弱いのよ!」


真っ白に染まった頭をテーブルに擦り付けるそんな姿を見たら断るだなんて出来ないし、元より断る気はなかった。

ジークは不安げな顔をしていたが、振り返って笑ってみせる。


「食事の用意が出来たよ!ここに運んでもいいかい?」

「ぜひ!!!」


アタシの剣幕に驚いたように目を見開いた後、あっはっは!だなんて笑って料理を運ぶのに台所へと戻ったナージャを見送ってから、アタシは着ていたマントとスケイルメイルを脱いでどうぐぶくろに放り込む。

ついでにジークの胸当てやらを剥ぎ取ってしまう。

食事の時に重たい鎧なんて必要ないでしょ。

運ばれてきたのは、大きめのサイズにカットされた野菜がごろごろ入ったスープ、そしてカンパーニュのような見た目をしたライ麦パン、脂の乗った厚切りのベーコンをソテーしたものだった。

食欲をそそる匂いに、腹の虫がまた喚き出した。


「いただきます!」


思えば、異世界に来てから初めての食事だった。

ナージャの料理は塩とハーブの味付けだったけれど、それもきちんと鶏ガラなどから出汁をとっているのだろう、スープの味はとにかく絶品だった。

厚切りのベーコンもよく燻製された香り高いものだった。

良く食べたあとは疲れが一気に襲ってきた。風呂、なんて上等なものはないから部屋の仕切りの向こう側にある木の盥に沸かしたお湯を注ぎ、そこで身体を洗うという古典的なものしかなかった。

石鹸も何も無い異世界なのだ、と再認識したアタシは、この依頼が終わったら絶対に石鹸を買うと心に決めて、頭からお湯を被った。ティーズがあつい!と文句を言っていた。





みんなが寝静まった深夜。

月は大きく、丸く輝いている。日本では見たことのないような星が空を埋め尽くして、新たな星座なんてものがいくらでも作れそうな満天の星空だった。

ベランダに一人、黄昏るように月を見上げる男がいた。


「風邪引くわよ」


ライカンの店でちゃっかりと寝間着用の白いリネンのシャツとズボンを買っていたアタシがそっとその背中に声をかける。


「……ユーリ」

「なぁに?」


隣に並び、手摺にもたれ掛かりつつ空を見上げる。

眩しいくらいの月の光に霞まないように、星たちはお互い輝きあっている。


「オーガと戦うんだぞ…恐れはないのか」


どうやら、夕飯の時にずっと何か言いたそうな顔をしていたと思ったら、あの依頼の件だったらしい。

アタシがあんまりにも安請け合いするもんだから心配になったのだろう。


「大丈夫よ、何とかするわ」


何とかなる、じゃなくて何とかする。人任せで生きていくのはもうやめたアタシが言えるのは、それだけだった。


「だが、」

「だって、アタシにはアンタがついてんだから死にやしないわよ。頼りにしてるわよ」


とん、と軽く拳で胸を叩けば、ジークは虚をつかれた顔をした後、じわじわとその顔に戸惑いと喜びが浮かんでくるのが見えて思わず笑ってしまう。


「参ったな」

「アタシだってやる時ゃやるわよ」


ぐっと力こぶを作って見せれば、ジークはようやく観念したように笑ってくれた。


「明日も早いし、もう寝ましょ」

「あぁ」


後ろからジークがついてきている。そのまま二人で部屋に戻り、宛がわれたベッドに横になり目を閉じれば、疲れが相当溜まっていたのか数分と経たずに夢の世界に引きずり込まれた。




【ジークが雷火鬼神撃を習得しました】




【ユーリ=シザキ Lv.5(Exp.22/59)

HP 173/173 MP 484/484 属性:水

ATK:225(+10)

DEF:260(+20)

INT:271

MAG:339

AGL:162(+3)

LUC:9

固有技能(ユニークスキル):シングルショット(Lv.1 消費MP0)/ミラージュバレット(Lv.1必殺技/消費MP50)/アイテムボックス/鑑定(Lv.3)

魔法:アクエボール/アクエシールド/ヒール

装備

武器:ダガー/シャグラン・ラ・ローズ

頭:なし

胴:スケイルメイル

腕:革のガントレット

脚:革のブーツ

装飾品:アクアマリンの指輪/雨避けのマント

称号:召喚されし者/巻き込まれた異邦人/勇者を拒む者/隷属の証/虎を統べる者



ジーク Lv.32(3962/18969)

HP 1079/1563 MP 60/60 属性:風

ATK:408

DEF:387(+40)

INT:100

MAG:64

AGL:402

LUC:45

固有技能(ユニークスキル):風の牙、雷の牙、咆哮、雷光虎斬、雷火鬼神撃

装備

武器:なし

頭:なし

胴:鉄の胸当て

腕:スケイルガントレット

脚:革のブーツ

装飾品:なし

称号:気高き獣/厳かなる雷光/奪われし者/囚われし者/召喚されし者の下僕】




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人物紹介

ナージャ

宿屋の女将。肝っ玉母さん。アリシアの母親。女手一つで宿屋を切り盛りする名物女将。料理の腕はピカイチ。


アリシア

ナージャの娘。勇者に夢を見ているちょっと口の悪い女の子。オレンジ色の瞳と髪が特徴。生意気盛りの9歳。


村長

筋肉ムキムキな炭鉱の男。父親から村長の座を受け継いだばかり。


長老

現村長の父親。白いがフサフサの髪に覆われた頭が特徴。眉の下に埋もれがちな瞳はグレー。






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