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軍師の日々~仮想三国志~  作者: 満
第一章
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(3)陳情


繁華街の中央に近付くにつれて人も多くなってきた。光岩石の整備がまだまだされていないとは言え、平和協定中な上に、ここは優秀な統治者曹操殿の支配地だ。繁華街には人の声が絶えず行き交うほど活気に溢れていた。



「これですこれ!軍師様」



商人殿が指差したのは市場の店より二回りも大きい例の光岩石だった。



「大きいですね…」


「ええ、私達商人も困っておりまして…道のど真ん中にあるものですから交通や商売の邪魔でして!しかも、私の店の真ん前にあるのですよこの光岩石!!」



商人殿の悲痛の叫び声を聞きながら、人混みを避けつつ、光岩石のまん前にやってきたが本当に大きい。本来、この道は中央の交差道に繋がる道で、長い一本道に店が連なっている形になっているのだが、この巨大光岩石のせいで道が封鎖され、これ以上先には通れなくなっている。商人殿の店はこの封鎖された道の一歩手前にあるとのことだが、可哀想に。しかし、店に落ちなかっただけ幸いだろう、一歩間違えていたら商人殿の店所どころか三、四店は再起不能だろう。



「しかし、これは転がして運ぶのも大変だ、どうしたものか」


賈詡カク殿」


「なんだ」


「今回の陳情内容は?」


「お前竹管に目を通してなかったのかっ!」


「それが見ようと思ったら執務室に忘れてきたみたいで」



手で後ろ髪を押さえながら笑顔でそう応える郭嘉カクカに「はぁぁ」と何度目かのため息をつきながら、自分の竹管を袖から出す。カラカラと竹管を広げて簡潔に内容を説明する。



「今回は『早急な巨大光岩石の撤去』が仕事だ。撤去仕方等についてはこちらに任せるとのことだ」



陳情処理はこのように商人、民からの苦情や頼み事を解決することである。本来なら太守、君主が粗方の指示を決め、下はその指示に従うだけなのだが、光岩石の被害が途方もなく、太守、君主の処理だけでは間に合わないため、曹操軍では小さい陳情はほとんど文官や軍師に回され指示も任されている。



「こんな巨大光岩石町の中央の放置した間までは、警備が行き届いていないということを暗に知らせていることになる。早く撤去する方法を見付けなければ。しかし、こんな巨大光岩石どうやって…って人の話聞いているか?」



郭嘉を見ると竹管を眺めていた。凛々しい顔をしている所を見ると真面目に読んでいたのか、珍しい。「いつも、前もってそのぐらい読み込んでくれると助かるのだが」と言おうと思った瞬間、郭嘉が口を開いた。


「おかしいな…」


「何がだ?」



そう言うと郭嘉は巨大光岩石周辺の店を見渡し始めた。屋根、地面、入口、と一通り見てから顎に指を沿わせて俺に聞いた。


「賈詡殿もおかしいと思わない?」


「だから、何がだ」


「この光岩石がどの店にも被害を出さずに落ちてきたことだ。被害報告の所見ても、店への破壊が全くないって書いてあったから確認したが本当にない。いくら光岩石が運よく落ちたとしても綺麗すぎる」



郭嘉に言われて店を見渡しが、確かに巨大光岩石が破壊したような大きな外傷は店にはなかった。地面も大きな衝撃があったにしてはへこみもなく綺麗だ。



「それは俺も思ったが、光岩石が落ちたのは数ヶ月も前だから商人殿達が片付けられるものは片付けたのだろう。そうですよね、商人殿?」



商人殿に投げ掛けてみると「ええ、まぁ......」と不安げな言葉が返ってきた。なぜ、そんなに動揺しているんだ。そう思っていると郭嘉が商人殿の方を向いた。



「商人殿、この巨大光岩石で随分迷惑してるそうだが」


「それはもう!こいつのせいで道を分断されて、私の店に人が全く来ませんからね!私の店どころか分断された店の主人はみんなそう思ってますよ!」


「なら、なんで早く陳情を出さなかったんだ?光岩石到来の日からもう数ヶ月たってるのにいくらなんでも陳情を出すのが遅すぎるだろう?それと、賈詡殿ちょっと――」



郭嘉はそう言うと俺の持っている竹管を掴み商人殿に見せた。郭嘉の声に人が集まってきた。



「他の店も困っているなら商人殿ではなくとも陳情を出すはずだ。しかも、ここは繁華街のど真ん中だ。多数に陳情が出てもおかしくはない。だが、この竹管には同じ陳情は二、三件しか出ていないとある。これはどういうことだ、商人殿?」


「どういうことだと言われましても」


「それに商人殿が陳情を出さなくても、彧兄(荀彧)ならこんな邪魔な巨大光岩石を数ヶ月も放置するわけがない。商売所どころか治安にも影響が出ることが分かるだろうし、もっと早くに俺らに撤去の声をかけるはずだ」



「確かに、そう言われて見ればそうだ」



その言葉を聞いて俺も不自然さを感じた。


この許昌の城を統治しているのは、曹操ソウソウ殿が支配地を今巡回しているため、荀彧ジュンイク殿に任せられている。荀彧殿は我ら軍師の束ね役でもあり、政治に関しても妥協のない方だ。現に許昌の城が他の勢力に比肩を取らないほど修復が完了しているのも、繁華街が人の声が溢れるほど賑わっているのも荀彧殿の手腕のお陰によるものだ。


そんな荀彧殿が、こんな治安や商売の下がりが目に見えているものを郭嘉の言う通り今日まで、放置するわけがない。



「商人殿、何か隠しているなら早く言った方がいい。そうじゃないと…賈詡殿が何するかわからないよ」


「ああ?」



突然何を言い出すんだと怪訝そうな声を思わず上げてしまった俺を無視して、郭嘉は続ける



「なんて言ったって、この間は屈強な野郎三人が道で女性に暴行してたのを素手で撃退して、即刻牢獄送りにしたもんなぁ賈詡殿~!」


「お、おいっ!」


「あ、賈詡殿ごめん!五人だったか!あと、賈詡殿熊退治したことあったなぁ~」



おどけた声で、しかし、商人殿に睨みを効かせて郭嘉は言った。郭嘉が何をしたいのかわかる。商人殿を脅して真実を聞くつもりだ。


それはいいが、もう少しましな話はできないのか!俺は軍師だぞ!素手で暴漢や熊を倒すなんてできるかっ!!あと、確かに女性を悪酔いしている男達からは助けたことはあるが、それは酔っぱらったお前を親切心で仕方なく邸まで送り届けてやってる最中に橋の上を通ったら、橋下の方に女性と悪酔いして絡んでいる男達を偶々見つけて、そしたらお前が今日みたい突然俺の背中を「奇襲は真上からに限るね」とか言いながら橋の上から男達目掛けて押し落として無理矢理巻きこませたせいだろうがっ!


あの時夏侯将軍が偶然見回りで通りかかって助けてくれなかった ら死んでいたぞ!むしろ、真っ逆さまに落ちた時に死ぬものかと!!いや…それはおいといて。



「…商人殿、本当のことを話してくれますか。どちらにしろ、調べればすぐわかることなので」



俺は商人殿に向かってそう言った。汗が吹き出し、焦った顔の商人殿だったがしばらくすると腹を決めたのか静かに頷いた。



「では、お聞きしますが何故今まで陳情を出さなかったのですか?」


「実はこの巨大光岩石、三日ほど前に突然現れたものでして…」


「光岩石が大量に到来した日にここに落ちたものではないのですか!!」


「はい、朝目覚めて外を見ると昨夜まで見たことなかった、この巨大光岩石ありました」



予想外のことに驚いた。となると、別に光岩石がまた空から降ってきたか、誰かが人為的にここに運んだかになるが



「商人殿、この岩石が現れた時に誰か見ていませんでしたか?」


「すいません、商人仲間や周りの店にも聞いてはみたのですが、誰も見てないそうです」


「物音も聞いていないのですか?」


「はい」


「…流石にこんな巨大光岩石が落ちてきたら大きな音がするだろう。誰も気付かないなんておかしい。それに…被害ほとんどないなんておかしすぎる」



郭嘉の言う通りだ。しかしそれなら、人為でここに運んできたことになる。



「だが、それにしても」


「ああ、悪戯にしては大掛かりすぎるね…」


こんな巨大光岩石運んで一体なんの意味があるんだ。そもそも、巡回兵や門番に見付からずにここまで運べるものなのか!?



「本当に不思議で、町人の間でも妖怪か神様の仕業かと言う噂があるほどでして…」



それで陳情の数が少なかったのか、確か不思議な出来事だがそれにしても妖怪や神様の仕業にするには度がすぎるのでは、と言いかけた時商人殿が恐る恐る言った。



「あと…」


「あと、なにか?」


「余りにこれは不気味だったので、報告せずに埋めてしまおうかどうか悩んだのですが」



そう言って商人殿は懐から布を取り出し、包んでいたもの見せた。



「これと同じものが何百本も光岩石のそばに落ちていまして」


「これは!」



至る所散々に折れた矢だった。しかも、見たところ光岩石を矢じりに使った特殊な矢だった。曹操軍でも開発中とのことだが、なぜ、突然現れたという光岩石の周りに、こんなものがあるんだ!!とりあえず、全て矢は回収した方がいい!


「商人殿他の矢はどこに?」


「一応私の店の裏に保管してあります」


「今全て回収します!その場所まで案内を頼みます!」


「わかりました!こちらに」



矢を回収した後は、荀彧殿に報告しなければ。これはただの悪戯ではない可能性が大きくなった。報告をした後、この矢も証拠品で残す、必要最低限のもの以外はおそらく処理をしなくてはいけなくなる。


ただでさえ頑丈な光岩石を加工して矢じりにしたものをどうやって破壊し、処理しようか。「犯人も厄介なことをやってくれた!」と思うと俺は巨大光岩石と矢を交互に見ている郭嘉に言った。



「郭嘉殿、巨大光岩石の処理もあるが、まずこの矢のことを荀彧殿に報告しなければいけないと俺は思う。矢の処理も考えなくてはいけないから、とりあえず宮殿に戻って対策と報告を―――」


「そんな軍師殿困ります!この巨大光岩石を早く処理していただけないと私達は商売ができずに飢えてしまいますよ!」



報告へ引き返そうとする俺に商人殿が袖を掴んで懇願してきた。確かにこれほど巨大な光岩石を何もしないで放置するのは商人殿が酷だ。荀彧殿にも「早急に巨大光岩石の撤去を」と頼まれている。


ならば、巨大光岩石処理をするのを先にするか…報告と同時進行で行った方がいい!



「郭嘉殿、提案しておいてすまないが貴殿だけで矢を運んで宮殿に戻って報告を行ってくれ。俺はここで巨大光岩石の撤去作業を行う」


「本当ですか!ありがとうございます軍師殿!」



商人殿の顔が明るくなる。しかし。自分一人でやるとなると大分骨が折れそうだ。と考えていると郭嘉が予想外の事を言いだした。



「いや、賈詡殿その必要はない」


「えっ!」


「矢も光岩石、両方とも簡単に片付けることができる。上手くいけば今日中に終わらして報告も早急にできる」


「どうやって!!」



はっ、と思い郭嘉の顔を見るとニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていることに気づいた。大抵こんな顔をする時はろくでもないことか常人では計り知れない素晴らしい考えのどちらかを浮かんでいるのだが、どっちにしろ、



「なにより憂さ晴らしができるしな」




長い報告書を書かされるのは俺だ。




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