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銀色チーム

作者: 笛伊豆

 アルトくんがよく行く公園のすみっこに、赤い小さな箱があります。置いてあるのではなくて、下の方が地面にうまっているのです。その箱が何なのか、ふしぎです。

 公園であそぶための、ブランコやすべり台のような道具ではありません。かといって、公園をそうじしたり、こわれたところを直したりするために役に立つわけでもないようです。

 公園にくる人たちは、だれもその箱のことを気にしていないみたいです。

 アルトくんは、ともだちのワタルくんに聞いてみました。

「あの箱は何だろう」

 ワタルくんは、じまんそうにこたえました。

「あれはひみつの基地のドアなんだよ」

「ひみつ基地?」

「そうさ。あそこにはすごい力がかくれているんだ。かいじゅうがせめてきたら、あそこからチームがとびだしてきてたたかうんだ」

 ワタルくんは、テレビのヒーローものがすきなのです。

 アルトくんは、ナミちゃんにもきいてみました。

「あの箱って、何のためにあるか知っている?」

 リエちゃんは、くちびるにゆびをあてて、しーっとしました。それからまわりをみまわして、小さな声でいいます。

「あまり大きな声でいわないほうがいいわよ。あれはみはりなのよ」

「みはり?何をみはるの?」

「もちろん、わるものよ。だからわたしたちは、気づかないふりをしなくちゃいけないの。だってあれがみはっていることがわかったら、わるものがしっぽをださないでしょ」

 ナミちゃんはめいたんていとか、スパイがすきです。

 アルトくんは、さいごにケンジくんにもききました。

「あの箱って・・・」

「よく気がついたね。あの箱にちゅうもくするとは、さすがにアルトだ」

 ケンジくんは、ふかくうなずいていいました。

「あれは、じつはかげからみんなをまもっているのさ。あれだけじゃなくて、この町にはいろいろなところにいろいろなそうちがあって、それぞれがやくめをはたしているのさ」

「よくわからないけど、何をするの?」

「火事になったらかけつけて火をけしたり、ビルの屋上にいる人をひなんさせたりするのさ」

 それからケンジくんは、うそだと思ったらテレビをみれば、ニュースの時間にときどきでているよ、といいました。

 ケンジくんは頭がよくてものしりなのですが、ときどきいいかげんなことをいうので、ぜんぶ信用はできません。

 ますますわからなくなりました。みんないうことがバラバラです。

 アルトくんは、箱のところにいってみました。

 箱には、白い色で字が書いてありますが、かすれていてよく読めません。箱の前にはドアのようなものがついています。あけたら中から何かが出てきそうです。こわいので、さわるのはやめました。

 でも、こんなに小さな箱の中に、何が入っているのだろう?ほんとうにチームとか、みはりのそうちとか、すごい力がはいっているのだろうか?

 その日の夜、アルトくんがごはんをたべながらテレビを見ていると、ニュースがはじまりました。

 どこかの町で火事があったみたいです。ビルの窓からけむりが出ていて、たくさんの人が走りまわっています。

 赤い大きな自動車と、銀色の服をきたロボットみたいな人がたくさんいます。

 おとうさんとおかあさんが話しています。

「さいきん火事がおおいな」

「消防士もたいへんね。このへんはだいじょうぶかしら」

「空気がかんそうしているからなあ」

 テレビには、ビルのまどからハシゴで助けだされる人がうつっていました。かつやくしているのは、銀色の服をきてヘルメットをかぶった人たちです。アニメのヒーローにくらべるとぶかっこうですが、それでもすごくかっこよくみえます。

 ひょっとしたら、ケンジくんやワタルくんがいっていたのは、この人たちのことなのだろうか。

 その夜、アルトくんは夢をみました。

 まっくらな公園のなかの、あの箱のドアがひらいて銀色のすがたがあらわれます。

 どんどん出てきます。

 みんなヘルメットをかぶっていて、顔はみえません。

 銀色はずらっとならんでいっせいにアルトくんを見ました。

「きおつけっ」

「隊長にけいれい!」

 夢のなかでは、アルトくんは銀色チームの隊長です。アルト隊長も、あの銀色の服をきていました。

「よしっ。みんなそろっているな。では今日もパトロールをはじめる!」

 列のせんとうに立っている銀色が、きびきびといいました。

「かけあしっ」

「公園のなか、いじょうなしっ」

「これより公園のそとにむかいます!」

 銀色チームが走りだそうとしたときです。あの箱から、ひとりの銀色がとびだしてきました。

「たいへんです!公園のむこうがわで火事です!」

「なにっ!それはほんとうか?」

「むこうがわのみはりからのれんらくです!」

 やはり、あの赤い箱はみはりだったのです。もちろん、銀色チームの基地でもあります。

「むこうがわのチームだけではたりません!隊長!われわれも出動しましょう!」

 せんとうの銀色がアルト隊長にむかっていいました。ほかの銀色も、アルト隊長をみつめています。

 アルト隊長はさけびました。

「銀色チーム、しゅつどう!」

 銀色チームは、いっせいに走りはじめました。アルト隊長は赤い自動車にのって、あとをおいかけます。

 公園のむこうでは、もくもくとけむりがあがっていました。

「火事だ!」

「たいへんだ!あのへんには隊長の家があるはずだぞ!」

 銀色のひとりがさけびました。

「きけんです!はやくひなんしてください!」

 ウー、ウー、とサイレンがなりだします。あたりがまひるのように明るくなります。けむりがおしよせてきて、アルトくんは目がいたくなりました。

 いきなりアルトくんは手をひっぱられて起こされました。見ると、おとうさんです。おかあさんもいます。

 アルトくんたちは、ねまきではだしのまま庭にとびだしました。

「こっちへ!はやく!」

 アルトくんの家の庭にいたのは、銀色の服をきた人です。その人はアルトくんをだきあげると、どんどんあるいて公園までつれていってくれました。

 おとうさん、おかあさんといっしょに見ると、アルトくんの2つとなりの家からけむりがあがっています。そして、公園のまわりには赤い大きな自動車が何台もとまっていて、たくさんの銀色の人たちが火事にたちむかっていました。

 アルトくんは、あの赤い箱を見てみました。今は箱のドアがあいて、ふとくて白いホースがでています。そのホースは赤い自動車につながっているようです。

「アルトくん、だいじょうぶ?」

 いつのまにか、ナミちゃんがきていました。ケンジくんやワタルくんもいます。みんなねまきです。

 アルトくんは思いました。

 やっぱり、あの箱はチームの基地だったんだ。みはりをしていて、火事になったからすぐにかけつけてくれたんだ。

 アルトくんをはこんでくれた銀色の人は、とても大きくて力がつよい人みたいでした。今のアルトくんなんか、隊長どころかチームに入ることもできないでしょう。

 きっと、チームに入るには、もっと大きくなって、力もつよくならなければならないんだ。もちろん、ゆうきもいるし、きっとやさしい心もなければいけないのだろう。

 でも、いつかぼくだってチームのなかまになる。そして、あのひみつの基地からみんなをまもるんだ。

 アルトくんはそう決心しながら、あの箱のほうを見ないようにしました。だって、わるものがアルトくんのようすをうかがっているかもしれないのです。基地のひみつは守らないといけませんからね。

              (おわり)

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