自覚と後悔
ひっさびさの更新になりました!
ホームにも書きましたが、再開です!
今後は隔週土曜日更新とします。
ピリリ、ピリリ。
目覚まし時計の音で目が覚める。
寝ぼけたまま、目覚まし時計を止めようと、唯は手を伸ばして、あてずっぽうで叩いた。
いつも通り。
ばきぐしゃみしっ
手のひらに何だか嫌な感触を感じ、しかもいろんな破壊音がいっしょくたになって聞こえて、今度こそ唯はしっかりと目が覚めた。恐る恐る、音の発生源を見る。
「……んぎゃー!?」
唯の手の下で、目覚まし時計だったらしきものは 混沌としか言いようがない姿をさらしていた。
その様子から推察するに、「ばきぐしゃみし」の正体は、
①目覚まし時計本体の割れるバキィッ
②内部のネジその他がミンチ肉のごとくつぶれたグシャッ
③さらにその下の机部分に部品のなれの果てが食い込んだミシッ
……という、これらの音の集合体だったらしい。
しかも、この惨状はどうやら唯自身が作ったらしい。困ったことに。
そして昨日のことをやっと思い出して、冷静さをほんの少しだけ取り戻した。
唯はため息をひとつ吐いて、存分にクラッシュされた破片たちを片づけ始めた。
制服を着てリビングに行くと、当たり前のように瑶がいた。トーストを齧りながら、
「おふぁよ」
と声をかけてきた。黒髪少年バージョンだ。
「なんでまだいるの」
「お前を連れて行くまで帰れねえんだよ」
「ふうん」
そんな訳で、瑶と舞に見送られて、唯は学校に向かった。
途中のポスト前で、蓮を待っていると、今朝は蓮にしては早く来た。
「あ! ゆーいー! 」
「おはよ、蓮。昨日、1人で帰れた?」
へらっと笑いながら駆けてきた蓮は、それを聞いて、たちまち顔をこわばらせた。
「私はともかく、唯は大丈夫? あの男の子になにかされてない?」
このまま唯は、学校に着くまで質問攻めにあった。
何も答えられなかったが。
信じてもらえるとは、ちっとも思えなかったのだからしかたない。
三時間目のことだった。
おっとりした声の先生で、よく生徒が寝てしまう時間だ。
唯もご多聞にもれず、いつもは寝るのだが。
今日は起きていた。
だからその瞬間を、しっかりと、認識した。
「いやぁっ!」
夕闇が凝縮された真っ黒い渦。
胃がよじれるような独特の不快感。
瑶がわき腹を持って行かれた時と全く同じ。
違うことは、その中からぶよんとした手が現れたこと。
そして、その手が親友を。
蓮を掴んで引き摺り込んだ。
頭が追いついたときには、既に椅子を蹴り飛ばして蓮の席に向かっていた。
「蓮っ! 待って、蓮!」
「唯! 来ちゃダメー!」
手を伸ばして蓮を捕まえようとした。
唯の手は、一瞬触れた。
しかし、間に合わなかった。
黒い渦が収縮して消えるのを、呆然として眺めるほか無かった。
悪魔に、親友を奪われた。
唯の目の前で。
こういうことか。
どこか冷めて、唯は思った。
ここにいれないのは、他人を巻き込むからだ。
蓮が奪われたのは、自分のせいなのだと。