画期的な魔王さま
「…………」
我が輩は魔王である。
この世界を恐怖と魔で埋め尽くさんとする者である。
我が輩はこの世界を手中に収めんと、魔王軍を編成し、人間どもに宣戦布告を言い渡した。
そして結果。愚かなる人間どもは、我に偉大なる魔の力に次々とひれ伏し、一つ、また一つと領土を明け渡して行った。
この世界が我が手中に収まるのは、もはや時間の問題であろう。
魔の世界の誕生は近い。我が理想郷は、もうまもなく完成するのだ。
「…………」
しかし我が輩は魔王である。
故に、避けて通れぬ事が一つだけある。
それが……
「魔王さま、もう間もなく勇者がここへやってくると……」
「うむ……」
愚かなる人間どもは、愚かな事に我が輩を討たんとする刺客を送り込んだのだ。
それが勇者と呼ばれる者である。
勇者はいみじくも我が魔王軍配下を次々と打ち破り、我が魔王軍の領土を次々と人間へと解放し、そしてついにはこの我が魔王城まで領土にせんとする始末である。
我が野望を打ち砕かんとする、最も忌むべき人間。
それが勇者。人間どもの希望であり、魔の者らにとっての絶望でもある存在。
同時に、我が輩の世界征服達成の為にも、必ず息の根を止めねばならぬ存在……
「魔王さま、来ました! 勇者です!」
「門戸を開けよ。そして我が御前へと連れて来るのだ」
「しかし、それでは魔王さまが……!」
「構わぬ。人間と言えど勇者と呼ばれし者。その実力、確かに本物のようだ」
「お前たちも、折角持ったその命。それをこんな所で無駄に落としたくはなかろう」
「魔王さま……」
我が輩は魔王。魔を統べる王。
故に部下の安否は、最も懸念すべき材料の一つである。
部下がいるからこそ我が目的は達成目前までこぎ着ける事が出来、部下がいるからこそ我が輩は王として君臨できるのだ。
我が輩は愚かなる人間とは違う。
我が輩は魔王。命の大事さなど、未だ同族で殺し合う人間なぞよりも、遠の昔に悟っているのだ。
「魔王さま! 勇者、もうまもなくこの魔王の間へと来ます!」
「そうか……」
「……お前たち、残りの部下を連れ、全員この場から退却せよ」
「……えっ!?」
我が輩は魔王。我が輩と勇者との熾烈を争う戦いに、部下を巻き込むわけにはいかぬ。
勇者を砕くのはいつだって魔王と相場が決まっておる。
人間と言えど勇者と成りえた存在。その実力だけは確かな物だと、認めざるを得ないのだ。
「我が命令が聞けぬか? お前たちではもはや勇者に太刀打ちできぬ」
「弱き者、この場に存在するに値せず。わかったらとっとと消え失せい」
「魔王さま……」
我が輩は魔王。人間どもと違い見せかけだけの言葉は投げかけぬ。
我が輩は魔王であるが故に、常に非情であればならぬ。
それが魔王と言う存在。力を信望し、弱肉強食を常とする者。
故に弱き者は必要とせず。それは、我が配下も当然……。
「……どうか、ご無事で!」
「…………」
我が輩は魔王。王は常に一人。
故に魔王の間に存在せしは我が輩一人でいい。
そして我が輩は一人この場に佇むに至る。
魔王の間に踏み込む事ができる、唯一の人間。
勇者が我が御前に、降臨するその時まで……。
「さあ来い……勇者……」
「下等な人間共が魔の王を討つ事叶わず。それを、身を持って証明してくれるわ……!」
我が輩は魔王。勇者との対峙を運命づけられし者。
故に我が輩は全霊を込めて立ちはだかろう。
人間を恐怖に陥れる、魔王として……。
「…………」
ギィー
「!!!!!」
勇者キターーーーッ! 来たッ! ついに来ちゃったよオイィィィッ!?
てかえ、ちょ、待って待って待って! まだセリフとか決まってないんですけど!
第一声をどれで行こうかまだ決めかねてるんですけど!
何パターンかあってどれを言おうかまだ悩んでる最中なわけで、ぶっちゃけちょっと待ってほしいっていうか、ほら、魔王にも色々あんじゃん!?
「フハハハハー!」って感じで笑うデーモンタイプとか「……」をやたらと語尾に付ける中二病タイプとかさ!?
勇者的にはどっちが好みなのってかそれが聞ければ苦労はしねえって話で、何ならお茶と茶菓子出すから、ちょっとマジ5分程廊下で待っててもらっていいっすか!?
「う…………ォォォォォ!」
「よく来たな愚かなる人間よ! 我が御前に現れしその勇気だけは褒めて遣わそう!」
「だが、我が輩は今までの配下共とは違うぞ!? 魔を統べる王の力、とくと堪能するがよいわァッ!」
やっちまったーーーーーッ! 何の捻りもないベッタベタなセリフ言っちまったァーーーーッ!
つか褒めて遣わすってなんだよ!? 勇者相手に魔王が!?
完全に意味不ってかじゃあそれ我が輩どっちの味方してんだって話だっしょ!?
てか配下と一味違うって当然じゃね!? 我が輩魔王なんだから!
魔王が中ボスより弱かったらそれもはや魔王じゃなくてただのイベント戦だってのォーーーーッ!
「あああ、そうだ……勇者よ! 我が配下に加われば世界の半分は貴様にくれてやるぞ!?」
「どうだ、悪くない条件だろう!? さあ勇者よ、我が配下に加わるのだ!」
あっぶなかった……テンパリすぎて忘れる所だった……
デーモンパターンも中二パターンも、どっちで行くにしろこれだけは言わなきゃならねえもんな……
なんかすんげーテンパったけど、とりあえず、言うべき事は全部言ったか……?
あーマジ緊張したわぁ。後はコマンドが勝手にでてくっから、勇者が「はい・いいえ」選ぶの待ちで……
んで勿論いいえを選ぶだろうから……戦闘画面入ったらまず……
「……あ」
しまったァーーーーッ! 我が輩の領土、今半分もなかったァーーーーーッ!
さっき我が輩自分で勇者が解放されまくってるって言ったじゃん!? だから勇者ここまで来てるんじゃん!?
何我が輩、ホウレンソウもロクにさせてない情弱上司みたいになっちゃってんじゃん!
それ魔王じゃなくね!? ただのお飾り、もしくはハイパーマジッククリエイター的な意味不明な役職じゃね!?
ていうかそれ以前に……魔王軍の領土……今どれとどれとどれなのさァーーーーッ!!
「完全に詰んだァァァァァァーーーーーッ!!!」
「ァァァァァァァ………………」
「ァァァァ………………」
「ァァ………………」
……
――――【THE・END】
「……何これ」
「はい! マーケティングとトレンドを考慮に入れた全く新しい形の魔王像です!」
「いや……うん、まぁ、確かに新しいんだけどさ……」
「でもこれ、肝心のラスボス戦、完全に無くなっちゃってるよね? これ魔王、勝手に自滅して勝手に死んじゃってるよね?」
「それってもはや、ゲームじゃなくない?」
「でしょでしょ!? ユーザーの裏をかいたエンディング法、マジ新しくないっすか!?」
「褒めてない……うん、とりあえず、何か誤解されてるのだけは伝わった」
「マジあざっす!」
まじかよこのゆとり……裏を裏をって、俺の裏をかいてどうすんだよ……
こんなクソテキスト誰が許可すんだよ……
ていうか、こっちにしたらなんでそんな自信に満ち溢れてるのかの方が、ずっとずっと気になるわ。
「主任、早速許可を!」
出せるわけねーだろっての。ほんとマジでえらい部下掴まされちまったな。
人事は一体何考えて採用したんだ?
会社の前にまず精神病院に入れさせるべきだろう、こいつの場合。
「ごくろーさん。最新作の製作はうまくやっとるかね」
「あ、部長おはざっす!」
ちょうどいいや。折角だからこのクソテキスト。
部長にまじまじと読んでもらって。二度とこんなマネができぬよう思い切りブチギレて貰おう。
「部長、実は今こいつが作ったの見せてもらってたんですが……」
「ほうほう、どれどれ……」
「俺の最高傑作っす!」
案の定、部長の顔がみるみる内に赤くなって行くのが見えた。
どうだ、わが社創立以来の核爆弾社員だろう。
俺の手に余る逸材なのは明らか。だから、頼むから俺の部下から外してくれ。
そしてできる事ならば、義務教育からやり直させてやってくれ。
そんな俺の切なる思いは……
「……素晴らしいキミィ! わが社始まっての逸材だよ!」
「よし……わかった! 今回はこれで行こう!」
「あざあざあざーーーーっす!」
( ウ ッ ソ ォ ー ー ー ー ッ ! ? )
物の見事に、打ち砕かれた。
――――おわり。
完全に酒入ってます
本当にありがとうございました