第一桜 木を植えた女の子
始まりは冥界だった。
「幽々子様!幽霊がおかしくなっています!」
「分かってるわ妖夢。記憶が…無い」
次は紅魔館。
「お嬢様!妖精メイドが!」
「記憶を失っているわね。フランを連れてきて!」
「はい!」
次々と起こる謎の記憶喪失。それも能力を持たない者だけ。だけど大妖精、小悪魔、朱鷺子はちがっていた。
「…記憶…記憶…私の責任?」
架依は一人で言っている。恋音は鹿の肉を置いて架依に話しかける。
「お姉ちゃん。みんなはお姉ちゃん恨んだりしないよ」
「…ごめん、行ってくる」
無表情で架依は家から出て行き、魔法の森に飛んで行った。誰のところに行くのだろうか。
「お姉ちゃん!はあ、舞歌最近早起きしてどっか行くからなあ。スキマでやっても弾幕ごっこになっちゃうし」
もう一度ため息を吐くと鹿の肉をステーキの形にスライスを始める。
舞歌の異世界。そこで舞歌は架依を見ている。
「これが永遠?イスは何を言っているのかしら。あの桜の木も、なにが関係しているの?」
舞歌は桜の木を見た。春でもないのにひとつの丘に綺麗に咲いている。
「あれは…そう、そういうことね」
青く光る線が桜に向かっていき消えた。
「桜は永遠に咲く。解決されない限り。さて架依、この命と人々の記憶。どちらを選ぶのかしら」
桜を見るのをやめて再び架依を見るのに戻る。そして架依を笑う。
架依は誰のところにも行かず森の中に止まる。だんだんと曇りになっていき、雨が降りそうだ。木の茂みに隠れる。架依は泣き始める。自分を追い込みながら、誰もこないことを願う。
青く光る線が架依の前を通る。何か感じた架依はその線を追う。
線は森を抜け、人里は避け、平原の丘に季節外れの桜。線はその桜の根元に入り込み消えた。ここの場所は他と違い、曇っていながらも晴れのように明るい。
「ねえ」
女の子の声がした。今架依がいる場所の反対側に声の主がいる。浴衣で片方だけ髪を結んでいる。背は低い小さな女の子。体操座りで座っている。
「私、この桜を植えた、みんなの記憶が水」
ということは…?
「みんなの記憶を返して」
架依はしゃがみこみ真剣な顔で女の子を見る。女の子は無表情。
「返したら桜枯れちゃう。この桜、記憶でずっと綺麗になる」
口だけで笑う。架依は自分の罪ではない、ということだけ確信させてから女の子にこう言った。
「なら、スペルカードルール。負けたらみんなの記憶を返して」
笑っていた女の子はまた無表情になる。
「…いいよ。お姉さんが負けたら帰ってね」
女の子は立ち上がると架依から少し離れたところに歩く。架依は立ち上がるとスペルカードを構えた。
スペルカードルールの始まり。