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巻き込まれオカマの異世界放浪譚  作者: 雪柳
ガリエガンド編
15/21

閑話休題(SSS3本)

【ユーリの左目が隠れている訳】


「ユーリ様は、どうして片目を隠しているの?」


肩に乗ったティーズが甘えるようにビロードの毛並みを擦り寄せてくるのを受け入れつつ、血脂のついたダガーをせっせと家庭用の洗剤で洗い流す。ウォーターボールを空中に浮かばせてその中に泡立ったダガーを差し込んで綺麗に泡を落としてからウォーターボールの発動を解除する。

そのままだと錆びてしまうから、手入れ用の布で拭って汚れの有無を確かめる。

使った刃物を放置はするなとジークに教えられて、手順通りに手入れをしているという訳だ。


「んー、そうねぇ……アタシの左目を見るとね」


そこで一度言葉を切ってからダガーをひっくり返して汚れが残ってないかを確認してから鞘にしまう。


「……呪われてしまうのさ!」

「ぎゃんっ!」


脅かすように声を低く作ってがなれば、ティーズはびっくりして肩から落ちてしまった。


「あはは、冗談よ冗談」


ダガーを置いて転がり落ちたティーズを抱き上げると膝に乗せて、緩くウェーブのかかる前髪で隠れている左目を見せようと、前髪を耳に掛けた。

そこには、瞼を真っ直ぐに分断するかのような、引き連れた刃物の傷跡が残っていた。

幸い眼球に傷はつかなかったものの、鈍らだった刃で抉られた皮膚は元には戻らなかった。


「女の顔に傷がある、だなんて恥ずかしいでしょ?だから隠してるの」

「痛くないの?」

「えぇ、昔の事ですもの。もう痛みはないわ」


耳に掛けていた前髪を元に戻して指先で軽く整える。

ティーズは隠れた後も、アタシの左目をずっと見ていた。


現代の整形技術なら傷跡を消すことも出来ると言われたけれどアタシはそれを良しとしなかった。

これは、アタシの罪だから。




【イフリートの暇潰し】




「998………999………1000」


地面が動いている。

いや、イフリートが腕立て伏せしているジークの背中に座っているだけなのだが、逞しいその背中は鍛錬のせいか、今は汗に濡れ、筋肉が行使される度に蠢くのが分かる。

親指だけで全体重を支えながらの腕立て伏せはジークの日課だ。

旅をしながらも鍛錬を欠かさないジークは武人の鑑とも言えるだろう。


「時にジークよ」

「なんだ?」


1000を越えてもまだ腕立て伏せをやめる気配のない男に、イフリートはその背中に座ったままダガーの手入れをしているユーリを見た。


「ユーリと番う気は無いのか」


べしゃりとジークが崩れ落ちた。支えていた親指の力が抜けたのだろう。

動揺する様子にまだまだ若いな、とイフリートは表情のあまり変わらぬトカゲの顔で笑った。


「ユーリは俺の主だ。番うなんてことは考えていない」


至極真面目な返答をしてから体勢を立て直し、また1から数え直したジークの背中は僅かに震えている。


「まずは雄同士は番えないと言うと思ったが」

「あっ」


どうやら、本当にその事を失念していたらしいジークは腕立て伏せをする所ではないのだろう。静止したまま、ブツブツと何事かを呟いてから立ち上がった。

背中に乗っていたイフリートは転げ落ちる前に羽根を羽ばたかせて宙に浮く。


「……あまり、からかってくれるな、イフリートよ」

「バレていたか」

「バレバレだ」


ぽん、と頭に手を置かれてそのまま泉へと汗を流しに行ってしまったジークを見送り、ティーズと戯れているユーリの元へと向かう。


全く、これだから人は面白い。





【行商人とユーリ一行(ジーク視点)】




「おじさぁん、これ少し安くならないかしら?」


ユーリが手に持っているのは美しいアイオライトの装身具だった。

耳に穴を開けて吊るすタイプのそれを値切る、女言葉を話す背の高い男、というかなり特異な姿のユーリに負けじと応戦する商人は、肝が座っている。


「このダガーも買うならまけてやろう!」

「もう一声!アタシこの店で買ったこと旅しながら自慢して宣伝するからもう一声!」

「くぅ、兄ちゃんも商売上手だねぇ!よしわかった!4500でどうだ!これ以上はまからねぇ!」

「買った!」


商談成立!とがっしりと握手を交わしたユーリと商人の間に友情が芽生えた気がした。いや、深く考えるのはやめよう。緩く頭を振って思考を追い出す。

旅を始めてから、ユーリは間違いなくタフになった。もともと、初めての遭遇時から強かった精神面が更に鍛えられている気がする。


商人に手を振って別れると、ユーリは俺へと先程買った装身具を渡した。


「これは?」

「アタシの魔力を込めておいたのよ。青い石はアタシと相性がいいのか、魔力を貯められるようになってんの」


でもアンタ耳ないわね、とユーリが俺のもみ上げあたりの髪を持ち上げて確認して、少し気落ちしたように肩を落として笑った。


「身につけてなくても、持ってるだけでも効果があるから。お守りみたいなもんね」


受け取ったピアスはちゃり、と音を立てて掌の上で輝いている。

内包した魔力のせいだろうか、時折虹色に輝いているように見えるピアスは美しかった。




後日。


「そういえばピアスどうしてんの?」

「つけてるぞ」

「えっ?うそ?耳に!?ちょっと見せ、見せなさいよ!」


背伸びをして俺の頭のどこかにある耳を探そうとするけれど、その視線を躱す様に背をそらせばケチ!という言葉とともに肩パンされた。

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