表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き込まれオカマの異世界放浪譚  作者: 雪柳
勇者やりません
3/21

運命(?)の出会い





「ティーズちゃんってそれ以外の姿になれないの?」


ライカンさんに餞別として貰った更紗のリボンをティーズの頭に巻きながら聞いてみる。

ティーズは少し首を傾げた後ぽん!という音とともに猫の姿に変わった。

まるでロシアングレーの猫のような毛色にサファイアの瞳。首に巻かれた紫のリボンが鮮やかだった。


「美人さんじゃないの~」


肩に乗るティーズに頬ずりしつつ街と外とを繋ぐ橋に向かう。その方向から聞こえてくる喧騒に、ほんの少し嫌な予感を覚えながら。

だって明らか喧嘩している声なんだもの。野蛮だわ、と思いながら素知らぬ振りで通り抜けようとしたのが悪かったのか、吹き飛ばされた兵士の格好をした男が思い切りこっちに向かって飛んできた。


「ちょっちょっ、ちょっと嘘でしょ!?」


瞬間的に地面を蹴って後方に飛び退る。数瞬前までアタシがいた場所に兵士が降ってきて、がしゃんという耳障りな音とどさりという重たい柔らかい何かが落ちる音を立てて伸びていた。


「あらまぁ、鎧が凹んでる」


兵士の着ていた鎧は胸当てのあたりがべっこりと足の形に凹んでいる。余程強い力で蹴られたのだろう。人間ひとりが宙を舞うくらいの強さだから、当然なのだろうけど。

呻いてるから生きてはいるだろうけどこれだけの衝撃を食らったら起きることすら辛いだろう。

ふ、と兵士が飛んできた所に視線を移す。

そこには、至るところから血を流しながらそれでも戦闘の構えを解かない、黒と金色の混じりあった髪の男が立っていた。

鍛えられた身体は筋骨隆々で、その黄色の眼光は獲物はひとつとして残さない程に鋭い。肉食獣の目をしていた。

その目が動いて、アタシを見た。

やばい、と思った瞬間、その男は地面を蹴って高く飛んでアタシの目前まで迫っていた。なんてスピードよ!とか思いながら足を踏み切って右へと避ける。肩に乗っていたティーズが落ちた。

ドゴォン!というおおよそ日常生活じゃ聞かないような音が聞こえて、アタシがいた所が拳によって粉砕されていた。

ちょっと冗談じゃないわよ。


「ちょっと!なんなのよ!?アタシになんの恨みがあんのよ!」


男は答えずに吠えた。まるで大型のネコ科の肉食獣のような咆哮。しなやかさの中に力強さと荒々しさが内包されたその動き。

必死に躱しているけれど、どん、と背中に壁がぶつかった。まずい!本当にまずい!心臓は早鐘みたいに打っているけれど、頭は冷え切っていた。

考えるよりも先に、手が動いたのはこれが初めてだった。ホルダーにしまっていた銃を取り出してトリガーに指をかける。

昔、ネイチャーシリーズで見た虎のような獰猛さでアタシに襲い掛かる男の眉間に、冷たい銃口を突き付けた。

ぴたり、と動きの止まる男に内心胸を撫で下ろしながら魔力を練った造った銃弾を装填する。


「……殺さないのか」


男から放たれた言葉は低く、鼓膜を震わせる甘いバリトンボイス。王様のそれとは全然違うその声はぶっちゃけタイプ過ぎた。間近に迫る顔も正直好みどストライクの渋い精悍な顔立ちをしていた。


「アタシは好みの男を殺すような冷血漢じゃないわ」


睨み合う瞳の中に、僅かながら戸惑いが見えたのを確認してから眉間に突きつけていた銃を下ろす。流石にいきなり実践じゃ間違えて殺してしまう可能性もあるものを突きつけ続けるのは、心臓によろしくなかった。

男のはだけた胸元に魔力を感じて視線をそちらに向ければ、そこに刻まれていたのは黒ずんだ紋章だった。


「…アンタ、これ」

「……わかるか」

「ぜんっぜんわかんないんだけど」


一気に毒気が抜かれた顔になった男に、アタシは漸く安心する。こうなってしまっては、もう死闘なんて出来る訳もない。


「…とりあえず、離してちょうだい」


左手は男の手に掴まれたまま壁に縫い付けられて、ぎりぎりと強い力で絞めあげられて流石に痛かった。

僅かに逡巡した模様だったが、こちらに敵意がないことを感じ取ったのかそっと離された手首は、くっきりと指の形に痣がついていた。


「君は」


男が口を開く。白い歯が覗く中、犬歯が鋭く尖っているのが見えてあぁ、と察する。

この人は、人間じゃあないのだと。


「見つけたぞ奴隷!!勝手に逃げ出しやがって!!」


何かを紡ごうとした口が閉じられてしまう。奴隷、という言葉に反応して、胸の紋章がわずかに赤く光った。


「……アンタ奴隷だったのね」


何も言わないまま、苦笑を漏らしたその男臭い笑みにアタシの胸は正直いって打ち抜かれた。

鋭い目、精悍な顔つき、筋骨隆々の身体、そして何よりもアタシよりもでかい男。滅多に見ない優良物件!奴隷だけど。

いやむしろ、奴隷ならば好都合、とばかりにアタシは男の前に立って、のたのたと走ってきた奴隷商とその雇い主であろう中年男の前に立ちはだかる。


「なっ、なんだ貴様は!邪魔だそこを」

「ちょっとアンタ」

「なんだ!?」

「この人譲ってちょうだい」

「はぁ!?」


奴隷商もその後ろの貴族らしい男も、アタシの後ろにいるメンズも同じような顔をしている。

ティーズはいつの間にか戻ってきて、アタシの頬に頭を擦り付けている。ふわふわで気持ちいいわね毛並み。


「ば、馬鹿かお前は!?誰がお前みたいな得体の知れない奴に貴重な『虎牙族』の奴隷を売るか!」

「そうだ!それにそいつは私が買ったんだ!コロッセオに出す様の奴隷なんだぞ!」


奴隷商を盾に後ろの男もなにやら喚いている。


「コロッセオ?」

「……奴隷同士を戦わせて、その勝敗に金銭を賭けるくだらない見世物さ」


アタシの疑問には後ろの男が答えてくれた。やだやっぱりイケメン。


「ふーん、悪趣味ィ。アンタ、名前は?」

「……ジーク」

「ジークね。アンタ、あの男とアタシ。どっちといきたいかしら」


ホルダーに収めた銃を引き抜き、二丁の銃口を奴隷商と貴族の男に向ける。

先程装填した弾丸は生きている。トリガーを引くだけで弾は撃ち出されてあの男ふたりを打ち抜くだろう。最初だから手加減は出来ない。


「……それを聞くのか」

「まぁね。アタシは自由に生きたい。だから選択を押し付けたくはないの」


眩しそうなものを見るような目でアタシを見るジーク。


「金ならあるわよ、ちゃんと。そこの貴族のおぼっちゃんから買い取ってあげるわ」

「たかが冒険者風情が何を言ってるんだ!虎牙族がどれだけ貴重か知らないから言えるんだな!?」

「うっさいわねー、早く言いなさいよ。五数えるうちに言わないと撃つわよ」

「なっ」

「ごよんさんにいち」

「100万だ!100万ゴールドだぞ!?貴様みたいな貧乏冒険者に」

「はい」


ティーズがどうぐぶくろから金貨1枚を取り出して口に咥え、貴族の男の前まで歩いて持っていく。

ちゃりん、と落としてすぐさま掛け戻ってくるティーズはアタシの足元に座って毛繕いを始めた。形が猫だと行動まで猫になるのね、ティーズに。


「こ、これは……偽物だろ!」

「失礼ね。ちゃんと確認しなさいよ」

「うるさい!!貴様風情がこんな大金を持っているだなんて、さては盗ん」


ガゥン!とシャグラン・ラ・ローズが吠えた。貴族の男の頬を掠めて、弾丸は後ろの民家の壁にめり込んでそして魔力が解けて消えていく。


「……アタシが盗人だって言いたいの?アンタ」

「ひっ」


恐怖の余り尻餅をついた男との距離を詰めるように大股で歩く。奴隷商が邪魔をしようとしたけどグリップで殴って黙らせた。


「いい度胸してんじゃない。テメェのキンタマ来世まで使えなくしてやろうか、あぁ!?」


ガゥン!とまた吠えたシャグラン・ラ・ローズは、尻餅をついている男の足の間の地面を抉った。


「わかった!わかりました!!その虎牙族の男は売ります!!売りますからぁ!!」

「はっ、最初からそうしてればいいんだよ」


シャグラン・ラ・ローズをしまって男から権利書をふんだくる。どうやらこの契約書に自身の血を垂らせば契約は上書きできるらしい。ぶつり、と指の腹を噛みきって血を垂らせば契約書は光って何故かアタシの胸へと吸い込まれた。


【隷属の証を手に入れた!】


いきなり頭の上にポップアップウィンドウが出てきてそんな事を言い出した。


「それは奴隷を手に入れたら出てくるんだ、オイラはあんまり知らないけれど、ステータスに載ってるよ」


いつのまにかまた肩の上に乗っていたティーズに言われてステータス画面を開く。


【ユーリ=シザキ Lv.1(Exp.0/20)

HP 150/150 MP 400/400 属性:水

ATK:200(210)

DEF:250(20)

INT:264

MAG:300

AGL:150(153)

LUC:7

固有技能(ユニークスキル):ミラージュバレット)Lv.1必殺技/消費MP50)/アイテムボックス/鑑定(Lv.3)

魔法:アクエボール/アクエシールド/ヒール

装備

武器:ダガー/シャグラン・ラ・ローズ

頭:なし

胴:スケイルメイル

腕:革のガントレット

脚:革のブーツ

装飾品:アクアマリンの指輪/雨避けのマント

称号:召喚されし者/巻き込まれた異邦人/勇者を拒む者/隷属の証/虎を統べる者



ジーク Lv.32(3852/18969)

HP 1079/1563 MP 60/60 属性:風

ATK:408

DEF:387

INT:100

MAG:64

AGL:402

LUC:45

固有技能(ユニークスキル):風の牙、雷の牙、咆哮、雷光虎斬

装備

武器:なし

頭:なし

胴:どれいのふく

腕:鉄の手枷

脚:なし

装飾品:なし

称号:気高き獣/厳かなる雷光/奪われし者/囚われし者/召喚されし者の下僕】


やだジークレベルめっちゃ高い。けれど、ステータスはアタシとあんまり代わりがない、ところもある。


「……アタシの祝福ってこのステータスの数値も、だったのね」


女からの贈り物でまぁまぁ嬉しいものなんて初めてよ。なんか悔しいわ。

ステータスを見るのに夢中になってるアタシの横を通り抜けようとした貴族のボンボンに最後にひと睨み効かせてやれば、悲鳴を上げながら逃げて行った。


「アタシを泥棒扱いした罰よ……さて、と」


振り返って未だに現状についてこられていないジークを見上げる。胸の紋章が青く光っているのが見えた。


「…アタシがアンタの主になったからかしらね」

「……あぁ」

「……一応聞くわ。奴隷としてアンタを買ったのはアタシ。だけど、アンタは奴隷をやめて故郷に帰るって道もあるのよ」

「ユーリ様!」


ティーズが声を上げる。それを指先で口を抑えて押し留めて、ジークの黄色の瞳を見つめる。日本人ではありえないその虹彩はあまりにも自然で、美しかった。


「……俺の命は、あなたのために」


跪いて、アタシの手を取ってその手の甲に口付けられて思わず顔が赤くなる。やめて、いい男がこんなことするなんて反則よ!と叫びたいのに、それすらも出来ないくらいにジークの男の色気に圧倒されてしまう。


「そう……おバカさんね。最後のチャンスかもしれなかったのよ?」

「どうせ、くだらないことで散る予定だったこの命、あなたに捧げる方がずっとずっと有意義だ」


ふ、と笑った顔なんてもう好みど真ん中過ぎて本当息が苦しい。こんなに好みの男がアタシに傅いてるとか嘘でしょ。本当なんだよなぁ。


「とっ、とりあえずジークの装備を揃えましょ!それから依頼に向かっても大丈夫よね?」

「はい!依頼の期限は3日後の正午までだから間に合うよ!」

「依頼?」


アタシの手をとったままのジークを立たせて、そのままさっきの萬屋に逆戻りする。

こんなに逞しい男がどれいの服だけを着ているなんて目の毒過ぎる。


「ライカンさんお願いしますこの人の装備一式揃えてぇぇ!!!」

「ユーリおめぇひでぇ顔してんな!」


開口一番アタシの顔をひどいと言ったライカンさんはティーズにしっぽでぺしぺしされていた。けどそれって愛猫家にとっては嬉しいだけなのよね。


「しかし、ユーリ様」

「様付け禁止」

「……ユーリ、俺は奴隷なんだが、装備を買ってもらってもいいのか?」

「当たり前じゃない。むしろこれから冒険するっていうのにそんな素っ裸みたいな装備はダメよ、絶対」


主にアタシの理性のために。

ライカンが用意してきたのは、アタシの鎧よりもずっと重たそうな鉄の胸当てだった。そのアンダーは黒のぴちぴちとした素材。

下は道着風のズボンに同じような革のブーツだった。


「兄ちゃん獣人だろ?」


ライカンはカウンターに寄り掛かりつつアタシよりもでかいジークを見上げてにまにまと笑っている。


「獣人にゃ安もんの武器なんて邪魔なくらいだな、業物レベルにならねーと使えねぇ」

「そうなの?」

「おう。身体能力に優れてんだ、拳一突きで簡単に雑魚モンスターなら蹴散らす事は朝飯前だわな」


確かに、たくましいあの腕から放たれた拳は石の地面を簡単に砕いていたわね…アタシよく避けられたわ本当。


「着心地はどう?ジーク」

「あぁ…動きを制限されることなく急所を守れている、これはいいな」

「そう。ライカンさんこれちょうだい」

「あいよ、7800ゴールドだ」


どうぐぶくろからぴったりのお金を出して渡せば、ライカンさんはまいどあり!とまたいい笑顔を浮かべた。

ほんと笑うと狸にそっくりねぇ…。


「しかし、ユーリよ」

「なに?」

「……獣人を連れて歩くなら、この国にゃもう来ねぇほうがいい」

「……は?」


ライカンさんの顔が暗く沈む。何か、言いづらい事があるのだろう。隣に立つジークも同じように、表情が優れない。

どうせろくでもないことなのはすぐにわかる。あの時の、王と桃色女の目を見てすぐに分かったもの。


「…どーせ人間至上主義だとかそういうくっだらない差別でしょ?」


ぴくり、とジークの肩が揺れた。ライカンさんも驚いたように目を丸くしている。


「すこぉしくらい見た目が違うからって差別したりすんのはどこの国、どこの世界でもあんのよ。人間だけの世界の方が顕著よ。アタシは……アタシは、差別される側、だから」


男が男を好きになる。それ自体が罪だと言わんばかりに糾弾されて、集団で迫害される苦しみは、今でもうなされる事がある程に心の傷として残っている。


「ユーリ…」


ジークがそっと肩に手を置いてくる。鎧越しだけど、きっとその手が温かいんだろうって思うと、ほんの少しだけ、膝を抱えて泣いていた子供の頃のアタシが救われたような気がした。


「だからね、アタシは自由に生きたいの。種族とか女とか男とか、そんなのに差別されないように生きたいのよ」

「そうか……ユーリ、王様を脅して金ぶんどったのっておめぇだろ」

「なによそれ、人聞きの悪い」

「そいつにゃ何も売るな!ってお触れ書きがついさっき出たけどな、俺は決めた。お前の味方だぜ」


ライカンさんは晴れ晴れとした笑みを浮かべて、アタシの背中をバンバン叩いた。ちょっと、痛いわよ馬鹿力。

でも、やっぱりライカンさんはいい男だったわ。ジークの分の装備とあとはアイテムをもう少し買い込んで、依頼にあったハルト村近郊のゴブリン退治に行くわよ!




--------------------

人物紹介

ジーク

獣人『虎牙族』の男。黒髪で毛先が金色へと変わっていく。目にかかる前髪は奴隷時代ろくに手入れもされずに放っておかれ伸びたもの。襟足も肩につくかつかないかくらい伸びている。

金色の瞳の瞳孔はネコ科の動物と同じように動く。髭はない。尻尾も耳もあるが現時点では隠している。

純粋な戦闘力だけでいうと獣人の中でも1.2を争う戦闘民族だが、その希少性に目をつけられ奴隷狩りに遭い捕まえられる。

ユーリの生き様を見てみたいと奴隷のまま仲間になり共に行動するようになる。



奴隷商

獣人を始めとした亜人を捕らえては貴族や有力者に影で売る商売をしている。ド〇クエのどれいつかいにそっくり。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ