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巻き込まれオカマの異世界放浪譚  作者: 雪柳
ガリエガンド編
20/21

ハルバディア武闘大会、開催2




最初に仕掛けたのは猪の獣人だった。

見ただけでパワー特化型なのがわかる、逞しい腕から繰り出された打撃は近くにいた人間ひとりを吹き飛ばしてリングの外に放り出していた。

なるほど、気を失わせなくてもあぁやって放り投げたらいいのね、それなら楽だわ。

不意に空気の流れが変わったことに気付いてその場から半歩ズレれば、さっきまでアタシがいた所には誰かの蹴りが入っていてそのまま食らっていたら恐らく腹部にダメージを受けていただろう。

一瞬たりとも気が抜けない、と短く息を吸い込むとアタシに殴りかかってくる男の腕を掴んで瞬間的に飛脚の術を発動させて地面を蹴って宙に浮きつつ男を背負い投げ飛ばしてリングアウトさせる。

魔法は使わない。けれど何の武器も持たないただの人間では勝てない。ならば鍛えた体と術を使えばいい。


『最後のブロックは武闘派の集まりのようです!リングの上では熱いぶつかり合いが繰り広げられております!おぉっと!今大会有力株のツドス選手!ザイル選手の突進と正面からぶつかりあって今、その体を投げ飛ばしたァ!』


実況席が盛り上がっている中で、派手な立ち回りで名を挙げられた2人に視線を遣る。

ツドスはアタシが受付前で投げ飛ばした熊の獣人で、ザイルは試合開始と同時に1人を投げ飛ばした猪の獣人だった。


『おぉっとしかし!ザイル選手リングの上に踏みとどまったぁ!!両者、1歩たりとも譲らぬ闘いとなってきました!!』


アタシに組みかかろうとした人族の青年を軽くいなして蹴り上げてから殴り飛ばしリングアウトさせつつ、ツドスとザイル二人の取っ組み合いを観察する。

両者ともパワータイプなのは変わりないが、ツドスの方がパワーもテクニックも上回っている。

あの時簡単に投げられたのは不意をついたから出来たこと。今のツドスと組み合ったらそう簡単には行かないことくらい馬鹿でもわかるり

パワーとパワーのぶつかり合いに観客のボルテージはどんどんヒートアップしていく。

それに合わせてツドスとザイルのぶつかり合いも激しさを増して、それに巻き込まれた選手が弾き飛ばされてリングアウトしていくのを目で追いかけながら、背後から迫ってくる敵意に足払いをかけて転ばせて急所を一突きして昏倒させる。

ジークに言われた通り、的確にその場所だけを狙って与えたダメージに沈み込む相手をリングの外に投げる。

このままリング上にいては要らぬ怪我を負う可能性も高い。


『ここで!ツドス選手の右ストレートがザイル選手の顎に炸裂したぁぁ!!ザイル選手これには堪らずよろめいて膝をついてそして、あぁっと!ツドス選手、ザイル選手の襟をつかんでぇ、投げたぁ!!これに抗う術もなく、ザイル選手空を舞い、地面に叩きつけられリングアウトぉぉ!!これで第8ブロックの勝利者は……んん!?もう一人、もう一人残っております!あれは……今大会初出場のユーリ選手だ!!!いつの間にか他の選手の姿はありません!私としたことが!熱くなりすぎて見えておりませんでしたァ!!』

「見えてなさすぎでしょ」


余りにも正直なアナウンサーに笑いつつ、ツドスと向き合う。

あっちもアタシが残っていることに気付いていたのか、真面目な顔してこちらへと構えを向ける。アタシも一礼をしてから構えれば、少し驚いたような顔をしたツドスにニッと笑ってみせる。


「どんな相手にも礼儀は払うもんよ。特に、格闘家相手にはね」

「……魔法は使わねぇのか」

「あらやだ。身体強化すら使ってない相手に使う訳ないでしょ。そんな無作法な真似、リングの上ではしないわ」


アタシの答えにツドスは虚を突かれた表情をした後、ニヤリと笑いながら身体に魔力を巡らせるのが魔力察知で解った。

本気でぶつかってくるつもりの相手に、手を抜く程アタシは強くもないし、失礼でもないわ。

身体強化の魔法を使って飛躍的に能力を上げて向き合うと、ツドスはその目を爛々と輝かせて、リングを蹴って一直線にアタシにぶつかってきた。

組み合うつもりなら受けて立つ!とアタシも真正面から受け止めて実感する。

やはり、獣人のパワーは計り知れない、と。

お互いの力比べになればアタシは不利だった。

すっと身体を離して拳のラッシュを仕掛けるもののすぐ様見切られてがっしりと拳を握られてしまう。


『な、なんとユーリ選手!ツドス選手の突進にも負けずに組み合っている!!あの細い体のどこからあんな力が出てくるのか!?』


細くないわよ!と言い返しながらこのまま真面目に取っ組み合いしていたら根負けする、と腕の力を抜いてツドスのバランスを崩してから足払いを仕掛ける。

しかし、ツドスはそれを飛んで難なく回避すると力を込めた拳を振り下ろしてきた。

地面を蹴って転がって避けると、拳はリングの石板を真っ二つに叩き割って細かい石礫が転がった。

真正面から受けたら確実に骨が砕ける、と寒くなりつつ体勢を立て直して、飛脚の術で強化した脚力でリングを蹴って低く飛び、目一杯の力を込めてツドスが割った石板を殴りつける。

石板は更に細かく砕けて土煙が立ち上り、目をくらませる。

アタシの姿を見失ったツドスの背中に気配を消して回り込み、がら空きの背に渾身の力を込めた蹴りが決まる。


「がっ!!」


呻き声を上げてリングを転がるツドスを追い掛けて追撃とばかりに更に蹴りを入れるも甘かったらしく、足を掴まれて逆にリングへと叩き付けられた。


「うぐっ…くそっ、やるわね」


身体を丸めて叩き付けられるダメージを軽減させるとすぐに立ち上がり、迫る拳を両手で捉えて力を左へと受け流す。

正面から凄まじい力を受けたら破壊されるのがわかりきっているからこそ、受け流す。

流れた力の波を利用してツドスの側頭部へと回し蹴りを叩き込む。

ぐらり、と傾いた身体に追撃を喰らわそうとした蹴りは空を蹴り、不意に動いた土煙の僅かな動きを目端で捉えて咄嗟に脇腹を腕でガードしたものの、その衝撃は凄まじくそのまま吹き飛ばされて、リングの端に何とか踏みとどまった。

ガードした右腕は、折れている。そう直感するほどの痛みと痺れに舌打ちしつつ、使えなくなった腕をだらりと垂らす。


『す、凄まじい攻防です…私が実況を挟む隙すらないスピードで繰り広げられる激闘!!この攻防でユーリ選手はどうやら右腕を負傷、ツドス選手も背中の鎧がごっそりと削げている!!なんというレベルの高い試合!これが予選とは…まさに今大会は波乱万丈!!…ん?なになに、ユーリ選手の情報が入りました!ユーリ選手はあの『紅の水母亭』からのエントリーとなっておりますね!そして、彼の体術の師匠はなんと!あの王国騎士団団長のジークヴェイン様!!なんという事でしょう!あの『孤高の虎』のジークヴェイン様の弟子がまさかの人族!!そのジークヴェイン様もこの会場に来ている模様です!!』


会場が様々な悲鳴で沸き上がる。ジークが生きていたことに歓喜するもの、そのジークの弟子が人間だということに憤怒するもの、ただただお祭り騒ぎに乗じたいものなどなど、沢山の声が耳を劈くうねりとなる。


「お喋りさんがいるのねぇ……」

「お前…あのジーク様の弟子なのか」

「あー、まぁ」


何故か目を輝かせているツドスに曖昧な返事をする。弟子ではなく主なのだけれど、口にすれば面倒臭いことになることが目に見えているので肯定も否定もしない。


「そうか、魔法を使わずに本気で闘ってくれて感謝するぜ」

「……うぅん」


筋力向上の魔法は使っているけれど、これも黙っておこう。真剣勝負には変わりない。

正直に言って、ツドスは強い。もちろんジークよりも弱いけれど、本気で組み合って長引くなんて想像以上の力を持っていることを認めざるを得ない。


「俺は感動している、ジーク様が生きていることも、そのジーク様の弟子と手合わせ出来ることも!!」


ただの戦闘バカの可能性が出てきたツドスは先程よりもやる気に満ちていて、骨にヒビが確実に入っているはずなのに痛みの片鱗すら見せない。

いちゃもんをつけてきた時はムカつく男、としか思えなかったけれど、こうして対峙してみればただただ純粋に戦うことが好きなのだと理解できる。

その上で、敢えて聞いてみたくなるのは、乙女心のせいよ。


「…アンタ、カロンちゃんのこと好きでしょ」


図星を突かれたのか、空気を変な風に飲み込んで咳き込むツドスに笑いが込み上げる。

純粋っていいわねぇ。


「なっ、なっ、なんでそれを!?」

「見てりゃわかるわよ。アタシに突っかかったのもあの子にちょっかいかけたと思ったからでしょ?」


右手はガンガン痛むし叩き付けられた背中も痛いし全身がギシギシと音を立てている。

正直言えばもうやめてベッドにダイブしてごろごろしたいけれど、泣き言は言ってられない。そんなの、それこそ目の前のツドスに失礼だ。


「……安心しなさいな、アタシ、好きな男にしか興味はないの」

「はっ?」


タン、と軽くリングを蹴って飛脚の技を昇華させた翔空の術を使って空を駆ける。

これだけは、ジークよりも得意な自信がある術だ。元々魔力制御に秀でた魔術師なんかは得意らしいが、それが使えるまで身体を鍛える魔術師も珍しいらしい。

そりゃそうよね、魔法で大体倒せるもの。

空に飛んだアタシの姿を目で追いかけるけれど翻弄するように空気を蹴って翔けるアタシに反応しきれていないツドスの死角を狙って上から踵落としを叩きつける。

超反応を見せて頭に直撃は避けれたものの肩に重力+加速+元々のアタシの力という衝撃を喰らったツドスはよろめいて、リングに膝をついた。

アタシもうまく勢いを殺す事が出来ずに右腕を庇い無様にリングに肩から落ちたけれどすぐさま立ち上がり、闘いの構えを取る。

ツドスは大の字に転がったまま、荒い息を吐き出して、咳き込み血を吐いた。

内臓にもダメージが通ったのだろう、寝転がって空を見上げたまま、ツドスが口を開く。


「……まいった」


その瞬間、割れんばかりの歓声が会場を埋め尽くした。


『なんとぉ!!大番狂わせが起きました!!あのツドス選手を下したのは、初参加のユーリ選手だぁ!!凄まじいパワーとテクニックのぶつかり合い!!感動して私、泣きそうです!!』


ツドスの降参の声とアタシの勝利を高らかに謳う声を聞いた瞬間遠のいていた痛みが戻ってきてあまりの痛みに立っていられなくて、アタシもリングに座り込む。

急いで救急係が駆け寄ってきてツドスを担架で運びながら、アタシにも肩を貸してくれて何とか立ち上がると、そのまま救護室へと連れていかれた。


救護室のベッドに座り治癒魔法をかけられながら痛みに喚いているアタシの元へ、観覧席で試合を見ていたジークが来たのは、ツドスが全身の痛みの治療に呻きながら転がっている時だった。


「なぜあんな無茶な戦い方をした」


ちょっと怒っているジークの声は硬い。いつもそうだ、アタシが怪我をするとこうなる。

まぁアタシが猪突猛進型で突っ込むのが悪いんだけれど。


「……いやぁ、武闘家としての血が騒いじゃって」

「ユーリは魔術師だろう」

「魔術師ィ!?」


あらぬ所から声が聞こえてきて、どさりという音とともにいてぇ!!という悲鳴が上がった。

どうやらツドスが驚きすぎてベッドから落ちたらしい。


「魔術師であの体術って反則だろ!!」

「確かにな、あれは並の武闘家だったら瞬殺されるレベルだ」


ツドスの非難にジークが頷く。いや血反吐はくまで鍛えたのはアンタでしょうが、と思ったけれど口には出さずに大人しく治癒魔法を受け続ける。


「反省はしているわよ。でも、あんな真っ直ぐ向かってこられたら真っ直ぐ応えたいじゃない」

「それは分かるが…」

「時と場合は考えるわよ」


アタシたちの掛け合いをベッドに戻らされながら聞いていたツドスはなんだかしょっぱい顔をしている。


「何よ、ブスな顔してるわよ」

「うっせぇな。俺はジーク様がそんな甲斐甲斐しいお人だとは思ってなかったんだよ、なんせ」

「孤高の虎?」

「そう、それだ。兄ちゃん知らねぇのか?ジーク様の二つ名の理由を」

「おいやめろ」


ジークが慌てたようにツドスを制するけれど、聞いちゃったものは最後まで聞きたいわよね?


「教えてよツドス」

「ジーク様はお一人でレイアルフ軍の一個隊に匹敵されるお方でな、一人で十分だ、と言いなさっていつもお一人で進撃されて敵を下して戻ってくる。そこから孤高の虎、という二つ名がついたんだぜ」

「……こっちを見るなユーリ」


若気の至りだ、と零したジークに笑いつつもアタシも似たような経験があるからこれ以上つつくのはやめておく。

スタンドプレーは嫌われる、と警察組織では言われていたし、それでもそれを改める事をしなかったせいで、アタシは警察を辞めることになったんだし。

誰にだって触れられたくない所はあるわよね。


「それにしても、ジークは随分と人気があるのね」

「そりゃそうさ。ジーク様は俺達平民の希望の星だからな」

「希望の星?」

「あぁ。王国騎士団の団長てのは代々どっかのお偉いさんの子息がなっていたんだ、その団長にジーク様が就任なされたってんで平民階級の俺らは大喜びしてな」

「ふぅん……どこの国もそうなのね」


ようやく治療の終わった右腕の骨はバキバキにへし折れていたはずなのに元通りになっていて魔法のすごさを感じる。

ツドスの方はまだ少しかかるらしく、ベッドに臥したままアタシの右腕を見ていた。


「……すまねぇな」

「なんで謝るのよ。真剣勝負の結果でしょ。アンタと闘るの、楽しかったわよ」


というかアタシの方が怪我をさせた割合としてはでかい訳だし。証拠にまだベッドから起き上がれないツドスに苦笑を漏らす。


「魔法使いってんならド派手な魔法でバーン!と全員吹き飛ばすかと思ったけどな」

「そんな事しないわよ!」

「だが、他のブロックの人間はやってただろ、あれはいけねぇぜ。美学ってもんがねぇ」

「闘いの美学ね」

「ありゃつまらん闘いだったからな」

「確かにな、あれだけの力を見せ付けられたら戦意を喪失してしまうのも分かるが…この大会の趣旨にはそぐわん」


ツドスの言葉にジークも頷く。傍から見てあの予選はとてもじゃないが盛り上がるものではなかった。

ただ力で蹂躙するだけ。

確かに、勝ったものが正義ではあるが、あのやり方はアタシは好きじゃない。


「勝ちゃいいのよ、ってことでしょ」


もう鎧の意味を成していない革鎧を脱いでからジークが持ってきてくれた着替えに腕を通してローブを羽織る。


「あんな詰まらん奴に負けるなよ、ユーリ!」

「そこは運次第ねぇ」


ツドスが右手を上げている。それに応えるように堅く握手を交わすと、ツドスはにっかりと笑ってアタシの背中をばしんと叩いた。


「いったいわね!馬鹿力!!」

「はははっ!もっと筋肉つけろよ!」

「アンタも脳筋か!!」

「ツドスさん!!」


ふと、救護室に可憐な声が響いた。

入口を見てみると、目にいっぱいの涙を溜めたリスの獣人のカロンが立っていて、ベッドに臥しているツドスを見てその大きな瞳に溜めた涙をポロポロとこぼして駆け込んできた。

そしてベッドの側まで駆け寄るとツドスの手を握り、そこに頬を押し付ける。


「かっ、カロンちゃん…?」

「ツドスさん!!私、私ずっと見てました…試合」

「……へへっ、負けちまったけどな」

「格好よかったです、ツドスさん」

「カロンちゃん……」


元々、カロンもツドスの事が好きだったらしく、アタシが大会中にツドスの気持ちをばらしたもんだから居ても立っても居られなくなってしまったんだろう。

手を握り、見つめ合うふたりに居た堪らなくなったのはアタシのほうで、こっそりと救護室を後にする。



「人のキューピッドしてる場合じゃないのにもう……アタシももうすぐ30なのに」

「人族はいつも年齢を気にするな」

「当たり前でしょ、お肌はもう曲がり角よ」

「…そうか?」

「そうなの。最近は紫外線に晒されまくってるからもう恐ろしい…」


乙女心よ、と告げればジークはわかったんだか分からないんだか微妙な顔をして後ろからついてくる。

コロシアムのロビーに続く廊下を抜ければ、一気に歓声に包まれた。

アタシたちのブロックで予選大会は終了し、本戦に出場する選手が出揃った。

そのうちの一人な上に、大人気のジークを伴って出てきたとなれば観客のボルテージは最高潮に達しているだろう。


「ユーリ選手はコロシアム中央のリングまでお願いします」


係員に誘導されつつジークから離れれば、途端に人垣に埋もれてしまったジークに苦笑を禁じ得ない。

向かう先は、先程アタシとツドスが壊したリングの上で、足場の悪いそこに軽く飛び上がるとアナウンサーがマイクを握るのが見えた。


『お待たせいたしました!今ここに、本戦へと出場する八人の選手が揃いました!

第一ブロックからはフォルナー選手、第二ブロックからはエンレケ選手、第三ブロックからはマスキル選手、第四ブロックからはレッカ選手、第五ブロックからはグライヒン選手、第六ブロックからはハーレイ選手、第七ブロックからはオルス選手、そして第八ブロックからはユーリ選手!』


アタシが試合を見ていなかったブロックからの出場選手は三人、グライヒンは人間の上半身に馬の下半身のケンタウロスの男、彼の種族は人族と獣人族のハーフらしい。ハーレイは腕が鳥の翼のようになっている極彩色の美しい孔雀族の女性、オルスは小さな体ながらも頑強さと強い力が特徴のドワーフ族の戦士だった。


『それではこれより抽選を行います!フォルナー選手からどうぞ!』


どうやら、箱の中に入った番号を引いてトーナメント表のどの位置にどの選手が配置されるのかを決めるらしい。アタシは一番最後だから引いても引かなくてもわかるっちゃ分かるけれども、形式的には引かなければならないらしい。


『新星フォルナー選手はなんと!1番を引きました!』


まだ対戦相手すら決まっていないのにざわめく観衆。

次はエンレケという猫の獣人が箱の中から番号を引く。番号は8番。彼は本戦一回戦の最後の試合らしい。

マスキルは5番。レッカが4番を引くと、周囲は3番の選手を憐れむような声を上げた。

確かに、あの魔法は驚異だろう。しかし、魔法の力だけでは勝ち抜けないのが勝負の世界だ。

グライヒンが7番を引くと、はじめて対戦相手が決まったと観衆の歓声がうねりとなってアタシ達に降りかかる。ハーレイはなんと3番を引いて、歓喜の声が一気にハーレイを心配する声へと変わるけれど、彼女は妖艶な笑みを浮かべながら口元を美しい羽で覆い隠した。

オルスが6番を引いて、アタシに残っているのはたった一つ。


「あらまぁ、運命ってのは都合よく出来てんのねぇ」


一つだけ残った番号を引き当てて、アタシは運命の悪戯に目を細めて笑う。


「よろしくね、フォルナーちゃん」

「気安く呼ぶな」


2番と書かれた番号を見せて、犬娘に話しかけてもふん、と顔を逸らされてしまう。

勝負は明日の正午から。遅れたら失格。

こうして、ハルバディア武闘大会の予選の幕が閉じた。







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