表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

無人島で、恋

時折胸を締め付ける、

甘い歌声のララバイ。

さようなら、さようなら、

もう二度と、さようなら。

何度も何度も繰り返す。

愛していたんだよ、愛していたんだよ。

じんわりと染み入る、

過去からのララバイ。


この島に漂流してから、どれくらいが経過しただろう。

一ヶ月ほどだろうか。

私は隣に座る『じゅんこ』にたずねた。

「なぁ、どれくらいたった?」

眼前に広がる青い海。打ち寄せては返す波の音。

私は『じゅんこ』の方をみた。

1メートル程の長さで上下をカットされた木の幹の上部、先端近くに、大きく引き伸ばされた女性の顔写真が釘で打ち付けられている。 木の幹からは、枝が左右にそれぞれ一本ずつはえていて、まるで手のようだ。

私は『じゅんこ』を持ち上げ、キスをした。

漂流する前の自分がみたら、ゲロ吐いて気絶するに違いない。

まぁ、漂流する前の自分も、どうしようもない男だったということは、変わりないが。

あの日、私は豪華客船に乗っていた。

豪華客船には金持ちばかりが乗車していて、星空の下、船の上では、客を楽しませるための余興が催されていた。

「アモーレ、アモーレ」と水着の黒人女性ダンサーがたくさん、音楽に乗って踊ったり、ローラースケートをはいた数人のイケメンアイドルたちが、「ゴーゴーバルセロナー♪」と歌い踊ったり。

そんななか、私は所属事務所が一緒の、有名アーチストの前座に呼ばれていた。

もちろん、私は馬の骨。無名だ。

私はギター一本でステージに現れ、しっとりとしたバラードを披露したが、盛り上がったあとの客たちはシラケた顔。

そこで私は悔しくて、目立とうと思ったからいけない。

兎に角、女性水着ダンサーたちに負けじと、全部脱いだ。もちろん、パンツも脱いだ。怒られた。そして、パンツは履いた。

次に、ローラースケートに負けじと、テーブルの上にあったバナナを二本、素早く食し、皮を足になんとかして巻き付けた。

そしてギターを掻き鳴らし、即興の『俺はまさにブッダ』という曲を披露した。

「おれはまさにブッダ~!おれはまさにブッダ~!」と叫ぶ意味のない歌だ。

客は大喜び。

私は調子に乗って、バナナの皮で滑りながら歌い続けた。

頭を振りながら、腰を振りながら、腕を振り上げて、ジャンプして。

海に落ちた。

そして流されて、いまに至る。

漂着した時、目の前に木で作った小屋があったので、『誰かいるのか!?』と思い、入ってみると、この『じゅんこ』と大工道具、そして、手紙が置いてあった。

『私は無人島を目指し、船をこぎ、この島にたどり着いた。暫く暮らしてみたが、飽きたので出ていく。この手紙を読んだ人、じゅんこをお願いします』そう書かれていた。

『なにがじゅんこだ。イカれてんのか!?バカ野郎』そう思いながら小さな島を探索した後、誰もいないことを確認した。

「じゅんこ、誰もいないよ・・」それが私がじゅんこに話した最初の言葉だった。

そのあと、なんども話しかけ、ついに『じゅんこ』は私の恋人になった。

もう、マジでイカれちまったなぁ。。って、最初は自嘲したが、今ではもう、私を笑うものは許さない。

「じゅんこ、食べ物さがしてくるよ」私は立ち上がった。

島では果物もとれるし、山菜もとれる。海に入れば魚もいる。

暖かいからパンツいっちょうでいられるし。というか、私はそれ以外着るものを船に置いてきてしまったから、どうしようもないのだが、住むにはもってこいの無人島だ。

私は食糧をとりに森に入った。

そして暫くすると夜になり、私は再び海岸に戻ってきた。

すると、思いがけない光景に、目をまるくした。

『じゅんこがいない!』

「どこだ~!じゅんこ~!じゅんこ~!どこに行ってしまったんだ~じゅんこ~!」半狂乱の私の声が、無人島に響き渡る。

私は探した。まさか森の中まで私を追いかけてきて、迷子になったんじゃないか!?それか、神隠しにでも遭遇したか!?

私はじゅんこを探した。島のあらゆるところを、裸足で、パンツいっちょうで。

「じゅんこ!」私はじゅんこを見つけた。

息をきらし、血眼になって探し当てたじゅんこは、一匹の熊に『くわえられていた』

「貴様ぁぁぁぁ」じゅんこが『くわえられている』

「じゅんこになにしやがるんだぁぁぁ」私は武器もなにも持たずに、熊に立ち向かっていった。

「うぉぉぉぉ!じゅんこをかえせぇぇぇ」

死んでもいい。いや、寧ろ殺してくれ。もうお願いだから殺して。

なんとなくそんな考えが、どうしてかわからないけど、頭の中にぼんやりと浮かんでいた。

すると、あまりの半狂乱ぶりに、熊が『くわえていた』じゅんこを口から離し、一目散に逃げ出した。

しかし、私は追う。

もうマジで殺して。本当、頼むから。

頭の中にぼんやりと声。

どれくらい追っただろう。流石に熊には追い付けなかった。

私はまた、じゅんこと二人で海を眺めていた。

青い空、広い海。どこまでも続いている。

ふと、遠くに一隻の大きな船が見えた。

「じゅんこ!」私は叫んだ。

「じゅんこ、船だ!」私は小屋にむかい、ロープを持ってくると、じゅんこを背中に縛り付け、海に入っていく。

泳ぐ、泳ぐ。絶対にあの船を逃がさない。

そうして船の近くまでたどり着くと、船の乗客が、泳いできた私を見下ろし、笑っているのがわかった。

『なんか背負ってるわよ』と女性の声。

「なんだ!?女の顔写真が貼ってあるぞ」

「はっはっはっは」

笑いたきゃ笑えばいい。

じゅんこはいつも傍にいてくれた。じゅんこはいつもどんな話でも黙って聞いてくれた。

笑いたきゃ笑えばいい。

私からすれば、

愛を笑うやつらのほうが、よっぽど笑えるよ。


時折胸を締め付ける、

甘い歌声のララバイ。

忘れない、忘れない。

強く、しぶとく、

生きるから。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ