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13階段で、恋~the last koi~

最後のララバイ。

何かの役にたったかな?

心配だよ、本当に。

心配してよ、

飽きるまで。


鉄格子の嵌め込まれた小さな窓のむこう、まんまるな月が囚われている。

私はそれを眺めながら、暗い独房の中、静かに呼吸を繰り返していた。

三ヶ月前に起きた連続殺人事件の犯人として、私は明日死刑になる。

死刑執行までの期間が早いのは、私があらゆる手を使って自殺を試み、刑務所の人間たちを脅したからだ。

例えば食事の時、ストローやらプラスチックのスプーンやらを、あらゆる自らの穴に突っ込み、「死ぬまで押し込んでやるせ!俺が自殺したら刑務所の責任を問われるぞ!いやなら早く死刑にしろ!」という具合に。

そのせいで私の食事は、手で食せる、パンとナンが主食になった。

飲み物はパック。ストローはなし。食器は紙製。

他には、看守が見てる前で壁に頭をうちつけてみたりした。

「いいのか!?自殺するぞ!!」って感じで。

そしたら私の頭には、鎖やらロープやらでヘルメットが固定されるはめになった。

鍵もつけられていて、マジで脱げない。

看守の見てる前で、舌も噛みきろうとした。そしたら歯を全部ぬかれた。

もうマジ、そんな事まですんのかよ。って、こっちが驚いた。

それじゃあ今度は、壁に体当たりしてみた。

何度も何度も。

そしたら壁が、低反発の壁に変えられた。

どうあがいても、自殺させないつもりか。私はむきになった。

今度は看守の前で息をとめた。そしたら、腹をぼこぼこに殴られた。

息をせざるを得ない状況になってもまだ、殴ってきたので、

私は気絶した。

そして気がついたら病院のベッド。

目を開けたら知らない人間が見下ろしていた。

「自分で自分を殴った事にしろ。そしたら死刑を執行してやる」

そう言われ、ちょっと無理があるなと思ったが、

私は頷いた。

かくして私の死刑は決定した。

私は再び独房に戻され、自殺未遂をするのをやめた。

誰にも迷惑をかけず、死んでいくのが本当の望みだ。

私は静かになった。

そして、ヘルメットははずされ、入れ歯を装着し、私はまんまるの月を眺めている。

この独房で、私はいくつもの妄想をした。

地下鉄だったり、砂漠だったり、悪魔城だったり。あらゆる場所で、いろんな女性と恋をした。

それらはすべて、あけみを忘れるためだ。

好きな誰かを忘れるには、新しい恋をするのが一番だ。だが、ここにいては相手がいない。だから私は、あけみ以外の人間と妄想で恋をすることによって、苦しみを忘れようとした。

だが、やはり無理なようだ。

私は瞼を閉じる。

この夜を越えたら、私は解放される。

本当の暗闇は、きっと私に優しいはずだ―。

「時間だ」

扉が開けられ、私は立ち上がった。看守が二人、私に立ち上がるように促す。

私は素直に立ち上がり、看守の二人に挟まれて、廊下を歩いている。

私は歩きながら、右を歩く背の高い中年の看守に言った。

「そう言えば、昨晩、有難うございました」

「あぁ、最後に食べたいものが、うまいぜ棒のコーンポタージュ味だなんて、欲がないな」

「そうですか?まぁ、うまいぜ棒を食べた後、ビックリだぜマンも頼めばよかったなぁって思いましたけどね」

「ハッハッハ、言えば用意してやったのに」

「有難う御座います」

今度は左を見る。若い男性。髭があおく、ナヨナヨしている。背が小さめだ。

「有難うございました」

「いや、いいんだ」

「エロ本、最後に私に与えてくれて」

「あぁ、楽しんだか?」

私は何も言わずに何度もうなずいた。

「ただ、男性の裸がたくさん・・・あれ、女性が一人もいなかったですけど」

「えっ!?」と若い看守が驚いた。

「あれ、あれじゃダメなのか?」

「いや」と私。慌てて言葉を続ける。

「私がちゃんと女性が載っているエロ本がいいって言わなかったからいけないんです。でも楽しめました。私もあんなふうに鍛えて、いい体になっておけばよかったなぁって思いました。生まれ変わったら、あんなふうにマッチョになりたいです。希望がもてました」

「そうか」と若い看守。私はなんとなく彼との距離を離した。

廊下を進んでいくと、重そうな、背の高い、黒い両開きの扉が現れた。

私はそれを見上げた。

まるで地獄の門のようだ。この奥にはケルベロスが待っている。それはおおきな獣で、犬の顔がいくつもある。

涎を垂らし、私が来るのを待ち望んでいる。

扉が開かれた。そこに見えた光景は、ケルベロスどころか、誰もいなかった。

暗い部屋、正面に階段があり、その頂上には、ロープが天井からぶら下がっている。

「13階段だ」右側にいる看守が呟いた。

「我々はここまでだ。ここからは、君の力で上がって行きなさい」そう言って二人の看守が離れた。

私は目をつぶった。これが私の望みだった。そして、甘んじて受け入れる覚悟も出来ている。

私は罪のない一人の人間を殺害した。彼は私の愛する人が、連続殺人の犯人だと気がついてしまったからだ。

私は彼女をどうしても守りたかった。彼女は人を殺したくて殺した。

だが、殺したのには理由があった。それを、私は知っていた。

彼女には愛する恋人がいた。その恋人を、金しか頭にない連中に、無残に殺されてしまったのだ。

どうしても許せなかったんだろう。

私は彼女の恋人でも、旦那でもない。ただ、ずっと彼女の事を想っていた。

この叶わぬ恋は、ここで終わりになる。

最後は、彼女の罪を私が被る事が出来た。彼女のために何かを出来て、本当にうれしい。

もしもカルマがあるのなら、神様、どうか来世は彼女と私、一緒になれますように。

私は歩き出した。

一歩、また一歩、階段を上っていく。不思議と、幸せを感じられる。

笑みが顔に宿っていく。私は完全にイカれてしまっているのかもしれない。

「待って!!」聞き覚えのある声。私は振り向いた。

扉の前、あけみの姿!

「としきさん!待って!私のために、そんな・・そんな」

「ちょっと!ここに来ちゃダメです!」

二人の看守があけみに近寄っていく。あけみはそんな事を気にも留めずに、階段の方に近寄ってくる。

「こっちに来るな!」私は叫んだ。

「この階段は、僕の為の階段だ!絶対に汚すな!」

あけみが二人の看守に取り押さえられた。

泣いている。涙を流している。

後方から、あけみを追ってきた看守の姿が現れた。もの凄い爺だ。白髭が仙人のように伸びていて、腰が曲がっている。

「ちょっとお嬢さん、刑務所見学したいっていうから連れてきたけど、ここはダメじゃ。帰るぞ」

なるほど、ここに来れたのは、ボケた爺の看守が一緒だったからか。

「ほれ」と言ってあけみの尻を触る爺の看守。

「てめぇ!」私は叫んだ。二人の看守の内、恐らくホモである看守が、爺の看守を蹴っ飛ばした。

そして、私の方を見て親指を立てるホモの看守。私も親指を立てて返した。

そして私は再びロープの方に向き直り、階段を上がっていく。

「やめて!としきくん!私の罪をかぶってそんな事・・」

「ちょっと待てよ!」私は振り返らずに言った。

もう、ロープは目の前だ。

「あんたさぁ、こんなとこまで来て、本当、気持わりぃんだよ」

私の目に涙が溜まっていく。しかし、しゃがれた声にならないよう、歯を食いしばる。

「ストーカーっていうんだよ、そういうの。今度はなにか?俺の罪をかぶって、俺に好かれようっていうのか。本当、気持わりぃなぁ。お前の事なんかなぁ、何をされても、何をしてくれても・・」

そう言って私は振り返った。

「好きになんか絶対ならねぇよ」

彼女の顔は、とても愛くるしかった。蝶の柄のついた、色とりどりの着物。この世に残した最後の未練。

私を海に引き込もうとする、人魚のよう。

彼女の顔を見たままに、後ろ向きで階段を上がっていく。そのせいで、ちょっとコケそうになった。

そして、頂上にたどり着いた。

私は自らにロープを首に掛ける。

「やめて!としきくん!」

私は彼女の顔を見たままに、笑ってみせた。もう、涙は隠しきれなくなっていた。

「幸せをねぇ、あけみさん」

私は彼女に聞こえるように、声を張り上げて言った。

「幸せを、無駄にしないで」

そう言った刹那、地面が開いた。落ちていく体。ぶら下がる首。

遠のいていく意識の中、彼女の泣き声が聞こえた。

それは何故か、赤子の産声のように感じられた。

それが例え、ひとりよがりだとしても、

私には心地よい、

子守歌に聞こえていた。


最後のララバイ。

グッド・バイ。

また逢う日まで。

どうか、幸せに。










『至るところで、恋~劇場版用~予告編』


「なんだって!?」

「ハッハッハ、実は俺、宇宙人なんだよ!」

「何!?」

next summer

「うそだろ?まさか・・」

「そうだ、やっと気がついたか・・俺の正体は・・」

comes back

「なにあれ!恐竜!?」

「いや・・あれは恐竜なんかじゃない。あれは間違いなく、象だよ」

mystery and love

「絶対にお前を死なせない!」

「としき!私を死んでも離さないで」

「あぁ、死んでも離さない。っていうか、生まれ変わっても離さないよ」

and fight

「行くぞ野郎ども!絶対に負けるなよ!じゃんけんはグーが最初だ!そして次はパー!それでも駄目なら、最後は・・」


ITARUTOKORO DE KOI gekijyoubanyou


-君はきっと、溢れる涙が止まらない-




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