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自称、天使。

説明はほんと多少読み飛ばしてください。長いです。

 

 最初にあの耳鳴りがしたのは、蓮のお母さんに言い伝えを聞いていた時だった。そのあとから、たまに、こんな風に耳鳴りがするようになったのだ。

 一度病院に行ったものの、原因ははっきりせず。

 最近、頻度があがっていた。


 教会の鐘のような、澄んだ音色の耳鳴り。


 それが、かつてない鮮明さで頭の中で鳴り響く。


 もはや、頭痛どころでない。


 体中がはじけ飛びそうに熱くて痛い。

 

 鐘の音にかぶせるように絶叫してしまう。なのに、その絶叫は声にならない。


 鐘の音しか聞こえない。


 目の前は真っ黒だったり真っ赤だったりと、ちかちかして仕方ない。


 意識があるんだかないんだかわからない。


 もしかして、さっきの常識から景気良く外れていった光景で、ショック死してしまうのだろうか。


 怖い。熱い。痛い。痛い。痛い…………!


 そんな状態が永遠に続くかと思えたその時。

 やたらときれいな鐘の音が、ひときわ高らかに鳴り響くと唐突に止まった。


 痛みもすっとおさまった。


 なにも見えずちかちかしていた視界がおさまり、自然に瞼が開く。


 どうやら倒れていたらしい。薄暗かった空は、完全に日が落ちて真っ暗だった。赤みがかった月が見えた。


 「う……なにが、起きたの……?」


 そろそろと起き上がろうとして気が付いた。


 髪が長い。しかも、白金色(プラチナブロンド)

 

 慌てて起き上がってみれば、なんだか肌もやけに白い。さっきまで、健康な黄色人種らしい肌色だったはずなんだけども。


 ついでに、起き上がった拍子になんか背中が重くてよろめいた。

 いや、まさかね? まさか、そんなことはないよねー、と思いつつも、嫌な予感がして、首を後ろに回す。

 私の、嫌な予感はたいてい当たるのだ。


 それはもう、立派な白い巨大な翼が生えていた。

 

 「え……ええぇー!? なんじゃこりゃーっ!」

 

 あわてた拍子に背中に生えたばかりの翼がはばたき、ほんの少しだけ宙に浮かぶ。

 しかしその直後、コントロールが効かずにべちゃっと地面に落ちた。

 「うぎゃ」

 「あー……とりあえず、落ち着け」

 呆れたように、いつの間にかそばに来た瑤はかがみこんで、私と目線を合わせる。

 「なんなの、これ、どうしよう?! ってあんたもさっきから全然違う見た目になってるし! ほんとに瑤なんだよね?!」

 「瑶だよ。まあ偽名だけど」 

 あっさり偽名だとか言いおった。

 それはともかく、なんで羽? 見た目が変わってるの? と、目を白黒させていると、自称・瑤は面白そうにクックッと笑った。

 

 「悪いな、混乱させたみたいで。ちゃんと説明してやるから立てよ。」

 「全然悪いと思ってないでしょ……」


  何とかそれだけ言って立ち上がると、しんねりと睨みつけておく。にやにやしながら謝られても、全く謝られている気がしなかった。

 「そんな顔すんな。説明するって言ってるだろ?」

 「説明っていうけどね。これは説明できるものなの?」

 突然のこの体の変化に、科学的な説明はつきそうにない。

 説明されたところで納得できそうにもない。

 「少なくとも、今の状況の説明はできる。まずは、そうだな、お前の体の変化についてだが。自分でどう思う?」

 「どうもこうも、自分の思い通りに動かないやたらと大きい羽が生えて、そのうえ髪の色やら肌の色やらがいつのまにか変わってるとしか」

 「ついでに、自分じゃ見えないだろうけど目の色も変わってるぞ。んで、俺の姿もお前と同じような感じなわけだ。つまり、俺とお前は同じなんだよ」

 「同じ? どういうことよ?」

 「同じ生き物だってこと。」

 「同じ生き物?」

 さっきから私の返事は、ほとんどおうむ返しだ。

 どうも瑤の話は要領を得ない。

 しかし、次の言葉だけは強烈なインパクトで私の脳みそにしっかり届いた。

  

 「翼つきの生物。人間の知識に当てはまるとしたら”天使”だ。」

 

 「……ちょっと、まって。天使ってあの天使?」

 思わずこめかみを抑えて呻く。

 「その天使だろう。一応は神の使いだし」

 瑤は至極まじめな顔で頷いた。


 こいつ、もしかして頭煮えてるんじゃないだろうか。


 割と本気でそう思ったが、あまりに堂々としている瑤の様子と、どう考えても常識の範囲に収まっていない自分の現在の容姿を見て考え直した。

 むしろ、私の頭がさっき倒れた衝撃でどうにかしてしまったと考えるべきかもしれない。

 「あー……今すぐ帰って寝ていい? 目が覚めればこんな幻も消えるよね?」

 「現実逃避すんな! 夢じゃないんだからな、ほれっ!」 

 「ひにゅわぁあッ?!」

 

 誤解のないように言っておくが、私が奇声をあげたのは何か変な癖とかではなく、瑤がとんでもない速さで背後に回り、生えたばかりの翼をつかんだからだ。 まるで突然くすぐられたかのような、こそばゆさとむず痒さがどっと襲ってきた。乱暴すぎるとは思うが、これで現実だということはよくわかった。十分すぎるくらいに。

 「なにすんのっ、変なとこ触るな!」

 「信じないから、仕方なくやったんだよ! で、信じる気にはなったんだよな?」

 「……そりゃまあ、ね。私、ほんとに羽あるんだ」

 「遺伝子がちっと変わったからな」

 遺伝子というものの存在は、中学生の知識でもなんとなくわかる。

 でも、私が習った限り遺伝子の変化なんて聞いてないし、そもそも天使にも遺伝子ってあるんだろうか? 

 生物ならばあるだろうが、生物として存在していることも疑わしい。

 いくら、自分がそういう体だとはいえど、だ。

 瑤は、学校の先生か何かのように、至極丁寧に解説を始めた。

 「遺伝子、いうなれば生物の設計図だが、これは先天的なもので滅多な事じゃ変わらない。普通は、だがな。」

 「普通は?」

 「これに、いわゆる魔力が関係してくる。本当は魔力というより天力と言いたいが人間には魔力のほうが分かりやすいだろ?」

 ファンタジーとかでよく出てくるもんな、と瑤は続けた。

 確かに、魔力と言われればなんとなく分かる。超常現象を引き起こすような力を想像すればいいんだろう。

 「で、魔力を作り出すのは当然、体だ。天使には魔力を作り出す内臓がある。この臓器は養分を分解し、魔力を生み、保存する。人間にも、これをもってるやつがたまにいる。突然変異ってやつかな」

 「それが私?」

 この流れからは当然そうなるだろう。

 「違うって。人の話は最後まで聞け。」

 あっさり否定されてしまった。話長いよ……!

 「今言ったのは、お前らの言い方を借りれば、魔法使いだ。これはたまにいるけど、天使とは別物だ。体は人間そのものだし、魔力も大したことはない」

 天使だけでなく、魔法使いまで出てきたよ。どこまでファンタジーなんだ!?

 「ちなみに魔力を作る臓器には、使わなければどんどん魔力がたまっていく。お前、今まで魔法みたいなもの使ったか?」

 しばし記憶を探ったが、きっぱり答えた。

 「ない。私、魔法とか信じてすらいなかったもの」

 「じゃ、魔力はお前が生まれてからずっとたまり続けたわけだ。しかもお前の生成量は、やたらと多い。そんでさっき、お前の臓器は貯蔵量のキャパシティを超えちまったわけだ。水槽いっぱいに水が入って、あふれ出したようなものだな」

 うーん、わかったような、わからないような。

 「で、あふれるとどうなるの?」

 「ここで遺伝子だ。あふれた分の魔力は、否応なく体中に蔓延(まんえん)する。広がった魔力は細胞に浸透し、遺伝子にある種の傷をつける。その結果、体が作り変えられ――今に至るわけだ。……っておい。聞いてるかー?」

 いけない、ちょっと放心してしまった。

 話が突飛すぎてついていけなかった、わけではない。

 やっと、自分が人間ではなく別の生き物だと実感してきたというか。

 「も、戻る方法は?」 

 やっとのことでそう口にした。その言葉にあまり希望は持てない。ただ、すがるようにそう聞いた。

 そんな私をほんの少しだけ憐れむ目で、瑤は答えた。

 「残念ながら、無い。お前は天使になったんだよ」

 「……っ」

 いろいろ納得はできたが、受け入れるのはまた別問題だと思う。さっきまでただの中学生その1だったのが、なんでいきなりこんなことになってるのか。

 もはや不安しかないが、瑤の顔を見据えた。

 「瑤、あんたの目的は何か教えて。私をどうするの?」

 放っておく気なら、私が天使になるそのタイミングでわざわざ来るはずはない。瑤は何か目的があるのだ。 

 にやり、と瑤が笑う。知的な肉食動物といった様子だ。

 「なかなか聡いな、お嬢さん。俺の目的は二つ。一つ目はお前を俺のいる組織に誘うこと。つまりスカウト。」

 「組織って……」

 「天使の組織さ。俺たちはA.Aと呼んでいる。時間がないからそれはまた後な。んでもう一つは……」

 そういうと、瑶は奇妙な物体をどこからか取り出した。

 黒いぶよぶよっとした手のような何か。目の前でそれがぐにょりと動いたのを見て、思わず後ずさる。 

 「もう一つは、天使になったお前をこういうのから守る、『護衛(・・)』だよ。」





瑶さん説明長い!どこまであなた設定ばらすんですか!

ペラペラ喋ってくれちゃうから作者涙目です。

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