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軍師の日々~仮想三国志~  作者: 満
第一章
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(2)郭嘉という軍師




「そんなに監視しなくても逃げないって、賈詡カク殿」


「この間執務室をこっそり抜け出して、翌日肩を担がれて酔っぱらった状態で戻ってきたやつが信用できるか」


「いやだなぁ、その日は仕事を片付けてから飲みに行ったじゃないか」


「鍛冶屋に修理道具の注文を出す仕事を一つこなしただけだろうが。聞けば注文した鍛冶屋で宴会を開いてどんちゃん騒ぎしていたそうらしいな」


「それは仕事が終わったからのご褒美かなふわぁ~」


「………」


「それにしても今日はいい天気だ」



時は少し流れ、俺はぽやぽやした軽い足取りの郭嘉と一緒に仕事のため許昌の外城にある繁華街に向かって歩いていた。


本来なら二人で出向かなくてもいいのだが、今回の仕事は多少大きいことらしく、二人で行ってほしいとの荀彧ジュンイク殿の命令だ。それにこの男を一人にしておくと全く捗らないのだ。


男の名は郭嘉(カクカ)。俺の仕事仲間であり同じ軍師である。

自由気ままという言葉がそのまま出歩いているような男で…いや、まだ自由気ままだけだった方がよかったかも知れない。そう思ったのが郭嘉が反対方向が来る女性に声をかけ、俺の背中を両手で思いきり押したからだ。



「そこの綺麗なお嬢さん!ここに童貞のやつがいるんだけど、相手してあげてくれないかなー!」


「なっ!!」


「童貞だけで不足なら俺もどうかな?」



突然のことに俺は押された勢いで、女性の前に遮るように出てしまった。誤解を解かなくてはと「いやっ!そのをっっ!!」と焦りながら手を伸ばしたのと同時に女性も顔を赤く染めながら、小走りでその場を立ち去ってしまった。その姿を見て郭嘉が「あれは生娘だな」とぼっそりと呟くのが耳に入った…というかだなっ!!



「おいっ!!誰が童貞だ!阿呆軍師っ!」


「やっぱり、まだな女性は反応が分かりやすいな」



しげしげとした顔で走り去って行く女性の姿を見ながら言う郭嘉に本日何度目かの怒りが込みてきた。



「お前は秩序と礼儀というものを知らんのか!!」


「女性を見たら声をかけるもの。ましてや美人ならなおさら。賈詡殿は人生の楽しみかたを知らないなぁ」


「酒と女性の尻ばかり追いかけて仕事を全くしないお前に言われたくはない!仕事をしろ、仕事を!」


「賈詡殿の子孫繁栄まで気にしてあげたのに」


「余計なお世話だっ!」



だから、こいつと仕事をするのは苦労するのだ!


仕事は全くしない!厄介ごとは増やす!おまけに女癖と酒癖が悪いときた!!今ので巻き込まれたのは何回目だ、少しは人の迷惑を考えろっ――いや、落ち着け賈文和(カブンカ)、いつものことだ、いつもの…



「あれ?賈詡殿も顔が真っ赤だな…あっ!まさか本当に童貞なのかっ!!」



「男としてありえない…」と言わんばかりの顔の郭嘉に言われ、流石の俺も堪忍袋の緒が切れた。















□◇□◇□◇











「まさかこんなに急いで来てくださるとは感激でございます!」


「い、いっ、一発ぐらいハァァァハァ!!!殴らせろ郭嘉カクカっ!!」


「まぁまぁ、抑えて賈詡カク殿ハァァ…どうも商人殿」



内城から数キロ離れた外城の繁華街の入口までどうやってたどり着いたか覚えてないが、俺が郭嘉を全速力で追いかけまわしたので息がお互いに絶え絶えであった。


気が付くと陳情を出した町商人の元にたどり着いていた。荀彧殿から頼まれた仕事内容がこの町商人の陳情処理だ。



とりあえず怒りは収まらんが、仕事に専念しよう。ここで職務放棄しては誰かさんと一緒だからな。息を調えて、衣服を正し町商人殿と向かいあった。



「しかし、賈詡様だけでも心強いのに、郭嘉様までよくお越しいただきました!」


「商人殿そんなお礼など全く入りません。町や田を修復することが何より今最優先事項なのですから」


「いや、それでも賢者のお二方に来ていただくのは嬉しいものですよ」




『賢者のお二方』という言葉にどうにも耳が痛くなってしまう。自分も賢者と言われるほどまだまだ軍師として浅い所がある為でもあるが、何より郭嘉が賢者と呼ばれていることに眉がどうもよる。


そうなのだ。このどうしよもなく酒癖、女癖、怠け癖と三拍子揃った郭嘉なのだが、こう見えて優秀な軍師なのだ。いや、優秀という言葉で片付けられるものではない天才だ。

軍師は百の将に勝り、十万の兵よりも換えがたいという。策を練ればどんな劣勢も覆す神算鬼謀(シンザンキボウ)の軍師に限ることだが、それがまさに郭嘉なのだ。




俺が放浪していた時も前々から風の噂で、「まだ誰にも仕官していない神算鬼謀の軍師がいる」と聞いていたが余り信じてはいなかった。それほど腕がたつなら既に誰かに仕官、または引き抜かれて戦場で目にしているだろうと思ったからだ。それほどこの乱戦(今は少し違うが)の世は優秀な人材に貪欲なのだ。



しかし、ある日噂が本当でそんな軍師がいつの間にか曹操ソウソウ軍に仕官していたことを世間と俺は知ることになる。

ある戦で神算鬼謀の軍師…郭嘉の名が世に響き渡ったのだ。今のような異常な和議が結ばれている状態になったのも、曹操殿がその戦で勝利したからである。そして、その戦を曹操殿に持ちかけ、勝利へと導いたのが郭嘉なのだ。




町の中央に向かいつつチラリと前を歩いている郭嘉を見ると商人殿と談話中であった。「今どこの酒が美味しいのか」とか「あの娘が可愛い」とか言った相変わらず趣味の話のようで、たまにあの戦を仕掛けた本人か疑いたくなるが…



「賈詡様どうかなされましたか?難しい顔をされて」



商人殿が余り話さない俺を心配したのかこちらに話かけてきてくれた。



「ちょっと考えごとを…」


「すいません!軍師様の考えごとの邪魔をして!!」


「たいしたことではありませんので、そんなお気になさらないでください」


「そうですか。あ、先ほどから郭嘉様が何人かの娘に手を振っておいでで、やはり軍師様方はモテますね!いやぁ~モテる男で羨ましい!!」


「いや、郭嘉の場合は夜共寝した女性に挨拶しているだけではないかと、それか…」


「えっ、今なにか?」


「いや、何もないです」


「郭嘉様といい、軍師様は冗談が上手い方が多いのですね!」



輝くばかりの目で褒め称えてくれる商人殿を見て、流石に「それか今夜寝る女性を選んでいる」と言うのは控えた。世の中には知らないことの方が幸せだということもあるだろうが、まさか目の前の曹操軍一、二を争う天才軍師が口を覆いたくなるほど品行方正にかける人間だとは思わないだろう。


正直、執務室で昼寝をしている郭嘉を見た時「今日は身成が正しく酒も入っていなくて良い方だ」と思った。悪い時なら酒瓶が執務室中に転がり、椅子から転げ落ちている郭嘉や何故か全裸に近い状態の郭嘉を見つける時がある(何故かとは言わないが)。



ああ、最悪だった時は二日酔いの郭嘉の世話をしながら仕事をこなしたなぁ…と思い出したくもない思い出を振り返りながら、いつの間にか女性の肩を組み、別の方向へ向かおうとしている郭嘉の頭を叩き、中央に向かった。




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