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軍師の日々~仮想三国志~  作者: 満
第一章
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(4)疑惑と....





郭嘉(かくか)様これは早く終わりそうです!」


「流石です軍師様!」


「だろう?さぁ、どんどん削って!」



どこから噂を聞きつけたか、巨大光岩石の周りには多くの人々が集まり、光岩石処理を見守っている。その巨大光岩石は今、郭嘉の指揮で町人や商人が削ってどんどん小さくなってきていた。


あのとても頑丈で巨大な光岩石をどうやって破壊しているかと言うと、簡単だ。



「いや~まさか折れた矢の矢じりを光岩石破壊に使わせてもらえるとは」


「本当だ!これでやっと道が通れるようになるぞ」



野次馬の中そう言った声が聞こえた。


そうなのだ、矢じりをクサビとして使いその上から槌で叩いて巨大光岩石壊しているのだ。矢じりは同じ光岩石から出来ており頑丈であり、さらに加工してある分、元の光岩石よりもずっと硬い(それでも壊すには骨がおれるのだが)。確かに普通の農具を使うよりずっと捗る上に運ぶ動力も人員も随分必要となくなるが…


「しかし、大丈夫なのですか軍師様。罰があたりませんかね?」


「さっき浄めの水も振りかけておいたから大丈夫」


「そうですかい、流石軍師様なんでもお持ちなのですなぁ」


「軍師だからね~」



にまにまと得意げな顔で町人にこう言う郭嘉にまた頭痛がしてきた。


こうして郭嘉により難航されると思われた巨大光岩石と矢の撤去作業は日が沈む前にあっさりと終わった。











□◇□◇□◇













「よかったのだろうか…」


「なに?賈詡(かく)殿も天罰の心配?」



ぼっそりと言った独り言に郭嘉が反応した。作業が終わり、粉々になった巨大光岩石と、使い終わった矢(もはや原型は殆ど留めていない)を呼びだした兵に運んでもらい、報告の為に宮殿に戻ろうとしていた時だった。繁華街の店も明かりが灯り始め、巨大光岩石処理を見ていた野次馬も解散していた。



「俺はそんなことは信じていない。そもそも浄めの水って言っていたが、あれはただのお前の持ち歩きようの酒だろう」


「結構高い酒だから俺に取っては浄めなんだけどなぁ」


「そうではなく、荀彧(じゅんいく)殿に報告するよりも光岩石と矢を勝手に処分してよかったのかと言うことだ!」



巨大光岩石と矢の同時処理を提案してからの郭嘉の行動は早かった。すぐさま鍛冶屋を呼び、矢じりの部分だけを鍛冶屋に上手くはずしてもらったものと、鍛冶屋に借りた槌を町人や商人に配り、てきぱきと作業させたのである。


巨大光岩石と矢処理を郭嘉が行っている間俺は郭嘉に頼まれ、交通整備や町人や商人の説得に追われていた為、おかげで報告用の矢を残しておくのを怠ってしまったのだ。



「大丈夫、大丈夫。光岩石は元々撤去する予定だったし、矢もボロボロでこのぐらいしか使い用がなかったしね。まぁ、なにより!」



今日一番の笑顔で郭嘉は言った。



「犯人が苦労して用意した巨大光岩石をこれまた苦労して準備した矢で早く片付けられるなんて、犯人に相当な屈辱与えられるじゃないか」



やっぱりそれか、いや何となく分かってはいたがと俺は少し呆れながら、しかし胸がすっきりした思いで「同感だ」と返した。



「それより賈詡殿どう思う?」


「この光岩石と矢のことか」



少し頭を捻ってから、俺は話した。



「目的がよく分からんな。民が軍に対して不満があるならわざわざ自分達の困るような所に光岩石を置くわけはない。なにより、治安は今安定している。こんなことをする理由がない。そうなると、他勢力が抑止力の為に行ったのかも知れないが…巡回兵や門番に気付かれずに外から侵入してここまで運ぶのは無理がある。それにこの特殊加工した矢はそうそう作れるものではない…」



もしそうだとしても随分手の込んだ抑止力だ。わざわざ敵の領地で行うなど、しかも和議中にだ。よほど戦争したいらしい。



「あの商人殿が言うように本当に化け物の仕業かも知れんな、信じたくはないが」


「またまた、賈詡殿らしくないな」


「そうも思いたくなるだろう。こんな奇妙な事件」



渋い顔をみせる俺に郭嘉は少し考える素振りを見せてからとんでもないことを話始めた。



「賈詡殿、実は…まだ確認はとってないんだけどこの破壊された矢、恐らく曹操軍で今開発している未完成品の矢だよ」


「なんでそう言えるんだ!?」


「俺が本物を見たことがあるからだよ。一度だけ開発を手伝っている鍛冶屋に酒の席で見せてもらったことがあるんだ」


「本当か!」


「ああ。矢じりの形、紋章、全くうちの軍そっくりだから間違いないね」


「しかし、よく秘密主義の開発部に未完成品をみせてもらえたな」


「ほら、やっぱりどんな時でも宴は開かないとね。なんせこの話もどんちゃん騒ぎした鍛冶屋で聞いたから、いたっ!何すんだ賈詡殿」


「仕事しろ!」



貴重な情報を教えてもらい感謝するが、自慢気に言うな。『俺も仕事はしているのよ』と言わんばかりの輝く目で言われて、思わず腹が立って叩いてしまった。まぁ、これであいこだ。


しかし、この矢が開発中の軍のものからだとすると犯人は相当なやり手だ。なんせ、俺と郭嘉と言った上層部でも開発に携わっていないものは全く知らない。それがまた機密主義の開発所が作っている矢だ。郭嘉みたいに上手く情報を入手できたとしても、外の人間が盗んで巨大光岩石と一緒に用意するなんてまず無理…いや、ちょっと待って!



「つまりそれは…!」


「ああ、軍に内通者いる可能性が高い」


「確かにそれなら外から協力者を複数人招き入れて光岩石を運ぶこともできるうえに、門番や巡回兵の位置も知ることができるから誤魔化しもきく!......だが、流石に矢があんなに大量に盗まれて開発所が気付くだろう?それに巨大光岩石をどうやって中に入れたんだ?」


「それは少し考えたんだがおそらく....内通者は開発所の中にいるんだと思う」


「確かにそれなら矢を盗んでも気付かれない!巨大光岩石も実験目的だと言って城の中に運んで隠すことができる!!」


「そう、おそらく光岩石を運ぶ手筈と矢が整うまで、開発所に光岩石を隠しておいて、運んだんだろうね」


「なら、そのことも含めて早く荀彧殿に報告し、手配して発見した方が」


「いや、無駄だと思う。誰にも気付かれず全て行えた実行犯がそうそう見付かるはずはないだろうし、もう逃亡していると思うしね」


「もしかしたら、まだ潜伏していて内乱でも起こす腹かも知れないぞ!」


「なら、こんな大掛かりなものを用意して、俺達みたいな上層の人間に感づかせることするはずがない。それにこれは…警告だと思う」


「警告?」



そう言うと郭嘉は懐から包みを取り出した。中を開けると綺麗な矢が一本出てきた。



「賈詡殿に鍛冶屋を呼びに行ってもらってる間に探索してたら一本だけ綺麗な矢を見つけたんだ。聞いた話によるとこの矢だけ光岩石に突き刺さっていたらしい」



そう言って郭嘉は俺に矢を渡した。確かにどこにも外傷がなく綺麗な矢だ。すると郭嘉が二度目の衝撃的な言葉を放った。



「その矢.....俺達の軍の矢じゃない。実行犯勢力で作られた矢だよ」


「なんだとっ!!!!根拠があるのか?」


「弓を借りて何度か飛ばして見たんだが途中で落ちて中々真っ直ぐ飛ばなかった。専門じゃないから確かなことは言えないが、矢全体の釣り合いが上手く取れてないんだと思う。さっき話した宴の席で鍛冶屋に開発中の矢を飛ばして見せてくれたんだけど、その矢は開発中とは言え真っ直ぐ飛んでいたんだ」


「それで実行犯勢力のものだと言うのか!でも、商人殿に預かってもらっている間誰も手入れをしていなかったから精度が落ちていることもあるだろう。あと、言っては悪いが…余り弓の腕はよくないだろう郭嘉殿」


「まぁまぁ!!それもあるけど実はさ」



郭嘉が矢じりの部分を指で指した。



「うちの軍の矢に似ているけど、そこだけ少し趣向が違う」



渡された矢をよく見る。確かに矢じりの所に今まで見た矢とは別の何か彫ってある。潰れていてよく見えないがこれは字だろうか。


「賈詡殿.....改めてこの矢が実行犯勢力の矢だと分かってこの状況をどう考える」




そう言われ状況を振り返りながら考える。我が軍の矢が散々に折られ破壊されている…その中でたった一本別の矢が綺麗に残っていた…しかも、この矢は実行犯勢力の矢で、字が我が軍のものと違うということ以外は殆ど我が軍の矢と似ている…ということは…!



「『お前らの勢力の技術など容易く覚え、もっと優秀なものを我が軍の方が作れる!』と我が軍を侮辱しているのか」


「流石賈詡殿の鋭い!そのとおり!おそらく実行犯はこう言っているんだろうね『お前らの勢力なんていつでもこの矢のようにボロボロにペチャンコにできる。兵も人材も大したことない!そのうち我が勢力が支配して塗り替えてやる』ってね」



そうだとしたら腹立たしいかぎりだ。我ら軍師、将、曹操軍全てを侮辱していることになるからだ。だが、俺以上に…



「全く矢すら真っ直ぐに飛ばすことができない奴が何を言っているんだか....」



郭嘉を見ると静かに怒っていた。表面上軽く笑みを浮かべわからないが、怒りに煮え立っているのがわかる。自分のことや軍が侮辱されたことよりも、曹操殿ことを侮辱されたことに怒っているんだろう。


荀彧殿に前曹操殿と郭嘉は立場を越えたものを築いていると聞いたことがある。それは信頼、忠義、と言ったもので言い表せるものではなく、せめて例えるなら運命の出会いというものらしい。怪しい話ではなく、相思相愛、箸が片方だけだと使えないのと同じで、出会うべくして会った二人なのだ。



もし曹操殿が天下を統一したならば確実に全てのことを郭嘉に任せるだろうし、郭嘉も自分の命が残りわずかだと知っていても、戦場に出て曹操殿が少しでも天下統一に近付くように有利に働き、最期まで軍師として努めるのをやめようとはしないだろう。(今のだらけぶりからは考えもつかないが)




しかし、俺は郭嘉の怒りの中に別の笑みも感じ取ってしまって思わず声が出てしまった。



「その矢を怒りに任せて折らない所を見ると、個人的に調査するのだろう」


「ああ」


「しかも、今この話をするということは軍や荀彧殿に黙って調査するつもりだろう。俺に上手く報告書をまとめさせて」


「流石賈詡殿ご名答」



郭嘉がこちらを向き両手を大きく広げて笑った。大方、矢を光岩石処理に使ったのはその実行犯勢力の矢を密かに持ち帰って調査したかったためだろう。


そうしておけば、光岩石処理に使うため、こちらで処理しておくと大義名分で好き勝手に使える。もし「処理後でもいいから全て献上しろ」と言われても元々ボロボロの矢が光岩石を削ったことによってさらにボロボロになっているのだ。どんな矢が何本あったかなんてわかるはずがない。


そして、この矢が軍内に晒されない為「我が軍の極秘開発中の矢が盗まれた!」なんて誰も気付かない。だからこそ噂がたたないので風潮被害もない。


まさに岩石処理、矢処理、風潮被害防止、そして…内密に犯人調査をするために矢を手に入れるには素晴らしい一石四鳥の策だったという わけだ。しかし、まぁ、そんなことするには報告書を書く人間を騙すか、報告書を書く人間がしっかりと偽装して書くしかないのだが、



「俺に報告書なんて任せていいのか、本当のことを書くかもしれない」


「それはないかな。だって賈詡殿も何だかんだで矢の偽装処理手伝ってるし、なにより...こっち側の人間だろう」



ニヤリとまた意地の悪い笑みを浮かべた郭嘉に、今度は俺も意地の悪い笑みを返してやった。



「よくわかっているじゃないか!!手伝ってやる犯人探しをな!流石に俺もこう虚仮にされた間までは軍師の名に傷がつく!」


「流石賈詡殿!」




そう言い郭嘉に例の実行犯勢力の矢を投げて返した。


郭嘉は確かに酒癖、女癖、怠け癖と三拍子揃った駄目軍師だが…なぜか憎めず、気が合うのだ。不思議なことにその考えや策に加担したくなる。もしかしたら曹操殿はそれが気に入ったのかもしれない。






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