(5)終わり良ければ
「とりあえず、報告書はまとめてやるが、流石に荀彧殿に全てを隠してやるのは無理だろう」
「そうだな、感付くだろうしな…一応彧兄(荀彧)にはこの例の矢のこと以外は話して『内通者いるかも知れない』と軽く報告しておいてくれ。彧兄ならそうことを大きくしないだろうし」
「わかった」
あくまでも俺達が密かに調査しているということと持ち帰った矢のことが気付かれなければいい。早速砕いたら光岩石を城に持ち帰ったら報告書まとめだ。こう隠密に行動するというのは好奇心を揺さぶられる。郭嘉のことは言えないな、俺も随分嫌な性格をしている....と思っていた矢先だった。
「あっ…」
前を歩いていた郭嘉が急に立ち止まって間抜けな声をあげた。大概こう言う時は悪いことしか起こらないのだが…
「どうした?」
「流石に証拠品の機密の矢をこう使っちゃったのは不味かったかなぁ…と」
「まぁ、報告書と一緒に始末書を書かされるだろうな。今回は『早急な光岩石処理』という名目もあることもだろうから、そんなに多くは書かされないだろうが…仕方ない、上手いこと例の矢を手に入れたことに免じて始末書も書いておいてやるから安心しろ」
「いや、それもあるんだが…」
言いづらそうに明らかに不味いという顔をしている郭嘉に嫌な予感しかしない。
「報告書に『矢は我が軍のもので内通者いるものかと思われます』って書くじゃない」
「ああ、それがどうした?」
「どうして『矢が我が軍のもの』ってわかるか理由を書かないといけないじゃないか.......」
「あっ…!」
「そう。そうなると…」
『宴会で鍛冶屋に酔った勢いで実物を見せてもらったた為、どういうものか知っていた』ということを報告しなくてはいけなくなる。鍛冶屋が機密を漏洩していることは我が軍内でのことであり、何より話したのが曹操殿が信頼を寄せている郭嘉だ。注意は受けても罰まで行かないだろ。だが.....
「ああぁぁぁぁぁ!!彧兄に職務放棄して鍛冶屋で宴を開いて飲んでたのが気付かれるっ!!」
「ちょっと待って!なら始末書が二、三枚どころではすまなくなるだろうっ!!」
職務放棄して宴をするなど、始末書どころか左遷されるのではないだろうか。ましては荀彧殿なら全体責任で俺も飛ばされる可能性もある!!
「そうだ!賈詡殿!!ついで にこの事も上手く誤魔化してくれない?」
「無理だ!今まで騙し騙しでやってきたか、今回は報告書だぞっ!!矢のことで精一杯だ!素直に左遷されろっ!!」
「そんな頼むよ賈詡殿!! 」
「無理だ!無理だ!無理だっ!!ああ、くそっ!!」
こいつのことをどこが気の合うや、俺も同じように嫌な性格をしていると言ったのだろうか。
この押し問答が数分続いた後、郭嘉は懐から例の矢を出し「俺を助けないと『この矢の為に偽装処理を二人で行った』と報告するっ!」(自分もどうなるのか分かっているのか!)と脅してきた。
やっぱりこいつはどこまでも足を引っ張る阿呆軍師だっ!!くそっ!!俺が徹夜で言い訳を考え、荀彧殿に冷や汗を流しながら報告書と始末書を提出したのは言うまでもない。
第一章 終わり