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呪いの手袋

 蓮が引きずりこまれた虚空を、唯はぼうっと見つめていた。

 クラスメイト達は、そんな唯に怪訝な視線をよこす。

 そして先生が、見かねたように声を掛けてきた。

「白瀬さん? 突然立ってどうしたの? 体調が悪いようなら保健室に……」

「え?」

 まるで、何事もなかったかのようなセリフだ。

「だって、蓮が! 今……」

「唯? どうかしたのー?」

 唯にとって、聞きなれた声がした。

「……え?」

 蓮が消えたはずの座席には、当たり前のように蓮がいた。


 嘘。なんで。どうして。連れ去られたのに。なんで。私のせい、で。誘拐された。

 ワタシのセイで……!


「うわあぁあーーーーッ!!」


 唯の絶叫が、教室に響いた。

 気が狂いそうだった。

 誰一人、蓮がいなくなったことに気が付いていないなんて。

 それとも、自分の気が狂ったのか。


 そんなことをぶつぶつと呟きながら頭をかきむしる唯を止めようと、誰かが手をつかんだ。

 それを、無意識に払いのける。だれかは、容易く吹っ飛んだ。

 それを見た誰かの一言が、唯を一気に正気に戻した。


「ばけもの……」


「……あ」

 やっと周りを見ると、ぐるりと囲むようにクラスのみんなが遠巻きに見ている。

 その片隅では、先生が机に突っ込んでぐったりしている。少し、赤い液体が見えた。

 天使の怪力。忘れきっていた。朝、目覚まし時計を壊したばかりなのに。

 怯えた視線が飛んでくる。当たり前だと思った。ひどいことをしてしまった。

 唯は、その場にへたり込んだ。


「唯!」

 がしゃん!と激しい音と共に、教室に飛び込んでくるものがいた。

 窓ガラスの破片を身にまとい、翼を現した少年が。

「瑤……私、いま……」

「話は後だ。"Schlaf(眠れ)"、"vergessen(忘れろ)"」

 吐き捨てるような言葉に続いて、唯を除く生徒たちみんながその場にくずおれた。

 それを見届けると、瑤は、ぐったりした先生のもとに歩み寄り、何事か呟いて手をかざした。先生の顔に赤みがさしたから、きっと治療したのだろう。

それを見て、唯は幾分か落ち着いた。

「瑤! さっき蓮が……」

「悪魔に連れて行かれたんだろ。そんな気がして見に来たんだ。お前が目的だろうな。」

「やっぱり……ねえ、どうしたら蓮を連れ戻せる?」

「さて……それより、取り乱すな。付け込まれるぞ。なんで、半狂乱になった」

そう言って、瑤は周りのクラスメイトたちを見た。

唯は、ふと蓮を探した。さっき、唯に話しかけた『蓮』がいるはず。しかし、どこにも蓮はいなかった。

「さっき、連れて行かれたはずの蓮がいたの。それでわけ分からなくなっちゃって……」

「たぶん、人形だ。蓮ちゃんに似た形を魔法で作ったんだ。さっき俺が入ってきた時、何か一つ魔法を解いた気がしたから、それだろ。紙か何かが落ちてないか。人形の素材があるはずなんだが……」

そう言われて、唯は蓮の席を見る。すると、白い手袋が落ちていた。

「何これ……」

そう言って、思わず拾い上げると。

「あれ?あれれ?」

手袋は唯の手に勝手にはまった。そして、一瞬光った。そして、外れなくなった。

「おい、どうした。唯?……うげっ!お前、何てもん拾ったんだよ!」

「え? これなんなの?」

瑤が真っ青になって手袋を見るから、唯は不安になった。もしかして、着けると死ぬ呪いか何か掛かっているのだろうか?

「それ、決闘に相手を拘束するための呪いが掛かってるぞ! お前、あの悪魔と決闘しなきゃ死ぬぞ!」

「はあああー⁉︎」

……あながち、唯の予想は外れていなかった。

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