城下町ってどんなところかしら
城下町編です。
クソ王様にさよならバイバイをしてから城下町へと向かう道すがら、そういえばこの国のことを何も聞かずに飛び出してきてしまったことを思い出して胸ポケットで眠っている精霊をとんとん、とつついて起こす。
「もしもーし、起きて」
びくん、と跳ね上がった精霊はポケットから飛び出してアタシの顔の前を飛び始めた。
「はっ、はい!なんでしょうか!」
泣きべそをかいていたせいか、目元が少し腫れているけれど、お人形のように整った顔はそれくらいで美を損ねるはずもない。
宝石のような瞳の色に飼い猫を思い出しつつ手を差し出せば、その上に律儀に正座して座る精霊に目元が緩んでしまう。
「あなた、お名前は?」
「はいっ!精霊は、宿主に名前をもらってから初めて名前ができます!」
「あらっ、じゃあアタシがつけていいのね?」
「はいっ!」
薄くて綺麗な羽が震えている。嬉しいのと緊張しているのとで変な顔をしている精霊を見つめて少し考える。
「あなた、男の子かしら?それとも女の子?」
「精霊には雌雄の区別はないんです!」
「あらそう?それじゃああなたの名前はティーズ。アタシの飼ってた可愛い可愛いお猫様の名前よ」
「ティーズ…」
手の中の精霊がぷるるっと震えた。青い光は一瞬眩いばかりに輝いた後、ゆっくりと収束していく。
薄青色で、半透明だった肌の色が実体を持っていく。
名前をつけることで世界に定着するのだ、と嬉しそうに笑ったティーズにアタシまで嬉しくなってしまう。
「アタシはユーリ。よろしくね、ティーズ」
「はいっ!ユーリ様!」
羽ばたいて一回転して頭を下げるティーズが余りにも可愛くてアタシは元の目的を忘れそうになった。
「ってそうじゃないわ、ティーズ」
「はい?」
「アタシはね、異世界人なのよ。この国のこと何にも知らないの」
「ユーリ様が異世界人なのは知ってます、この世界の魔力と、全然違う力を持ってるから」
「あら、わかるの?」
「はい!確認したいと思ったら、頭の中でステータスって念じると出てくるんだ」
ステータス、とティーズが言うままに念じれば、目の前にいきなりポップアップウインドウのような枠が出てきてびくりと肩が跳ねた。
「これなの?」
「うん!あとね、ユーリ様はこの世界に来た時に、女神様の祝福を受け取ったんだ。異世界から連れてこられた人はみぃんな、祝福があるんだよ!」
「あらそうなの…」
なんだか神とはいえ女に授けられたとか癪に障るけれど、貰えるもんは貰っとく主義なの。オカマは強欲なのよ。
【ユーリ=シザキ Lv.1(Exp.0/20)
HP 150/150 MP 400/400 属性:水
ATK:200
DEF:250
INT:264
MAG:300
AGL:150
LUC:7
固有技能:?????(武器装備時に開放されます)/アイテムボックス/鑑定(Lv.3)
魔法:アクエボール/アクエシールド/ヒール
装備
頭:異世界の遮光眼鏡
胴:異世界の服
腕:異世界の時計
脚:異世界の服
靴:異世界のハイヒール
装飾品:アクアマリンの指輪
称号:召喚されし者/巻き込まれた異邦人/勇者を拒む者】
「ティーズ、これってどうなの?」
「うぅーん、人族のことはわかんないなぁ、オイラ」
「そうよねぇ……」
「でも!ユーリ様つよいよ!」
「そう?運がなさすぎるのが本当笑えるんだけど」
溜息を吐きながらステータスを閉じる。
称号にある巻き込まれた人、というのは自覚があるので触れないでおく。
「さてと……定石としてはギルドに登録とかがあるんだけど、この国にはギルドはある?」
「あるよ!冒険者ギルドってところがあってね、そこに行って登録すると、冒険者として認められるんだ」
「誰でもなれるの?」
「うん!人族なら誰でもなれるよ、身分証とかなくても登録さえしちゃえば冒険者だからね」
ティーズは肩に乗るのが気に入ったらしく、アタシの肩に座りながら楽しそうにお喋りに興じている。
ついさっきまで、ガラスケースの中で泣いていたとは思えないそのはしゃぎっぷりに、アタシはこの子を選んで良かったと心の底から思った。
いじめられる子の気持ちは、痛いくらいにわかるから。
「ティーズ」
「なに?ユーリ様」
「ずっと、そうやって笑っていてね」
肩に乗ったまま、首を傾げるけれどはい!なんて元気に頷くティーズはきっと世界一可愛い精霊だと思うの。
レイアルフ王国城下町に居を構えるギルド本部は、言ってしまえばRPGの世界そのままのものだった。
木造造りの本部は二階は宿を兼ねているようで、一階には飯屋兼居酒屋も入っていた。
カウンターの向こうには受付係だろう女の子が二人、そろいの制服を着ていた。薄青の長袖ワンピースに白のエプロンをつけて、頭にはワンピースと同色のベレー帽。足元はマロンブラウンの編上げブーツとおしゃれも兼ねている。
壁にはコルク材のボードが置かれて、そこにたくさんの依頼書がピンで止めてあった。どうやら階級ごとに分かれているらしく、下にあるものほど簡単なものらしい。
「冒険者登録したいんだけど」
女の子に声をかけると、その子は笑顔でこちらを見た。そして、アタシの格好を見てからその笑顔が少しだけ、引きつった。
異世界人丸出しの格好をしているからだろうけれど、それくらいで顔色変えたらプロ失格よ。
「あ、えっと……ご登録ですね!失礼しました!」
ごそごそとカウンターの下を漁って、そこから掌に収まるくらいの小さな水晶玉と記入書を取り出した女の子を見下ろしつつ、サングラスを外す。
サングラスしていると無駄に威圧感ある、と言われていたのを忘れてたわ。
差し出された羽ペンを持って名前を書く。日本語だけど大丈夫かしら、と思っていたけれど問題はないらしい。どうやら自動翻訳機能がついているみたいで、それはきっと女神の祝福とやらのおかげみたいだった。
「それではこちらの水晶玉に血を垂らしてください」
差し出された針を持ってぷつ、と指の腹を皮膚を破る。そのまま水晶玉に押し付ければ、薄紅色のマーブル模様を描いたかと思ったらすぐに光は消えた。
「…ユーリ、ユーリ=シザキ様、ですね!ご登録完了いたしました!」
記入書に書いた文字が浮き上がった、と思ったら記入書が小さく縮んでいく。まるで定期カードのような大きさまで縮むと、そこに浮かんでいた文字がぺたり、と張り付いてそのまま吸い込まれていく。
【ユーリ=シザキ RANK:F】
カード状になったそれに書かれたそれは確かにアタシの名前だった。どんな魔法を使ったんだろう、と気になったけれど、今は聞かないでおく。楽しみはとっておくタイプだからね。
それからアタシの血を吸い込ませた水晶が、ベロアっぽい生地の巾着袋に入れられて渡された。
「カードと水晶玉、その二つで冒険者の証になります!登録料は5ゴールドです!」
「5ゴールド…」
どうぐぶくろの中にあったのは金貨と銀貨だけで、どれが1ゴールドなのかわからずにとりあえず銀貨を差し出す。
「はい!えーと…95ゴールドのお返しですね!」
「ありがと……ねぇ、ひとつ聞いてもいいかしら?」
「はい?なんでしょうか」
「アタシこの国来たばっかりでお金について詳しくないのよね。説明してくれないかしら?」
「いいですよ!」
彼女が言うには、1ゴールド硬貨は銅色のもので、日本円にして100円。銀色のものは100ゴールド硬貨で日本円にして1万円、金色のものは10000ゴールド硬貨で日本円にして100万円らしい。本当にざっくりとした解釈だけれど、間違ってはいないみたい。さらにその上の硬貨もあるらしいんだけど、それは大商人とか貴族くらいしか使わないらしい。
「ありがと。あともうひとつ、冒険者用の装備が整えられるところないかしら。アタシ出勤する時の服のままだから動きづらくて仕方ないのよ」
「あ、それでしたら向かいにギルドと提携してる道具屋がありますので、そこで一式揃えられますよ!」
「そうなのね……あぁそうだ、アタシのギルドカードにランクがFって書いてあるんだけど、これは依頼をこなせば昇格試験とかがあるのかしら?」
「はい!ランクはSからFまであって、登録したばかりの冒険者は全員Fからスタートになります。ランクが上がるとカードの色が自動的に変わります。Fなら赤、Sなら紫になりますね」
「ふぅん……この水晶玉は?」
「それは偽造防止用の水晶です!カードだけなら偽造されちゃうんですけど、水晶玉がないとカードの再発行ができなくなってます。もし水晶玉を無くしたりしたら弁償金がかかりますのでご注意ください」
「はぁい。いろいろとありがとうね。早速だし、何か依頼を受けてみようかしら」
「あ、でしたら最初は薬草の採取とかがオススメです!」
最初は何この子、とか思ったけれど、仕事熱心ないい子だっていうのがわかったから評価を変えて、真面目な貧乳娘ってことにしておいた。
クエストボードの前に行くと、道を開けられた。お城でやんちゃしたことがばれたのかしら、と思ったけれど、ただ単に異世界人と関わり合いたくないだけなのだろうけど。
薬草の納品、と依頼書を剥がそうとした手の横から別の手が伸びてきて、その依頼書を横取りして剥がされた。
何事、と思って隣を見れば、そこにいたのは顔にも傷跡が残る、人相の悪いオッサンだった。
「ちょっと、何よアンタ」
「兄ちゃん異世界人だろ?そんな奴に大事な依頼は任せらんねぇなぁ」
ニヤニヤと下卑た笑い。他にも同調するかのような笑い声が響いてイラッとしたけれど、堪える。平常心平常心。ここで揉め事を起こすのはよくない。馬鹿でもわかるわそんな事。
やっぱり早く着替えよう、と自分の服を見直す。
レイバンのサングラスに出勤だからと透け感のある白のノースリーブのブラウスに黒のタンクトップ、それに紺のスラックスに黒のハイヒール、片やそのままRPGの世界から出てきました、みたいな革の鎧だとかグローブだとかの格好をした人たち、これじゃあ、アタシひとり悪目立ちし過ぎてる。
「あらなぁに?異世界人がクエスト受けちゃいけないなんて規定はないわよね?アタシちゃぁんと冒険者登録したもの」
「はい!ユーリ様は冒険者として登録されましたので、ランクに見合った依頼は受けられます!」
「ほら見なさい?アンタら、格好悪いわね」
呆れた様に言えば色めき立つオッサン達を無視してゴブリンの討伐という依頼を1枚剥ぎ取ってクエストカウンターにバン!と叩きつける。その際指輪がごつっという鈍い音を立てたけど気にしない。
「これ受けるわ」
「はっ!はい!」
「じゃあね、アタシ、暇じゃないの…それと、うるさくしてごめんなさいね」
「い、いえ!頑張ってください!」
依頼書の控えを貰って悠々とした足取りでギルド本部から出ていく。勿論、オッサンをサングラス越しに睨むのを忘れずに。ギルドの貧乳娘がなんか頬を赤らめていたように見えたけれど、アタシ女には興味無いのよね、ごめんなさい。
向かい側にあるギルド提携のお店。武器防具屋も兼ねているよろず屋の木製のドアを開ける。
「いらっしゃいませ!」
店主は狸に似ていた。
「早速だけど、アタシ今日から冒険者になったはいいけどぜーんぜん何にも知らないのよね、この国のことも、世界のことも」
「おっ、そんなら兄ちゃんは異世界人かい?」
「えぇ、そうよ」
「それならまずは駆け出し冒険者セットだな!兄ちゃんガタイ良いから大きめサイズ用意しておくぜ」
「あらありがと。セットの中身は何かしら?」
狸店主がカウンターの上へと並べてひとつひとつ説明してくれた。
【装備
ショートソード:鉄で出来た軽めの剣。冒険者なら誰もが最初に手にする武器。(ATK+10)
スケイルメイル:魔物の甲殻で心臓の真上、肩当を強化したもの。魔物の革を鞣して作ってあるので伸縮性も抜群。防御力もそれなり。(DEF+15)
マント:深緑色で森林にも草原にも溶け込みやすい。雨避けの護符が縫い込まれたもの。突然の雨にもこれ一枚あれば大丈夫!(DEF+5)
白のシャツ:鎧の下に着るもの。通気性、吸水性のある素材で織られたもの。(変動なし)
ガントレット:魔獣の皮を鞣した手甲。手の甲の部分は魔物の甲殻で覆われている。(DEF+3)
革のブーツ:魔獣の革でできたブーツ。耐水性があり多少足場の悪い所でも難なく進める。(DEF+3 AGL+3)
アイテム
ポーション:HPの30%を回復するもの(×10)
森の雫:MPを30%回復するもの(×5)
解毒薬:とろりとした青紫の液体。身体の毒を消し去る(×5)
携帯食料×5
未開の地図(人間界のみ書かれている。他は大陸名のみで地名などは書かれていない)】
「これでおいくら?」
「冒険者がギルド提携店で買ってくれる場合は10%引きさせてもらうからな、これで200ゴールドのところを180ゴールドだ」
「あらま、案外安いのねぇ」
「…安いって兄ちゃん、駆け出しの冒険者はそんな大金持ってねぇんだぞ」
狸店主の言うことも最もだ。アタシは召喚された立場だから慰謝料をふんだくったお陰でお金はあるけれど、一般的な市民はどうなのだろうか。まず、この世界の経済レベルを知らない。
日本を基準にすると、18000円で服の上下セットからお得道具まで揃えられるなんて激安!以外に他ならない。
「そうねぇ……武器、なんだけれどアタシ剣術の心得はないのよね。何か、ナイフとかダガーとかに変えられないかしら?あと、他にも武器は見られる?」
「おう、いいぜ。店内は自由に見て回ってくれ」
狸店主の店は広かった。さすが城下町、と言えるほどの店構え。武器はどうやら一階に置いてあるらしく、そのコーナーへと足を向けて、壁にかけられたそれを見て足が止まった。
目を奪われる、というのはこういうことを言うのだろう。
それは、一対の銃だった。
美しい銀色のボディ、グリップは深みのある磨いたマホガニーの様な木製。グリップに施された装飾は精緻に彫り込まれた蔓薔薇。薔薇の花びらは美しい紅の塗料で彩られている。
対になるようにかけられているものも同じ銀色のボディに、グリップは胡桃色の木製。装飾は銀の銃身に彫り込まれた茨。グリップにはドロップカットにされた青い宝石が埋め込まれていた。
「おじさぁん!」
思わず大声を上げてしまう。
「なんだなんだ?……お、そいつにするのかい」
「これ、これよ、これアタシ、アタシこれがいいわ」
「お目が高いな、と言いたいとこだが、おめぇさん魔法銃の使い方わかるか?」
「全然。でもアタシ決めたの。アレがいい」
決めたんだから、と壁にかけてあるその銃を手に取る。
木製のグリップを握り締めると、指はきちんと回るしトリガーにも簡単に指が届く。要するに、しっくり来たのだ。
美しいばかりではなく、実用性も兼ねた銃。
胸が踊るというのはこういう事なのだ、とアタシは理解した。今すぐ、この子達の力を試してみたい。美しいこの銃身から放たれる弾丸はどれだけ美しいのだろう。
「わかったわかった、そいつぁ持ち主を選ぶっつー曰く付きの武器だったんだけどよ…お前、気に入られたな」
「曰く付き……そう」
自分の両手のひらに収まっている銃を見つめる。美しい輝きの中に秘められた悲しみが垣間見えたような気がした。
「おじさん、これも含めておいくらかしら?」
「ちょっと待ってな……そいつだけで100000ゴールドするんだが」
「お金ならあの王様からふんだくったからあるわよ」
銃を持ったままカウンターに戻り、冒険者セットごと購入を決める。
どうぐぶくろから金貨を1枚取り出してカウンターに置けば、狸店主の目が丸くなった。
「ちょっと待ってな、えぇと、118000ゴールドだから、お釣りが882000ゴールドだな」
一度店の奥に引っ込み、少ししてから麻袋に詰めた硬貨を持って戻ってきた狸店主。中身を確認せずに受け取ってどうぐぶくろに放り込む。
「お、おい、確認しなくていいのか?」
「しないわよ。商売なんて信用第一じゃない。おじさんがそんな初歩的なことを忘れてお釣りごまかすなんてしないでしょ」
あっさりと言ってのければ、狸店主は一瞬固まった後に盛大に笑い出して、アタシの肩をばんばんと叩いた。ちょっと、結構痛いんだけど。
「な、なによ!?」
「兄ちゃん気に入ったよ!なんかあったらうちの店に来な!サービスしてやる」
がっはっは、と剛毅に笑う狸店主からどうやら気に入られたらしい。店の一角にある着替えスペースで鎧の着方をレクチャーされつつ着替えれば、もうどこからどう見ても一端の冒険者のようだった。
「似合うじゃねーか!兄ちゃん色男だな!」
「知ってるわよ」
背も高く、タレ目の瞳の横に控えめに存在する泣きぼくろ。鼻はすっと通って高く、唇は薄め。女なら美女と呼ばれてもおかしくないけれど、生憎アタシは男。
「そうだ兄ちゃん、ショートソードじゃなくてダガーにしておいたぜ。あと、その銃のホルダーはおまけしといてやっからな」
「おじさん大好き」
「がっはっは、こんな別嬪に惚れられるたぁ男冥利に尽きるな!」
懐のひろすぎる狸店主にうっかり本当に惚れそうになりつつ、店の裏手にある修練場に連れていかれる。
そこで魔法銃の使い方を教えてくれるらしい。
「まずはイメージだ。魔力を弾丸の形にして、撃ち出す。トリガーを引くとその撃ち出すイメージを助長してくれてスムーズに撃ちやすいぜ」
「弾丸、イメージ…」
銃の構造も、弾丸の仕組みも分かっている。こんな所で前職の経験が役に立つ、だなんて本当に人生はわからないものだ。
螺旋を描く弾丸と、それを弾き出す銃身。
魔力の弾を作るのはさほど難しくはなかった。トリガーに指をかけて、弾き出す!
ガゥン!と音がして放たれた弾丸は目にも止まらぬスピードで的のど真ん中を射抜いていた。
「……すげぇな、兄ちゃん」
「ふふん、アタシ射撃は得意だったの」
太腿に巻いたホルダーに銃を仕舞う。魔力を弾に撃っているから銃身は熱くならずに冷ややかなままだった。
「参ったな、こりゃ。教えることもなかったか」
「いいえ、おじさんのおかげでわかり易かったわ」
「…銃を選ぶ冒険者はもういねぇんだ。どうしても剣の方が楽だし、強いからな」
「そうね。でも、こんなファンタジーの世界に銃があるなんて、アタシはそっちの方がロマンを感じるわ」
「ファンタジー?」
「こっちの話。さてと、長居しちゃったわね…ありがとおじさん。名前、聞いてもいい?」
手を差し出せば、当たり前のように手を握り返してくれる狸店主。
「ライカンだ、兄ちゃんは?」
「アタシはユーリよ、これからも贔屓にさせてもらうわ、ライカンさん」
熱く交わした握手から伝わる無骨な手に、笑みがこぼれた。
この世界に来て、ようやく信用できそうな人間に出会えたことが嬉しかった。
【シャグラン・ラ・ローズ:二丁魔銃。美しい装飾の施された一対の銃。魔力を込めて撃ち出す弾丸で貫けぬものはない。放たれた弾丸が嘆きの歌に聞こえることからこの名が付いた。(ATK+???)】
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人物紹介
ティーズ
水の精霊。落ちこぼれと馬鹿にされているところをユーリに救われる。
薄青色の肌にターコイズブルーの髪、サファイアの瞳と額に嵌る青い宝玉が特徴。
リリィナ=キャレント
レイアルフ城下町のギルドの受付嬢。貧乳。栗色の髪を短く切ったボブカットの活発な印象の貧乳娘。
仕事はきっちりやるけれど時々抜けたところのある愛嬌のある女の子。
ライカン=ブライツ
レイアルフ城下町の萬屋の店主。狸に似ているが、腹が出ている訳では無い。茶色の髪に茶色の瞳の壮年の男。
元Sランク冒険者。豪快な性格で気に入った冒険者には割引したり指南したりと人情家である。